覚え書:「書評:本ってなんだったっけ? 森 彰英+『週刊読書人』取材チーム 著」、『東京新聞』2014年1月19日(日)付。
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【書評】
本ってなんだったっけ? 森 彰英+「週刊読書人」取材チーム 著
2014年1月19日
◆紙の本が持つ魅力伝える
[評者]川井良介=東京経済大教授、日本出版学会会長
本書は「紙の本の将来」を憂慮するフリージャーナリストらによる「紙の本へのエール」である。全四章からなる本書は、第二章の「書を捨てよ、街に出よう。」と第三章の「コンテンツ作りの現場を歩く」が中心である。
第二章は、ジュンク堂池袋本店、リブロなど大型書店だけでなく、東京堂書店、代官山蔦屋書店、ヴィレッジヴァンガード三軒茶屋店、青山ブックセンターあるいは、小田急線や中央線沿線における町の本屋やブックカフェなどが紹介されている。とくに、西荻窪駅近くの小さな本屋さんにおけるトークイベントや読書会などのレポートからは、人と人を結びつける「本」というメディアの魅力が伝わってくる。
以上のような書店の案内だけでなく、これらに関係する本が提示されているのは、より深く知りたい読者にとってはありがたい。
第三章は、具体的な本や雑誌、ムックあるいは、出版社や本に係(かか)わるテレビ番組などに幅広く言及している。評者の関心を惹(ひ)いたのは、比較的話題にされることが少ない「岩波現代文庫」や『会社四季報』『日本鉄道旅行地図帳』であった。
もっとも「岩波現代文庫」についていえば、従来の「岩波文庫」との刊行基準などの相違-「岩波文庫」が親本刊行から三十年以上を原則とするのに対して「岩波現代文庫」のそれが五~十年以上であるというようなことにも触れてほしかった。
また、サブタイトルの「紙の本の未来を考える」が売るための惹句(じゃっく)にしても、電子出版の将来性を、電子出版の可能性を評価する本と、反対に否定的に把(とら)える本を提示するだけではあまりに残念というしかない。
近年は、脳科学の知見などから紙の本を読む優位性や特徴が実証的に明らかになりつつある。このような動向を踏まえた考察こそ「紙の本へのエール」になるのではないだろうか。
(ブレーン発行、北辰堂出版発売・2415円)
もり・あきひで 1936年生まれ。ジャーナリスト。著書『武智鉄二という藝術』。
◆もう1冊
福嶋聡(あきら)著『紙の本は、滅びない』(ポプラ新書)。紙の本が存在する意味と優位性を、現役の書店員が体験を踏まえて考察する。
--「書評:本ってなんだったっけ? 森 彰英+『週刊読書人』取材チーム 著」、『東京新聞』2014年1月19日(日)付。
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ブレーン
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