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覚え書:「引用句辞典 トレンド編 [ストーカーの心理]=鹿島茂」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。


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引用句辞典 トレンド編
[ストーカーの心理]
愛の関係 破綻すると
憎しみがパワーアップ
鹿島茂

 憎しみは、対象との関係においては愛より古い。ナルシシズム的な自我が、刺激を与える外界に対して示す原初的な拒否から、憎しみは発生する。対象によって喚起された不快反応の表現として、憎しみはつねに自己を保存しようとする欲動と密接に関係しているのであり、自我欲動と性欲動はすぐに対立関係へと発展する。それが憎しみと愛の対立として繰り返されるのである。 (中略)特定の対象に対する愛の関係が破綻すると、愛に代わって憎しみが登場するのも稀ではない。
 (ジークムント・フロイト『自我論集』竹田青嗣編・中山元訳、ちくま学芸文庫)

 恋愛関係ないしは夫婦関係のもつれから、復縁を図ろうとした男がストーカーとなり、最後は元恋人や元妻を殺害してしまうという事件が後を絶たない。二十一世紀になってからこのかた、こうしたストーカー殺人が倍増しているような印象を受けるのは私だけだろうか? はたから見ると、一度は愛し合ったこともある仲なのだから、なにも殺すほど憎まなくてもいいじゃないかということになるのだが、フロイトにいわせると、愛と憎しみの関係は一般に想像されるほど単純なものではないらしい。
 では、精神分析学では、愛と憎しみの関係はどのように説明されるのか?
 より根源的なのは憎しみのほうである。自我は、それが自体愛(ナルシシズム)的に存在している段階では外界というものを必要としておらず、外界には無関心である。しかし、やはて自我は自分を保存したいという欲動(自己保存欲動)に駆られて外界に働きかけざるをえなくなるが、このとき、外界からの刺激をおおむね不快と感じ、これに憎しみを覚える。つまり、ナルシシズム段階においては、外界は外界であるというだけで不快なものであり、憎しみの対象となるのだ。
 ところが、次の段階、つまり、性欲動が部分欲動を統合して、自己保存欲動と拮抗する段階に進むと、外界の対象が快感の源泉となる場合に限って、自我はこれを同化しようとする。「これが快をもたらす対象の発散する『魅力』であり、その場合はわれわれは対象を『愛する』という」。つまり、自己保存欲動だけが支配するナルシシズム段階(つまり乳幼児)では外界のすべてが憎しみの対象となりえたのに対し、性欲動が登場する段階(思春期以降)になると、この性欲動にとって快と判断されるものは「愛される」ようになり、憎しみの対象から一時的に除外される。だが、憎しみは、自己保存欲動から発せられる、より根源的なものだから、性欲動段階に達したからといってこれが消えるわけではないのだ。
 このため対象が性欲動に快感を呼び起こすことがなくなると、つまり「愛」が消滅すると、憎しみは自分本来の居場所を取り戻すようにパワーアップして戻ってくる。「自我は、不快の感覚の源泉となるすべての対象を憎み、嫌悪し、破壊しようと迫害する」
 現代は、ナルシシズム段階(幼児期)が引き延ばされ、なかなか性欲動段階(オトナ)が始まらない時代である。つまりナルシシズム固着の人間が多いのだ。そうした人間にとって、愛の消滅は、即、憎しみの劇的な復活を意味する。ストーカー殺人が増えるのもむべなるかなである。対策は、自己愛型の人間を避けること。これ以外にない。
(かしま。しげる=仏文学者)
    --「引用句辞典 トレンド編 [ストーカーの心理]=鹿島茂」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。

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