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覚え書:「記者の目:特定秘密保護法施行の年=日下部聡(大阪社会部)」、『毎日新聞』2014年01月09日(木)付。

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記者の目:特定秘密保護法施行の年=日下部聡(大阪社会部)
毎日新聞 2014年01月09日 東京朝刊

(写真キャプション)参院本会議で特定秘密保護法が可決・成立し、野党議員(手前)がぶぜんとした表情を見せる中、拍手する与党議員(奥)=2013年12月6日、森田剛史撮影

 ◇情報巡る異変を見逃すな

 強行日程で成立した特定秘密保護法は12月までに施行される。私たちはこの法律にどう向き合うべきだろうか。昨年、取材中によく聞いたのは、「生活にどう関係するのか分からない」という声だ。そこをもう一度考えてみたい。

 ◇気象情報さえも、戦時中は秘密に

 例えば、もし天気予報がなかったら、どうだろう。「今日は傘がいるかな」「洗濯物は外に干せるだろうか」--私たちは日々、天気予報という情報を知ることによって状況を判断し、行動している。それがなければ、生活はものすごく不自由になる。荒天時には、生命にもかかわる。

 そんな時代が実際にあった。戦時中は、軍機保護法によって気象情報が国家機密とされていたのだ。

 私たちは「知ること」によって初めて多くの選択肢を得て正しい判断ができるようになる。「知る権利」はメディアの特権ではない。市民一人一人が自由でいられるための権利だ。そして、日本は、国民が代表としての政治家を選んで政府の運営を委任する民主主義の国だ。どんな政権であろうと、主権者である国民には、判断や議論の材料となる正確な情報がきちんと提供されなければならない。

 特定秘密保護法はその仕組みを根幹から揺るがしかねない危うさをはらむ。本来は国民と政治家の監督下にあるはずの官僚に、事実上、何を秘密にするかの決定権を大幅に与え、それをチェックする仕組みが不十分だからだ。

 ◇民主主義の対極、一から出直しを

 さらに気がかりなのは、法案審議を通じ、政府・与党に民主主義への気配りがほとんど感じられなかったことだ。安倍晋三首相は「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった価値観を共有する国々と連携を強める」(昨年10月の所信表明演説)と主張してきた。石破茂・自民党幹事長は同11月29日の自身のブログで、デモについて「主義主張を実現したければ、民主主義に従って理解者を一人でも増やし、支持の輪を広げるべきで……」と記している。だが、多くの課題を残したまま繰り返された強行採決は民主主義の価値観の対極にある。

 そもそも、秘密保護制度は情報公開を制限する点で原理的に民主主義と衝突する。特定秘密保護法の条文からは、そのことへの配慮が感じられない。政府・与党が手本とする米国は少なくとも自覚はしているようだ。米国の秘密保護制度を規定する「オバマ大統領令13526」の前文は次のように記す。「我々の民主主義の原則は、国民が政府の活動について知らされることを求めている。また、国の発展は政府内部と国民への情報の自由な流通によっている。それでも、市民や民主的体制、国土の安全などを守るため、一定の情報は秘密にしなければならない」

 一方、日本の特定秘密保護法の第1条に「自由」や「民主」といった単語は皆無だ。日本の秘密保護制度が現行のままでいいとは思わない。自衛隊法が定める「防衛秘密」は指定解除前に大量に廃棄されていた。第1次安倍政権は2007年、外交や防衛分野について、省庁をまたぐ「特別管理秘密」を設定したが、法的根拠はなく、指定も解除も省庁の判断だ。それ以外に、各省庁が独自に定める「省秘」などもあり、現行の秘密指定制度は複雑怪奇かつ官僚任せとなっているのが実態だ。

 秘密を民主的に管理し、できる限り少なく抑えるための法的枠組みは必要だろう。その際、一定期間後に必ず公開▽指定・解除を監視する権限の強い独立機関の設置▽国立公文書館の機能強化▽市民は処罰の対象外--といった条件が不可欠だと思う。

 批判された政府・与党は参院採決直前になって、原案にはない監視機関を作る方針を打ち出したが、付け焼き刃の対応と言うほかなく、穴だらけの法が成立してしまった。今後、私たちは情報公開を巡る身の回りの小さな異変を見逃さないよう注意深くなる必要がある。そして、何か気付いたら伝え合おう。五輪があってもサッカーワールドカップがあっても忘れてはいけない。いずれ、この法律は一から出直しさせる必要がある。

 小泉政権の途中から麻生政権まで首相官邸で安全保障と危機管理の実務を担った柳沢協二・元内閣官房副長官補(防衛庁出身)は取材に、「知る権利」の重要性を指摘し、こう語った。「人間は間違うものだ。失敗の経験を政府と国民が共有していくことが、賢くて強靱(きょうじん)な国を育てる」

 自由と民主主義の価値を大切に考える公務員、政治家の皆さんと共に、メディアの一員として、そして一市民として、「賢い日本」を次代に残したいと思う。戦前の過ちをくり返すほど日本人は愚かではないと信じている。
    --「記者の目:特定秘密保護法施行の年=日下部聡(大阪社会部)」、『毎日新聞』2014年01月09日(木)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140109ddm005070002000c.html:title]

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