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覚え書:「引用句辞典 『公衆は自分の願望をわかっている』=鹿島茂」、『毎日新聞』2014年01月04日(土)付。


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引用句辞典
トレンド編
[公衆は自分の願望を分かっている]
マニフェスト強制しか白紙委任回避策はない
鹿島茂

[公衆は自分の願望を分かっている]
 公衆は自らに必要なものを常にわきまえているわけではないが、自分の願望はすべてわかっている(中略)。しかし、いったん目的が世論を通じてはっきり示されたあとは、もっぱら政治学者こそがそれを実現する手段に取り組むべきである。 (中略)世論は願望を延べ、政治理論家は実行手段を提案し、そして統治者は実施すべきである。
(オーギュスト・コント『ソシオロジーの起源へ』杉本隆司訳、白水社)

 社会学の始祖オーギュスト・コントはその最初の論文「意見と願望の一般的区別」において、民衆が「自由、平和、産業の反映、歳出削減、そして適正な税金の運用」といった「政治的願望」を持つのは当然かつ自然であり、必要でもあるが、しかし、その願望を実現する手段・方法についての「政治的意見」になると、それが「実行に移されるなら、むしろ逆に無秩序と専断的な支配を招かざるをえない」と断言している。すなわち、民衆の役割は願望や世論(いまなら選挙)というかたちで「表明」することに限定すべきであって、その実行の手段については「一連の推論と反省」を専門とする政治理論家に任せた方が賢明だとしている。これは、民衆万能主義者からすると反動的ということになるだろうが、しかし民衆の役割は「願望」の「表明」であって手段・方法の「吟味」ではないという主張には一定の真理が含まれている。
 ところで、日本はどうかというと、衆参両院で可決された特定秘密保護法の例からもわかるように、民衆には「願望」の「表明」の権利さえ与えられていない。衆参両院選で国民の大多数が自民党に投票したのは、別に自民党にフリーハンドの自由を与えたいと願ったわけではなく、「とにかく景気を回復させてくれ!」という強い「願望」を「表明」したにすぎないのだが、安倍政権はあたかも、その「願望」の中に特定秘密保護法案賛成も含まれていたかの如くに振る舞ってこれを強行採決した。
 なぜこんなことが起きるのか? 現行の政治制度がそうなっているからだ。つまり、政治的争点の項目ごとに民衆が賛否を表明できるア・ラ・カルト方式ではなく、セットメニュー(つまり政党)しか選べないような方式になっているのだが、そのセットメニューは詳しいことは記されておらず、「おまかせ」システムになっている。「願望」の「表明」だけが民衆の唯一の権利のはずだが、現実には「願望」を正しく「表明」する道すらなく、白紙委任状をいずれかの政党に与えるしか方法はないのである。
 これは明らかに制度的欠陥である。では、どこをどう変えればいいのか?
 セットメニューの内容をマニフェストという形式で細部まで詳しく書かせて、マニフェストにない法案は上程しないという縛りをかけた法律を定めるしか道はない。こうしておけば「願望の表明(選挙)」が行われた「後」にマニフェストに「なかった」法案を出してきて強行可決するという「後出しジャンケン」を防ぐことができたはずなのである。
 セットメニューでも、オードブル、メイン、デザートのそれぞれの項目に選択肢が三つ以上あるのが欧米の定食屋システム。日本では内容変更不可能な数種類のセット定食(政党)から選ぶしかない。政治も定食屋も原理は同じなのである。(かしま・しげる=仏文学者)
    --「引用句辞典 『公衆は自分の願望をわかっている』=鹿島茂」、『毎日新聞』2014年01月04日(土)付。

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