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覚え書:「そこが聞きたい:民主主義国の政治劣化=フランシス・フクヤマ氏」、『毎日新聞』2013年12月25日(水)付。

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そこが聞きたい:民主主義国の政治劣化 フランシス・フクヤマ氏
毎日新聞 2013年12月25日 東京朝刊


 ◇変化には時間かかる--米政治学者、フランシス・フクヤマ氏

 2013年は西洋型の政治秩序に挑戦する中国の動向が耳目を集めた。一方、日本をはじめ民主主義世界では政治劣化が問題になっている。新著「政治の起源」(講談社)で近代的政治制度の出現を探った米国の政治学者、フランシス・フクヤマ氏に聞く。【聞き手・岸俊光、写真・藤原亜希】

--米誌で「歴史の始まり」と紹介された新刊「政治の起源」は、ベストセラー「歴史の終わり」(1992年)=1=とどのような関係にありますか。

 (ベルリンの壁崩壊直前の89年に「歴史の終わり」の基になった論文を発表してから)約25年たち、制度を作る困難さをより理解するようになりました。政治は前進するばかりでなく後退することもある、つまり政治劣化や政治秩序の崩壊が新たなテーマであり、「歴史の終わり」を書き直すことが新著の出発点です。

--東ティモールなどの国造りを実地に見た影響はありますか。イラク戦争に反対し、ネオコンとも決別=2=しました。

 過去20年、国際コミュニティーは「失敗国家」を安定させようと努めてきたし、米国も9・11テロ以降、アフガニスタンやイラクの安定化に苦心してきました。アメリカ人として気が付いたのは、中央の政治主体が崩壊した時、それをどう立て直すかについて考えを持ち合わせていなかったこと、権威の起源を理解していなかったことです。そこで近代的な政治制度がどうやって作られたかに興味を持つようになりました。

--中国国家の形成に強い関心を示されています。秦の始皇帝が作った中央集権化した国家権力に近代性の萌芽(ほうが)を求める点は実にユニークです。ではなぜ中国にはその後、「リベラルな民主主義」に必要な法の支配と説明責任を負う民主的な政府が生まれなかったのでしょうか。

 要素が表れる順序が重要なのですね。中国の場合、国家が先にできたために他の社会的要因を制御した。ヨーロッパには独立した市民社会や商業都市が生まれ、権力に抵抗したけれど、中国では国家がその発達を統制してしまいました。

 私が考えているのは、非常に大きな力が制度をリベラルな民主主義に収束させるということです。例えば民主主義的な説明責任というと、中国は、それは西側の考え方であって中国の伝統や文化にないと反論します。しかし政府に説明責任を持ってもらいたいとか、エリートだけでなく国民全体の利益を大事にしてほしいと願うのは普遍的であって、文化的な問題ではありません。中産階級が出現すると政府に説明責任を求めるようになります。「アラブの春」がそうでしたし、中国にも中産階級は現れています。これはリベラルな民主主義へと向かう要因です。

--あなたの祖父は農業経済学者の河田嗣郎(かわたしろう)氏(大阪商科大=現大阪市立大=初代学長)、母は戦後最初期の女子留学生・河田敏子氏、父は宗教社会学者の福山喜雄氏と、日本と縁が深い。日本政治の劣化はどう見ますか。

 日本では、小泉純一郎政権の例外はあるものの弱い政府が続いてきました。安倍晋三政権が国会の多数を占め、改革を推進できる状態にあることはチャンスだと思います。民主主義に変化をもたらすのは時間のかかるプロセスなのですね。なぜならコンセンサスを形成しなければならないし、政治的な連立を組まなければならないし、利益集団の強い力にも勝たなければならないからです。

 政治を衰退させる要素は二つあります。一つは制度が新しい状況に対応できないこと、もう一つは利益集団が国家を「占有」してしまう問題です。これは民主主義国家ばかりでなく中国の漢時代やオスマン帝国にも見られたし、日本でも今、その兆候が表れています。例えば東京電力福島第1原発事故への政府対応が遅れた原因の一端は、原子力産業全体に生じた緊密な仲間内のつながりのためでした。一方、支配的な与党がある場合に野党が陰に隠れてしまう問題は日本だけでなく、驚くにはあたりません。台湾の民進党などにも見られます。

--「歴史の終わり」で唱えた、民主主義・資本主義が最終的な勝利を収めることで社会制度の発展は終わるという仮説を修正する必要は感じていませんか。

 マルクス論者が共産主義の勝利で歴史は終わると考えたのに対して、そういうことは起きないし、方向性があるとしたら資本主義、市場主義経済であるし、リベラルな民主主義だろうと言いたかったのです。今日それに対抗するものがあるとすれば中国ですが、多くの国にとって中国がモデルになるとは思えない。中国自体も政治的、社会的な問題を抱えています。私が唱えた理論は今でも正確だと考えています。

--注目している民主主義国や政治制度があれば教えてください。

 近年、議院内閣制のドイツやオランダ、スカンディナビアの国々、英語圏のカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどは、過剰な債務を回避しながら経済をうまく運営しています。これは米国と中国といった大国の対決とは違うものです。連邦議会が対立し、自己中心的なロビー団体が牛耳る米国の制度も本質的な問題を抱えているのです。

 ◇聞いて一言

 11月初旬に東京都内で行われたインタビューは邦訳が刊行されたばかりの「政治の起源」が下敷きになっている。人類以前からフランス革命までを扱った上下巻で、明治期に始まる日本の政治制度発展の「奇跡の物語」は来年米国で出版される続編に描かれる。「歴史の終わり」において、日本がリベラル民主主義に大まかに分類されるのは1960年以後にすぎない。特定秘密保護法を巡り政府は説明不足を問われた。民主主義の熟度が試されている。

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 ■ことば

 ◇1 「歴史の終わり」

 人類の政治制度を巡る思想闘争はリベラルな民主主義に収束していくかたちで最終的な決着を見たと結論づけ、冷戦後の世界に大きな論議を巻き起こした。「政治の起源」の訳者、会田弘継氏によれば、今からの歴史は平穏に推移すると予言したのではなく、近代的生活の欲求は普遍的で、人々がそれを求めれば中産階級が生まれ、必然的に政治的自由を求めることを説いたものだという。

 ◇2 ネオコンとの決別

 ネオコンとは新保守主義者。(1)1960-70年代の米政界でリベラル派から転向した保守派。(2)2000年代初頭の米政界で力の外交と民主化推進など米国の使命感を組み合わせ、対外強硬策をとった保守派。源流はニューヨークのユダヤ系移民とされる。フクヤマ氏も彼らと関係を持っていたがブッシュ(息子)政権のイラク政策に反対し、2006年刊の「アメリカの終わり」でたもとを分かった。

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 ■人物略歴

 ◇Francis Fukuyama

1952年、米シカゴ生まれ。ハーバード大で政治学博士号。日系米国人。「歴史の終わり」が世界的反響を呼ぶ。現在、スタンフォード大上級フェロー。
    --「覚え書:「そこが聞きたい:民主主義国の政治劣化=フランシス・フクヤマ氏」、『毎日新聞』2013年12月25日(水)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20131225ddm004070008000c.html:title]

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