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覚え書:「今週の本棚:松原隆一郎・評 『グローバリゼーション・パラドクス』=ダニ・ロドリック著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。


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今週の本棚:松原隆一郎・評 『グローバリゼーション・パラドクス』=ダニ・ロドリック著
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

 (白水社・2310円)

 ◇新たな国際市場“統治”のために

 リーマン・ショックから5年しか経(た)っていないというのに、日本で経済政策と言えば「規制緩和」が切り札のように喧伝(けんでん)されている。たとえば企業の農地取得への規制は「岩盤規制」であり、TPPを利用し廃止して、企業が自由に農業に進出するようにすべきだ、云々(うんぬん)。

 この場合、「規制」は非効率的な経営を温存させるためだけにあるかに聞こえる。しかしもともと争点となったのは、企業が収益を上げられなかった際には一気に撤退してしまい、残された土地が荒れ地のままになるのではないか、という懸念だ。農地で耕作を維持することには、収益を上げるという私的利益だけでなく、農村文化や景観を持続させるという社会的意義がある。

 著者ならばこれを、私的費用と社会的機会費用の乖離(かいり)と呼ぶだろう。収益が上がらないからといって、立つ鳥が跡を濁すように農村から撤退しない条件が、企業の農地取得には必要となる。著者自身は、遺伝子組み換え食品や原子力発電などについて国民が抱く不安も、この社会的機会費用に数える。

 経済学がそれを看過してきたわけではない。情報の非対称性やモラル・ハザード、エージェンシー・コストなどの理論が開発され、社会的機会費用の削減を追究してきた。それにもかかわらず自由貿易でそれが機能しなかったのは、政策にせよ制度にせよこれまで国家によってしか有効に発動されなかったからである。国際社会においては社会的機会費用を抑えるような「世界政府」、つまり世界規模の公正取引委員会や最後の貸し手、セーフティネットなどが、いまだ十分には存在しえていない。

 そこから「規制」に対する見方の根本的な相違が出てくる。「岩盤規制」と言いたがる経済学者にとって規制は市場を拘束するものでしかない。対照的に著者は、まっとうな規制は市場を補完するものであり、それなしではむしろ市場が機能しないのだと見る。アジアやアルゼンチンの金融危機にしても、政府が腐敗していたからではなく、最後の貸し手や保険、短期債務の保障などが国際金融で手薄だからこそ出来したのだ。

 国家間には市場統治のルールが適用されない空隙(くうげき)があるということだが、それならばルールを共通に設定すればよい、という反論がありうるだろう。TPPもそうした努力なのだ、と。これに対して著者は、「国際経済のトリレンマ」を挙げる。グローバル市場・民主主義・国民国家という三つの制度のうち、同時には二つしか実現しない、という意味だ。

 グローバル市場と国民国家の合体したのが重商主義だった。東インド会社のような巨大企業はみずから取引リスクを削減するよう国家から徴税権や司法権、軍事まで勅許されていた。グローバル市場と民主主義を組み合わせたのがEUのような連邦制だが、いざ金融危機が起き債務国を救うためにドイツが消費税増税を受け入れるかというと、脱退しかねない。国家の主権に制約が課されるのだ。とすればグローバル市場のガバナンスには、その自由を多少は規制しても民主的な国民国家の多様な政策に任せるしかなくなる。

 これは各国に政策運営の余地を与えるという意味で、ブレトンウッズ体制の継承といえる。とはいえそれ自体が通貨問題で崩壊した体制ではある。著者は「資本主義3.0」のための「七つの原理」を挙げているが、要は国ごとに現場の知恵を絞れ、というに尽きるのであろう。市場自由化一辺倒の明快さはないものの、常識の重みを訴える書である。(柴山桂太・大川良文訳)
    --「今週の本棚:松原隆一郎・評 『グローバリゼーション・パラドクス』=ダニ・ロドリック著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140202ddm015070006000c.html:title]

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