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覚え書:「今週の本棚:富山太佳夫・評 『警察調書-剽窃と世界文学』=マリー・ダリュセック著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。


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今週の本棚:富山太佳夫・評 『警察調書-剽窃と世界文学』=マリー・ダリュセック著
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 (藤原書店・4410円)

 ◇模倣を端緒に“書く意味”を問う

 私がまず眼(め)を引かれたのはこの本のサブ・タイトルの方である--『剽窃(ひょうせつ)と世界文学』。しかも、その前に『警察調書』という文字がならんでいる以上、もうためらいなしに読み始めてしまった。

 そして、ビックリしてしまった。いきなり「日本の読者へ」という前書きがついていて、現代フランスの小説家である著者自身が、剽窃の罪で二度告発された経験を持つことが語られているからだ。「フランスで二人の女性作家が、一〇年の間隔を置いて、私のことを、一方は『猿真似(まね)』したと、もう一方は『心理的な剽窃』--苦肉の策の罪状名でしょうか--をしたと告発した」。そのような経験をふまえて、「剽窃の告発に端を発しながら、この本は、書くということそのもの、『どのようにしてものは書かれるのか』ということを問うものとなりました」ということである。

 その次は目次である。目次なんてどうでもいい、大切なのは中味なんだからと言うひとが多いかもしれないが、まったくの愚論。著者の知的なセンスは、実は見出しにこそ反映されるのだから。全三部の見出しは、「クマたちのポルカ」、「監視のサイレン」、「フィクションの力」、そしてそれを構成する合計一〇の章のタイトルは、「フロイトの窮地」、「ツェランの苦悩」、「マンデリシュタームの皮肉、マヤコフスキーの沈黙」、「ダニロ・キシュの怒り」、そして「フィクションとモラル」など。見事と言うしかない。取りあげる作家と鍵となる概念の選択が、盗作に関わる問題点を浮上させるのだ。それはタイトルが本来になうべき役割のひとつであるはずなのだが、その実現がおろそかにされていることは、書店や図書館に足を運んで、そこに並んでいる本のタイトルをながめてみれば分かるはずである。

 ともかくこの本は、思想から文学にいたるまでの諸分野におけるあからさまなパクリから、さまざまのレベルにおける模倣と改作、偶然の重複などのもつ意味を--そして、ときにはそれを弾圧しようとする政治的関与の意味を考察しようとしたものである。

 そこにはこんなエピソードも顔を出す。著者が三冊目の小説を書いていたころ、日本のある女性作家を発見し、「その親しさに唖然(あぜん)とした」というのだ。つまり、酷似したところがあるということである。「私は何万キロも隔てた地の、フランス語を読みもしなければ、文法も文字も異なる作家によって、剽窃された、と考えるべきなのだろうか--しかも彼女は私の最初の日本語訳が出る前に四冊の小説を発表しているというのに?」

 これはもはや剽窃というような概念ではとらえきれないものであることを、著者は理解している。そして、相似た現象が一九世紀にも、一八世紀にも、ルネサンス期にも、古代にも、洋の東西を問わずに存在していたことを承知している。ネット万能の時代にはそれがもっと極端化していくはずではないだろうか。恐らくそうしたことも念頭に置いてであろうが、著者はこう断言している。「剽窃というのは、ジャーナリスティックな語である。模造は法律用語である。間テクスト性は大学の研究用語だし、ハイパー・テクスト性は比較文学専門家の用語だ。」但(ただ)し、間テクスト(もしくはインターテクスト)性は大学の研究用語にとどまるものではなく、時代や地域のあり方を超える文化のあり方を考えるための基本概念として、広く通用するものとなっているはずである。ともかく面白くて、役に立つ本である。(高頭麻子訳)
    --「今週の本棚:富山太佳夫・評 『警察調書-剽窃と世界文学』=マリー・ダリュセック著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140216ddm015070003000c.html:title]

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