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2014年2月

書評:ヴォルフガング・シュヴェントカー(野口雅弘、鈴木直、細井保、木村裕之訳)『マックス・ウェーバーの日本 受容史の研究1905‐1995』みすず書房、2013年。


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W・シュヴェントカー(野口雅弘、鈴木直、細井保、木村裕之訳)『マックス・ウェーバーの日本 受容史の研究1905‐1995』みすず書房、2013年、読了。出版部数の2/3はドイツではなく日本で売れた!

大正時代から現代まで--本書は日本のウェーバー研究とその受容を詳細に検討する一冊。 

その嚆矢は1905年、福田徳三による紹介。広汎に読まれるようになったのはマルクス主義が退潮し天皇制ファシズム確立期。64年の生誕百年がクライマックスだ。その理論が時にはマルクス主義を代補し、日本的資本主義解読のしるべとなった。

ウェーバー受容の全体像を明らかにする本書は日本におけるウェーバー受容の消息と特徴を明らかにするだけでなく、本国以上に読まれた意義は、(ウェーバーだからこそ)学問や大学のあり方を問い直す労作となっている。アジアで唯一資本主義を達成した意義を理解するためにも、マルクスよりウェーバーが読まれた(=受容)されたといってよいだろう。

ウェーバーの著作はほとんど翻訳されているし、日本語の著書・論文は2千点を超えている(巻末に「マックス・ウェーバーの著作の日本語訳一覧(1905-2012)」。近代理解に専念したウェーバー受容辿る本書は良質な日本思想史の一冊である。

[http://www.msz.co.jp/news/topics/07709.html:title]

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マックス・ウェーバーの日本―― 受容史の研究 1905-1995
ヴォルフガング・シュヴェントカー
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覚え書:「書評:激突の時代 品川 正治 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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激突の時代 品川 正治 著

2014年2月23日


◆戦闘軍体験者の九条
[評者]吉田司=ノンフィクション作家
 集団的自衛権行使を認める解釈改憲への動きが本格化しているが、本書はその対極にあって「憲法九条を守れ」と叫び続けた異色の財界人の遺言の書である。
 そもそも品川正治の反戦平和の原点は日中戦争最前線での血みどろの「戦闘軍」体験の中にあるのだが、当時の日本軍の大半は北京など後方の大都市にいて行政支配する高級将校たちの「占領軍」に属していた。そしてこの戦闘軍と占領軍は戦後、中国の俘虜(ふりょ)収容所で「終戦」か「敗戦」かの戦争総括の違いをめぐって激しく対立したという。戦闘軍はもう二度と戦争殺戮(さつりく)はしたくない「終戦派」を形成し、占領軍将校らは将来もう一度リベンジの戦争をおこし皇国の恥をすすごうという「敗戦派」だった。
 その後、品川ら戦闘軍の面々は復員して日本国憲法九条の「戦争放棄」を読む。全員号泣した。これで日中双方の軍民すべての犠牲者が浮かばれる、と。
 そう、靖国神社で慰霊できるのは愛国主義的な皇国の魂だけだ。もっと広く日中韓・アジア全域の犠牲者を悼み、同時にいまの中国の軍事力肥大化にもアメリカの無人機攻撃(ロボット戦争化)にも反対できる力をもつのは九条の不戦の誓いの方である。九条は平和ボケの時代遅れではない。アジア大戦勃発の危機を救える唯一の理性的な希望の灯(あか)りなのだ、と品川は教えて逝ったのである。
 (新日本出版社・1995円)
 しながわ・まさじ 1924~2013年。損保社長、経済同友会終身幹事などを歴任。
◆もう1冊
 辻井喬著『憲法に生かす思想の言葉』(新日本出版社)。九条を守るため敵を味方にする言葉を共有しようと語る
    --「書評:激突の時代 品川 正治 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014022302000163.html:title]

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激突の時代 「人間の眼」VS.「国家の眼」
品川正治
新日本出版社
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覚え書:「書評:木下杢太郎を読む日 岡井 隆 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。


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木下杢太郎を読む日 岡井 隆 著

2014年2月23日


◆芸域に達する「語り」
[評者]長谷川郁夫=大阪芸術大教授
 木下杢太郎(もくたろう)、「メトロポオルの燈(ひ)が見える」の詩人。皮膚科医で後年は東京帝大医学部教授となる。戯作に熱中し、小説・美術評論、キリシタン史研究に著作があり、好んで絵を描いた。明治末期に耽美派(たんびは)の拠点となる「パンの会」を結成。江戸情調を端唄・俗謡の言葉遊びのように唄って、文学史的には特異なマイナー・ポエットとして知られる。これまで、日夏耿之介(ひなつこうのすけ)、野田宇太郎、澤柳大五郎、富士川英郎、杉山二郎と主にゲルマン語系の学匠、研究者に愛好されてきた。
 著者が早くから森鴎外、斎藤茂吉とともに杢太郎に惹(ひ)かれたのは、自身もまた医者であり歌人であるところからの精神的な血縁意識によるものと考えられる。
 「語り」による独特な著述法は茂吉論以来の久しいスタイルだが、行きつ戻りつの現在進行形を、著者は「一つの生活記録」という。「語り」は本書において一つの「芸」に達した。面白い、のである。
 大正五年に南満医学堂教授となり、詩壇を離れた杢太郎の孤独を、多面体の生理に即して辿(たど)るうちに、著者の机辺に、自殺の危機にまで直面したその「暗い心」が揺らぐ。ホフマンスタールの影響を探って、鴎外と杢太郎の訳文を紹介するその筆の向こうに、世紀末オーストリア詩人の姿が彷彿(ほうふつ)される。作品の読解を中心とする杢太郎・評伝の試みは初めてのものだろう。
 (幻戯書房・3465円)
 おかい・たかし 1928年生まれ。歌人。著書『鴎外・茂吉・杢太郎』など。
◆もう1冊
 木下杢太郎著『新編 百花譜百選』(岩波文庫)。戦時下の最晩年に描いた植物画集。時局や日常を切り取る文章も。
    --「書評:木下杢太郎を読む日 岡井 隆 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014022302000162.html:title]

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木下杢太郎を読む日
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覚え書:「声:度重なる発言撤回、不誠実だ」『朝日新聞』2014年02月23日(日)付。


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(声)度重なる発言撤回、不誠実だ
会社員(東京都 33)

 彼らはその言葉で時を巻き戻せると思っているのだろうか。NHK会長、首相補佐官といった要人らが自らの意思で発した言葉を即座に無きものにしている。撤回の効力を本当に信じているのだとすれば、政治の世界で公約の多くが反故(ほご)にされるのもうなずける。都合が悪くなったら撤回すればよい、という軽率な人たちが中枢にいる公共放送や政権では、国民との対話など望むべくもない。

 かつて安倍晋三首相は「全身全霊をかけて内閣総理大臣の職責を果たす」と所信表明した翌々日に辞意を示した。この撤回の6年後、五輪招致のスピーチでは福島第一原発から漏れた汚染水を「アンダーコントロール(制御されている)」と世界に発信したが、これも撤回される日が来るのだろうか。

 今後も撤回が乱れ飛べば、もはや言葉自体から意味が剥がれ落ちていくことになりかねない。彼らに限らず、要職にある人たちには事実の吟味も含めて発言に慎重かつ誠実であることを望みたい。
    --「声:度重なる発言撤回、不誠実だ」『朝日新聞』2014年02月23日(日)付。

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覚え書:「声:偉人伝、時の権力が影響しがち」『朝日新聞』2014年02月23日(日)付。

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(声)偉人伝、時の権力が影響しがち
無職(東京都 83)

 4月からの道徳教育の教材に文部科学省が偉人伝を集めたとの記事を読み、憂慮を禁じ得ません。

 私どもの少年時代は、権威主義的な軍国主義教育を押しつけられました。押しつけられただけでなく、戦後、それに無反省なことに、私はひと言では尽くせない憤りを抱いてきています。

 役人による「偉人」選びは、選ぶ側が「善意」で選んでも、時の権力の思惑に影響されます。そうでなくても子ども向けの偉人伝は、年配者や管理者の都合のよいように書かれがちです。また、内容に子どもが疑念を抱いて指摘しても、大人は「大きくなれば分かる」などと軽くあしらいがちです。そんなえらい人を手本に頑張らされるのは嫌だという子もいるかもしれません。仮に外国で偉人教育が取り入れられているとしても、それにならったり対抗したりする必要もないです。

 道徳というなら日常の安全のためにこんな努力がなされたとか、災害時にこんな助け合いがあったという方がよいと思います。戦争を知らない人たちに時の権力や官僚が、都合のよい偉人伝を押しつけることがないよう、軍国主義の偉人伝を押しつけられた世代として強く訴えたいです。
    --「声:偉人伝、時の権力が影響しがち」『朝日新聞』2014年02月23日(日)付。

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覚え書:「引用句辞典 トレンド編 [ストーカーの心理]=鹿島茂」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。


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引用句辞典 トレンド編
[ストーカーの心理]
愛の関係 破綻すると
憎しみがパワーアップ
鹿島茂

 憎しみは、対象との関係においては愛より古い。ナルシシズム的な自我が、刺激を与える外界に対して示す原初的な拒否から、憎しみは発生する。対象によって喚起された不快反応の表現として、憎しみはつねに自己を保存しようとする欲動と密接に関係しているのであり、自我欲動と性欲動はすぐに対立関係へと発展する。それが憎しみと愛の対立として繰り返されるのである。 (中略)特定の対象に対する愛の関係が破綻すると、愛に代わって憎しみが登場するのも稀ではない。
 (ジークムント・フロイト『自我論集』竹田青嗣編・中山元訳、ちくま学芸文庫)

 恋愛関係ないしは夫婦関係のもつれから、復縁を図ろうとした男がストーカーとなり、最後は元恋人や元妻を殺害してしまうという事件が後を絶たない。二十一世紀になってからこのかた、こうしたストーカー殺人が倍増しているような印象を受けるのは私だけだろうか? はたから見ると、一度は愛し合ったこともある仲なのだから、なにも殺すほど憎まなくてもいいじゃないかということになるのだが、フロイトにいわせると、愛と憎しみの関係は一般に想像されるほど単純なものではないらしい。
 では、精神分析学では、愛と憎しみの関係はどのように説明されるのか?
 より根源的なのは憎しみのほうである。自我は、それが自体愛(ナルシシズム)的に存在している段階では外界というものを必要としておらず、外界には無関心である。しかし、やはて自我は自分を保存したいという欲動(自己保存欲動)に駆られて外界に働きかけざるをえなくなるが、このとき、外界からの刺激をおおむね不快と感じ、これに憎しみを覚える。つまり、ナルシシズム段階においては、外界は外界であるというだけで不快なものであり、憎しみの対象となるのだ。
 ところが、次の段階、つまり、性欲動が部分欲動を統合して、自己保存欲動と拮抗する段階に進むと、外界の対象が快感の源泉となる場合に限って、自我はこれを同化しようとする。「これが快をもたらす対象の発散する『魅力』であり、その場合はわれわれは対象を『愛する』という」。つまり、自己保存欲動だけが支配するナルシシズム段階(つまり乳幼児)では外界のすべてが憎しみの対象となりえたのに対し、性欲動が登場する段階(思春期以降)になると、この性欲動にとって快と判断されるものは「愛される」ようになり、憎しみの対象から一時的に除外される。だが、憎しみは、自己保存欲動から発せられる、より根源的なものだから、性欲動段階に達したからといってこれが消えるわけではないのだ。
 このため対象が性欲動に快感を呼び起こすことがなくなると、つまり「愛」が消滅すると、憎しみは自分本来の居場所を取り戻すようにパワーアップして戻ってくる。「自我は、不快の感覚の源泉となるすべての対象を憎み、嫌悪し、破壊しようと迫害する」
 現代は、ナルシシズム段階(幼児期)が引き延ばされ、なかなか性欲動段階(オトナ)が始まらない時代である。つまりナルシシズム固着の人間が多いのだ。そうした人間にとって、愛の消滅は、即、憎しみの劇的な復活を意味する。ストーカー殺人が増えるのもむべなるかなである。対策は、自己愛型の人間を避けること。これ以外にない。
(かしま。しげる=仏文学者)
    --「引用句辞典 トレンド編 [ストーカーの心理]=鹿島茂」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。

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覚え書:「今週の本棚・この3冊:堤清二/辻井喬=福原義春・選」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:堤清二/辻井喬=福原義春・選
毎日新聞 2014年02月23日 東京朝刊

 <1>父の肖像(辻井喬著/新潮社/品切れ)

 <2>死について(辻井喬著/思潮社/2940円)

 <3>消費社会批判(堤清二著/岩波書店/品切れ)

 堤清二は深い思索の人だった。すぐれた経営者でもあり、辻井喬のペンネームで次々と詩を発表し、文学者としても立派な作品を残した。その全てが一人の人間存在であったところに、この人の大きさがある。

 それがどこから出て来たものか。疑いもなく出生から青年期までの環境の中で育まれ、それに本人の感性が敏感に反応したものの蓄積が、エネルギーとなったのだと思う。

 辻井喬『父の肖像』は、云(い)わば自伝的にその事情を書いたシリーズの頂点である。そこでは、父・康次郎に対する反撥(はんぱつ)がどこから来たのかばかりでなく、昭和の時代に財界人や政治家はどう動いたかが描かれ、生き生きとした時代史でもある。云わば評伝を文学作品に仕立ててしまう力は、歌人の川田順を書いた『虹の岬』、大平正芳を書いた『茜(あかね)色の空』もそうだが、作者が理想を追った人たちの像も、反抗の鉾先(ほこさき)も立派な文学作品にしている。

 詩はまるで水が湧き出るように、次々と書かれてはまとめられ、詩壇で数ある賞を受けた。その中で、??そう遠くないうちに僕も入るその空間には/雲が流れているだろうか??と綴(つづ)った辻井喬『死について』を改めて読んでみて、その平易に綴られた文体の奥に沈む深い思慮を考えてみた。

 それは入院中に何(いず)れはやって来るであろう死のことを考えた美しい詩片である。だがそこにも反戦思想の太い根が埋め込まれていた。

 堤清二はまた感覚のすぐれた、峻厳(しゅんげん)な経営者でもあった。父からあてがわれた西武百貨店を一気に盛り上げ、いくつもの経営を指揮して、大衆の消費を文化化し、この時代の空気を変えた。その実務の中から独自の流通変革論を唱えた。堤清二名義の著書は多くないが、堤清二『消費社会批判』は、産業資本主義と市場主義経済の二つの側面でとらえられたこれまでの大量流通変革論に、人間の要素を加え、情報のネットワークを導入して一歩も二歩も進んだ社会を作ろうとする議論であった。

 私は思う。このような経営感覚は、単なる経営者の発想を遥(はる)かに超えるものだ。それは堤清二が詩人の発想を現実の世界に適用しようと思うことから初めて可能になるもので、この人はどこまで行っても詩人としての経営者であり、それがこの人の成功にもなったし、終着点にもなったのだと。
    --「今週の本棚・この3冊:堤清二/辻井喬=福原義春・選」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140223ddm015070006000c.html:title]

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覚え書:「書評:葭の渚 石牟礼 道子 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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葭の渚 石牟礼 道子 著

2014年2月23日


◆美しい水俣が育てた生命
[評者]色川大吉=歴史家
 「石牟礼道子自伝」と副題がついているが、彼女が『苦海浄土(くがいじょうど)』(一九六九年)で世に出るまでの前半生を描いている。三十八年前に出した『椿(つばき)の海の記』と重なる部分もあるが、この『葭(よし)の渚(なぎさ)』のほうが詳しく、表現も多彩で豊穣(ほうじょう)である。自分を中心にした物語でありながら、第一部で、生まれた天草の風土のこと、祖父、祖母、両親のことが濃密に暖かく描写されて、主になっている。
 第二部で水俣川河口に移り住んだころの幼女時代が、自分を受けいれてくれた地域の人びとや不知火海の豊穣な渚のなかで生き生きと表現される。これは伝記というより文学叙述である。主客が逆転したりして、並の自伝の域を超えている。小学校に入ってから戦争が始まるが、この章では父の亀太郎が主役になっていて、父とのことが詳しく描写されている。著者自身は脇役なのだが、生き生きと描かれている。
 第三部で突如、石牟礼(当時は吉田姓)道子の世界が展開される。幻想と現実、「生きものたち」のつどう大廻(うまわ)りの塘(とも)のことなどが、読者の理解などそっちのけで詳しく書かれている。道子節の誕生である。この辺のことは『椿の海の記』と一部重なるが、もっとも魅力的なところである。このひとには呪術師の資質があるなと感じたところである。
 第四部は「水俣奇病」にであったころで、自分の文学活動が自覚的に語られている。谷川雁らの「サークル村」に参加したり、無文字の庶民の百年史を知ろうと『西南役伝説』を聞き歩いて叙述したり、高群逸枝を研究したりしたあと、腰をすえて水俣病を問う『苦海浄土』を書くのである。この自伝はここで終わっている。
 いわば大きな暗雲たる水俣病以前の水俣、何の発信力もないが美しく自足した小宇宙のなかで生まれ育ち、その生命の力と共振したひとりの民衆の記録だ。この本はその独創性において、歴史に残るものとわたしは思う。
 (藤原書店・2310円)
 いしむれ・みちこ 1927年生まれ。作家・詩人。著書『十六夜橋』『天湖』など。
◆もう1冊
 『道の手帖 石牟礼道子』(河出書房新社)。全集未収録のエッセーや座談・討議、渡辺京二・池澤夏樹らのエッセーを収めたムック。
    --「書評:葭の渚 石牟礼 道子 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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覚え書:「書評:地球外生命 長沼 毅・井田 茂 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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地球外生命 長沼 毅・井田 茂 著

2014年2月23日


◆身近に感じる宇宙の実態
[評者]中野不二男=ノンフィクション作家
 なるほどこういう考え方をするのかと、初めて納得した。
 宇宙の本を読んだ子供は、「生物はいるのでしょうか?」とか、ビッグバンやダークマターについて得意げに質問するが、大人の私はそういう空想と紙一重の禅問答には関心がない。しかし本書を読み、ちょっと変わった。
 海底火山付近に棲息(せいそく)する管状の生物チューブワームは、体内細胞の微生物が硫化水素と海水中の酸素でエネルギーを生むという。そのエネルギーでCO2からデンプンを作り出しているのだから、太陽光がなく有毒ガスに満たされた環境で光合成を営んでいることになる。また「ストレイン121」なる微生物は、滅菌温度の121度でも増殖することが確認されたという。
 極限環境でも悠々と営まれる生命活動の話を読むと、“紙一重”が現実の興味へと変化してゆく。なによりも文章が面白くてわかりやすい。たとえば鳥類の話である。八千メートル級の山々を飛び越えるのは、肺である「気嚢(きのう)」による酸素の利用効率が高いこと、筋肉があまり酸素を消費しないためだという。筋肉には「赤身」がない、という説明には、スーパーの“ささ身”のパックを見る目が変わってしまう。
 「水の量の条件で言えば、三十五億年以上前の火星は生命誕生にうってつけの場所だった」も、なるほどである。一九九六年に火星から飛来した隕石(いんせき)の中に、イモムシのような形をした微生物の細胞らしきものが見つかったという。これだけなら私の興味もまだ入り口なのだが、隕石が地球の大気圏に突入するとき、激しい熱にさらされるにもかかわらず、その中心部は四〇度ほど。しかも「隕石の中に入っていれば、放射線からも遮蔽(しゃへい)されています」という話には、もしかしたら地球の生命のはじまりは火星から…などと素人なりに考えたくなる。知ったかぶりの禅問答ではなく、大人が真面目に楽しめる、目からウロコの一冊だった。
 (岩波新書・756円)
 ながぬま・たけし 広島大准教授。
 いだ・しげる 東京工業大教授。
◆もう1冊
 自然科学研究機構編『地球外生命 9の論点』(講談社ブルーバックス)。立花隆、佐藤勝彦ら十一人が地球外生命について考える。
    --「書評:地球外生命 長沼 毅・井田 茂 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014022302000164.html:title]

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*p5*[覚え書]覚え書:「レーン・宮沢事件:元北大生の妹、来日 秘密保護法を危惧」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付、「(特定秘密法)スパイ冤罪遺族『今の政治怖い』 秘密法の廃止、訴え 秋間美江子さん」、『朝日新聞』2014年02月23日(日)付。


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レーン・宮沢事件:元北大生の妹、来日 秘密保護法を危惧
毎日新聞 2014年02月22日 東京朝刊

秘密保護法の廃止を訴えるため米国から来日した秋間美江子さん=成田空港で2014年2月21日午後5時20分、武市公孝撮影
秘密保護法の廃止を訴えるため米国から来日した秋間美江子さん=成田空港で2014年2月21日午後5時20分、武市公孝撮影
 「私たちのような人間が再び出ないようにしてほしい」。太平洋戦争開戦当日の1941年12月8日、スパイ容疑で逮捕され、27歳で亡くなった元北海道帝国大生、宮沢弘幸さんの妹で、米コロラド州に住む秋間美江子さん(87)が病身を押し21日、来日した。国家機密の漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法の成立(昨年12月)に心を痛め、弘幸さんの命日の22日、東京都内で開かれる集会で、同法の廃止を訴える。

 兄の悲劇は「レーン・宮沢事件」と呼ばれる。秋間さんらは「スパイの家族」として生き、「苦しみは経験した者にしか分からない」と話す。

 秋間さんは近年、病気で手術を繰り返してきたが、集会を知り急きょ駆けつけた。車いすに乗って成田空港に降り立った秋間さんは約13時間の長旅に時折、疲れた表情を浮かべながらも、「日本はせっかく民主主義の国になったのだから、人を黙らせる法を廃止してほしい。今からでも間に合う」とはっきりとした口調で語った。【青島顕】

==============

 ■ことば

 ◇レーン・宮沢事件

 1941年、宮沢弘幸さんと英語教師のレーンさん夫妻が当時の軍機保護法違反容疑で特高警察に逮捕され、懲役15~12年が確定した。レーン夫妻は戦争中に交換船で帰国したが、宮沢さんは戦後釈放されたものの、47年2月22日に肺結核で死亡した。90年代になって、主な容疑は「根室に海軍飛行場が存在することなどをレーン夫妻に話した」であることが判明した。飛行場の存在は、新聞報道などで当時広く知られていた。
    --「レーン・宮沢事件:元北大生の妹、来日 秘密保護法を危惧」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140222ddm012040036000c.html:title]


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(特定秘密法)スパイ冤罪遺族「今の政治怖い」 秘密法の廃止、訴え 秋間美江子さん

 戦争中に軍事機密を米国人教師に漏らしたとして、当時の軍機保護法違反の容疑で逮捕された故・宮沢弘幸さんの追悼集会が22日、東京都新宿区の寺院であった。米国に住む妹の秋間美江子さん(87)は、知る権利が制約された同法と今年12月までに施行される特定秘密保護法の共通点を指摘。「再び同じ時代が来てはいけません」と述べ、法律の廃止を訴えた。

 宮沢さんは北海道帝国大(現北海道大)の学生だった頃、旅行中などに知った軍司令部や海軍飛行場の場所などを米国人教師に話した。ところが、1941年12月に逮捕され、非公開の裁判で懲役15年の判決が確定。終戦後間もなく釈放されたが、獄中で患った結核が悪化して47年2月22日に27歳で亡くなった。事件はのちに「レーン・宮沢事件」と呼ばれるようになった。

 追悼集会は「北大生・宮沢弘幸『スパイ冤罪(えんざい)事件』の真相を広める会」が開催し、約140人が参加。事件当時に東京にあった実家を特高警察から捜索され、自身も尾行されたという秋間さんは「私には青春はなく、どこでも黒い影がついてるようでした」と振り返った。そのうえで「(秘密法をつくった)今の政治は怖い」と語った。(佐藤達弥)
    --「(特定秘密法)スパイ冤罪遺族『今の政治怖い』 秘密法の廃止、訴え 秋間美江子さん」、『朝日新聞』2014年02月23日(日)付。

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[http://www.asahi.com/articles/DA3S10994431.html:title]

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覚え書:「『反知性主義』への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論」、『朝日新聞』2014年02月19日(水)付。


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「反知性主義」への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論
2014年2月19日


 「反知性主義」という言葉を使った評論が論壇で目につく。「非」知性でも「無」知でもなく「反」知性――。政治的な問題発言が続出する現状を分析・批判しようとする意図が見える。

■自分に都合のよい物語 他者に強要

 「嫌中」「憎韓」「反日」――首相の靖国神社参拝や慰安婦問題をめぐり日・中・韓でナショナリスティックな感情が噴き上がる現状を、週刊現代は問題視して特集した(1月25日&2月1日合併号)。

 元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は対談で、領土問題や歴史問題をめぐる国内政治家の近年の言動に警鐘を鳴らした。その中で使った分析用語の一つが「反知性主義」だ。この言葉を昨年来、著書などで積極的に使っている。

 どう定義しているのか。

 「実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度」だと佐藤氏は述べる。新しい知見や他者との関係性を直視しながら自身と世界を見直していく作業を拒み、「自分に都合のよい物語」の中に閉じこもる姿勢だ。とりわけ問題になるのは、その物語を使う者がときに「他者へ何らかの行動を強要する」からだという。

 反知性主義という概念を使おうと考えたきっかけは、昨年の麻生太郎副総理の「ナチスの手口に学んだら」発言だった。「ナチスを肯定するのかという深刻な疑念が世界から寄せられたが、麻生氏も政権も謝罪や丁寧な説明は必要ないと考えた。非常に危険だと思った」

 異なる意見を持つ他者との公共的対話を軽視し、独りよがりな「決断」を重視する姿勢がそこにあると氏は見た。「反知性主義の典型です」。週刊現代の対談では、靖国や慰安婦に関する海外からの批判の深刻さを安倍政権が認識できていない、とも指摘した。

 自分が理解したいように世界を理解する「反知性主義のプリズム」が働いているせいで、「不適切な発言をした」という自覚ができず、聞く側の受け止め方に問題があるとしか認識できない。そう分析する。

■「知的」へ憤りと疑惑 背景にポピュリズム

 フランス現代思想研究者の内田樹氏も昨年12月、反知性主義が「日本社会を覆い尽くしている」とツイッターに書いた。参考図書を読もうとしない学生たちに、君たちは反知性主義的であることを自己決定したのではなく、「社会全体によって仕向けられている」のだと挑発的に述べた。

 同じ月、米国の歴史学者ホーフスタッターの著書『アメリカの反知性主義』の書評をネットの「書評空間」に寄稿したのが、社会学者の竹内洋氏(関西大学東京センター長)だった。ホーフスタッターが同書を発表したのは半世紀前。邦訳されたのも10年前だ。

 なぜいま光を当てたのか。「反知性主義的な空気が台頭していると伝えたかった」と竹内氏は語る。

 反知性主義の特徴は「知的な生き方およびそれを代表するとされる人びとにたいする憤りと疑惑」であると同書は規定する。米国社会を揺るがした1950年代のマッカーシズム(赤狩り)に直面したことで、ホーフスタッターは反知性主義の分析に取り組んだ。

 竹内氏がこの概念に注目したきっかけは、いわゆる橋下現象だった。「橋下市長は学者たちを『本を読んでいるだけの、現場を知らない役立たず』と口汚くののしった。ヘイトスピーチだったと思うが、有権者にはアピールした」

 なぜ、反知性主義が強く現れてきたのか。「大衆社会化が進み、ポピュリズムが広がってきたためだろう。ポピュリズムの政治とは、大衆の『感情』をあおるものだからだ」

     ◇

 同じ「反知性主義」に警鐘を鳴らしても、佐藤・内田・竹内氏の主張は力点が違う。だが佐藤氏は、3人には共有されている価値があると語る。「自由です」

 反知性主義に対抗する連帯の最後の足場になる価値だろうとも言う。「誰かが自分に都合の良い物語を抱くこと自体は認めるが、それを他者に強要しようとする行為には反対する。つまり、リベラリズムです」(塩倉裕)
    --「『反知性主義』への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論」、『朝日新聞』2014年02月19日(水)付。

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[http://www.asahi.com/articles/ASG2G559HG2GUCVL014.html:title]

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覚え書:「今週の本棚:沼野充義・評 『痴愚神礼讃 ラテン語原典訳』=エラスムス著」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。


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今週の本棚:沼野充義・評 『痴愚神礼讃 ラテン語原典訳』=エラスムス著
毎日新聞 2014年02月23日 東京朝刊

 (中公文庫・900円)

 ◇狂信に抗し、人間に寄り添う名著

 エラスムスの『痴愚神礼讃(ちぐしんらいさん)』(初版一五一一年)といえば、十六世紀ヨーロッパの人文主義の精華とも言われる古典だが、慌ただしい日常の流れをしばし止めて、この世界に浸ろうなどという酔狂な読者が今どれほどいるだろうか? ギリシャ・ラテンの古典からの引用をちりばめながら、カトリック教会の腐敗や王侯貴族の無為徒食を痛烈に批判したこの奇想天外な書は、当時のヨーロッパでこそ驚異的な大ベストセラーになったものの、いまの日本に何の関係があるのだろうか?

 そんな疑問を抱く向きは、是非、沓掛良彦氏によるラテン語原典からの清新な翻訳を開いていただきたい。高度なレトリックを駆使したルネサンス期のラテン語は、古典時代のラテン語とはだいぶ趣を異にして、これまで日本の研究者をなかなか寄せ付けなかった。『痴愚神礼讃』については、ラテン語原典からの翻訳の試みの先例は一つだけあるが、意味不明な箇所が多く、とうていエラスムスの本領を伝えるものとは言いがたい。それに対して、今なお広く読まれている渡辺一夫・二宮敬による共訳は大変優れたものだが、フランス語からの重訳である。今回の新訳が、実質的には初めてラテン語の原著の雰囲気を全面的に日本の読者に伝えるものとなった。訳者はエラスムスにも張り合えるほど古今東西の文学に通じた博識の士、その訳文は一文一文が頭の中にしみ通るようによく分かる。それにしても、これほどの古典的名著が原典から今までまともに翻訳されなかったとは、驚くべきことではないか。現代日本で国際化を叫び、国際語だという英語を口先で振り回す人たちは、ぜひこの異様な事態の意味を考えてほしい。

 『痴愚神礼讃』は、愚かさの化身である女神による「演説稽古文」という形式を取っている。古典古代の修辞学の伝統にのっとったものだから、我々には縁のないものじゃないか、などと早合点しないでいただきたい。逆説と皮肉と博識を繰り出して、愚かさを大げさに賛美しながら、同時に世の権力者や学者たちの愚かさを切っていく、表向きはふざけきったこの愉快なスタイルは、いま日本で選挙のたびに繰り広げられる選挙演説の、表向きは偉そうに響くが、内容は空っぽな言葉の渦と正反対。こういう演説が選挙戦で聞けたらさぞ投票率も上がるだろう、と思って読むと、面白い。

 至るところ引用したくなる名句ばかり。せめていくつか挙げておこう。「世にもたわけたことを紙に書きなぐっている」著作家に言及して--「もっと賢いのは他人の作品を自作として公刊してしまう手合いです」。「宮仕えのやんごとなき方々」について--「この人種の大部分ほど、卑しく、卑屈で、つまらぬ、下等な連中はいないのですが、そのくせ、あらゆる人間の中で第一級の地位を占めていると見られたがっているのです」。戦争について--「戦争はまことに凶悪無慙(むざん)なものですから、人間よりは野獣にふさわしく、また実に狂気の沙汰で(中略)キリストの教えとはなんのかかわりもないことでありますのに、教皇方は、なにもかも放擲(ほうてき)してひたすら戦争に邁進(まいしん)している始末です」

 どうだろうか。主語を少し変えれば、いまの世界にも、そしてもちろん、日本にもこういう「手合い」はたくさんいるのではないか? しかし、エラスムスは狂信の危険を警告する厳しい風刺家であるとともに、人間の愚かさの優しい味方でもあった。こういう思想家こそいまの日本に必要である。(沓掛良彦訳)
    --「今週の本棚:沼野充義・評 『痴愚神礼讃 ラテン語原典訳』=エラスムス著」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。

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覚え書:「今週の本棚:鴻巣友季子・評 『工場』/『穴』」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。


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今週の本棚:鴻巣友季子・評 『工場』/『穴』
毎日新聞 2014年02月23日 東京朝刊

 ◆『工場』=小山田浩子・著(新潮社・1890円)

 ◆『穴』=小山田浩子・著(新潮社・1260円)

 ◇日常を歪ませる、禍々しく不可解な寓話たち

 『工場』の表題作から言うと、大変な力作であり傑作だ。内容の呑気(のんき)さ無意味さに対する形態の異様さとトリッキーさ、そのけったいなズレに本作の禍々(まがまが)しい魅力がある。

 この巨大工場の正社員は町のエリートだが、何を生産しているのか今一つわからない。「私」こと牛山という若い女性は、奥の部屋で書類をシュレッダーにかける仕事を与えられる。この辺まではよくある就活小説。

 一行空いて、新入社員のイベントの様子が語られだす。流れとして当然、牛山の話だと思うが、途中でじつにさり気(げ)なく、語り手は大学院研究生あがりの「古笛」という男性だと明かされる。語り手が交替していたのだ。またしばらく行くと急に、古笛が同窓生らに就職を寿(ことほ)がれる場面になるが、これがいつの話なんだか明確でない。そうするうちに、ある行の途中から出し抜けに研究室の教授が喋(しゃべ)りだし、気づいたら暫(しばら)く過去へ話が飛んでいる。やがて夢から覚めると、覚めたのはどうやら別の「俺」で、派遣社員として工場の校正係をしており……。

 直しても直しても直らない誤植、コケの研究員としていつしか工場に住まわされている古笛、シュレッダーをかけるべき大量の極秘書類とは何なのか? そこへ森の妖精ズリパンやヌートリアなる謎の生き物が出現し、その間ずっと不意打ちのように時間軸はぶれ、場面は転換し、視点は入れ替わり、人物が闖入(ちんにゅう)し、その唐突さや過激さは密(ひそ)かにどんどん加速するが、一方、話題は相変わらず社内や飲み屋での雑談、描写は工場内の和やかな風景。形式と中身のあまりの落差。数々の「叙法の暴挙」は素知らぬ顔で行われ、文章のトーンは微動だにしないが、いつしかありふれた日常がカフカエスクな世界に変容している。本作がさらに好ましいのは、雑談の中身が人間関係の機微を捉えていて、面白いこと。話として面白いというのは「前衛小説」に重要な要素だ。

 つぎに「穴」。ヒロインが動物を追いかけていって穴に落ちるという本作には当然、『不思議の国のアリス』に代表される穴を通じた異界転送の寓話(ぐうわ)や神話を下絵に透かし見ることができるだろう。ただし、寓話としてかなり逸脱した、良い意味で機能不全の『アリス』である。

 語り手の「松浦あさひ」は夫の転勤に伴い、夫の実家が持っている借家に住むことになる。姑(しゅうとめ)に頼まれた用事の途中、彼女は犬でもいたちでもない黒い獣に出会い、ふらふらとついていって川原の穴に落っこちる。そのあたりから、どうも世界は歪(ゆが)んで狂い始め、夫の義兄を名乗る人物が離れ家から現れて、この物語自体に注釈をつけるようなことを言いだす。義兄の言う「流れみたいなものに加担すること」とは何か。こうした一連のことを語り手はさして奇妙にも思っていない様子。

 「工場」と違って叙述上の仕掛けはほとんどないが、明らかに不可解な展開(この人、どうしてここにいるの?)、辻褄(つじつま)があわないエピソード(子どもの数が多すぎる?)、非現実的な描写(このお爺(じい)さん、いつ見ても水を撒(ま)いている……)等々が、「平凡な日常」に這入(はい)りこんでくる。いや、奇怪なものたちはむこうから入ってきた(、、、、、、、、、、)のだろうか? 異なものが棲(す)むのはどこか? 語り手が見聞きし体験したものの真偽を読者が知りようがないのは、一人称文体で書かれた『ねじの回転』や『ロリータ』と同じ。小説とは時に世の中の全てを疑わせる装置となる。
    --「今週の本棚:鴻巣友季子・評 『工場』/『穴』」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。

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覚え書:「今週の本棚・新刊:『書に想い時代を讀む』=河田悌一・著」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『書に想い時代を讀む』=河田悌一・著
毎日新聞 2014年02月23日 東京朝刊

 (東信堂・1890円)

 著者は中国思想史の専門家。前・関西大学長で、現在は日本私立学校振興・共済事業団の理事長を務めている。大学のあり方を考え、中国との縁を振り返り、これまでに会った人々の面影をつづる。読んでいて、ふと人生に思いをはせてしまうような、滋味深いエッセー集だ。

 たとえば、司馬遼太郎の手紙について。感想が「独特の温かな字体」で記されていた。会っても必ず、励ましてくれ、こちらがイマイチだと思う文章でも、よいところをほめて、鼓舞してくれた。司馬の「褒め上手」は著者の教育観にも影響し、自分も学生に接する時、先に称賛してから課題を指摘するという。網干善教の追悼文では、考古学を「茶の間の学問」にされたとたたえ、高松塚古墳の壁画が劣化した時の激しい憤りにも触れている。

 書道についての文章や中国を訪れての感想も味わいがある。北京の変化に驚き、中国における儒教の再評価の背景に何があるのかを論じる。現在、大阪市や大阪文学振興会が主催する織田作之助賞の選考委員を務めている。その選評も収録されていて、西加奈子や津村記久子の小説に共感している。(重)
    --「今週の本棚・新刊:『書に想い時代を讀む』=河田悌一・著」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。

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覚え書:「みんなの広場 NHK経営委員は憲法熟読を」『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。


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みんなの広場
NHK経営委員は憲法熟読を
元NHK職員・83(川崎市宮前区)
毎日新聞 2014年02月22日

 1953年、NHK職員になった時、日本国憲法順守の誓約に署名した。以来、定年まで憲法はNHKで働く身として強いよりどころであった。判断に迷った時は憲法に立ち返って考えた。

 放送法は憲法の表現の自由を電波メディアで実現したものであるし、放送法でNHKだけに課せられた放送の最大普及の義務も、憲法に保障された「文化的な生活」享受を電波メディアで実現することを目指したものだ。

 憲法順守の誓約は今でも行われていると思うが、その職員のトップに立つ会長や経営委員は当然、憲法順守の責任を負わねばならない。憲法は一般市民を拘束する性格のものではないので、憲法に反対することは自由であるが、憲法によって立つNHKの職に就くからには憲法を順守するのは当然の義務だ。

 そうでなければ、NHKの職に就くことを断るか辞退するのが筋であろう。会長、経営委員は改めて憲法と放送法を熟読してほしい。
    --「みんなの広場 NHK経営委員は憲法熟読を」『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。

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覚え書:「みんなの広場 馬耳東風とはこのことか」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。


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みんなの広場
馬耳東風とはこのことか
無職・73(東京都杉並区)
毎日新聞 2014年02月22日

 衆院予算委員会(12日)での安倍晋三首相の答弁を聞いて、私は即座に馬耳東風という言葉を思い出した。民主党議員からNHK経営委員である百田尚樹氏の“人間のくず”発言を問われた首相は「私なら気にしない」と答弁した。

 なるほど従来の発言や特定秘密保護法への国民からの疑念の声への鈍感な反応を見るにつけ、首相はNHK経営委員や秘密保護法の有識者会議の委員以外からの意見には聞く耳を持たないと見える。

 このような頑迷で独裁的な一国の首相に、わが国を取り巻く緊急の課題や生活実態などについて説いても受け入れられる余地はないのかもしれない。4月に迫り来る消費増税の導入で一層の生活苦を強いられるわれわれ国民は、この実情を誰に訴えればいいのだろうか。これから先2016年までこのまま、自民党独裁の状態が続くのかと思うと、空恐ろしくなってくる。
    --「みんなの広場 馬耳東風とはこのことか」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。

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日記:中山成彬大先生と片山さつき大先生の「狂気」扇動

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 「アンネの日記」やその関連図書のページが大量に破られるという被害が昨年から今年にかけ、東京都内の公立図書館で相次いでいる。被害は少なくとも250冊以上になるとみられ、範囲も23区だけでなく市部にも及ぶ。

 「アンネの日記」は第二次世界大戦中にオランダでナチスのユダヤ人迫害から逃れるために屋根裏に住んだ少女、アンネ・フランク(1929~1945)がつづった日記。世界的なベストセラーとなっており、児童書コーナーに置かれているものもあることから、図書館側では警察に被害届を出すなど警戒を強めている。

 ハフィントンポストが2月20日現在、確認できただけでも、新宿区、杉並区、豊島区、中野区、練馬区、東久留米市、西東京市の各図書館で、合計250冊以上の本が被害にあったとみられる。いずれも「アンネの日記」やその関連図書などで、本の内部が何十ページにわたって破られるという手口だった。書籍にある特定の記述を狙ったものではないようだ。(ハフィントンポスト)
[http://www.huffingtonpost.jp/2014/02/20/annne_n_4820721.html:title]

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詩人ハイネは、ナチス政権下においてその著作が焚書の対象になったが、有名な警句を残している。すなわち「本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる」。事実、第三帝国下のドイツでの所行を引くまでもあるまい。

人間の感性と知性の最高の結晶ともいうべき「本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる」のは人類普遍の道理であろう。

一刻もはやい解決を望むばかりだ。

さて……。

各地の図書館でアンネの日記が破られているというニュースがかけめぐるようになってから、知性の牙城・東京大学出身の二人の保守派政治家が、その報道に狂気にみちた反応を示していることに驚いた。

ひとりは中山成彬(なかやまなりあき)氏。
twitterでの本人のプロフィールも掲載しておこう。
「血液型B型 衆議院議員 宮崎県小林市生まれ。 ラサール高、 東大法卒。 大蔵省出身。 元文部科学大臣 元国土交通大臣」。

英才中の英才であろう。

かの人物の発言は次の通りだ。

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各地の図書館でアンネの日記が破られているというニュースに、瞬間日本人の感性ではない、日本人の仕業ではないと思った。ディスカウントジャパンに精出す国、安倍総理をヒットラーに例える国もある。図書館にも隠しカメラがあるの嫌だが、徹底して調べてほしい。不可解な事が多発する日本、要注意だ。 7:00 - 2014年2月22日

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そしてもう一人は、ネトウヨの覚えめでたき片山さつき氏。
twitterでの本人のプロフィールも掲載しておこう。
「自民党参議院議員、党環境部会長、前総務大臣政務官。衆院1期(経済産業政務官。広報局長)後、全国比例区22年自民党トップ当選。震災復興と防災、エネルギー戦略、地域活性化、社会保障と税 全国を駆け回ってます!」

……だそうだ。

かの才女の発言は次の通りだ。

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アングレームに乗り込んだ韓国チョ・ユンソン女性家族部長官は、ユネスコ事務局長に、2月2日「アンネの日記は世界遺産登録されている」、と従軍慰安婦の被害記録の登録を主張したそうです。そして、都内でアンネの日記が図書館被害。事件の徹底捜査を警察に要請します!ささいな情報でも通報を! 0:38 - 2014年2月24日

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ふたりに共通していることは何か。至極単純だ。
図書館所蔵のアンネの日記を破いた犯人は判明していない(2014年02月25日現在)。
にもかかわらず、彼・彼女らが嫌悪するひとびとの犯行であるとのきめつけだ。

この狂気に筆者は戦慄している。
根拠もないままに、扇動の末蓄積された憎悪が水晶の夜として発火し、その狂気結末は、図書館で破られたアンネをアウシュヴィッツのガス室に送り込んだのではあるまいか。

筆者は近代日本キリスト教思想史を専門とする。そこで想起するのは、関東大震災下における流言飛語の狂気だ。その扇動が、無辜の朝鮮半島の人々をメッタ殺しにしたのではあるまいか。

戦慄せざるを得ない。

ふたりの扇動はナチスと戦前日本の狂気を示すものに他ならない言説だが、もうひとつ気にかけなければならないことがある。すなわち、それは、「権力」が流言飛語やデマを垂れ流し、扇動する構造である。

内務省警保局は各地方のトップに向けて「朝鮮人の行動に対しては厳密なる取締を」と警報を打電し、警視庁からも戒厳司令部宛に「鮮人中不逞の挙について……」などと通報じているが、実際のところ、そのほとんどはデマ・風聞にすぎないものだった。しかしデマゴーグに過ぎないものであったとしても、「権力」が発したものは事実と理解され、敵愾心を煽り、やがて「自衛」という大義名分のもと、故無き暴力を正当化してしまう。筆者は吉野作造の研究者だが、関東大震災下において吉野作造は、官憲がその「デマ」を流したことを報告している。

さて、再びだ。2014年2月25日現在、犯人は捕まっていない。

繰り返そう。犯人も判明していないうちに、権力の側にいる人間が、自分が嫌悪する人々をその犯人と決めつけて糾弾することの狂気に戦慄すべきである。

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 震災地の市民は、震災のために極度の不安に襲はれつゝある矢先きに、戦慄すべき流言蜚語に脅かされた。之がために市民は全く度を失ひ、各自武装的自警団を組織して、諸処に呪ふべき不祥事を続出するに至つた。此の流言蜚語が、何等根抵を有しないことは勿論であるが、それが当時、如何にも真しやかに然かも迅速に伝へられ、一時的にも其れが全市民の確信となつたことは、実に驚くべき奇怪事と云はねばならぬ。
    --吉野作造「朝鮮人虐殺事件について」、『中央公論』1923年12月。

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覚え書:「ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/1~5」、『毎日新聞』2014年02月18日(火)~22日(土)付、まとめ。


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ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/1 「死の灰」教訓、世界へ 第五福竜丸元乗組員・大石又七さん
毎日新聞 2014年02月18日 東京朝刊

(写真キャプション)「ビキニは今につながっています」と訴える第五福竜丸元乗組員の大石又七さん=東京都大田区で1月28日

 ◇大石又七さん(80)

 日本のマグロ漁船が米国の水爆実験による死の灰を浴びたビキニ事件は、この3月1日で発生60年を迎える。「ヒバクシャ’14冬」は、広島、長崎に続く核惨事となったこの事件に遭遇した元乗組員の被ばく被害根絶を求める魂の訴えから始めたい。

 つえをついてゆっくりと壇上に向かってから、少ししゃがれた声で中学生に語り始めた。「いい年ですが、伝えたいことがたくさんあるんです」。1月下旬、大石又七さん(80)は東京都内の学校で60年前の「死の灰」の記憶を語った。人の手に負えない核の恐怖は今も続いていると知ってほしい。「解決のすべを知らないまま、進み続けるほど恐ろしいことはありません」。穏やかな口調の中に気迫があった。

 14歳で漁師になった。20歳だった1954年1月、マグロはえ縄漁船の第五福竜丸で静岡県・焼津港を出港する。3月1日、米国がマーシャル諸島・ビキニ環礁で行った水爆実験の巻き添えになり、放射性物質を含む死の灰を浴びた。「味もにおいもない。雪が降るようでした」。数日後、皮膚に水ぶくれができ、髪はするっと抜けた。乗組員仲間たちと入院したが、無線長は半年後、急性放射線症のため目の前で壮絶な死を遂げた。仲間や家族の泣き声が広がる病室で怒りがこみ上げた。

 退院後に待っていたのは、いわれなき差別や偏見と、米国から払われた見舞金約190万円への理不尽なねたみだった。「人混みに隠れて暮らそう」。静岡から東京へ逃れると、大田区でクリーニング店を営み、被ばくの過去を遠ざけた。沈黙を破ったのは30年前だった。200万ドル(約7億2000万円)の見舞金で責任を曖昧にして決着を図った日米両政府、治ったと思って退院した仲間の死、忘れ去られていく事件の教訓、止まらない核開発--。耐えられず、悔しさに突き動かされた。語り続け、講演は700回を超えた。

 「ビキニは今につながっています」。講演で繰り返してきた言葉だ。「兵器として、原発として、核は進化しました。目に見えない放射能は必ず人間の体に跳ね返る。みなさんは知らなくてはいけません」。福島の原発事故後、ようやく自分の話が理解されるようになったと感じている。

 2012年4月に脳出血で倒れた。入院とリハビリを経て講演活動を再開したが、体の一部にまひが残る。「死んでいった仲間の倍、生きさせてもらいました。足を引きずってでもやめません」。これまでに肝臓がんを患った。糖尿病や不整脈の持病も抱え、薬と車椅子が手放せない。満身創痍(そうい)で続ける講演に娘や孫が付き添うようになった。

 核をなくすためにどうしたら良いのか、講演を聴いた中学生から問われた。「人間は目先のことにとらわれ、動かされる。人間がいるうちは核は消えないんじゃないかと思うんです」と返した。ずっと考えてきたが、明確な答えを見つけられない。「これからを生きるみなさんが、何が幸せかを考えてほしい。考え続けていれば何か変わるんじゃないでしょうか」。そう続けてやさしくほほ笑んだ。

 ビキニ事件から60年になる今年の3月1日をマーシャル諸島で迎えると決めている。「元漁師で洗濯屋だったおやじ一人の声だけでは小さくてね」。同じように米国の核実験で被ばくした島民たちと共に、ビキニの教訓を世界に訴えるつもりだ。<文・山田奈緒、写真・中村藍>=つづく

    --「ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/1 「死の灰」教訓、世界へ 第五福竜丸元乗組員・大石又七さん」、『毎日新聞』2014年02月18日(火)付。

[http://mainichi.jp/shimen/news/20140218ddm041040028000c.html:title]

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ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/2 原発、孫子に残さず 被爆医師・肥田舜太郎さん
毎日新聞 2014年02月19日 東京朝刊

(写真キャプション)放射線被害の恐ろしさを訴え続けている被爆医師の肥田舜太郎さんは、ビキニで被ばくした米軍人も診察した=さいたま市で1月
 ◇肥田舜太郎さん(97)

 陸軍軍医として勤務していた広島で被爆し、60年以上被爆者の診察を続けてきたさいたま市の医師、肥田(ひだ)舜(しゅん)太郎(たろう)さん(97)は1月中旬、今年初めての講演に臨んだ。原爆投下直後の惨状などを手ぶりを交え約1時間半話し、放射線被害の恐ろしさを訴えた。「原爆や原発から出る放射線は目に見えない。人間は目に見えないものの脅威には鈍感になってしまう」。講演を何度も聞いてきた記者には、肥田さんの言葉の端々に焦燥感が漂っているように感じられた。

 来月で発生3年となる東京電力福島第1原発事故の後、内部被ばくに詳しい肥田さんに講演依頼が殺到した。特に幼い子どもを持つ母親たちがグループを作り、勉強会に肥田さんを招いた。「60年前の第五福竜丸事件(ビキニ事件)の後、原水爆禁止運動の発端となったのは東京都杉並区の主婦たちの活動だった。今度はあの時以上の広がりだ」。一時はそう感じたという。

 そのビキニ核実験で被ばくした元米軍消防兵の男性を肥田さんは診察したことがある。福竜丸事件の8年前、1946年に米国の原爆実験に参加した男性は、直後から体調が悪化した。慢性のリンパ浮腫が現れ、動脈硬化による症状も進んだ。男性は核実験での被ばくが原因と確信したが、米政府は因果関係を否定。裁判で争っていた男性は82年、肥田さんの診察を受けるため来日したのだった。

 病のため両膝から下を切断し、車椅子に乗って現れた男性の姿を今も鮮やかに思い出す。「米国は被ばくの被害をないものにしようとした。自国民なのに切り捨てられた彼はその犠牲者だった」。会った翌年、男性はがんで亡くなったという。

 「福竜丸以外にも数百隻の日本漁船がビキニで被ばくしたが、米国と日本は被害を福竜丸だけに限定した。たくさんの漁船員が若くしてがんなどで亡くなっている事実があるというのに」と憤る。「福島でも今、風評被害を気にして、放射線の被害はないものとされ、声を上げられない人がたくさんいると聞いている」と憤りは福島原発事故にも向かう。

 今も約5万人の福島県民が県外で避難生活を強いられる中、安倍政権は原発再稼働に前向きな姿勢を見せている。「被爆国で地震も多いこの国が、原発を五十数基もつくったことが間違いだった。もう1カ所どこかで原発事故が起きれば、日本は滅んでしまう」。肥田さんには焦りにも似た危機感がある。

 「核兵器も原発も人間の知恵では制御できない恐ろしいもの。孫子のためにも、残さない努力を、運動を続けなければいけない」<文・高田房二郎、写真・竹内幹>=つづく
    --「ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/2 原発、孫子に残さず 被爆医師・肥田舜太郎さん」、『毎日新聞』2014年02月19日(水)付。

[http://mainichi.jp/shimen/news/20140219ddm012040051000c.html:title]

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ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/3 福島の不安に理解 元中国電力社長・白倉茂生さん
毎日新聞 2014年02月20日 東京朝刊

(写真キャプション)「今でも当時のことはあまり話したくない。ただ祈りたいと思う」と語る白倉茂生さん=広島市南区で


 ◇白倉茂生さん(78)

 「震災があったから、何としてもこれだけは書き残さなければと思ってね」。元中国電力社長の白倉茂生(しらくらしげお)さん(78)=広島市南区=は、3年半ぶりに会った私に、そう切り出した。執筆したのは、自身が半世紀近く携わってきた石炭火力発電の脱硝・脱硫といった環境保全技術に関する論文だった。「エネルギーは必要なのに、東日本大震災で原発は止まってしまった。自然エネルギーは量と質に問題があり、そうなると石炭しかない」。心臓弁膜症の手術を乗り越え76歳で論文を書き上げた背景には、電力会社の技術者としての自負と幼少期の戦争体験があった。

 1945年8月6日。小学4年だった白倉さんは広島県海田町の自宅にいた。窓を開け、夏休みの宿題をしていると、晴れた空に米軍機が3機、キラキラと光った。「あっ、B29が来ている」。その直後、すさまじい閃光(せんこう)に襲われた。とっさに机の下に隠れたが、爆風で窓ガラスは割れ、畳が跳ね上がった。原爆投下の瞬間だった。

 午後になると爆心地から東に十数キロ離れた海田町にも被爆した人たちが次々に逃れてきた。中には学徒動員で広島市内の工場に出ていた女学生もいた。顔は焼けただれ、ほとんど服をまとっていない状態だった。洋服屋を営んでいた父親は売り物の布を適当な長さに切り、頭が出るように穴を開け、女学生にかぶせた。白倉さんはそれを必死に手伝ったことを覚えている。

 翌7日、母と八つ上の兄と一緒に親戚を捜しに広島市の白島に向かった。市内は一面焼け野原。「当時、ピカドンと言っていてね。ただひたすら怖かった。だから戦争が終わった時、心底ホッとした。町の明かりがともっていることがどんなに幸せか実感したよ」

 原爆投下の翌日に爆心地から約2キロの白島周辺に入った白倉さんは、入市被爆をしている。このため白倉さんは3年前に、被爆者健康手帳の申請手続きをした。しかし長い歳月が経過し、証人との記憶に食い違いがあって認められなかった。

 「補償がほしかったのではなく、ただあの場にいた証しとして取得したかった」。兄ががんで亡くなったり、自身の体調が悪くなったりすると原爆の影響を考えてしまう。

 それだけに原発事故に見舞われた福島の人々の不安は理解できる。同時にエネルギーについて国民全体で考えてこなかったことも痛感した。

 「原発事故が起こったから『脱原発』と言うのではなく、国民ひとりひとりが今後のエネルギーのあり方について考え議論しなければいけない」。白倉さんは静かに語った。<文・岡崎英遠、写真・長谷川直亮>=つづく
    --「ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/3 福島の不安に理解 元中国電力社長・白倉茂生さん」、『毎日新聞』2014年02月20日(木)付。

[http://mainichi.jp/shimen/news/20140220ddm012040047000c.htmltitle]

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ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/4 「希望の平和学」教え 高校非常勤講師・山川剛さん
毎日新聞 2014年02月21日 東京朝刊


(写真キャプション)被爆遺構として活水高内に残る旧鎮西学院中の校舎外壁の前で話す山川剛さん=長崎市の同校で13日


 ◇山川剛さん(77)

 今年1月30日、長崎市の私立女子校・活水(かっすい)高校の教室で、長崎県原爆被爆教職員の会副会長の山川剛さん(77)が授業を終えると、一人の生徒が席を立ち、隠していた花束を抱えて近づいてきた。「ありがとうございました」。9年にわたり非常勤講師を務めてきた山川さんは3月で退職する。この日は3年生への最後の授業だった。「ありがとう」。拍手に包まれた山川さんは満面に笑みを浮かべた。花束は「うれしいサプライズ」だった。

 爆心地から約500メートルの旧鎮西学院中跡に戦後建てられた活水高では、2005年度から3年生の社会科必修科目に「平和学」を導入した。その講師として、長崎の小学校で36年間教壇に立ち、被爆者として平和教育に力を注いできた山川さんが招かれたのだった。

 着任前、山川さんは長崎の高校生へのアンケート結果に衝撃を受けていた。多くの生徒が「核兵器廃絶は不可能だと思う」「戦争はなくならないと思う」と回答したのだ。「若者が将来に希望を持てるような平和教育をしてきただろうか」。反省を胸に「平和学」の取り組みが始まった。

 週2回通い5クラスの授業を受け持った。テーマは被爆の実相、原爆が製造された経緯、戦時中の日本の加害を含めた歴史認識、反核運動の現状--と多岐にわたる。01年の米軍によるアフガニスタン攻撃の際、武力行使に一人だけ反対した米国の女性議員の話などを紹介し「あなたたちもおかしいと思ったことは声を出してほしい」とも語りかけた。

 憲法9条については、他国に例のない戦争を生み出さない仕組みであることを教えた。ある生徒の問いかけに気付かされたことがある。「9条が大事なことは分かりました。でも、なんで中途半端に9番目なの?」。山川さんは「子供の素朴な疑問に、平和を学ぶ機会を与えることの重要さを感じた」と話す。

 授業後に毎回出してもらうリポートに生徒の変化が見られる。「戦争のない世界の実現は決して夢ではないと思えるようになりました」「核兵器や戦争について考えるようになりました」。山川さんは言う。「普通の生徒が長崎で原爆や平和について学び、他の地域の友人に伝える。これが平和教育の根幹。そのためにも被爆者は語り続ける必要がある」

 安倍政権下で進められる集団的自衛権容認の動きや教育改革に「戦争ができる体制作りが進められてゆく」との危機感は強い。そうした中での講師退任だが、山川さんは「希望の平和学」でまいた種は芽となり、生徒たちの中に根付いていると信じている。<文・梅田啓祐、写真・和田大典>=つづく
    --「ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/4 「希望の平和学」教え 高校非常勤講師・山川剛さん」、『毎日新聞』2014年02月21日(金)付。

[http://mainichi.jp/shimen/news/20140221ddm012040151000c.html:title]

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ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/5止 米大統領訪問に期待 元長崎大学長・土山秀夫さん
毎日新聞 2014年02月22日 東京朝刊

(写真キャプション)長崎原爆資料館を訪れたケネディ駐日米大使と記念写真を撮る土山秀夫さん=2013年12月10日、山下恭二撮影

 ◇土山秀夫さん(88)

 「昨日まで街が存在していたとは思えない変わりようでした」。元長崎大学長の土山秀夫さん(88)は昨年12月10日、就任後初めて被爆地長崎を訪れたキャロライン・ケネディ駐日米大使と原爆資料館で会い、自ら体験した原爆投下直後の長崎の地獄絵を伝えた。

 原爆投下の2日前、長崎医科大(現長崎大医学部)の学生だった土山さんは母の危篤を知らされ、8月9日は母の疎開先の佐賀にいた。投下翌日の10日に戻った長崎は、緑を奪われセピア色の廃虚になっていた。担架で運ばれる人、皮膚の垂れ下がった人が行き交う中、医学生として救護活動にあたった。だが薬品は底を突き、医療器具もなく、死にいく人々を救えず自らも残留放射能で被爆した。

 ケネディ元米大統領の長女、ケネディ大使は20歳で初来日した際、被爆地広島を訪れ「深く心を動かされた」という。今回の長崎訪問でも、「死んでいく人の脈を握って励ますことしかできなかった」と語る土山さんに時折うなずきながら真剣にメモを取り続けた。

 土山さんは1960年、留学先の米イリノイ大学でケネディ元大統領の選挙演説を聴いている。「夢と希望を常に抱いた大統領だった」。その時の感想を伝えると、ケネディ大使は「核軍縮にチャレンジした父を誇りに思う。オバマ大統領も父の遺志を継いでおり、私は大統領を信頼しています。今日聞いた話はそのまま大統領に伝えます」と応じた。

 被爆地は、2009年のチェコ・プラハでの演説で「核兵器のない世界を目指す」と訴えたオバマ大統領の訪問を願っている。土山さんは「内政的に迷いもあると思うが、大統領が被爆地の声や実相に触れれば、核廃絶の道を進めるべきだと確信すると思う。被爆地にとっても励みになる」と力を込めた。

 日本政府が唯一の被爆国として核廃絶に真摯(しんし)に取り組むことを求めてきた土山さんだが、「安倍政権には核軍縮に向けてイニシアチブを取るという姿勢が感じられない」と指摘する。一方で、オバマ大統領の被爆地訪問を機に、核廃絶の動きが起きることを期待している。

 10年9月、当時のルース駐日米大使が初めて長崎を訪れた際、「被爆地の方々はオバマ大統領とその政策についてどう感じていますか」と何度も尋ねられた。土山さんは大統領が訪問の道を探っていると感じたという。そしてケネディ大使訪問については「核廃絶の問題に取り組む意欲を感じ、被爆者の気持ちも伝えられたと思う」と語る。土山さんは諦めずに夢と希望を抱いている。<文・大場伸也、写真・山下恭二>=おわり
    --「ヒバクシャ広島/長崎:’14冬/5止 米大統領訪問に期待 元長崎大学長・土山秀夫さん」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。
http://mainichi.jp/shimen/news/20140222ddm012040049000c.html

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覚え書:「日本の社会主義―原爆反対・原発推進の論理 [著]加藤哲郎」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。

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日本の社会主義―原爆反対・原発推進の論理 [著]加藤哲郎
[掲載]2014年02月16日   [ジャンル]社会 


 日本の社会主義を1世紀前の草創期から冷静に描きつつ、本質的な問題点として敗戦後の原子力政策への対応を追究した。それを一言でまとめると副題となる。被爆国日本で原発を推進したのは保守陣営だけでなく、社会主義陣営でもあった。
 社会主義史をこの視角で描いたのは、福島第一原子力発電所の事故で「足元から揺さぶられた」からという。読ませどころは論理構築の主役だった物理学者・武谷三男の派手で無責任さも漂う言動の跡付けだ。だが、後に武谷が原発反対に回っても、科学技術と生産力を重視する社会主義陣営の大勢は変わらなかった。そして、社会主義が政治的に衰退した今も、その論理は広く残っている。
    ◇
 岩波現代全書・2415円
    --「日本の社会主義―原爆反対・原発推進の論理 [著]加藤哲郎」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014021600007.html:title]

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覚え書:「今週の本棚・新刊:『マーシャル諸島の政治史』=黒崎岳大・著」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『マーシャル諸島の政治史』=黒崎岳大・著
毎日新聞 2014年02月23日 東京朝刊

 (明石書店・6090円)

 西太平洋は赤道のすぐ北にサンゴ礁が点在するマーシャル諸島共和国がある。戦前に日本が統治し、1986年に米国から独立した同国の政治史だ。10年に及ぶ現地調査の成果で、選挙結果などのデータ、住民への聞き取りも豊富。民族誌や単なる米国の被害者扱いといったありがちな視点だけではない研究書となった。

 人口わずか6万人、陸地面積は東京・八王子市ほどしかないが、米国の強い影響下にある点など、日本の戦後史を連想できる面も。政治家や官僚ら国のエリート層の形成過程は興味深い。以前からの首長層が独日米と代わった宗主国の意向を受けつつ君臨する一方、特に日米の統治下で、結果として新たな指導者層が平民の上層から生まれた。いわば、近代国家の外皮の下に、伝統的な階層構造が変形しつつ残ったわけだ。

 2000年に初めて新エリート層出身の大統領が誕生した話は、どこか日本の民主党政権を思わせる。中央と地方の利害対立もある。クワジェリン環礁の米軍基地やビキニ環礁の核実験は沖縄や広島・長崎に似ていないか。小国のしたたかさや矛盾は、私たち自身を振り返るヒントにもなるはずである。(生)
    --「今週の本棚・新刊:『マーシャル諸島の政治史』=黒崎岳大・著」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140223ddm015070023000c.html:title]

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覚え書:「今週の本棚・新刊:『ローマ五賢帝』=南川高志・著」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『ローマ五賢帝』=南川高志・著
毎日新聞 2014年02月23日 東京朝刊

 (講談社学術文庫・924円)

 最高権力者の暗殺は側近がからまないと成功しにくい。ドミティアヌス帝の暗殺には后も近衛隊長官も関与していたという。もう暴君はこりごりとばかり、五賢帝の世がつづいたのだろうか。「人類史の至福の時代」ともいわれる2世紀のローマ帝国、その実態はどうであったのか。

 前帝暗殺者にかつぎ出された老帝ネルウァだが、近衛隊は反抗していた。次の皇帝としてトラヤヌスを養子にしたが、裏では推薦というよりも簒奪(さんだつ)ともいえる策動があったらしい。治世の半分を属州視察に努めたハドリアヌス帝は元老院側からすれば暴君にすぎなかった。それでも晩年には絶大な権力を握っている。敬虔(けいけん)なアントニヌスを後継者に選定するという周到さも忘れなかった。じっさいアントニヌス帝は非の打ちどころがなく、特筆すべき出来事もないほど平穏な23年間だった。つづくストア派の哲人マルクス・アウレリウスは皇帝になりたくなかったという。有徳の人格者だったが、多事多難に襲われ時代に恵まれなかった。

 皇帝たちは元老院に支持されることが重要であったが、その背景にある親族・姻戚関係などの人脈があざやかに浮かびあがってくる。(凌)
    --「今週の本棚・新刊:『ローマ五賢帝』=南川高志・著」、『毎日新聞』2014年02月23日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140223ddm015070022000c.html:title]

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覚え書:「発言 知の力で被災地に活力を=里見進」、『毎日新聞』2014年02月20日(木)付。


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発言
知の力で被災地に活力を
里見進 東北大学長

 早いもので東日本大震災から満3年が過ぎようとしている。仙台市に住んでいると震災の爪痕を感じることもなく震災後の復旧・復興は順調に進んでいるように見える。しかしながら沿岸部を訪れるとがれき処理にめどがついたとはいえ復興・復旧はまさにこれからである。
 復興・普及の一つの目安となる人口動態を見ると、震災発生から2年、被災3県(岩手、宮城、福島県)の人口は流出が続き、震災前に比べ11万人(1・92%)も減少した。被害の大きかった沿岸部の町では全人口の10%以上が減少した町も珍しくない。より申告なのは将来を担う若年層や30、40歳代の流出が顕著で、高齢化が急速に進んでいることである。
 安心して住める環境が壊れてしまったことに加え、安定した雇用機会が失われた影響も大きい。がれきの処理と建設ラッシュで一時的に雇用の機会を増やしている「復興特需」もいずれは終わりになる。
 だからこそ学術機関の役割を痛感する。被災地の健全な復興・復旧には医療や住環境を整え、エネルギー供給面でも自立した地域社会の新しいモデルを創出し、雇用を生み出す産業やその担い手となる人材を、産学官が連携して育てる必要がある。大学にはこれらを総合的に考え、解決する英知が求められている。
 東北大学は今回の震災で3人の学生が津波の犠牲となり、多くの建物や設備が壊れ、貴重な研究資料を失うなど多くの被害を受けた。ただ、教職員・学生の士気は高く、東北復興・日本新生の先導役になるとの決意の下、東北大学災害復興新生研究機構を設置し、現在八つの大型プロジェクトを推進している。
 災害科学を総合的に研究し、実践的な減災・防災学を想像する「災害科学国際研究所」を設立した。医療情報と遺伝子情報を複合させたビッグデータ活用で、未来型の医療や創薬研究の基盤を作る東北メディカル・メガバンク構想が動いている。
 海洋環境や海洋生態系の調査・研究を通じ東北の豊かな海を取り戻す東北マリンサイエンスや再生可能な新エネルギーの開発研究とそれを用いた都市空間の創出、放射性物質の環境汚染や体内蓄積の調査研究は地域への貢献を信じている。
 災害に強い情報通信インフラの開発、イノベーション人材の育成と地域産業の復興を支援するプロジェクト、大学の持つ素材の事業化を促進し新規産業を創出するプロジェクトなど多角的取り組みに努めたい。
 これらは国内外の学術機関や産業界、行政機関と連携しており、すでにいくつかの重要な研究成果が上がっている。しかしながら地域社会の新しいモデルの提示や新規産業を興すまでには至っていない。
 大学OBのミュージシャン、小田和正さんにお願いして校友歌「緑の丘」を作っていただいたのも復興に励む学生・教職員のみならず市民の方々を元気づけたい思いからだった。羽生結弦選手の金メダル、東北楽天イーグルスの野球の力も希望を与えた。大学には今まさに知の力で被災地に活力を取り戻す役割が求められている。
さとみ・すすむ 那覇市出身。東北大学医学部第二外科教授、同大病院長などを経て2012年4月現職。
    --「発言 知の力で被災地に活力を=里見進」、『毎日新聞』2014年02月20日(木)付。

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日記:コロンビア大学コアカリキュラム研究会(2) アリストテレス『ニコマコス倫理学』

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 かくしていま、およそわれわれの行うところのすべてを蔽うごとき目的ーーわれわれはこれをそれ自身のゆえに願望し、その他のものを願望するもこのもののゆえであり、したがってわれわれがいかなるものを選ぶのも結局はこれ以外のものを目的とすrのではない、といったようなーーが存在するならば、(まことに、もしかあるものがなければ目的の系列は無限に遡ることとなり、その結果われわれの欲求は空虚な無意味なものとなるであろう、)明らかにこのものが「善」であり「最高善」(ト・アリストン)でなくてはならない。してみれば、かかる「善」の知識はわれわれの生活に対しても大きな重さを持つものではないであろうか。
    --アリストテレス(高田三郎訳)『二コマコス倫理学 上』岩波文庫、1972年、16頁。

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金曜日は、2回目のコロンビア大学コアカリキュラム研究会。
アリストテレスの『ニコマコス倫理学』を教材に、少しつっこんだ議論を交わすことができました。

前回はプラトンの『国家』を取り上げましたが、イデア論をめぐるプラトンとアリストテレスの認識が異なるが如く、『ニコマコス倫理学』におけるアリストテレスは、やはりどこまでも「等身大」の思考を心がけながら、常識のもつ「馴化」に抗おうとする姿勢が特徴的ではないかと思います。

倫理とは確かに共同体生成の要でありますが、しかしながら、同時に、それはその要を無批判に受け入れるものでもない、否、どこまでも検討する立場であることを常に随伴させる知的営みです。

その二重の契機こそ、(第一哲学には属し得ない場合もあるのですが)「人間」の事柄をどこまでも「人間」の事柄として、絶えず脱構築していくダイナミズムに倫理学の魅力はあるのかも知れません。

参加されたみなさまありがとうございました。

さて、反知性主義とオリンピックよろしく感動「病」が席巻する現在。古典を読む価値がどこにあるのかと尋ねた場合、それは、騒音を遮り、「わたし」の世界へ退行するために紐解くのではなく、騒音がインチキであることを完膚無きまでに粉砕するがゆえに、滅び亡き価値と対話し、新しい時代を切り拓き行く知性を錬磨するためではなかろうか、と思ったりです。

どうも、反知性主義と感動「病」に飲み込まれ、世間に迎合して松明を掲げ大声をあげる輪に次々を加わる人々が多いこと、そしてそれに「眉をひそめ」ながらも、彼らを対象化するだけで、アカデミズムを気取りながら、私の世界へ退行する御仁が多いゆえ、最後に念のためという話しです。


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覚え書:「ヘンリー・ミラーの八人目の妻 [著]ホキ徳田 [評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。


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ヘンリー・ミラーの八人目の妻 [著]ホキ徳田
[評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)  [掲載]2014年02月16日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 

■軽薄体で語るゴージャスな交流

 ホキ徳田というと、私のような“遅れてきた世代(ただ今50代前半)”には、妙になまめかしいイメージがある。彼女が結婚した文豪ヘンリー・ミラーの『北回帰線』が性的描写の赤裸々さゆえに米国で発売禁止になったこと、当時50歳近い年(とし)の差婚(さこん)であったことなど、スキャンダラスな話題が先行していたからだ。
 そのホキ徳田が80年代から90年代にかけて書いていたエッセイが一冊にまとまった。なぜこのタイミングに?と思ったのは私も同じだが、読み進めばすぐに“エッセイストとしてのホキを評価するには、時を経た今こそ適切なのだ!”と気づくだろう。
 例えば、「とうとうヘンリー・ミラーさんと結婚する羽目にアイナッタ。まどろっこしいディテールはカット。生まれながらの即決主義の因果デアル」とか、「大文豪夫人という、うすらイヤミな肩書きと、なれないポーズを演じていたホキのウップンは一挙に晴れたのでゴザリマス」などなど。その文体の威勢のよさ、権威によりかからない潔い感覚は実に気持ちがいい。
 いわゆる「昭和軽薄体」である。嵐山光三郎や椎名誠が主導していたこのスタイルの見本のひとつが、(編集者など当時の出版人との共同作業があったとしても)ホキ徳田において見事に実現していることに注目し直すべきだろう。
 そしてその軽薄体で語られる内容はゴージャス! 同じく文豪ローレンス・ダレルの気さくさ、シナトラ一家のカジノでの遊び方、ハリウッドの女優たちのパーティでの振るまい、さらに同時代の日本人作家たち(野坂昭如、五木寛之などなど)や女優(太地喜和子、春川ますみなど)との洒落(しゃれ)た交流の数々。
 つまり日本の芸能人が海外と交流していた時代のビビッドな記録が、まったく気負いなくここには描かれている。
 ホキ徳田という女性のしなやかで軽々とした強さに、読む者はシビれるに違いない。
    ◇
 水声社・3360円/ほき・とくだ 37年生まれ。歌手、バー経営。67年にヘンリー・ミラーと結婚、その後離婚。
    --「ヘンリー・ミラーの八人目の妻 [著]ホキ徳田 [評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014021600005.html:title]

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覚え書:「科学VS.キリスト教―世界史の転換 [著]岡崎勝世 [評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。


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科学VS.キリスト教―世界史の転換 [著]岡崎勝世
[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)  [掲載]2014年02月16日   [ジャンル]人文 科学・生物 新書 


■真実追究に命賭けたロマン

 既存の価値観を変える意識革命は一人の天才によってなし遂げられるものではない。本書は17世紀の「科学革命」から「博物学の世紀」(18世紀)に至るまで、多くの天才がいかにして「世界(宇宙を含む)」「人間」「時間」の観念を変革し、キリスト教的普遍史を打破していったか、その格闘の物語である。
 ガリレオも信じていた「閉じた宇宙」(コスモス)をデカルトが崩壊させ、「無限の宇宙」へと変えた。ビュフォンはニュートンの絶対的時間を人類史に持ち込み、「人類史6千年」を否定した。リンネは、長く神と自然の「中間の環(わ)」だった人間を、自然界の一員に「降格」させた。
 18世紀末には、今の科学者からは異界の住民に見えるガッテラーとシュレーツァーが「普遍史」を「世界史」へと変換させた。聖書が与えた時間以上に生きたアダムも「科学革命」に「緩慢なる死」を看取(みと)られたのである。本書は真実追究に命を賭けた科学者のロマンが香り高く漂う。
    ◇
 講談社現代新書・893円
    --「科学VS.キリスト教―世界史の転換 [著]岡崎勝世 [評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014021600012.html:title]

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科学vs.キリスト教 世界史の転換 (講談社現代新書)
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覚え書:「平和を考えるための100冊+α [編]日本平和学会」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。


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平和を考えるための100冊+α [編]日本平和学会
[掲載]2014年02月16日   [ジャンル]人文 社会 

 隣国との関係がこじれ、集団的自衛権や憲法改正の議論が続く今、「過去の経験を共有する」足場をつくろう、というブックガイド。日本平和学会の創立40年を機に、様々な分野の研究者85人が書いた。
 カントやアーレント、ガルトゥングを始め、大岡昇平、大江健三郎、小田実、坂本義和、鶴見良行らの作品を今の視点で読み直した。イリッチ『エネルギーと公正』のように新たな意味が生じた本もある。「政治的リアリズム」による平和を追求したモーゲンソー『国際政治』の篠田英朗評と、文明による災禍の中で「小さな命の鼓動に耳を傾ける」と書く栗原彬のコラム「『3.11』を考える」からは、平和研究の幅が感じられる。
    ◇
 法律文化社・2100円
    --「平和を考えるための100冊+α [編]日本平和学会」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。

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覚え書:「映画『福島 六ヶ所 未来への伝言』の島田監督に聞く 原発社会の『入り口』と『出口』描く」、『聖教新聞』2014年02月18日(水)付。


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映画「福島 六ヶ所 未来への伝言」の島田監督に聞く
原発社会の「入り口」と「出口」描く

事故後、深まる立地地域の葛藤
私たちはいかなる未来を選ぶのか

(写真キャプション)東京で避難生活を続ける田邉さん親子。幸恵さんは第2子に、ふるさとへの思いと我が子の幸せを込めて「福」ちゃんと名付けた (C)島田恵
(写真キャプション)六ヶ所村泊で漁業を営む滝口さん一家。「何の心配もなかったのよ。核燃が来るまでは」--久子さんは静かにそう語る (C)島田恵

ウラン濃縮工場や使用済み核燃料の貯蔵・処理を行う施設が集中する青森県六ヶ所村。--。ドキュメンタリー映画「福島 六ヶ所 未来への伝言」は、六ヶ所村を20年以上にわたって撮り続けてきた写真家・島田恵さんの初監督作品である。福島と六ヶ所村を結ぶ作品にかけた思いを聞いた。

村の歴史を記録に
 〈六ヶ所村を初めて訪れたのは1986年。北国の小さな村で核燃料サイクル施設(以下、核燃施設)をめぐって激しく争われる姿を目の当たりにした島田さんは、その後、村に移り住み、ひとびとの生活、変貌する村の風景を写真に収めてきた〉

 --今回、映画を製作しようと考えられたのはなぜでしょうか。
 20年以上、私が関わってきた六ヶ所村の、その核燃施設をめぐる歴史を記録として残しておきたいという気持ちから映画製作を思い立ちました。2002年には、東京に戻っていたのですが、六ヶ所村のことはいつも頭にありました。使用済み核燃料の反夕や、再処理工場の稼働に向けた試験が始められるなか、自分に何ができるのか、悶々とした日々を過ごしました。
 しかし、このままでは私が見てきた、人々の激しい反対運動も何もなかったかのように葬り去られるのではないか、それに憤りを感じ、多くの人に六ヶ所村の歴史を知ってもらえる映画を製作したいと思ったのです。

 --11年2月に撮影を始められ、翌月には福島原発事故が発生します。当時の思いはどのようなものだったのでしょうか。
 映画製作をスタートした直後のことで大きな衝撃を受けました。その現実に心が折れ、映画どころではない、福島の友人のところへすぐにでも駆けつけるべきではないかとも思いました。
 しかし、自己を機に人々が原発について考えている今だからこそ、映画を完成させることに意味があるのではないか、次第にそう思うようになったのです。また、突きつけられた現実を無視せず、福島もあわせて撮ろうと考えました。
 福島原発事故では、大量の放射性物質が放出され、放射能汚染が広がりました。しかし、原発は自己を起こさなくても日々稼働させるだけで放射性廃棄物を生み出すものです。そして、それらは六ヶ所村に運び込まれてきます。両者をあわせて撮るなか、原発社会の「入り口」と「出口」を描くことができるのではないか、そうした思いも生まれました。

悲しみと新たな希望
 --原発事故からの避難者として、幼い子供を抱える家族を取り上げられています。
 福島に通うなか、原発事故によって多くの方々が深い苦悩を抱えていることを目の当たりにしました。決して比較はできませんが、そのなかでも厳しい現実に立たされているのが子どもたちであり、そうした子どもを抱えるお母さんたちだと思いました。
 原発が事故を起こせば、放射線に対する感受性が強い子どもが最も被害を受けることは、すでにチェルノブイリ原発事故でも証明済みです。
 避難先の東京の助産院で第2子を出産されたお母さん。思い悩んだ末、新潟に自主避難することを決めたお母さん。一人一人につらく深く悲しいドラマがありました。しかし、そのなかでも新しい命の誕生は確かな未来を予感させてくれる希望でもありました。

 --原発事故後、六ヶ所村はどう変わるのか。それを確かめたい思いもあったようですね。
 六ヶ所村には、それこそ事故が起これば福島以上に大きな被害を出す核燃施設があり、人々の不安は高まっていました。しかし同時に、事故を機に原子力政策が転換してしまえば、われわれの生活はどうなるのかという不安も広がっていました。住民の多くが核燃施設やその関係機関に従事してきた村にとって、それは当然の反応だったのかもしれません。
 核燃施設は、それほどに村民の中に深く入り込んでいる--その現実をあらためて知らされました。しかし、核燃施設を受け入れる葛藤は、これまで以上に人々を悩ませています。原発事故以前であっても、核燃施設が絶対に安全だと安心していた人はほとんどいませんでしたが、その危険性にはずっと目をつぶってきました。
 しかし、それが福島の事故で暴かれてしまいました。ひとびとは核燃施設を抱える危険性に真正面から向き合わざるを得なくなったのです。

核燃は全国民の課題

 --著書の『六ヶ所村 核燃基地のある村と人々』では、「核燃は全国民の課題」と述べられています。
 原発とそれにともなう放射性廃棄物の問題は、この時代に生きる私たちが作り出してしまった大きな課題です。それを一地域である、六ヶ所村に背負わせることには無理があります。しかも、そのやり方は、まるで札束で頬を叩くかのようなやり方でした。多額の交付金、公共事業が用意され、人の心や地域が買われていくのを私は何度も目にしました。大金をちらつかせ買収するやり方はフェアではないし、フェアでないこと自体に核燃施設の危険性が表れていると感じています。
 映画を通し、原発は常に核の廃棄物の問題を抱えていることを知っていただきたい。そして、私たちは今、どういう未来を選択しようとしているのか--その岐路に立たされていることを知ってほしいと思います。この時代を生きる私たちの責任はとても大きいはずです。

東京・渋谷で上映中 全国でも順次公開
「福島 六ヶ所村 未来への伝言」は、東京・渋谷のオーディトリウム渋谷で28(金)まで上映中。各地での上映スケジュールは公式サイトを参照

[http://www/rokkashomirai.com/:title]

    --「映画『福島 六ヶ所 未来への伝言』の島田監督に聞く 原発社会の『入り口』と『出口』描く」、『聖教新聞』2014年02月18日(水)付。

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覚え書:「くらしナビ 『介護民俗学』の取り組み」、『毎日新聞』2014年02月20日(木)付。


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くらしナビ
「介護民俗学」の取り組み

(写真キャプション)「すまいるほーむ」のリビングで、メモを手にお年寄りの話を聞く六車さん(右から2人目)。家族だんらんのような雰囲気だった=静岡県沼津市で

 静岡県沼津市のデイサービス「すまいるほーむ」の管理者を務める介護福祉士の六車由実さん(43)は、気鋭の民俗学者。認知症のお年寄りの人生を聞き書きする「介護民俗学」に取り組んでいる。「介護される側」のお年寄りが「教える側」に変わることで、生きる意欲を取り戻す人もいるという。

介護福祉士・六車由実さん提唱
記憶は宝の山
 「ちらしずしには何を入れるの?」
 古い木造平屋建ての民家を改装した「すまいるほーむ」のリビング。利用者の女性7人とテーブルを囲みながら六車さんは尋ねた。
 「のりにシイタケ、ニンジン」「桜エビ」……。記憶の糸を手繰り、孫に教えるように次々に具材を挙げる女性たち。若い頃、魚を開いて加工する店で働いていた女性が「でんぶ。魚から作るだよ」と語り出した。六車さんはにわかに真剣な表情になり、エプロンのポケットからメモ帳を取り出した。
 大学で民俗学を教えていた六車さんは、学問の世界で求められるものと自らが求めるもののギャップに苦しみ、2008年に退職。故郷の沼津に戻り、ハローワークでたまたま見つけたホームヘルパーの講習を受け、特別養護老人ホームの介護職員となった。
 働き始めて間もなく、入所者の90代の男性が排せつに失敗し、下着を汚してしまった。紙パンツを用意する家族の姿に、男性は絶望を深めた。「この世は生き地獄だ」。その言葉に衝撃を受けた六車さんは「そんなことないよ」と励ましたが、自分の言葉がひどく軽薄に思えた。六車さんは、「生き地獄」とまで語った男性の絶望感をどう受け止めるべきか悩んだ。
 そんなある日、男性はふと、長年営んでいた農業の話を始めた。「馬喰(ばくろう」の話を生き生きと語る男性の姿に、六車さんは驚いた。
 「お年寄りの記憶は、民俗学者にとって宝の山だ」
 六車さんは、メモを取りながら男性の話を聞き始めた。
 「そうなんですか。知らなかった!」。夢中で聞いていると、絶望していた男性の目が、やがてキラキラと輝き始めた。

お年寄りが先生に
 介護現場では、介護職員とお年寄りは「介護する側」「される側」に分かれ、関係性を変えるのは難しい。だが「聞き書きをしている間は、『する側』『される側』の関係性が『教えられる人』と『教える人』に逆転した」と六車さんは語る。
 「いずれ認知症になることを恐れ、生きる意味を失うお年寄りは少なくない。でも、そんなお年寄りの人生を豊かにすることに、民俗学の手法が役立つのではないか、と考えるようになりました」
 六車さんによると、介護現場では以前からお年寄りの話に耳を傾ける「傾聴」が重視されていた。心を安定させ、脳機能を維持するのが目的だ。一方、介護民俗学では話の内容自体を重視し、聞いた話を家族や地域に継承することを目指す。
 六車さんは数回に分けて男性の話を聞き、「思い出の記」という冊子にまとめた。男性は数年前に亡くなったが、葬儀で改めて「思い出の記」を読んだ家族から「おじいちゃんの人生はすごかったんだと気付いた」という感想が届いた。
 「おじいちゃんは本当は、私ではなく家族に聞いて欲しかったのでは。話を聞くことで許し合えることがある。『思い出の記』がそのきっかけになれたらうれしい」

「加齢怖くない」
 話を聞きながら、六車さんがいつも心打たれるのは「死ぬまで生きることのすごさ」。「戦争を体験し、その後も壮絶な苦労や別れを経験し、でも生きている。死を間近に感じながら、笑い飛ばしながら体験を話すたくましさに励まされます」
 すまいるほーむでは今、六車さん以外のスタッフも積極的に利用者の話を聞いている。「話を聞いてくれる人がいると思えたら、年を取るのが怖くなくなった」。スタッフの一人が発した言葉に、六車さんは希望の光を見たという。
 「自分が年を取った時、話を聞いてくれるスタッフを育てたい」【山寺香、写真も】
むぐるま・ゆみ 大阪大大学院で民俗学を学び、2004年から東北芸術工科大助教授。09年に静岡県の特別養護老人ホームの介護職員となり、12年から現職。03年「神、人を喰う--人身御供の民俗学」(新曜社)でサントリー学芸賞。13年「驚きの介護民俗学」(医学書院)で日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞。
    --「くらしナビ 『介護民俗学』の取り組み」、『毎日新聞』2014年02月20日(木)付。

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覚え書:「フェアな未来へ―誰もが予想しながら誰も自分に責任があるとは考えない問題に私たちはどう向きあっていくべきか [編]W・ザックス、T・ザンタリウス [評者]水無田気流(詩人・社会学者)」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。


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フェアな未来へ―誰もが予想しながら誰も自分に責任があるとは考えない問題に私たちはどう向きあっていくべきか [編]W・ザックス、T・ザンタリウス
[評者]水無田気流(詩人・社会学者)  [掲載]2014年02月16日   [ジャンル]社会 国際 

■「予防的公正」は処方箋となるか

 「公正(フェア)」とは何か。これは倫理的な問いに留(とど)まらず、私たち自身の利益に直接影響を与える問題だと本書は述べる。たしかに私たちは、世界規模での不公正には関心が向かいづらい。目前の欠乏や不利益である予算不足や失業率にはすぐに影響されるが、気候変動や貧困、さらには国際的な資源競争などについては、自分たちの手に負えない話のように考えてしまう。だが、この見解そのものを改めるべき時期が来たようだ。
 今の世界では、資源争いは局地的な問題にとどまらない。たとえば近年の中東の歴史は国際世界の石油問題と密接な関わりを持つ。巨大な人口規模を誇る中国やインドが海外資源を大食いしていくことも、世界に影響を与えずにおかない。これらは単なる資源不足の問題でも、安全保障の未整備でもなく、最終的には、公正(フェア)か不公正(アンフェア)かの問題に行き着くという。
 印象に残ったのは「予防的公正」という概念である。人類史を紐解(ひもと)けば、古代ギリシャの時代から、成功した社会の維持に不可欠なものは「公正の原則」である。今日公正さは、グローバル化により一国内のみならず世界規模で考えねばならない課題となった。これまでグローバル化の推進者たちは、自らの利権の追求にばかり野心を燃やし、公正さを念頭に置いて来なかった。この結果出来上がった不公正な世界では、新たな紛争の火種やテロの脅威が蔓延(まんえん)し、社会の成立基盤までもが脅かされる事態となった。だがテロ撲滅の旗印と紛争地域への軍事介入は、結局のところ「予防的戦争」を招くものでしかない。これに代わり、公正と環境への配慮から成る介入によって、テロも紛争も平和的に予防すべきだと本書は述べる。公正はもはや慈善事業の問題ではなく現実的な政策理念なのだ、と。
 公正さの見直しは、「豊かさ」そのものの見直しへと結びつく。いわゆる「幸福のパラドックス」、つまり経済成長が一定水準を超えると個人の幸福感はむしろ低減するという皮肉な事実が示唆するように、もはや時代遅れになった豊かさモデルが、亡霊のように世界にうごめいているのを実感した。公正さを無視し、旧来の豊かさモデルを刷新することなく放置すれば、世界はやがて一部の国に資源が集中した「グローバルアパルトヘイト」となるだろう。これを防ぐためには、すべての人々を包摂し、かつ居住可能な環境を保持する「グローバル民主主義」を目指すべきだ--本書では、エコロジカルで公正な社会を作り上げることの意義が、繰り返し真摯(しんし)に説かれていく。この意見を理想主義的と一笑に付すか、現実を変える処方箋(せん)と見るか。判断は読者諸氏にお任せしたい。
    ◇
 川村久美子訳・解題、新評論・3990円/Wolfgang Sachs ドイツの環境シンクタンク「ヴッパータール気候・環境・エネルギー研究所」のベルリンオフィス所長。Tilman Santarius フリーのサイエンスライター。NGO「グリーンウオッチ」理事。
    --「フェアな未来へ―誰もが予想しながら誰も自分に責任があるとは考えない問題に私たちはどう向きあっていくべきか [編]W・ザックス、T・ザンタリウス [評者]水無田気流(詩人・社会学者)」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。

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覚え書:「天皇と葬儀―日本人の死生観 [著]井上亮 [評者]荒俣宏(作家)」『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。


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天皇と葬儀―日本人の死生観 [著]井上亮
[評者]荒俣宏(作家)  [掲載]2014年02月16日   [ジャンル]歴史 

■古代から「極力質素に」望む

 天皇・皇后両陛下の意向により従来の天皇葬儀を見直し、土葬を火葬に改めるという報道が、昨年流れた。「国民生活に影響を与えぬため」という理由を含めて大改革と受け取れそうだが、じつは古代から天皇は自身の葬儀に関し、極力質素に行うよう遺言を残していた。中には山に散骨することを望んだ天皇までいたのである。
 古代の天皇は葬儀万端を宮中の専門職に仕切らせ、各自の考えにより土葬か火葬かを決した。それも神道VS.仏教という宗教理念が基本になったのは天武朝あたりからで、古くは大陸文化への憧れなどスタイル問題だった場合も多いらしい。さらに長い殯(もがり)の期間には、天皇位をめぐって壬申の乱のような後継者争いが生じ、内乱になることもあった。本書はそうした「忘れられた天皇葬儀」の歴史を分かりやすく一望させるだけでなく、この視点から日本史を読み解く試みも加えており、読んで退屈させない。
 たとえば北朝四代の後光厳天皇からは、泉涌寺が「皇室専用葬儀社」となり、天皇の葬儀を寺の専業とする。
 その裏事情を知って仰天した。このとき北朝は、譲位するべき光厳上皇の身柄も三種の神器も南朝側に押さえられており、践祚(せんそ)の儀式が行えない。窮余の策として、後光厳には上皇の生母から譲位するという前代未聞の方式がとられた。後光厳は37歳で病死するが、これでは葬儀を寺に丸投げするしかなかったろう。
 歴代天皇の「死因」も興味深い。本書では、臣下に殺された天皇、呪い殺された天皇、自殺した天皇などの例が語られるが、できればもっと詳細に読みたかったのが「感染症」の解説である。
 とりわけ飛沫(ひまつ)・接触感染の「王者」といえる天然痘は古代から多くの天皇の命を奪っており、南北朝争いでひどい目に遭った、じつに気の毒な後光厳もこの病気で亡くなっている。
    ◇
 新潮選書・1680円/いのうえ・まこと 日本経済新聞社編集委員。『非常時とジャーナリズム』『焦土からの再生』
    --「天皇と葬儀―日本人の死生観 [著]井上亮 [評者]荒俣宏(作家)」『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。

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覚え書:「日本インテリアデザイン史 [著]鈴木紀慶・今村創平 [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。


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日本インテリアデザイン史 [著]鈴木紀慶・今村創平
[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)  [掲載]2014年02月16日   [ジャンル]アート・ファッション・芸能 


■闘争から離れ、浮遊する美しさ

 現在日本のインテリアデザインは、その質とユニークさにおいて、世界でもトップのレベルにある。しかし、今まで、その包括的な歴史をカバーする書物がなかった。その意味で本書は画期的であり、その意義は大きい。
 しかし、読み終えて、なぜ、今までインテリアデザインの歴史が書かれなかったかも、納得した。一言でいえば、日本のインテリアデザイン自体が「歴史」というものが伴うはずの葛藤、その結果としての、ダイナミズムを欠いているのである。すなわち、日本のインテリアデザインはポスト「歴史」、ポストヘーゲル的な真空状態を漂っているのである。世界史を見渡してみれば、インテリアデザインとは、本来闘争の場だった。階級や貧富の差異、都市と地方との格差、様々な対立、ギャップが、インテリアという立場を通じてせめぎあっていたのである。
 そのような緊張が、日本でも70年代の一瞬にだけあったことが本書からも伺える。その時、「商業空間だってインテリアというアートになりえる。」という発見、いや革命があった。68年に端を発する革命の時代が、日本のデザインの最も輝いた時代であった。倉俣史朗、内田繁、杉本貴志たちの世代がこの革命の主役であった。革命を突き抜けた後も、デザインの質が落ちたわけではない。世界をリードする、繊細で抽象的空間を日本は発信し続けた。しかしそこには、「敵」というものの姿がどこにも見えない。無重力空間を一人浮遊しているような美しさなのである。
 どこかで似たものを見た気がした。上質な数奇屋である。美しく、繊細で、日本人以外には到達しようのない境地。しかし、そこには敵が見えない。「それがなんなの?」という種類の孤立した洗練が、ただただ継続するのである。それが日本という閉じた場所の宿命なのだろうか。それともポストヘーゲル的な時代の産物なのだろうか。
    ◇
 オーム社・3465円/すずき・のりよし 56年生まれ、編集者。 いまむら・そうへい、66年生まれ、建築家。
    --「日本インテリアデザイン史 [著]鈴木紀慶・今村創平 [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年02月16日(日)付。

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覚え書:「みんなの広場 消費増税、国民を納得させよ」、『毎日新聞』2014年02月19日(水)付。


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みんなの広場
消費増税、国民を納得させよ
中学生・14(東京都杉並区)

 決まっていることとはいえ、4月から始まる消費税増税に反対です。なぜなら、今よりも物の値段が上がることで、貧しい人や貯金などで暮らすお年寄りの負担が増すからです。ただし、その税金を有効に使うのであれば賛成です。

 スウェーデンは、消費税25%という高税率ですが、教育費や医療費がほぼ無料なので、老後の心配が少ないのです。さらに全ての物に25%ではなく、食料品など生活に必要なものの税率を低くして、貧しい人の負担が少なくなるように工夫もされています。

 このように、きちんと税金をかけ、国民のために使ってほしいと思います。しかし、日本は今のところ具体的な使い方が示されていないのです。4月に8%、さらに今後も10%に引き上げる予定だといいます。

 上げる理由や具体的に何に使うかを説明して、国民を納得させた上で、税金を上げてほしいです。
    --「みんなの広場 消費増税、国民を納得させよ」、『毎日新聞』2014年02月19日(水)付。

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書評:東京新聞社会部編『憲法と、生きる』岩波書店、2013年。


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東京新聞社会部編『憲法と、生きる』岩波書店、読了。東京新聞で半年に渡って連載された特集「憲法と、」の待望の単行本化。正反のイデオロギー論争の本ではない。「憲法とともに戦後を生きてきた人々の営みの記録」。  焦臭い今こそ手に取りたい一冊だ

トータルに人間の安全保障を骨抜きにする自民党憲法改正案に驚愕するのは私一人ではない。憲法と聞けば九条を思い浮かべるが、誠実な取材から「憲法と、生きる」人々の息吹を伝える本書は、国防だけでなくいかに「あたりまえの生活」を現憲法が保障していたか理解できる。

憲法とは国家権力を制限する基本法である。秘密保護法、国家安保戦略、新防衛大綱、靖国参拝等々……。立憲主義を否定する安倍首相は本気であろう。その知見を嗤うことは簡単だ。しかし安倍首相と同じくらい私たちも憲法に対して曖昧ではなかったか。

権力と妥協しない生き方、人間として最低限の生存を保障されるための戦い、本書で示される人間像は、9条だけでなく基本的人権や健康で文化的に生きていく権利を空気の如く保障してきた現行憲法のアクチュアリティを浮かび上がらせる。

「日本を取り戻す」ことよりの必要なことは何か。私たちの生活の中に「憲法を取り戻す」ことであろう。「本書に登場するような人々の行動によって、私たちの民主主義は磨かれている」。さあ、次に磨くのは私たちの番である。現代社会を理解する上で必携のドキュメント

[http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0227970/top.html:title]


なお、本日2月22日の報道より↓

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 自民党の野田聖子総務会長は21日の記者会見で、安倍晋三首相が表明した集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を巡り、総務会メンバーの懇談会を近く開いて協議する考えを示した。この日の党総務会で、ベテラン議員から「党内議論が置き去りだ」と批判が続出したためだ。首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が4月にも報告書を提出するのを控え、憲法解釈の変更に前のめりな首相と、慎重姿勢の公明党を含む与党との綱引きが始まっている。【小山由宇、高橋恵子】

 「党内議論も経ずに閣議決定していいのか。なぜ首相はそんなに急ぐのか」。この日の総務会では、まず村上誠一郎元行政改革担当相が執行部にかみついた。石破茂幹事長と高市早苗政調会長は、野党時代に作った2012年衆院選公約にも集団的自衛権の行使容認が含まれている、と理解を求めたが、野田毅税調会長も「(歴代政権の憲法解釈を巡る)先輩たちの積み重ねをないがしろにしてはいけない。重い問題だ」と指摘。野田総務会長は「懇談会を開く」と場を収めた。

 首相は衆院予算委員会で憲法解釈変更について「最高責任者は私だ」などと強調。党側の慎重論の背景には、首相の姿勢が与党を軽視しているとのいらだちや、拙速な解釈変更への懸念がある。解釈変更が先行すれば党是の憲法改正が遠のきかねないという事情もある。石破氏は会見で「政府と与党の一致はきちんと図らなければならない」と述べ、脇雅史参院幹事長も「閣議決定だけ先行しても、あまり意味がない」と語った。

 一方、公明党の井上義久幹事長は21日の会見で「国民的な合意が必要で、十分慎重に議論すべきだ」と述べ、集団的自衛権の行使容認に慎重な姿勢を改めて強調した。

安保懇・北岡氏が報告書骨子を公表
 阿部晋三首相が設置した安全保障に関する有識者懇談会の座長を務める北岡真一国際大学長は21日、東京都内の日本記者クラブで講演し、集団的自衛権の行使容認に関し、朝鮮半島有事に対応するため、あらかじめ周辺事態法の改正を想定していると明らかにした。4月に政府へ提出する報告書の骨子を公表し、現行の憲法解釈で禁じられている集団的自衛権行使を容認すべきだと明記した上で、行使は「日本と密接な関係にある国が攻撃を受けた場合」などに限定する方針を示した。
 報告書骨子では、実際の行使に際し、同盟国や友好国など連携相手から明示的な要請があった場合に限定する必要があると指摘。韓国などを念頭に、自衛権行使に当たって第三国の領域を通過する場合には許可を得ることを条件に挙げた。地理的な制約は設けないと強調する一方、「地球の裏側で日本の安全保障に深く関わる事態は実際にはない」との認識を示した。
    --「集団的自衛権 懇談会で議論へ」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140222ddm005010115000c.html:title]


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覚え書:「書評:むしろ素人の方がよい 佐瀬 昌盛 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。


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むしろ素人の方がよい 佐瀬 昌盛 著

2014年2月16日


◆防衛トップ人間力は
[評者] 平川祐弘=東京大名誉教授
 戦後八十人出た防衛省(庁)のトップには「言語に絶する惨状を呈した」大臣もいたという。民主党の一川保夫、田中直紀の両相は仕事が何かわからなかった。野田首相が三人目に元制服組の森本敏を起用するや世間はその人事にほっとした。となると今後は「玄人」待望論になる。
 だが元防衛大学校教授の著者は意外にも「むしろ素人の方がよい」として、坂田道太防衛庁長官(在任一九七四~六年)の歴代最長七百四十七日の仕事ぶりを描いた。自民党文教族議員の坂田だが、防衛庁トップとしてよく勉強し、国際情勢を見据え、自衛隊が小さくても大きな役割を果たすよう防衛政策を転換する。米国防長官とは親身に交際する。
 坂田は教育者としても自衛官に影響を与えた。国民と自衛隊の親和関係の増進を考え、「町で自衛官をみかけたら、気軽に話しかけてみてください」と長官自ら広告を書き、新聞投書欄での批判には「お答えします。自衛権のための力は合憲です」と新聞に投書した。
 著者は先の『新版 集団的自衛権』では、法制局がいかに「国際法上保有・憲法上行使不可」という奇態な結論を出したかについて経緯を調べあげた。だがそんな不毛な神学論争と違い、敬愛の念をこめて書かれたこの評伝には、人間坂田が生きている。今後の日本の防衛大臣の必読書となるだろう。
 (新潮選書・1260円)
 させ・まさもり 1934年生まれ。防衛大学校名誉教授。著書『NATO』など。
◆もう1冊 
 ジョン・W・ダワーほか著『転換期の日本へ』(明田川融ほか訳・NHK出版新書)。難問山積の日本の針路を提示。
    --「書評:むしろ素人の方がよい 佐瀬 昌盛 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014021602000159.html:title]

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覚え書:「書評:演劇の力 蜷川 幸雄 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。


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演劇の力 蜷川 幸雄 著

2014年2月16日

◆鬼才の青春期明かす
[評者]長谷部浩=演劇評論家
 この一月、作家古川日出男の飛躍と奇想にあふれた『冬眠する熊に添い寝してごらん』を蜷川幸雄が演出した。時空をまたぎ、自然の力を掘り起こす戯曲を大胆に視覚化する演出は衰えを見せない。
 これまでの蜷川の聞き書きは、演出論に傾いていた。それに対して本書は、三十二歳で演出家としてデビューする以前、しかも出自や思春期の伝記的な事実を明らかにする。この特異な才能を支える過剰なまでの自意識が、どのように育ったのかを描き出して興味深い。
 戦後間もない小学生の頃、近所の防空壕(ぼうくうごう)跡で、花模様の着物を着て、首に縄をくくりつけた死体を発見した。こうした衝撃的な事実も粉飾なく淡々と語っている。また、三十代で脳溢血(のういっけつ)で倒れた三番目の兄洋一は「酒飲みで遊んでばかりだが、仲間にいつも囲まれていた」と評し、「人生で楽しいことの分量ははじめから決まっているのだろう。いい人ほど早く使い果たしてしまう」と諦念を示す。感傷に満ちた回顧ではなく、自身をメスで切り裂くような強靱(きょうじん)さが、蜷川の身上である。青春期以降の挿話も充実している。聞き手は内田洋一。
 巻末には一九九七年から二○一三年まで公演パンフレットに収められた言葉を集成している。その束を読むと、稽古場の高揚感とともに、ひりつくような焦燥感までもが伝わってきた。
(日本経済新聞出版社 ・ 2310円)
 にながわ・ゆきお 1935年生まれ。演出家。著書『千のナイフ、千の目』など。
◆もう1冊 
 高橋豊著『蜷川幸雄伝説』(河出書房新社)。蜷川の半生を追いながら、観客を魅了する演出術の秘密を探る。
    --「書評:演劇の力 蜷川 幸雄 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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私の履歴書 演劇の力 蜷川 幸雄
蜷川 幸雄
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覚え書:「Listening:<そこが聞きたい>秘密保護法基準案の検討 清水勉氏」、『毎日新聞』2014年02月19日(水)付。


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Listening:<そこが聞きたい>秘密保護法基準案の検討 清水勉氏
2014年02月19日

(写真キャプション)インタビューに答える清水勉さん=東京都新宿区で宮間俊樹撮影


 ◇経過の公開、非常に重要--弁護士・情報保全諮問会議メンバー、清水勉氏

 今年中に施行される特定秘密保護法=1=に基づき設置された有識者会議が、秘密指定や解除の基準案を検討している。7人のメンバーのうち、1人だけ法律に反対の立場を明確にしている清水勉弁護士(60)に課題を聞いた。【聞き手・青島顕、写真・宮間俊樹】

--この法律の解説書を書いているそうですが、改めて問題点は。

 官僚支配の露骨な法律です。条文を読んでも中身がスカスカ過ぎて分からないことが多すぎます。普通は国会で決める法律に木の幹の部分を書き、枝葉は役所の判断で作る政令で定めます。でもこの法律は幹の部分も政令で決まる。このままでは適正な運用はできません。

--法律に反対されていますが、運用基準を審議するために設置された有識者らで作る諮問会議「情報保全諮問会議」=2=のメンバーに選ばれました。

 昨年夏に法案の概要ができたころ、日本弁護士連合会の対策本部事務局長として与党の国会議員を回りました。話を聞いてもらい部分的な法案修正につながったのですが、その時に話し合った自民党と公明党の議員から要請され、両党の推薦でメンバーになりました。

--諮問会議は「会議として」首相に意見を述べることになっています。反対派が1人では、多数派に取り込まれるだけではあり

ませんか。

 そうはならないでしょう。秘密保護法18条には「首相は(秘密指定などの)基準を定めるときは、識見を有する者の意見を聴いたうえで案を作成する」とあります。「識見を有する者」という個人の立場で意見を言えるから参加しました。問題意識や専門性の高い人が、情報の適正管理という観点から公的な場で言った意見を踏まえ、法律が運用されていくのが正しい筋道だと思います。

--メンバー構成をどうみますか。

 賛成、反対はともかく、官僚と対等に話せる専門家集団にすべきでした。例えば森本敏・前防衛相や元外交官の孫崎享(うける)さんのように、秘密を扱った経験があったり、秘密を扱っている人に問い合わせたりできる立場の人を入れてほしかった。情報保護、情報公開、公文書管理、報道、法律の分野の専門家で構成することになっていましたが、7人全員が必ずしも専門家ではありませんし、男性4人、女性3人という構成も、性別のバランスを考えただけという感じがします。

--先月17日の初回はメンバーが所信を述べただけでした。会議は3回程度とされています。基準の素案作りは2回目からですか。

 この7人で何か具体的な議論をして決めるとは思いません。自分の分かっていること、見えていることに問題意識を持って発言することが一人一人に求められています。

--会議の役割は。

 基準を作って秘密指定の対象を絞り込むことや、秘密を扱う人を選ぶための「適性評価」の項目作り、それから適性評価の個人情報の管理方法です。適性評価は秘密を扱う民間企業の従業員も対象になりますが、評価をするのは国なので、企業が知らない従業員の情報を国が知っているということも起こりうる。法施行後も毎年、首相から報告を受けてメンバー個人の意見を付けます。

--内部告発者保護の仕組み作りも重要な役割ですね。

 情報管理を厳格にするなら、情報公開や内部通報制度を充実させなければなりません。要件を満たさない違法な秘密指定がされる可能性がありますが、情報公開請求をしても非開示になって明るみに出ない。内部告発しかないわけです。しかし、今の制度では告発者を守るには不十分です。本来、秘密保護法を作るより先に整えておくべきものでした。内部告発があったことが相手組織に分からないような仕組みが必要です。

--メンバーは秘密そのものを見ることができません。秘密を握っている官僚主導で基準の素案が作られる懸念や限界は感じませんか。

 そうですね。当然、注意は必要です。しかし、官僚に資料や素案を出してもらう必要もあります。私たちは民主党政権時代の2011年に法制化を検討するために開かれた有識者会議を「官僚主導だ」と批判しました。今回は、その時のようになってはいけない。現在の法律では外部の者が秘密を見るのは無理ですが、できるだけ機微に触れる情報も見せてもらったり、説明してもらったりすることは必要です。

--反対派である自身の役割は。

 賛成、反対ではなく、経過をなるべく公表公開する必要があると思っています。議事録には発言者の氏名を入れることになりました。意味のある発言を公的な場で記録することが重要です。後からでも意見が生きればよいと思います。基準案作りに向け、資料をなるべく多く見せてもらい、考え抜いて意見をまとめたいと思っています。

 ◇聞いて一言

 昨年12月の参議院委員会の強行採決前日、安倍晋三首相が唐突に口にした「諮問会議」。批判をかわすための付け焼き刃的存在だ。「識見を有する者」の会議なのに「自分は専門家ではない」とあいさつしたメンバーもいる。法施行時に「外部の意見を聞いた」というアリバイに使われはしないかという疑念がぬぐえない。清水弁護士の参加には日弁連内部にも異論があったと聞く。秘密指定の乱用を少しでも防ぐため、権力に利用されず、市民の代表としての役割を果たしてもらいたい。

………………………………………………………………………………………………………

 ■ことば

 ◇1 特定秘密保護法

 (1)防衛(2)外交(3)スパイ活動などの防止(4)テロ防止の4分野で、国の重要な情報を漏らした人に最高懲役10年の厳罰を科す内容。秘密の範囲を行政が都合よく決める余地がある▽指定期間が一部は60年まで延長可能▽秘密を扱う人は民間人も含めて身辺調査(適性評価)を受ける--などの問題点が指摘されている。

 ◇2 情報保全諮問会議

 特定秘密の指定に歯止めを設けるための基準作りにあたる首相の私的諮問機関。夏までに素案を作って首相に答申する。メンバーは座長の渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長兼主筆▽永野秀雄・法政大教授▽宇賀克也・東京大大学院教授▽塩入みほも・駒沢大准教授▽住田裕子弁護士▽ディー・エヌ・エー創業者の南場智子氏▽清水勉弁護士。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇しみず・つとむ

 埼玉県生まれ。薬害エイズ訴訟で被害者側代理人。情報公開とプライバシー保護に取り組む。日本弁護士連合会の情報問題対策委員会委員。
    --「Listening:<そこが聞きたい>秘密保護法基準案の検討 清水勉氏」、『毎日新聞』2014年02月19日(水)付。

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[http://mainichi.jp/journalism/listening/news/20140219org00m010003000c.html:title]

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覚え書:「日雇いの街・釜ケ崎、人々の緊張感写す 国立で写真展、来月16日まで /東京都」、『朝日新聞』2014年02月22日(土)付。

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日雇いの街・釜ケ崎、人々の緊張感写す 国立で写真展、来月16日まで /東京都

日雇い労働者の街・釜ケ崎(大阪府西成区)の人々をとらえた写真展「釜ケ崎劇場」が、国立市西2丁目の居酒屋「キノ・キュッヘ(木乃久兵衛)」で3月16日まで開かれている。
 撮影したのは、島根県浜田市在住の写真家、川上譲治さん(63)。2011年2月から昨年8月まで釜ケ崎の簡易宿泊所(いわゆる「ドヤ」)で生活しながら、シャッターを切り続けた。
 川上さんは1970年代から約30年間、東京や関東近県のストリップ劇場をプロデュースする興行師だった。「釜ケ崎という街の非日常的で非合法なところが昔のストリップ劇場と似ている。そこに逃げ場を求めてきた人たちの緊張感漂う姿を見てほしい」と話す。
 昨年8月に大腸がん手術を受けた。療養中のため、本人は会場入りできないという。
 キノ・キュッヘ店主の佐々木健さん(57)もまた山谷(台東区、荒川区)で長く労働者支援活動に携わってきた。「川上さんにこの場で話してもらいたかったが、今回は私ができる限り説明します」という。
 午後6時~11時。イベントのない日曜・月曜は定休日。23日午後5時から舞台役者、一色涼太さんのトークライブ「伝説のストリッパー、一条さゆりを語る」がある。問い合わせはキノ・キュッヘ(042・577・5971)。(鬼頭恒成)
    --「日雇いの街・釜ケ崎、人々の緊張感写す 国立で写真展、来月16日まで /東京都」、『朝日新聞』2014年02月22日(土)付。

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覚え書:「記者の目:『憲法をよむ』を連載して 自民改正草案の危うさ=遠藤孝康(大阪社会部)」、『毎日新聞』2014年02月18日(火)付。


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記者の目:「憲法をよむ」を連載して 自民改正草案の危うさ=遠藤孝康(大阪社会部)
毎日新聞 2014年02月18日 東京朝刊

(写真キャプション)1946年11月3日、皇居前広場で開かれた日本国憲法公布記念の祝賀会。昭和天皇と香淳皇后が出席した


 本紙朝刊で連載中の企画「憲法をよむ」を担当している。中学生の憲太君の質問に「先生」が答える形で、現行憲法と2012年に自民党が発表した憲法改正草案の内容を条文ごとに解説する。18日で46回を数えるが、各条文の意義や背景を知ると、私たちが今手にしている自由や権利が、昔から当たり前にあったものではないことに気付く。

 連載は昨年の憲法改正論議の高まりを受けて始めた。安倍晋三首相は12年末の就任後、憲法改正の手続きを定める第96条の先行改正に繰り返し意欲を示した。改正の賛否を問う国民投票を行うための「憲法改正の発議」に、衆参両院の3分の2以上の賛成を必要とした条件を緩めるという主張で、昨年5月の憲法記念日を前に賛否が交錯した。

 昨夏の参院選は、改憲勢力が3分の2以上を占めるかが一つの焦点だった。その鍵となった日本維新の会は当時の綱領で「日本を孤立と軽蔑の対象に貶(おとし)め、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法」とした。今の憲法はそれほどまでにこき下ろされる内容なのか、各条文を通じて改めて考えたいと思った。

 ◇現行条文伝える戦争の強い反省

 記者になって12年目、恥ずかしながら第9条以外の条文とまともに向き合う機会はなかった。憲法の教科書を手に何人もの学者や弁護士らを訪ね、条文の背景や自民党草案への意見を聞いた。そうして憲法を学ぶ中で感じたことがあった。日本が敗戦に至る過程で、国家が国民の自由や権利を奪い、犠牲を強いたことへの反省が各条文に強く込められているということだ。

 特に基本的人権の尊重を定めた第3章で顕著だった。この章は全体の3分の1にあたる31の条文を使い、個別の権利や自由を一つ一つ丁寧に規定する。思想・良心の自由、信教の自由、言論・表現の自由……。第31条からは他国には例がないほど詳細に身柄を拘束する際の手続きなどを定め、身体の自由を保障している。

 戦前や戦中、言論は厳しく統制された。特定の主義や思想を理由に、手続きさえ踏まない不当な逮捕が相次ぎ、拷問死する人もいた。そうして構築された国家総動員体制の下、日本は戦争へと突き進んだ。だから第11条はこう宣言する。「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」

 ◇個人の自由・権利、簡単に制約懸念

 自民党改正草案はこの第3章に手を入れた。「すべて国民は、個人として尊重される」とした第13条。別々の個性を持った一人一人が大切にされるという憲法の根本理念を示した条文だが、自民党案は「個」を削除した。第36条の拷問の禁止では「絶対に」という言葉を消した。言論・表現の自由を定めた第21条では2項を新設して「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」は認められないと、制約を明記した。

 昨年12月にインタビューした自民党の憲法改正推進本部長の船田元・衆院議員(当時は本部長代行)は、個人の権利が過度に制約されるという懸念に対し、「改正が原因で権利が過度に制約されるという事例が出てくれば、是正措置を取らざるを得ない。またもう一回憲法を直すという柔軟性は持つべきだ。ただ、今そこまで考えるのは早い」と答えた。私は、個人の自由や権利が戦前や戦中のように、権力によって簡単に制約されてしまう事態を恐れるが、そうした懸念は船田氏に伝わっていないように感じた。

 読者から届く手紙には、不安がつづられる。「戦中、『日本が負けるかも』と言ったら逮捕され、投獄されたのを目の当たりにしてきた。嘘(うそ)の教育、報道に信じ込まされる苦い体験の時代がまた来る」(兵庫県の82歳女性)。「自民党案を読んで、まず思ったのは日本国民が半世紀あまりをかけて育ててきた民主主義が壊されようとしているという恐怖心でした」(滋賀県の女性)

 昨年12月、神戸市であった自民党衆院議員と護憲派弁護士による討論集会に足を運んだ。憲法のあり方や自民党草案に対する両者の発言に、約200人の参加者からは拍手が湧き、会場は盛り上がった。自民党は今年、草案への理解を広げるため、全国で対話集会を開く。一方的に草案を宣伝するのではなく、護憲派も交え、市民の前で改正の是非を真正面から討論する場にしてほしい。そうした討論を通じ、戦後70年を前に、日本のあるべき姿を国民に考えてもらい、選んでもらう。それが、国民の厳粛な信託を受け、国政を担う者の責務だと思う。
    --「記者の目:『憲法をよむ』を連載して 自民改正草案の危うさ=遠藤孝康(大阪社会部)」、『毎日新聞』2014年02月18日(火)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140218ddm005070009000c.html:title]

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覚え書:「書評:渡良瀬 佐伯 一麦 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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渡良瀬 佐伯 一麦 著  

2014年2月16日


◆生活の起伏を辿る楽しみ
[評者]勝又浩=文芸評論家
 ほぼ二日間、この頃では珍しい、豊饒(ほうじょう)な読書の時間を持つことができた。三百八十ページに近い大冊だが、小説は終始乱れのないテンポを保っていて、本に向かいさえすれば日常のざわざわとした時間はすっと消えて、まっすぐに小説の世界に引き込まれるようだった。それは、たとえれば久しぶりに会った親しい友から、かねて気になっていた彼のその後、仕事や家庭の様子を聞くような体験にも似ている。
 心配したり安心したり、悲しんだり喜んだり、彼、主人公の、新しい職場での仕事や人間関係、慣れない土地での妻や子供たちの健康や生活ぶり等々、その日々の細やかな起伏をともに辿(たど)ってゆく興味であり、楽しみである。ここには紛れもなく人間がいて、その生活があるのだ。
 主人公は二十八歳の電気工、妻と小学一年生になる長女を頭に三人の子供がいる。長女はほとんど口を利かない緘黙症(かんもくしょう)、二歳になる長男は川崎病だ。子供たちのために環境を変えようと、夫婦は茨城県の古河市に転居する。当然通勤もできないから、市の外れにある工業団地の配電盤制作会社に転職する。通ずる仕事ではあるのに経歴にはならず、新前扱いである。
 主人公の、こうした不安に満ちた新しい生活から小説は始まっているが、それは昭和六十三年の夏から翌年の春にかけての約一年のことである。テレビからは絶えず天皇重篤の病状報告が流れている。そんな時代だ。
 現代建築や近代設備の心臓部を担う配電盤だが、その制作はウソのように職人仕事だ。それを一つ一つ細やかに観察し、的確に読み取ってゆく主人公の姿勢も、彼の言う、よくできた配電盤のように美しい。
 この小説のもう一つの特色に、今は生活のために中断しているが、主人公が駆け出しの作家でもあるという設定がある。つまり私小説なのだが、主人公への信頼がそのまま作者自身に重なってゆく、現代では貴重な一篇である。
(岩波書店・2310円)
 さえき・かずみ 1959年生まれ。作家。著書『鉄塔家族』『ノルゲ』など。
◆もう1冊 
 佐伯一麦著『ショート・サーキット』(講談社文芸文庫)。デビュー作「木を接ぐ」など電気工時代の体験をもとにした初期作品集。
    --「書評:渡良瀬 佐伯 一麦 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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覚え書:「書評:遊動論 柳田国男と山人 柄谷 行人 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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遊動論 柳田国男と山人 柄谷 行人 著

2014年2月16日


◆山人に見いだす「社会主義」
[評者]安藤礼二=多摩美術大准教授
 民俗学という学問を独力で創り上げてしまった柳田国男について、現在ではこう述べられることが多い。柳田は初期に研究しようとしていた比較民俗学的な「山人(やまびと)」研究から、一国民俗学的な「常民」研究に転向した。その点に柳田の限界が存在している。柄谷行人は、そうした通説を徹底的に斥(しりぞ)ける。柳田が一国民俗学を提唱したのは日本がアジアに進出した戦争期であり、一国民俗学は植民地主義への抵抗の原理として存在していた。
 柳田は生涯「山人」という理念を手放すこともなかった。「山人」を普遍的な観点から反省し、「常民」という新たな理念として総合したのだ。現実の「山人」たちが生活を営んでいる山奥深い村に、柳田は「別の社会、別の生き方」の可能性を見出(みいだ)した。「山人」はロマン派的かつ文学的な幻想ではなく、「稲作農耕民以前の狩猟採集民」の生活形態を捨てず、集団としての「遊動性・ユートピア性」を維持し続けている人々のことを意味していた。
 人々の自治と相互扶助、つまり協同組合あるいは「協同自助」の問題こそ、民俗学以前から一貫して柳田が追求していた問題である。柳田は「山人」の中に、「国家と資本」の原理を超える、来るべき新たな時代の「社会主義」の原理を発見したのである。その原理は、人間の古層に存在するとともに、人間に未来を拓(ひら)くものでもある。
 私は本書で主張された見解のすべてに同意することはできない。折口信夫の学についての理解は充分(じゅうぶん)ではないと思うし、原初の遊動性にまで遡(さかのぼ)る「固有信仰」についても、柳田の祖霊論だけでは十全に論じきることはできないのではないかと考えている。
 しかしながら、「山人」を柳田国男の可能性の中心として読み解くことによって、この小さな書物から、解釈と実践の新たな運動が始まることもまた疑い得ない。狭い学問分野を解体し、歴史と哲学が一つに結ばれ合う新たな表現が生まれ出てくることも、また。
(文春新書・840円)
 からたに・こうじん 1941年生まれ。哲学者。著書『世界史の構造』など。
◆もう1冊 
 赤坂憲雄著『東北学/忘れられた東北』(講談社学術文庫)。稲作以前の縄文文化の色濃く残る東北から柳田民俗学の欠落を埋める論集。
    --「書評:遊動論 柳田国男と山人 柄谷 行人 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014021602000160.html:title]

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遊動論 柳田国男と山人 (文春新書)
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*p4*[覚え書]覚え書:「発信箱:感涙スイッチ=小国綾子」、『毎日新聞』2014年02月18日(火)付。

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発信箱:感涙スイッチ=小国綾子
毎日新聞 2014年02月18日

 「全ろうの作曲家」とされる佐村河内守さん(50)の騒動に「感涙スイッチ」の話を思い出した。「何かの刺激で思い出が走馬灯のように巡ると感涙スイッチが入り、人は泣かずにいられない」という珍説。私自身、息子の保育園の卒園式で体感した。子供たちの歌った曲「さよならぼくたちのほいくえん」の「何度笑って何度泣いて何度風邪をひいて」という歌詞を耳にした途端、子育てをめぐる「思い出の走馬灯」が暴走し、涙があふれ出したのだ。見事術中にはまった気恥ずかしさの一方で、我が子の成長を素直に泣かせてくれる歌に感謝した。

 佐村河内さんの音楽を熱心に聴いたことはない。でも「分かりやすい感動」が好まれる時代に、曲のイメージが書かれた「指示書」に基づき、優秀な作曲家がてらいなく感涙スイッチを仕込み、丁寧に仕上げた音楽ならば、「現代のベートーベン」という偽りの物語の力を借りて多くの人の心を揺さぶったのは、そう不思議ではない気がする。

 文章にも感涙スイッチはある。記者稼業も長くなると「こう書けば読者は感動する」と見えてくる。それが嫌で、あえてその表現を避ける。「悲しみを越えて」や「限りない優しさ」などと安易に書くまい。「泣ける話」も嫌い。東日本大震災後、特にそんな思いが強まり、悩むことが増えた。一人一人の悲しみの形を手あかの付いた言葉に押し込めてはいけない気がして。

 感涙スイッチを押され、カタルシスを得るのは心地よいけれど、自分が文章を書く時は他人のそれを安易に押すまいと思う。拙くとも自分の言葉で書きたい。彼がうそにすがってまで得たかったのは何だったのだろう。(夕刊編集部)
    --「発信箱:感涙スイッチ=小国綾子」、『毎日新聞』2014年02月18日(火)付。

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[http://mainichi.jp/opinion/news/20140218k0000m070152000c.html:title]

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覚え書:「発信箱:感涙スイッチ=小国綾子」、『毎日新聞』2014年02月18日(火)付。


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発信箱:感涙スイッチ=小国綾子
毎日新聞 2014年02月18日

 「全ろうの作曲家」とされる佐村河内守さん(50)の騒動に「感涙スイッチ」の話を思い出した。「何かの刺激で思い出が走馬灯のように巡ると感涙スイッチが入り、人は泣かずにいられない」という珍説。私自身、息子の保育園の卒園式で体感した。子供たちの歌った曲「さよならぼくたちのほいくえん」の「何度笑って何度泣いて何度風邪をひいて」という歌詞を耳にした途端、子育てをめぐる「思い出の走馬灯」が暴走し、涙があふれ出したのだ。見事術中にはまった気恥ずかしさの一方で、我が子の成長を素直に泣かせてくれる歌に感謝した。

 佐村河内さんの音楽を熱心に聴いたことはない。でも「分かりやすい感動」が好まれる時代に、曲のイメージが書かれた「指示書」に基づき、優秀な作曲家がてらいなく感涙スイッチを仕込み、丁寧に仕上げた音楽ならば、「現代のベートーベン」という偽りの物語の力を借りて多くの人の心を揺さぶったのは、そう不思議ではない気がする。

 文章にも感涙スイッチはある。記者稼業も長くなると「こう書けば読者は感動する」と見えてくる。それが嫌で、あえてその表現を避ける。「悲しみを越えて」や「限りない優しさ」などと安易に書くまい。「泣ける話」も嫌い。東日本大震災後、特にそんな思いが強まり、悩むことが増えた。一人一人の悲しみの形を手あかの付いた言葉に押し込めてはいけない気がして。

 感涙スイッチを押され、カタルシスを得るのは心地よいけれど、自分が文章を書く時は他人のそれを安易に押すまいと思う。拙くとも自分の言葉で書きたい。彼がうそにすがってまで得たかったのは何だったのだろう。(夕刊編集部)
    --「発信箱:感涙スイッチ=小国綾子」、『毎日新聞』2014年02月18日(火)付。

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日記:「全国のホテルに古事記を置こう!」プロジェクトのいかがわしさについて……


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竹田研究財団が『古事記』編纂1300年を記念して「全国のホテルに古事記を置こう!」プロジェクトを立ち上げたそうですが、少しだけコメンタリーを残しておこうと思います。

同webによると概要は次の通り。

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一般財団法人竹田研究財団
『古事記』編纂1300年記念事業 プロジェクトシート

 平成24年が古事記編纂1300年の記念すべき年であることに鑑み、当財団では公益事業の一環として、「古事記1300プロジェクト」を立ち上げました。この計画は、一人でも多くの国民が古事記との縁を繋ぐことを目的とします。

■1 古事記普及事業
(「全国のホテルに古事記を置こう!」プロジェクト)

 従来、大多数のホテルの客室には、『聖書』と『仏教聖典』が常備されていますが、『古事記』が設置されているホテルは存在しませんでした。

 二十世紀を代表する歴史家のアーノルド・トインビーは
「十二、三歳までに民族の神話を学ばなかった民族は、例外なく滅びている」
と述べています。

 日本では戦後、GHQの指示により神話教育が行われなくなりましたが、米国や英国をはじめとする連合国は、現在でも学校で神話教育をしています。日本人が日本神話を知らなくなったことは、日本の危機であると考えなくてはなりません。

 そこで、当財団は全国のホテルに無償で古事記を配布する事業を進めています。平成23年12月には、1万冊を印刷し配布しました。古事記1300年に当たる平成24年には、より多くの古事記をホテルの部屋に配備してきたいと考えています。

[http://www.takenoma.com/kojiki1300.html:title]


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概要を読むと次のような構成となっている。

1)『聖書』やら『仏教聖典』が常備されるホテルって多いですよね。

2)歴史家Aアーノルド・トインビーは 「十二、三歳までに民族の神話を学ばなかった民族は、例外なく滅びている」 と述べています。

3)ならば『古事記』を置けや(ゴルァ

という寸法ですが、『聖書』や『仏教聖典』って、『古事記』と同義の「神話」なのでしょうか???

『古事記』は確かに国造りの「神話物語」ですが、『聖書』や『仏教聖典』で神話の「物語」の如く語られた内容というのは、そうした排他的な神話を乗り越える挑戦だった訳で、そもそも併置して扱うことは不可能です。

『聖書』や『仏教聖典』はそもそも「民族の神話」ではありません。その代わり『古事記』を持ち出すというのは論理的に破綻してしまっています。

次にトインビーの言葉についてですが、そもそもトインビーがどこで「十二、三歳までに民族の神話を学ばなかった民族は、例外なく滅びている」などと言ったのかは瞥見では出典が確認できないのですが、トインビーがそうした言葉を述べたとしても、そもそも彼の『歴史の研究』は民族史・誌的な文明論的歴史学ですから、その地域の歴史の負荷を学ばない国家や民族は必ず滅びるものと捉えることができます。

だとすれば、歴史を「神話」化してしまう民族誌を手放しに礼賛することは最も慎まなければならないという話しになってしまいます。

そして敗戦による連合国の進駐は「神話教育」を否定しましたが、その本家「米国や英国をはじめとする連合国は、現在でも学校で神話教育」をしているということが述べられておりますが、そもそも米国にも英国にも『古事記』に該当するような「国造り」の神話はありません。

移民の多い英国においては「神話教育」ではなく、諸宗教を尊重した「宗教教育」があるのだけなのですが、どういうことなのでしょうか???

民族誌としての神話と、その神話を乗り越える宗教の混同、そして基礎的な認識の誤解。『古事記』が成立して1300年たったから、みんなで読もうぜということを全否定はしませんけれども、こうした営みは百万歩譲ってもですが、『古事記』そのものを毀損することになってしまうのではないかと危惧もしたりです。

そして『聖書』にしても『仏教聖典』にしても、さしあたりそのグループにしか当てはまらない「規範」や「伝統」を超越しようとした「霊性」に肝がある訳だから、日本からそれを発信しようとすれば内村鑑三の『代表的日本人』や鎌倉仏教の始祖の言葉をお勧めする推し本にしておくべきですし、これも一億万歩譲っての話しになりますが、民族の「国造り」の神話をお勧めするのであれば、『古事記』ではなくて『日本書紀』やろうという訳なのですが……いろいろととほほ過ぎることが多いですね。

とにかく時流に乗って、日の丸、桜という安直な挙動には、大御剣、大御鏡、御勾玉などをプリントした霊感商法的Tシャツを14700円で販売してた下衆さが見え隠れしてしまうというものでございます。

いやさか、いやさか

……もとい、

くわばら、くわばら。

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覚え書:「今週の本棚:富山太佳夫・評 『警察調書-剽窃と世界文学』=マリー・ダリュセック著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。


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今週の本棚:富山太佳夫・評 『警察調書-剽窃と世界文学』=マリー・ダリュセック著
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 (藤原書店・4410円)

 ◇模倣を端緒に“書く意味”を問う

 私がまず眼(め)を引かれたのはこの本のサブ・タイトルの方である--『剽窃(ひょうせつ)と世界文学』。しかも、その前に『警察調書』という文字がならんでいる以上、もうためらいなしに読み始めてしまった。

 そして、ビックリしてしまった。いきなり「日本の読者へ」という前書きがついていて、現代フランスの小説家である著者自身が、剽窃の罪で二度告発された経験を持つことが語られているからだ。「フランスで二人の女性作家が、一〇年の間隔を置いて、私のことを、一方は『猿真似(まね)』したと、もう一方は『心理的な剽窃』--苦肉の策の罪状名でしょうか--をしたと告発した」。そのような経験をふまえて、「剽窃の告発に端を発しながら、この本は、書くということそのもの、『どのようにしてものは書かれるのか』ということを問うものとなりました」ということである。

 その次は目次である。目次なんてどうでもいい、大切なのは中味なんだからと言うひとが多いかもしれないが、まったくの愚論。著者の知的なセンスは、実は見出しにこそ反映されるのだから。全三部の見出しは、「クマたちのポルカ」、「監視のサイレン」、「フィクションの力」、そしてそれを構成する合計一〇の章のタイトルは、「フロイトの窮地」、「ツェランの苦悩」、「マンデリシュタームの皮肉、マヤコフスキーの沈黙」、「ダニロ・キシュの怒り」、そして「フィクションとモラル」など。見事と言うしかない。取りあげる作家と鍵となる概念の選択が、盗作に関わる問題点を浮上させるのだ。それはタイトルが本来になうべき役割のひとつであるはずなのだが、その実現がおろそかにされていることは、書店や図書館に足を運んで、そこに並んでいる本のタイトルをながめてみれば分かるはずである。

 ともかくこの本は、思想から文学にいたるまでの諸分野におけるあからさまなパクリから、さまざまのレベルにおける模倣と改作、偶然の重複などのもつ意味を--そして、ときにはそれを弾圧しようとする政治的関与の意味を考察しようとしたものである。

 そこにはこんなエピソードも顔を出す。著者が三冊目の小説を書いていたころ、日本のある女性作家を発見し、「その親しさに唖然(あぜん)とした」というのだ。つまり、酷似したところがあるということである。「私は何万キロも隔てた地の、フランス語を読みもしなければ、文法も文字も異なる作家によって、剽窃された、と考えるべきなのだろうか--しかも彼女は私の最初の日本語訳が出る前に四冊の小説を発表しているというのに?」

 これはもはや剽窃というような概念ではとらえきれないものであることを、著者は理解している。そして、相似た現象が一九世紀にも、一八世紀にも、ルネサンス期にも、古代にも、洋の東西を問わずに存在していたことを承知している。ネット万能の時代にはそれがもっと極端化していくはずではないだろうか。恐らくそうしたことも念頭に置いてであろうが、著者はこう断言している。「剽窃というのは、ジャーナリスティックな語である。模造は法律用語である。間テクスト性は大学の研究用語だし、ハイパー・テクスト性は比較文学専門家の用語だ。」但(ただ)し、間テクスト(もしくはインターテクスト)性は大学の研究用語にとどまるものではなく、時代や地域のあり方を超える文化のあり方を考えるための基本概念として、広く通用するものとなっているはずである。ともかく面白くて、役に立つ本である。(高頭麻子訳)
    --「今週の本棚:富山太佳夫・評 『警察調書-剽窃と世界文学』=マリー・ダリュセック著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140216ddm015070003000c.html:title]

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警察調書 〔剽窃と世界文学〕
マリー・ダリュセック
藤原書店
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覚え書:「今週の本棚・MAGAZINE:『中央公論 2月号』」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。


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今週の本棚・MAGAZINE:『中央公論 2月号』
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 (中央公論新社・900円)

 日本の大学は改革を迫られている。文部科学省は2013年11月に国立大学改革プランを発表した。大学が社会の変化に対応すること、国際的な教育研究水準にして世界大学ランキングの上位校を増やすこと、留学生数を増やすこと、大学発ベンチャーを増やすこと、大学の人事給与システムを柔軟化すること、学長のリーダーシップを強化することという。若年人口の減少、国際競争の激化、財政赤字を考えれば、自然な要求かもしれない。「大学の悲鳴」という特集は、改革を迫る立場の文部科学大臣、財務官僚らランキングを巡る専門家の議論、改革を迫られる現役学長の座談会、改革に振り回される大学教員の覆面座談会とバランスよく構成。大学関係者は必読の号だ。(大)
    --「今週の本棚・MAGAZINE:『中央公論 2月号』」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140216ddm015070019000c.html:title]

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中央公論 2014年 02月号 [雑誌]

中央公論新社 (2014-01-10)

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覚え書:「みんなの広場:残念なNHK会長らの発言」、『毎日新聞』2014年02月17日(月)付。


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みんなの広場
残念なNHK会長らの発言
無職・80(滋賀県栗東市)

 NHKの会長と経営委員の問題発言が相次いでいます。籾井勝人会長は就任記者会見で従軍慰安婦についての持論を展開したり、政府が右といっているものを左とはいえないと述べたりしたことに批判を受けると、取り消すとしましたが、公人として発言したことは取り消せばそれでいいというものではありません。

 また、経営委員の長谷川三千子氏は朝日新聞社で拳銃自殺した右翼団体元幹部について礼賛する追悼文を発表。同じ経営委員の百田尚樹氏は東京都知事選の応援演説で他候補を「人間のくずみたいなやつ」と呼びました。

 個人的にどのような意見をお持ちであろうとかまいませんが、公人として言ってはならないことが分からないようでは、潔く辞任していただくほかありません。そして、このような人物を任命した首相の責任は厳しく追及されるべきです。NHKはこれまで数々の素晴らしい番組を制作されてきただけに、残念でなりません。
    --「みんなの広場:残念なNHK会長らの発言」、『毎日新聞』2014年02月17日(月)付。

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覚え書:「みんなの広場 横暴な政権、公明党はどう見る」、『毎日新聞』2014年02月17日(月)付。

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みんなの広場
横暴な政権、公明党はどう見る
会社員・60(北海道北広島市)

 NHK経営委員の百田尚樹氏が東京都知事選応援演説で対立する候補を「人間のくず」と発言した件を問われ、安倍晋三首相は「そこで聞いていたわけではない。聞いていないから感想を述べようがない」と応じたのだが、これほど人を食った答弁はあるまい。

 百田発言に疑問を持っている国民は多いだろうに、そこにいなかったからうんぬんではまるで小学校低学年の学級会ではないか。違うのはそれを戒める先生がいない点だけだ。

 首相の言うことならなんでも「問題ありません」の菅義偉官房長官、「安倍首相の応援団」と公言してはばからない長谷川三千子NHK経営委員など、安倍政権は先のお友達内閣が進化したお友達政府に堕していないか。

 有力野党不在がこれほど政権の横暴を許すのかと日々驚きを新たにする。政治の劣化、政治家の質の低下といわざるを得ない。連立を組む公明党は横暴な政権をどう見るのか。鼎(かなえ)の軽重を問われる状態だと思う。
    --「みんなの広場 横暴な政権、公明党はどう見る」、『毎日新聞』2014年02月17日(月)付。

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覚え書:「今週の本棚:持田叙子・評 『心訳・「鳥の空音」-元禄の女性思想家、飯塚染子、禅に挑む』=島内景二・著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。


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今週の本棚:持田叙子・評 『心訳・「鳥の空音」-元禄の女性思想家、飯塚染子、禅に挑む』=島内景二・著
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 ◇持田叙子(のぶこ)評『心訳(しんやく)・「鳥の空音(そらね)」-元禄の女性思想家、飯塚染子、禅に挑む』

 (笠間書院・3360円)

 ◇虚無を超え、自由を求めた女性のこころの遍歴

 これはその昔、日本の文化が宮廷を中心に発信され、宮廷で尊重される和歌や源氏物語が、雅(みやび)と王権の象徴として深く深くあこがれられた時代に生きた、ひとりの女性の秘めやかなこころの物語である。

 彼女の名は飯塚染子。徳川五代将軍綱吉の側近・柳沢吉保の側室。吉保が造った駒込の六義園(りくぎえん)にて、花鳥風月を愛(め)でて暮らした。しかし晩年は不安にみちていた。四人の子は早く死んだ。このまま光なく老いるのか。

 彼女は夫の感化で学んだ和歌・儒教・禅の教えを結集し、人生の虚(むな)しさに必死であらがう。生きる意味を問う禅問答を設けて自ら答え、空の鳥のように自由になろうと思索的エッセイをつづった、題して『鳥の空音』。

 え--、元禄時代。和歌。禅問答。縁のないものばかりと恐(こわ)がる必要はゼロ。そこは古典を一般読者にわかりやすく説くことに手だれの碩学(せきがく)・島内景二氏が、染子さんの心を汲(く)むやわらかな口語訳を小説風にほどこしてくれています。大船に乗った気分でどうぞ。

 元禄の貴婦人・染子さんの嘆きは意外なほど私たちにも身近。容色おとろえ子も巣立ち、ふと人生が灰色に見える瞬間はどの女性にも訪れる。それまでの彩りのある人生から無惨に切り離される思い。がんばって生きれば生きるほど、奪われてゆくこの生の不条理!

 しかも女は罪深い、女はケガレとする当時の風潮をたおやかにはね返し、ひとりこの難問に立ちむかう染子さんの心意気はあっぱれ。

 人から愛される「自分」にこだわりつづける自分とは。生と死、有と無が入りまじるのがこの世なのに、有ばかり求めるとは。毎日を惰性で暮らすくせに、未来への願望のこの大きさ、この欲深さ--捨てて、捨てて、染子さんは自由をめざす。

 その思索の特徴は、ふわーんとした和歌の情緒が、まことに自在に仏の教えや古典、禅のエピソードをつなぎあわせ、包容力ある優美な瞑想(めいそう)のふんい気をかもしていること。

 著者の解説によればここにこそ、王朝ルネサンスとしての、柳沢吉保ひきいる元禄源氏文化圏が透けて見えるという。吉保は偉大な文化人。不倫の書として源氏物語のやや衰える江戸時代、画期的にこれを復興した。国学者の北村季吟(きぎん)と儒学者の荻生(おぎゅう)徂徠(そらい)をともに重用し、伝統的な日本の和歌文化と外来の儒教文化との和合をはたした<和>の精神の人。

 吉保の側(そば)で生きた女性の内面を通し、元禄の越境的な源氏和歌文化受容の実態をミクロに照らしだすのが、本書の一つの野心である。

 それにしても「わたくしは和歌に執着して生きてきた」と言うように、染子さんを芯から支えるのは和歌力。遙(はる)かな山の端や月を恋う和歌の魂が、美への無限のエロスをかきたてる。

 極上のサプリ。昔の女性はこのように、和歌の情緒に守られて〓(ろう)たけて、病老死を乗り切ったのか。うらやましい。

 もうすぐ花の季節。仏の教えにしたがい花と合体し、無我に到(いた)ろうとする染子さんの清麗な歌と訳文を引いておく。

花ならば花ならましを桜花花の色香を花に任せて

 『一遍上人絵伝』には、「花のことは花に問へ」とある。花の心は、花にしかわからない。桜の花がどんな色に染まるか、どんな香りで匂うかは、鑑賞者である人間ではなく、桜自体が決めるべきことである。だから、わたくしは花の心を理解するために、花そのものになりきろう。
    --「今週の本棚:持田叙子・評 『心訳・「鳥の空音」-元禄の女性思想家、飯塚染子、禅に挑む』=島内景二・著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140216ddm015070009000c.html:title]

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心訳『鳥の空音』: 元禄の女性思想家、飯塚染子、禅に挑む
島内 景二
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覚え書:「今週の本棚・新刊:『三省堂国語辞典 第七版』=見坊豪紀ほか編」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『三省堂国語辞典 第七版』=見坊豪紀ほか編
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 (三省堂・3045円)

 三国(さんこく)の名で親しまれる小型辞典、六年ぶりの新版だ。新語など四千を増補。国語辞典は新語をどれだけ載せるか競う風潮だが、新版の真の意義は、語義の改訂だ。その点、この辞典は「厚み」がある。以下、前・第六版と比較。「かけながし」は「流れるままにしておくこと」だが、今回は「源泉掛け流し(温泉)」の意味「加水・加温をせず循環もさせない」を明記。リンゴなど果実が熟して大きくなる「たまのび(玉伸び)」の用例では、前版「たまのびが良い」の「良い」を仮名「よい」に変えた(ここまで見る人はあまりいないと思うけれど)。「やばい」の第(3)義「すばらしい」は「一九八〇年代から例があり、二十一世紀になって広まった言い方」と懇切。第六版からのことだが「よさそうだ」(さしつかえないようすだ、の意)を見出し語に。広辞苑、大辞泉にもないことだ。同じく連語「わるくすると」(うまくいかないばあいは、の意)を独立させるのも、ここならでは。

 こうして旧版と見比べてみると、語釈や見出しに、独自の見方がはたらいていることに気づく。見れば見るほど魅せられる。「新版」の意義を感じとれる辞典だ。(門)
    --「今週の本棚・新刊:『三省堂国語辞典 第七版』=見坊豪紀ほか編」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140216ddm015070005000c.html:title]

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三省堂国語辞典 第七版

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覚え書:「みんなの広場 ツイッターの正しい使い方」、『毎日新聞』2014年02月15日(土)付。


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みんなの広場
ツイッターの正しい使い方
高校生・17(東京都世田谷区)
毎日新聞 2014年02月15日 東京朝刊


 最近ニュースなどでツイッターを正しく使えていないケースをよく見る。特に気になるのが、迷惑行為をツイートしているものだ。

 若者が写真つきで投稿しているものが多いように思う。その写真は電車の中で騒いでいるものやお店の中でふざけているものなどさまざまだが、共通しているのはそれが公共の場やみんなが目にする場所での迷惑行為であるということと、それをツイートしている本人も楽しんでいることだと思う。

 私が問題だと思っているのは迷惑行為をツイートすること自体ではない。若者たちがそれを迷惑行為と思っていないことだ。このような若者たちは公共の場の使い方の意識が低すぎると思う。どうして公共の場所で人に「嫌だな」「不快だな」と思わせることができるのか。このような迷惑行為を自らさらすというのはあまりに無自覚であると思う。

 それぞれの行為にはふさわしい場所があることをしっかり考えるべきだ。
    --「みんなの広場 ツイッターの正しい使い方」、『毎日新聞』2014年02月15日(土)付。

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書評::エルンスト・ヴァイス(瀬野文教訳)『目撃者』草思社、2013年。

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エルンスト・ヴァイス(瀬野文教訳)『目撃者』草思社、2013年、読了。日本ではなじみが薄いが20世紀ドイツ文学に最重要の位置を占めるヴァイス、待望の邦訳。モラビア出身のユダヤ人精神科医にしてカフカの友人は、ナチズム勃興期の市民生活の息吹を「目撃者」の如くありありと浮かび上がらせる。

著者は19世紀後半からヒトラー政権成立に至るドイツの歴史を、市民生活の実相…それは政治的無関心とその対極の熱狂…として描き出した。本書は小説だが、著者は虚構を借りて真実を伝えようと試みる。40年、ベンヤミンより3カ月早く彼はパリで自殺する。

ヒトラー政権誕生とレイシズムは切っても切り放すことは不可能だが、熱狂的に待望した民衆は、経済的安定を強いリーダーに求めたことも事実だ。フロイトの手法を熟知した著者ならでは、そのリアルな叙述は、過去のものとは思えない。

「第二次世界大戦へとひた走る危機の時代、その時代の気配を濃密に味わうことのできる一冊」。 読者は読み終えて戦慄するであろう。80年前の危機が現在進行形として伴走することを。


[http://soshisha.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-224d.html:title]

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覚え書:「今週の本棚・新刊:『戦争記憶の政治学』=伊藤正子・著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『戦争記憶の政治学』=伊藤正子・著
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 (平凡社・2940円)

 2000年6月27日、韓国のハンギョレ新聞社を約2400人が取り囲み、襲撃する事件が起きた。彼らはかつてベトナム戦争に参戦した軍人で、ベトナムでの韓国軍の虐殺行為を検証し、謝罪しようという新聞のキャンペーンに猛反発したのだ。

 この事件を端緒に、ベトナム現代史を研究する著者は、韓国とベトナムの政府や住民が過去の虐殺事件にどう向き合ったかを丁寧に検証していく。見いだされるのは、韓国における「自国の負の歴史を直視することの難しさ」であり、ベトナムにおける「ナショナルヒストリー(公的な歴史)が国家にとって不都合な個人の記憶を切り捨てていく」さまだ。

 その中で、自国民から「売国奴」とののしられ、ベトナムの人々からは時に冷たい目を浴びながらも虐殺を記録し、犠牲者に謝罪しようとする韓国のNGOや個人がいる。彼らをゆるし、受け入れるベトナムの人々も。著者は淡々と記録するが、その姿は感動的だ。「和解は、国家と国家の関係を通じてのみ、達成されるものではない」との一文が響く。

 翻って日本は? 過去の戦争や植民地支配について中国、韓国と和解するための教訓に満ちている。(阿)
    --「今週の本棚・新刊:『戦争記憶の政治学』=伊藤正子・著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140216ddm015070017000c.html:title]

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覚え書:「今週の本棚・本と人:『シベリア抑留者たちの戦後』 著者・富田武さん」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『シベリア抑留者たちの戦後』 著者・富田武さん
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 (人文書院・3150円)

 ◇躊躇を払い、踏み出した一歩--富田武(とみた・たけし)さん

 シベリア抑留を巡っては、大学人による研究が立ち遅れた。本書はそうしたなか、アカデミズムにおける荒野を切り拓(ひら)いてきた著者による労作だ。

 ソ連が関東軍の兵士ら日本人およそ60万人を自国領などに連れ去り、6万人もの犠牲者を出した「シベリア抑留」は、人類史に黒々と刻印されるべき悲劇だ。帰還者らによる手記は膨大にある。大学の研究者たちには、資料を駆使し、抑留を歴史軸の中で俯瞰(ふかん)することが求められていた。だが長く、大学人たちの動きは鈍かった。

 自身、大叔父が抑留経験者だ。ソ連史と日ソ関係史を専門とする研究者としても、早々に研究に着手してもおかしくない。なぜ遅れたのか。以前は「抑留者の団体が政治的に分裂しており研究者が躊躇(ちゅうちょ)した。またソ連が長い間基本的な公文書を公開しなかった」などと答えてきた。だがそれは「タテマエだった」。「日本帝国主義の大陸侵略の尖兵(せんぺい)だった関東軍将校を研究することへの躊躇もありました」

 だが、抑留経験者の平均年齢が90歳と高齢化する中、忘れられようとしている抑留を歴史にしっかりと位置づける使命感、つまり「抑留はスターリニズムそのもの。研究者としてこれを避けて通ることはできない」との思いも高まった。2010年、「シベリア抑留研究会」を創設。大学人のみならず、面識のない新聞記者、在野の研究者らにも参加を要請。20回近くの例会やシンポジウムなどで、研究の基盤を整備してきた。

 さらに帰還者団体の機関紙やロシアの公文書資料などを活用しつつ、抑留経験者への聞き取りも進めてきた。占領下のメディアが抑留問題をどう伝えたか。残された家族はどんな運動をしたのかなど、これまで手つかずだった歴史を掘り起こした。ソ連に残った人物や、ソ連のエージェントになった人物にも光を当てた。

 研究上、大きな一歩だ。「もっと早く着手してくれていれば」という、憾(うら)みはある。だがゼロと1の間には大きな差があることも事実だ。68歳。今春、成蹊大の教授を退く。「それでも生涯、学者を貫きます」。「鳥の目」と「虫の目」を持つまれな存在として、さらなる研究と発信が期待されている。<文と写真・栗原俊雄>
    --「今週の本棚・本と人:『シベリア抑留者たちの戦後』 著者・富田武さん」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140216ddm015070015000c.html:title]

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シベリア抑留者たちの戦後: 冷戦下の世論と運動 1945-56年
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覚え書:「みんなの広場 無責任極まりない出直し選」、『毎日新聞』2014年02月15日(土)付。

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みんなの広場
無責任極まりない出直し選
無職・72(堺市堺区)


 橋下徹・大阪市長が辞職して再度市長選に立候補するという。何を血迷ったことを、と思う。

 自らが提唱する大阪都構想の制度設計を議論する法定協議会で、進め方について野党から反対されて構想実現が難しくなったことから、出直し選挙で民意を得ようということだが、こうした行動には賛成できない。自分の目指す政策を何が何でも実現するためには選挙で多額の税金を使ってもかまわない、市民生活に直結する来年度予算の編成を放り出してもかまわない、と考えているとしか思えない。

 橋下氏は大阪府知事時代にも任期途中で辞職している。その職責を簡単に投げ出す無責任極まりない行動は2度目である。出直し選挙に対する各党の反応は「大義のない選挙」などと冷ややかなものだ。無投票で再選された場合は「民意を得た」と言えるかどうか、はなはだ疑問だ。
    --「みんなの広場 無責任極まりない出直し選」、『毎日新聞』2014年02月15日(土)付。

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覚え書:「記者の目:英国という監視社会=小倉孝保(欧州総局・ロンドン)」、『毎日新聞』2014年02月14日(金)付。


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記者の目:英国という監視社会=小倉孝保(欧州総局・ロンドン)
毎日新聞 2014年02月14日 東京朝刊

(写真キャプション)記念館になっている旧政府暗号学校。暗号解読に使用された機器が展示されている=英ブレッチェリーで2014年2月4日午前10時、小倉孝保撮影

 ◇日本の未来への警告

 英国民の反応に戸惑いを覚えている。元米中央情報局(CIA)職員、エドワード・スノーデン被告(30)が暴いた通信傍受活動への反応である。情報機関が市民の通信を傍受していたにもかかわらず、市民や政治家の反応が抑制的だ。監視に慣らされた社会の危うさをみる気がしている。

 スノーデン被告の秘密文書によると、米国家安全保障局(NSA)と英政府通信本部(GCHQ)は、電話やインターネットでのやりとりを傍受し互いの情報を共有していた。傍受対象は外国政府やテロ容疑者だけでなく一般国民にまで及んでいた。

 昨年6月以降、こうした活動が暴かれ、米国やドイツでは抗議の声が上がった。英国でも世論調査では、市民の通信を傍受することに反対(45%)が賛成(41%)をわずかに上回ったが、市民の抗議行動はほとんどない。国会の議論も冷めていると思う。

 ◇政府への信頼、強い英国民

 監視社会への警告を続ける英非政府組織「ビッグ・ブラザー・ウオッチ」のピクルス代表(29)は言う。「英国民には政府に裏切られた記憶が薄い。政府はそれほど悪いことをしないと国民は思っている」。米国民はウォーターゲート事件(1972年)のような政権によるスキャンダル、ドイツ国民はナチスや旧東独政府による市民監視の経験を覚えている。それが監視への嫌悪感になっているのに対し、英国民には政府を信頼する気持ちが強いという。

 英映画「007」のジェームズ・ボンドが英雄視されているように、英国民には自国の秘密情報(スパイ)活動を誇る気持ちがある。第二次世界大戦(39-45年)では、GCHQの前身である政府暗号学校がナチスの暗号を解読して勝利に貢献した。旧政府暗号学校は今、記念館として公開され、当時の機器やアイゼンハワー連合国遠征軍最高司令官(後の米大統領)の感謝の言葉も紹介されている。国民は現在の平和、繁栄の基礎に政府の情報傍受活動があると思っている。

 ただ、外国政府の暗号解読と市民監視は別問題のはずだ。なのに市民の反発が低い理由について、GCHQに関する著書もある英ウォリック大のアルドリッチ教授(52)は「国民の多くが自分は悪いことをしていないから大丈夫と、政府による監視をおおむね了解している」と話す。

 英国民は以前から、政府の市民監視を広く受け入れている。それを示す例が監視カメラだ。56年に設置され70-80年代、アイルランド共和軍(IRA)のテロ脅威が増すに伴い飛躍的に増加。今では、学校の更衣室やトイレを含め全国で590万台が設置されている。ピクルス氏は、「短期的には犯罪防止の長所はある。ただ、犯罪の度にさらにカメラが必要になり、プライバシー侵害が進む」と警告する。

 ◇道徳的コスト、市民の負担に

 アルドリッチ教授も政府の監視が市民の利益になるには、システムが正確に動くことが前提と言い、独自に把握したある例を紹介した。

 20代の英女性が80年代、フランスから帰国するフェリーに乗ろうとした。出航を待っているとき、見ず知らずの北アイルランド市民と話した。その中に英情報機関が追跡するIRAメンバーがいて、情報機関が撮った写真に彼女が写っていた。政府は彼女をIRAに関係ある人物としてブラックリストに載せた。2年後、彼女は公務員の職を希望したが拒否されたという。

 彼女は公務員だった父のつてを使い「拒否」の理由を調べ、IRA関係者と間違われているとわかった。教授は「情報機関の情報は事実ではなく、事実を推測する材料に過ぎない。監視活動を受け入れるなら、それに伴う道徳的コストを市民が負うことになる」と警告する。行き過ぎた監視社会では自分の被る不利益にさえ気付かない。運良く不利益に気付いても、確認する手段がないため利益回復を求めることは不可能だ。

 監視社会は劇薬のようなものだと思う。治安維持などで一時的な効果は期待できるが、効果を維持するにはさらに強い薬が必要になり、それに慣れることでプライバシー侵害による不利益に無神経になっていく。監視社会という点で日本はまだ、英国ほど「劇薬」にまみれていない。ただ、特定秘密保護法が成立し今後、政府の秘密情報活動をチェックしづらくなる危険がある。政府が秘密裏に市民監視を強化しても、確認することが難しくなる。監視に慣れるのは健康な社会ではない。英国を「他山の石」とすべきだと思う。
    --「記者の目:英国という監視社会=小倉孝保(欧州総局・ロンドン)」、『毎日新聞』2014年02月14日(金)付。

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覚え書:「今週の本棚・新刊:『岩波茂雄と出版文化 近代日本の教養主義』=村上一郎・著、竹内洋・解説」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『岩波茂雄と出版文化 近代日本の教養主義』=村上一郎・著、竹内洋・解説
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 (講談社学術文庫・756円)

 「あの」村上一郎が、1960-61年ごろに書いた岩波書店創業者、岩波茂雄の評伝である。村上の作品などを知る人にとっては、驚くべき組み合わせだろう。村上は、60年安保後、吉本隆明らと雑誌『試行』を創刊し、晩年の三島由紀夫に評論を絶賛され、最後は日本刀で自殺した。一般にイメージされる岩波文化の対極にありそうな人物だ。

 だが、岩波書店ではなく日本評論社などの編集者をし、東京・京都両帝大ではなく東京商大(現一橋大)出身と、岩波を傍(はた)で見続けた位置にもいた。本書で講談社文化と岩波文化、大衆(あるいは亜インテリ)とインテリの間に断絶ではなく同質性を見いだしたのは、村上ならではか。戦後インテリの思考と庶民の乖離(かいり)を指摘し、そこから岩波的なものの、いわば乗り越えも呼びかける。知性の権威が完璧に失われた今読むと、複雑な思いにとらわれる。

 元々、複数の著者による『明治大正出版社史』のために書かれ、本文は約80ページ。今回は、本文の前後に、教養主義研究の第一人者、竹内洋による解説が計60ページほど付いた。今、新品で買えるおそらく唯一の村上の著書でもある。(生)
    --「今週の本棚・新刊:『岩波茂雄と出版文化 近代日本の教養主義』=村上一郎・著、竹内洋・解説」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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岩波茂雄と出版文化 近代日本の教養主義 (講談社学術文庫)
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覚え書:「今週の本棚:池澤夏樹・評 『葭の渚 石牟礼道子自伝』=石牟礼道子・著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。


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今週の本棚:池澤夏樹・評 『葭の渚 石牟礼道子自伝』=石牟礼道子・著
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 (藤原書店・2310円)

 ◇楽園と近代の間に湧き出す、豊饒なる言葉

 自伝は小さいながらも歴史である。

 自分の人生を文章にする。基礎には史実があって、その上に意味づけや解釈を重ねてゆく。

 しかしこの石牟礼道子の自伝はそんな枠に収まりきらない。年号や人名など史実の滑走路から離陸してはるか高いところ遠いところへ飛翔(ひしょう)する。

 史実を否定したり無視したりするのではない。日付けや人の名・土地の名をきっかけにむくむくと湧き出すものがある。

 仮にぼくが自伝を書こうとしたらと考えてみても、まこと貧相なものにしかならない。それは一瞬でわかる。『葭(よし)の渚(なぎさ)』を読んで、生きるということはかくも豊饒(ほうじょう)な営みであるかと嘆ずるばかり。

 ここに書かれたことの多くをぼくはこの作家の『椿の海の記』その他の作品で既によく知っている。それでも渇いた者が水を求めるように一ページずつを読んだのは、つまり語り口の妙に魅せられたからだ。古今亭志ん生の落語、六世野村万蔵の狂言、吉田簑助の人形浄瑠璃などと同じ至芸が文章という場で実現している。

 昭和二年、熊本県天草で道普請を生業(なりわい)とする家に生まれた娘が道子と名付けられ、まもなく八代海を隔てた水俣に移って、この町で育つ。

 大人数の家族があり、その外にはまた多くの親族がおり、祖父と父のもとで働く若い衆がいて、周囲の山や海には精霊のような動植物がひそむ。

 先ほど語り口と言ったのは、出てくる人たちの言葉づかいが耳に心地よいからだ。父が島原から土産を持って戻った。それが「つやつやした絹糸の束や、種のついた綿花」で、女たちはいそいそと織ったり紡いだりを始める。そこで大叔母である老女が、「美しさよ、よか糸のたくさん来申したなあ。この糸で、わたしのお寺まいり着物をば織ってくれませな」と言う。玉を転がすような綺麗(きれい)な響き。

 人々のすぐ横には「あれたち」とか「ものたち」がいる。たとえば狐(きつね)は月夜に子狐の手を引いて海辺に出てきて、化ける暇もないので頭に手拭いをかぶって、漁師に「向う縁(べた)の天草まで、舟で渡してはもらえませんじゃろうか」と頼む。チッソの工場ができて騒々しくなったので逃げ出すのだという。

 こういう土地で自然界と人間界の両方に目をやりながら道子は大きくなる。成人するというのは大叔母や狐のいる楽園からの追放だったのか。世間には戦争の荒々しい空気が到来し、十六歳で代用教員となって赴任した小学校では竹やり訓練が始まった。子供たちがやりで人を突き刺す練習をさせられている。

 時には先輩に誘われて行商の仲間に入り、塩鰯(いわし)を仕込んで担いで山の村まで行く。ところが口べたで一向に売れないのであきれて仲間が売ってくれる。

 そういう中で道子は、言葉を使いたいという内部からの促しに応じておずおずと文芸に手を伸ばす。思いや考えは言葉に託すことができる。その果てに稀代(きたい)の日本語の使い手になる。

 彼女は自分の心に湧く思いだけでなく、人の思いを集め始めた。西南の役を見物していた人たちの記憶を書きとめる。そうするうちに「自分が今の世の中に合わない」ということに気づき、「近代とは何か、という大テーマがわたしの中に根付」いた。その一歩先には『苦海浄土』という半世紀がかりの大仕事が待っていた。この自伝は水俣病に出会うところで終わっている。

 石牟礼道子は戦後日本文学の一等星、もっと広く読まれるべき作家である。本書は彼女の世界への格好の案内・入門書となっている。
    --「今週の本棚:池澤夏樹・評 『葭の渚 石牟礼道子自伝』=石牟礼道子・著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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覚え書:「ひと:小柳雅樹さん=核兵器の非人道性を訴える被爆3世」、『毎日新聞』2014年02月12日(水)付。

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ひと:小柳雅樹さん=核兵器の非人道性を訴える被爆3世
毎日新聞 2014年02月12日 東京朝刊

 ◇小柳雅樹(こやなぎ・まさき)さん(16)

 13日にメキシコで始まる「第2回核兵器の人道的影響に関する会議」に日本政府代表団6人のメンバーとして出席し、核兵器の非人道性を訴える。父方の祖父母は長崎で被爆した。被爆3世が核に関する国際会議で政府代表となるのは初めてのことだ。

 中学2年生になるまで、自分が被爆者の孫だとは知らなかった。祖母は生まれる前に、祖父は1歳の時に亡くなり、直接話したことはない。

 学校での平和学習を機に、改めて父に原爆の体験を尋ねると、爆風で機械の下敷きになり足の指が変形した祖母や、放射能を含んだ灰を吸ってたんに悩まされていた祖父の様子を教えられた。衝撃を受けたと同時に、「祖父母が生きていなければ今の私は存在しない。あの惨状の中を生き延びてくれてありがとう」という気持ちが湧いた。

 核兵器の廃絶などを求める「高校生1万人署名活動」に参加し、毎週日曜日に街頭に立って署名を呼びかける。「核兵器の本当の恐ろしさは被爆した人にしか分からないと思う。その言葉の重み、平和への願いを次の世代に継承していくのが、被爆3世としての私の使命」と話す。

 「微力だけど無力じゃない」と続けられてきた活動で、2001年から昨年までに計104万1679筆の署名が集まった。「私たちの努力だけでは核兵器がなくならないのは分かっている。大人たちの関心を引きつけて核のない世界を実現していきたい」<文と写真・吉富裕倫>

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 ■人物略歴

 長崎市生まれ。私立活水高校英語科1年。放送部と平和学習部に所属。今回、ユース非核特使も委嘱された。
    --「ひと:小柳雅樹さん=核兵器の非人道性を訴える被爆3世」、『毎日新聞』2014年02月12日(水)付。

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日記:人間を「無効化」しようとする仮象にすぎないマモンへの永続的な抵抗


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 貧困で、無智で、社会情勢に暗い日本の農夫が田畑から引き離され、仏教の本義を教えられることはなく、偶像に犠牲を強いられることを教えられている。一方、ロシアのツーラ地方もしくはニジニ・ノブゴロド地方の貧困で無教養な人々が、キリスト教の本義はただキリストを礼拝することにあると教えられた。これは、普通の人々にとってわかりやすいことである。そして、これらの不幸な人々が数百年の間に受けた暴虐と欺瞞のために、人類、同胞(はらから)同士の殺戮という世界最大の罪悪を徳行として認め、ついにこうした恐るべき大罪を犯してしまった。いつのまにか彼らは、自分に罪があることさえわからなくなる。
 おかしなことに、いわゆる知識人が先頭に立って人々を誘導している。それだけではない。ひどいことに知識人は戦争の危険を冒さずに、いたずらに他人を扇動することのみに努め、不幸で愚かな兄弟、同胞を戦場に送り込んでいるのだ。そんなことに耐えることができようか。こういった知識人は、これが必ずしもキリスト教の教えにあるとは言わず(彼ら自身はキリスト教徒であることを認めているにもかかわらず)、戦争一般の認識が、残酷で無益で無意味なことについては認識しているのに、すべてを無視することにしてしまったのだ。
    --レフ・トルストイ(平民社訳、国書刊行会編集部現代語訳)『現代文 トルストイの日露戦争論』国書刊行会、2011年、15-17頁。

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私がなぜ、執拗に歴史修正主義や拝外主義(→排外)を始めとする国民国家の悪しき原理を否定するのかということについて少しだけ書いておきます。

本来、宗教とは国家を超えるものであります。宗教は国家を超えるもの? え、宗教権力より世俗の権力が上位になるに従い、宗教って国家に迎合してきた歴史じゃないですか、と言われてしまえばそのことは否定しません。

もちろん、功罪はありますが、宗教がこの世のものを全て無効化してしまう性格を必然的に持つことはそれによって否定することはできません。

いわゆる世界宗教の始祖たち……世界宗教という表現自体が19世紀の宗教学やないけwと言われればソレまでですが、わかりやすいのであえて準拠します……は、まさにその時代の規範に無批判に隷属を強いられているひとたちの鎖を解き放ち、その所作が例えばひとつの民族とか共同体に収まらない根源的な射程を秘めていたことが、共感を呼び、その後の歴史になっていった訳ですよね。

さて、日本宗教史においては、「この世のものを全て無効化」する宗教の普遍性ないしは絶対的な規範はどのように展開したのかと誰何した場合、ごく少数の例外を除き、世俗権力との融和による保身がその歴史であったと思います。

僕はキリスト教が専門になりますが、近代日本宗教史を瞥見するに、キリスト教とてその例外ではありません。キリスト教は禁教から公認教へなることが第一の目的となりますので、三教会同によって皇運を扶翼するために国民精神を涵養することに同意します。しかし、キリスト教の説かれる三位一体の神は、国家宗教として頂点に位置する現人神を超越・批判する視座は内包しますので、内村鑑三をその嚆矢と見ることができますし、先の戦時下における批判と抵抗はキリスト者によって担われたといっても過言ではありません。

内村の言葉を借りれば、まさに、信仰者とは「警世の預言者」たるべし、ということです。よき市民としてあらなければならないことは言うまでもありませんが、仮象にすぎない世俗内での権力がそれを絶対的と錯覚して、良心と照らしてみるならば、その要求する「よき市民」像が相反するのであれば、普遍的な道理に従うほかありません。

歴史が示している通り、それはまさに命がけの業となりますが、キリスト教学を学ぶなかで、それを憧憬する私としては、それを私自身の倫理として生きていかなければならないと考え発信を続けています。

今長々と話したことは学問的な示唆によるものですが、もうひとつ、私の体験的な事柄についても言及しておきます。

それは何かといえば、青春時代において最大事件ともいうべき、宗教法人法の改悪の問題に関わったことです。改正する必要があったのかどうかをこれまた誰何すれば、改正によりより劣化してしまう法案であったがゆえにそれは「狙い撃ち」とも言うべきもでした。恩師との出会いもこの事件が契機ですが、そのなかで、思想やイデオロギー、宗教に関わりなく、いわば「人間」を「無効化」するものとは断固として対峙していかなければと思いました。その決意は未だに変わっておりません。

しかし、不思議なことに、そのとき、「平和のふぉーとれすと」を掲げる大学の教員は何をやっていたのでしょうか。ほとんどスルーというのが現実でした。

言論戦を展開するなかでも、ほかから呼んでこなければならない始末。お寒い状況でしたねー。これは当時も何度も話題になりました。そして自分はそうなってはいけないな、と思いましたですだよ。

現在の原発、秘密保護法、そして極右化する現在においても、これに抗うことは必要だと思い、私は私自身の研鑽と発信の往復は、学問に従事する人間だからこそ、それは責任だと思い、時には挑発するがごとき、厳しい言葉で、「虻」のように振る舞っております。

ブログとSNSだけやねん、ださーと言われればソレまでですが、何もしないことによって、気がついたら「軍艦マーチ」と歩調があってしまうのが、世の常です。

なので、私は、非常勤ですから発言に信頼性もありませんけれども、学問的理由とそれと関連しますが、その体験的由によって、誰がしなくても、人間を「無効化」しようとする仮象にすぎないマモンの批判は続けていくつもりです。

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覚え書:「幸せのメカニズム [著]前野隆司」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。


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幸せのメカニズム [著]前野隆司
[掲載]2014年02月09日   [ジャンル]人文 新書 

 アリストテレスの昔から、幸福について考えるのは哲学の領域だった。本書では、ロボット学者が理系のアプローチで、先哲を悩ませてきた難問に挑む。
 工学者らしく、ものごとが働く仕組みを単純化して考えるモデリングの手法がいきている。日本人1500人へのアンケート結果を数学的に処理、幸せに最も深く関係する四つの要素を見つけ出した。
 哲学的な議論にこだわらない思い切りのよさが印象的。いま現に幸せな人の分析に徹しているので、幸せに関係する要素は時代の影響も受けることがわかる。絆、つながりが見直される現代日本の横顔を見るようで、興味深い。
    ◇
 講談社現代新書・840円
    --「幸せのメカニズム [著]前野隆司」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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覚え書:「ナチュラル・ナビゲーション―道具を使わずに旅をする方法 [著]トリスタン・グーリー [評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。


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ナチュラル・ナビゲーション―道具を使わずに旅をする方法 [著]トリスタン・グーリー
[評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)  [掲載]2014年02月09日   [ジャンル]社会 

■自然の摂理、理解するための知恵

 最近の探検界では現代機器に頼らず自然物を利用して旅をするのが好まれている。有名なポリネシア人の伝統航海術のように、機械化される以前の人類が保持していた身体知を駆使することで、現代人が知らない地球の未知の位相を見ることができる。要は探検とは時代の枠組み(システム)の外側を目指す行為なのだから、地理的にどこかに到達するという昔ながらの発想より、手法を駆使して未知の位相に到達した方がよっぽど現代的でスタイリッシュだというわけだ。
 本書はいわばそのマニュアル本だ。GPSや通信機器どころか地図やコンパスさえ使わず、太陽や星々、砂漠の砂丘の向き、極地の雪の風紋、海のうねりのでき方などを読み解き、方角を知るための方法を並べたものである。
 ただし実用的かどうかと問われると微妙だ。普通はこの本を読んでも、コンパスを持たずに砂漠を歩こうとは思わないだろう。しかしだからといって読む価値がないわけではないし、探検や旅に関心がない人にとっても得るところは決して少なくない。
 ここには旅の方法というより自然の摂理を理解するための知恵が書かれている。実は自然によるナビゲーションには方角を知る以上に重要な意味があって、太陽がここにあるから今はここにいる、というように対象と関連づけて自分の空間的位置を把握することで、逆に自分の実体的な存在が自然から与えられているという感覚を持つことができるのだ。地球とガッチリかみ合っているという感覚。それはGPSを使っていては絶対に得られないし、一方で昔の人はそれを当たり前の前提として生活を営んできた。
 そうだ。そう考えると、この本には現代人がスマホやGPSのかわりに何を切り捨ててきたのかが書かれているのだ。と読みながらそう思い至ったが、それはあまりにも皮肉な見方に過ぎるだろうか。
    ◇
 屋代通子訳、紀伊国屋書店・2100円/Tristan Gooley 作家・探検家、英国の旅行会社Trailfinders副会長。
    --「ナチュラル・ナビゲーション―道具を使わずに旅をする方法 [著]トリスタン・グーリー [評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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覚え書:「特定秘密保護法に言いたい:情報機関の権限、強大に=ジャーナリスト・青木理さん」、『毎日新聞』2014年02月11日(火)付。


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特定秘密保護法に言いたい:情報機関の権限、強大に
ジャーナリスト・青木理さん
毎日新聞 2014年02月11日 東京朝刊

 ◇青木理さん(47)

 特定秘密保護法の立法作業を担当した内閣情報調査室トップの「内閣情報官」は歴代、警備・公安警察の出身者で占められてきた。特定秘密保護法はテロやスパイ活動の防止を口実にすれば、あらゆる情報を秘密にでき、この法律の制定で警備・公安当局の権益は大幅に広がる。

 法律上、特定秘密を指定するのは「行政機関の長」だ。防衛省や外務省であれば政治家が担うが、治安に関する情報を扱う警察庁や公安調査庁はいずれも官僚であり、外部の目に触れることなく内部だけで完結できる。この問題は、もっと広く認識されるべきだ。

 自民党の石破茂幹事長はデモについて「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」とブログに書いた。特定秘密保護法の「テロリズム」の定義はあいまいなので、たとえば国会前で行われるデモ参加者を容疑者として調べたり、身元を調査したりすることも可能になる。警備・公安当局内部にこれまであった「特定の政党や団体の関係者を対象者とする」などといった歯止めさえ利かなくなる恐れがある。

 法律では、特定秘密を取り扱う人物について身辺調査(適性評価)を行うことになっている。ある警察幹部は私に「某中央省庁の局長への異動が内定した官僚について『ある政党の同調者ですよ』という情報を政府に伝えたら人事が流れた」と自慢話をした。真偽は確認できないが、情報機関の権限が強まる恐ろしさに鈍感過ぎないだろうか。【聞き手・臺宏士】=随時掲載

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 ■人物略歴

 ◇あおき・おさむ

 1966年生まれ。共同通信社会部などを経て2006年からフリーに。著書に「日本の公安警察」「誘蛾灯 鳥取連続不審死事件」など。
    --「特定秘密保護法に言いたい:情報機関の権限、強大に=ジャーナリスト・青木理さん」、『毎日新聞』2014年02月11日(火)付。

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覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 社会保障費抑制に危機感=本田宏」、『毎日新聞』2014年02月12日(水)付。


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くらしの明日 私の社会保障論
社会保障費抑制に危機感
加速する政治の右傾化
本田宏 埼玉県済生会栗橋病院院長補佐

 1月25日、さいたま市で開かれた埼玉県政を医療・平和・経済の視点から検証するシンポジウムに参加した。そこで、歴史認識と平和分野を担当した演者から、この数年間に県議会文教委員会で「高校の採択教科書や修学旅行の事前学習が自虐史観的だ」と問題視する動きがあったとの紹介があり、驚いた。
 さらに、県は「平和に対する県民の意識の高揚を図り、平和な社会の発展に寄与する」ことを目的に開館した県平和資料館の館長職を廃止し、代わりに県広聴広報課長を責任者にした。資料館への県民の声を聞く運営協議会もやめ、2013年10月のリニューアルオープンでは、昭和史年表から日本側の加害を示す事項が削除されるなど、解説趣旨から外れているともとれる方向性があると報告された。
 その3日後、下村博文・文部科学相が「21世紀のグローバルな人材育成のため」として、中・高校向けの学習指導要領の解説に、尖閣諸島と竹島を「わが国固有の領土」と明記することを発表した。加えて今通常国会では、教育行政の最終権限をだれが持つかについて見直す法案が提出されようとしている。
 強行採決された特定秘密保護法もあり、昨年12月29日付の米有力紙ニューヨーク・タイムズも「日本の右傾化」に懸念を表明した。歴史を振り返れば、右傾化して愛国心が強調される社会においては、国民の命は二の次、三の次になってきた。軍事費の増額や、個人の権利の抑制が当然のこととされ、社会保障の充実は後回しにされるのが常だった。
 14年度予算案を見てみると、防衛関係予算が尖閣諸島問題への対応の必要性などを理由に前年度比2・2パーセントも増えた。この伸び率は18年ぶりの高さだ。一方、政府は「社会保障と税の一体改革」をうたい、消費税の増税を実施するなどして社会保障を充実させると説明してきたが、実際増税分を充当するには、今回の診療報酬改定の引き上げでも十分ではない。先進国最高レベルとなっている病院窓口での患者の自己負担の大きさを放置し、今春からは70~74歳の医療費が1割から2割に増額されるなど、さらなる患者の負担増も計画されている。
 18世紀、英国の文学者サミュエル・ジョンソンは「愛国心はひきょう者の最後の隠れ家」という言葉を残している。日本では未曾有の超高齢社会が目前に迫るが、日本の社会保障予算は、医療費の増大が国を脅かすという「医療費亡国論」に基づき、先進国最低レベルに抑制されてきた。国民の危機感と愛国心をあおって、限られた予算を防衛分野などに配分する一方、社会保障予算をさらに抑え、国民負担を増やすような政治は許されるものではない。
ことば 医療費亡国論 当時の厚生省保険局長が1983年に発表した「医療費が増え続ければ国家がつぶれる」という私見。その後、国は医療費を抑制する方向に転換し、経済規模に対する医療費支出の割合が先進国で最低レベルが続いてきた。
    --「くらしの明日 私の社会保障論 社会保障費抑制に危機感=本田宏」、『毎日新聞』2014年02月12日(水)付。

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覚え書:「ロングウォーク―爆発物処理班のイラク戦争とその後 [著]ブライアン・キャストナー [評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。


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ロングウォーク―爆発物処理班のイラク戦争とその後 [著]ブライアン・キャストナー
[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)  [掲載]2014年02月09日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 国際 


■恐怖と後遺症の終わりなき日々

 スーサイドボム(自爆)という言葉を聞くたびに、これまで抱いていたイメージとは違うきつさが、昨今の爆発物処理の現場にあるのだろうと、漠然と思っていたが、予想を上回る過酷さであった。
 著者はイラクに実際に赴いた爆発物処理班の兵士。プロの書き手ではない。戦地での体験と、帰国後に襲われる精神疾患と後遺症に苦しみ立ち向かう終わりなき日々が交互に綴(つづ)られる。
 爆弾を積んでいる“かもしれない”トラック。車から降りて“何か”を隠し持って駆け寄って来る男。「もしも爆弾だったら」という可能性で攻撃のゴーサインを出し、無実の人を殺す現実。爆発が起きれば起きたで現場検証のために、飛び散る肉体をかき分けて爆弾の欠片を探す。
 仮に身を挺(てい)して爆発を防いだとしても、救われたイラク人からは感謝もされない軍事介入の現実も、切ない。
 呼吸も忘れるほどの恐怖と絶望を読者に叩(たた)き付ける描写力に、ひたすら圧倒される。
    ◇
 安原和見訳、河出書房新社・1995円
    --「ロングウォーク―爆発物処理班のイラク戦争とその後 [著]ブライアン・キャストナー [評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014020900012.html:title]

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ロングウォーク: 爆発物処理班のイラク戦争とその後
ブライアン・キャストナー
河出書房新社
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覚え書:「世界一素朴な質問、宇宙一美しい答え [著]ジェンマ・エルウィン・ハリス [評者]三浦しをん(作家)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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世界一素朴な質問、宇宙一美しい答え [著]ジェンマ・エルウィン・ハリス
[評者]三浦しをん(作家)  [掲載]2014年02月09日   [ジャンル]教育 人文 

■自分だったらどう答えるだろう

 子どもたちが投げかけた100個の質問に、各界の専門家(チョムスキー、ドーキンスなど、超豪華!)がまじめに、ときにユーモアを交えて回答した本。「自分だったらどう答えるだろう」と考えをめぐらしても楽しいし、子どもの「なんで」攻撃にさらされたときのあんちょことしても活用できる。
 質問がふるっていて、「ミミズを食べても大丈夫?」「ウシが1年間おならをがまんして、大きいのを一発したら、宇宙まで飛んでいける?」など、子どもたちが日々なにを考えて暮らしているのか、よくわかる。
 ちなみにミミズの質問に答えているのは、ベア・グリルス(冒険家)。「このひとしかおらん!」と膝(ひざ)を打った(彼のサバイバル番組はサイコーにおもしろい)。私が好きなのは、「どんなふうに恋に落ちるの?」へのジャネット・ウィンターソン(作家)の回答。ロマンティックかつ真実をついていると思えるから。老若男女で語りあえる本だ。
    ◇
 西田美緒子訳、河出書房新社・2625円
    --「世界一素朴な質問、宇宙一美しい答え [著]ジェンマ・エルウィン・ハリス [評者]三浦しをん(作家)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014020900013.html:title]

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覚え書:「みんなの広場 資質に疑問、NHKの経営委員」、『毎日新聞』2014年02月12日(水)付。


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みんなの広場
資質に疑問、NHKの経営委員
無職・67(埼玉県鴻巣市)

 NHKの最高意思決定機関が「経営委員会」といわれる組織である。委員は12人で首相に任命権がある。

 受信料を取り「公共放送」を標榜(ひょうぼう)するその組織は、「服務に関する準則」に「放送が公正、不偏不党な立場に立って、国民文化の向上と健全な民主主義の発達に資することを自覚する」と定めている。

 ところがその精神と適性に欠けると思われる委員が散見され問題になっている。一人はベストセラー作家でもある百田尚樹氏で「安倍カラー人事」の代表といえる。百田氏は都知事選立候補者の応援演説をしたことが批判の対象となった。百田氏は「南京大虐殺はなかった」との歴史認識に関する持論を展開した。

 もう一人は、長谷川三千子埼玉大名誉教授で、1993年に朝日新聞社内で拳銃自殺した右翼団体元幹部の行為を礼賛したというのだ。暴力によるメディアへの圧力を評価するような発言は、経営委員としての資質に疑問を持たれて当然だろう。
    --「みんなの広場 資質に疑問、NHKの経営委員」、『毎日新聞』2014年02月12日(水)付。

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書評:大塚ひかり『本当はひどかった昔の日本: 古典文学で知るしたたかな日本人』新潮社、2014年。

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大塚ひかり『本当はひどかった昔の日本』新潮社、読了。「昔は良かった」と誰もが言うが、本当に昔の日本は良かったのか。本書は古典を材料にその内実をユーモアに検証する。「古典ってワイドショーだったんですね!」(帯)。昔は良かったwとは大嘘。 


『源氏物語』、『うつほ物語』、『日本霊異記』、『古事記』、『枕草子』、『宇治拾遺物語』等々古典中の古典を取り上げ「ひどかった昔の日本」を浮かび上がらせる。「捨て子」、「夜泣き」、「貧困ビジネス」、「妊婦いじめ」、「虐待」、「ストーカー殺人」、「毒親」、「動物虐待」……ワイドショーの「ネタ」は新しくもない。

「昔の日本はよかった」という主張は常に「今の若い連中は」という当てこすりがワンセット。日本を取り戻す? 取り戻すまでもないのが実情で、本書を読んで「現代に生まれて良かった」とすら覚える。懐古趣味の胡散臭さをテクストから痛罵する好著。

[http://www.shinchosha.co.jp/book/335091/:title]

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本当はひどかった昔の日本: 古典文学で知るしたたかな日本人
大塚 ひかり
新潮社
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覚え書:「誕生日を知らない女の子―虐待--その後の子どもたち [著]黒川祥子 [評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。


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誕生日を知らない女の子―虐待--その後の子どもたち [著]黒川祥子
[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)  [掲載]2014年02月09日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 

■「根っこが張れる場所」を社会に

 本書は虐待の後遺症を、事実をもって詳細に書いたドキュメンタリーである。
 本書の最初に「一体どれほど、子どもの側に立って虐待を見ていたのだろう」という著者の述懐がある。私自身もしだいに、自分の虐待への視点が間違っていたことに気付いた。「なぜ親はこんなことをしたのか?」と問うことは、子どもにとって意味をなさない。では虐待という事実をみつめよう。その場から子どもを救い出しさえすれば問題は解決する。しかしそれも違っていた。脳や心に深い傷を負った子どもたちは、その後も容易には生きられないのである。幻視や幻聴に苦しむこともある。自分を守るために心に生じた乖離(かいり)にふりまわされることもある。彼ら自身の責任ではない。子どもの側に立ったとき、虐待がいかに人間を生涯にわたって傷つけてしまう行為であるか、とことんわかってくる。
 一章ごとに名前がついている。ひとりひとりの子どもに寄り添って書いているのだ。ファミリーホームと呼ばれる多人数養育をする里親の家でも取材している。里親たちの苦労はひととおりではない。しかし各章の末尾で、娘が里母と一緒に笑い、息子がふつうにご飯をぱくぱく食べ、リビングで身を寄せ合って夜を過ごす、という当たり前の姿を垣間見るとき、どれだけ深く傷ついていても信頼できる人間に囲まれた安心できる場所、本書でいうところの「根っこが張れる場所」さえあれば、子どもたちの障害は必ず軽くなる、それどころか強い共感能力さえ育つのだ、という確信が持てる。そういう希望に満ちた本でもある。
 人というものは社会で生きることの困難さを抱えている。だからこそ「根っこが張れる場所」を、子どもに用意することがいかに大切であるか、痛感させられる。個々の家庭に期待するだけではもう難しい。社会全体で取り組むべき問題であろう。
    ◇
 集英社・1680円/くろかわ・しょうこ 59年生まれ。フリーライター。本作で開高健ノンフィクション賞を受賞。
    --「誕生日を知らない女の子―虐待--その後の子どもたち [著]黒川祥子 [評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014020900005.html:title]

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誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち
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覚え書:「座談の思想 [著]鶴見太郎 [評者]鷲田清一(大谷大学教授・哲学)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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座談の思想 [著]鶴見太郎
[評者]鷲田清一(大谷大学教授・哲学)  [掲載]2014年02月09日   [ジャンル]文芸 

■魅力引き出す優れた「しきり」

 「だらだら書いてから字数調整するのは素人よ。私なんか書き終えたときには字数がぴったり合っている。プロだから」。そう平然とのたまう作家に会って、縮こまったことがある。同じ意味で、この本は言論のプロの話である。
 座談は垂れ流しのおしゃべりではない。もっと立体的なものだ。一言一句も疎(おろそ)かにしないそんな文章のプロが、ふと舞台裏をのぞかせ、迷いやすきを見せたり、あるいは逆に、思わぬ展開に身をまかせて大胆な仮説を口にしたりするのが、座談の魅力だ。そして文章家からそんな気前のよさを引きだすのが、座談の優れたしきり手だ。
 話がばらけるのはだめ、話を手際よくまとめるのもだめ。「話し手の口が自然にほぐれていく」よう気遣いながら、議論としては研ぎ澄ましてゆく、そんな場を拓(ひら)く才人として、著者は、融通とデリカシーを併せもった菊池寛、「大きく掴(つか)み、小さく掴む」力量をおおらかに発揮した桑原武夫、心底「雑談好き」の丸山真男、言いよどむことの多い「寡言な“鈍才”」竹内好らを挙げる。それぞれに、「その人物からしか聞けない言葉を引き出すこと」「思いがけない話が聞けること」に長(た)けた面々である。これと対照的に、最後まで慄然(りつぜん)と対峙(たいじ)したままの柳田国男と石田英一郎の対談や、明晰(めいせき)な洞察のあいだに「間欠泉のように感情を爆発させる」中野重治の例も気をそそられる。
 著者は、これらの座談をきっともっと詳しく写し取りたかっただろう。かわりにこれらの座談から著者がいわば反照的に向きあわされたのは、座談における「誠実さ、そこから生まれる相互の信頼が試されることのない状態がかくも長く続いている現在」の言論への憂いである。
 書物の装幀(そうてい)へのこだわりと並んで、対談が雑誌の巻頭を飾ることが多いこの国の出版文化の特質についても、あらためて考えさせられる。
    ◇
 新潮選書・1470円/つるみ・たろう 65年生まれ。早稲田大学教授(日本近現代史)。『柳田国男入門』など。
    --「座談の思想 [著]鶴見太郎 [評者]鷲田清一(大谷大学教授・哲学)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014020900014.html:title]

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座談の思想 (新潮選書)
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覚え書:「みんなの広場 今後の日本を考えなければ」、『毎日新聞』2014年02月08日(日)付。

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みんなの広場
今後の日本を考えなければ
高校生・17(東京都世田谷区)

 先日、近所の高齢者たちが安倍晋三政権が進めようとしている憲法9条の改正に反対する署名運動をしていた。

 その場に出くわした私は署名を頼まれたらどうしようかと迷ってしまった。その時まで、憲法9条の改正について真剣に考えたことがなかったからである。

 戦争を経験したことがない私には、その重要性や問題意識が欠けていた。しかし、戦争の苦い経験をした高齢者の方々が日本の未来のために行動を起こしている姿を見て、自分も傍観者ではいけないと思った。

 高齢者たちが一生懸命に訴える声に耳を塞いではいけないと思う。私はまだ高校生だが、ゆくゆくは社会人の一員となる。その時の日本がどうなっているかは今私たちがこの問題についてどう向き合うかで変わってくるはずだ。

 高齢化が進む現代の日本において、私たち若い世代も政治の動向に目を向け、先輩世代と一緒に今後の日本のあり方を考えることが必要だと思う。
    --「みんなの広場 今後の日本を考えなければ」、『毎日新聞』2014年02月08日(日)付。

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覚え書:「時流・底流:市民が発掘、満蒙開拓史 誤った国策、悲劇と向き合い」、『毎日新聞』2014年02月10日(月)付。


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時流底流
[市民が発掘 満蒙開拓史]
誤った国策 悲劇と向き合い

(写真キャプション)「東京満蒙開拓団」をまとめた(右から)藤村妙子さん、今井英男さん(故人)、多田鉄男さん=東京都大田区で12年11月

 戦前、戦中に約27万人が旧満州(現中国東北部)に農業移民として送り出された満蒙開拓団は信越、東北地方の農山村の人々の悲劇として知られてきた。だが近年、市民たちが独自の調査で、ほとんど知られていなかった沖縄や東京発の開拓団の実態を掘り起こしている。「誤った国策による庶民の受難を記録し、二度と繰り返さないように」という思いが労作を生み出している。

 ◇17年かけ
 沖縄県の60、70歳代の主婦4人で作る「沖縄女性史を考える会」(代表・伊良部住恵さん)は、断片的にしか分かっていなかった沖縄県からの開拓団2603人の歴史を17年かけてまとめた。主に引き揚げ中などの死者922人、徴兵され戦死した者58人、残留者79人という大変な悲劇だったことが判明した。
 メンバーの中で年長の比屋根美代子さん(73)=浦添市=も終戦時4歳で「沖縄戦の記憶がない」という世代だ。
 調査は、開拓団に嫁ぐために海を渡り、「大陸の花嫁」と呼ばれた女性たちの存在に関心をもったことがきっかけでスタートした。
 県庁の基礎資料は沖縄戦で消失しており、新聞の復刻版や引き揚げ者関連の資料に出てくる氏名を見て、電話帳を頼りに連絡を取ることから始めた。4人が手分けして聞いた証言者は約370人。戦後半世紀以上たって聞いた話は食い違いもあったが、検証を重ねて事実を明らかにした。
 努力は昨年夏、A5判788ページの大作「沖縄と『満洲』」(明石書店)として結実した。比屋根さんは「開拓団の凄惨(せいさん)な歴史は、誤った国策の結末だと分かった。外地で戦争と向き合い、逃避行でも死者が出た。証言してくれた人たちのためにも、まとめる責任を感じた」と話す。

 沖縄県では行政や学者にも、先行研究はほとんどない。比屋根さんは「沖縄戦の課題が多すぎて、手が回らなかったのでしょう」。

 ◇活動を続行
 東京都大田区の市民グループ「東京の満蒙開拓団を知る会」は、東京から出発した1万1111人の全体像を解明した。
 グループのメンバーは、労働運動を通じて知り合った。武蔵小山商店街(品川区)の約1000人が開拓団になり、600人以上が亡くなったことを知り、2007年から手分けして都公文書館や図書館を回り資料を集めたり、都内の開拓団訓練所跡地を巡ったりして、関係者から聞き取りをした。
 戦時中の経済統制で失業した商店街の自営業者だけでなく、空襲で焼け出された人たちまで現地に送られたことを明らかにした。成果を12年9月、「東京満蒙開拓団」(ゆまに書房)として出版し、満蒙開拓に詳しい直木賞作家、井出孫六さん(82)が「初めて東京の開拓団の全貌が明るみに出た」と高く評価した。
 昨年6月、共同代表の元会社員、今井英男さんが68歳で急死した。しかし、地方公務員、藤村妙子さん(59)ら残るメンバーが調査を続け、データをまとめた全10冊の「東京満洲農業移民資料」の発行を目指している。
 新潟県見附市の元中学校長、高橋健男さん(68)も昨年12月、「渡満とは何だったのか--東京都満州開拓民の記録」(ゆまに書房)を出版した。
 新潟県の開拓団の歴史を調べる中で、都が戦後、元開拓団員からの聞き取り結果をまとめ、新潟県庁に送った資料を発見。独自の調査結果も加え、5年がかりでまとめた。
 旧植民地からの引き揚げに詳しい加藤聖文(きよふみ)国文学研究資料館助教は「開拓団の歴史は当事者が高齢化し、研究者もあまり取り上げなくなってしまった。こうした中、市民が関心を持って調査したことで、あまり知られていない貴重な事実が発掘されている」と話している。【青島顕】
    --「時流・底流:市民が発掘、満蒙開拓史 誤った国策、悲劇と向き合い」、『毎日新聞』2014年02月10日(月)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140210ddm004070119000c.html:title]


[http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-213463-storytopic-6.html:title]


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沖縄と「満洲」―「満洲一般開拓団」の記録

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覚え書:「兵士たちの肉体 [著]パオロ・ジョルダーノ/イエロー・バード [著]ケヴィン・パワーズ [評者]小野正嗣(作家・明治学院大学准教授)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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兵士たちの肉体 [著]パオロ・ジョルダーノ/イエロー・バード [著]ケヴィン・パワーズ
[評者]小野正嗣(作家・明治学院大学准教授)  [掲載]2014年02月09日   [ジャンル]文芸

■日常と交錯する現代の戦争描く

 戦争について、現実の戦場を体験した一介の兵士たちが残した証言の言葉が目に触れ、読まれ続けることは存外少ない。虐殺や災厄の被害者がそうであるように、経験があまりに生々しく凄惨(せいさん)で〈言葉にならない〉からだろう。
 そこに逆説的だがフィクションの役割がある。物語と表現というまさに〈言葉の力〉によって、悲惨な現実を世代を超えて読者一人ひとりが共感し思考しうる〈作品〉という場を作り出すのだ。
 その好例が、国際治安支援部隊としてアフガニスタンに派兵されたイタリア陸軍の若者たちを描いた『兵士たちの肉体』である。著者のジョルダーノ自身には従軍体験はない。だが、イタリアで大ベストセラーとなった『素数たちの孤独』を書いた気鋭の作家は、俯瞰(ふかん)的な視点を取るのではなく、前哨基地フォブ・アイスで任務につく一部隊の兵士たちの視点に入り込み、彼らの戦争前の生活と戦争の現在を交錯させながら、その人間臭い〈生〉を立体的に浮かび上がらせることに成功している。
 マザコン気味ののっぽの兵士イエトリ、彼をいびる勇猛なチェデルナ、彼らを統率する有能なレネー准尉、家族や恋人との問題で心を悩まし抗鬱(こううつ)剤を手放せない軍医のエジット中尉。彼らの基地での日常生活は、滑稽で下世話なエピソードに満ちている。しかし物語のクライマックスとなる「薔薇(ばら)の谷」での戦闘のあと、レネーとエジットの人生は劇的に変化する。
 一方、ケヴィン・パワーズのデビュー作『イエロー・バード』は、イラク戦争に従軍した2人のアメリカ兵、21歳のバートルと18歳の新兵マーフの物語である。バートルが過去を回想する形で書かれていることからも、本書に作家自身の従軍体験が色濃く影を落としていることが窺(うかが)える。
 色濃く? たしかに語り手の記憶に刻み込まれた、血塗られた戦場と化したイラクの街路や果樹園の光景は、まるで夢の出来事のように恐ろしく鮮明だ。だがそこから紡がれる思考は頼りなげに彷徨(さまよ)い、帰国後もなお、砂塵(さじん)と熱気に覆われたイラクの大地から離れられず、消し去りたくてもできないトラウマ的な記憶に戻っていく。
 作家は自らの過酷な従軍体験を見事に〈作品〉化している。それは、戦争の前後を語る章の合間に、語り手の人生を変える決定的事件が起こる「2004年」のイラク従軍の〈現在〉についての章が、強迫観念のように回帰してくる書き方からも明らかだ。
 興味深いことに、まったく独立に書かれたこれら2作品ともに、主人公は戦場での行為を罪に問われる。現代の戦争を描く二つの力作をつなぐこの不思議な符合を皆さんはどう解釈するだろうか?
    ◇
 『兵士たちの肉体』飯田亮介訳、早川書房・2205円/Paolo Giordano 82年イタリア生まれ。
 『イエロー・バード』佐々田雅子訳、早川書房・2205円/Kevin Powers 80年アメリカ生まれ。本書でガーディアン新人賞など。
    --「兵士たちの肉体 [著]パオロ・ジョルダーノ/イエロー・バード [著]ケヴィン・パワーズ [評者]小野正嗣(作家・明治学院大学准教授)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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覚え書:「ジェフ・ベゾス 果てなき野望―アマゾンを創った無敵の奇才経営者 [著]ブラッド・ストーン [評者]川端裕人(作家)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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ジェフ・ベゾス 果てなき野望―アマゾンを創った無敵の奇才経営者 [著]ブラッド・ストーン
[評者]川端裕人(作家)  [掲載]2014年02月09日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 

■「顧客体験の優先」貪欲に追求

 1994年創業、2000年に日本上陸した時、アマゾンは「オンライン書店」だった。それが今では、音楽、映画などのコンテンツ、衣料、家電、飲料、サプリまで、驚異的な拡大を遂げた。本書は謎に満ちた創業者、ジェフ・ベゾス氏について書かれた初の“半公認”評伝。特異なリーダー像と社の特質をあぶり出す。
 実際、アマゾンは変だ。書籍購入の際に壁となる配送料をいち早く無料にした時には、果たして利益は出るのかと議論になった。商品検索すると中古出品(売り手は個人も多い)が同時に表示される。場合によっては他社サイトのリンクまで出るので、比較して買うことも可能。一体アマゾンは何を考えているのか……。
 ベゾス氏の経営哲学は「顧客体験の優先」で、顧客に還元できない無駄は省く主義という。幹部でも飛行機のビジネスクラスは禁止。新製品の会議では、パワーポイントなどスライドを嫌い、最初からプレスリリースの形で顧客視線を意識させる。直接会った者なら忘れられないという強烈な笑い声、理念の貪欲(どんよく)な追求。社員の福利厚生にはほとんど投資しないが、企業を買収しては時に失敗する。それでも生き残る。恐怖政治が恒常化し、社員はしゃにむに働き続けるのを余儀なくされる。それがネットビジネス界の古参となり、今や「小売り」では収まらない「テクノロジー企業」として羽ばたく。著者はアマゾン社の取材を許された立場だが、しばしば辛辣(しんらつ)な筆致で「ベゾスのアマゾン」を描き出す。
 なおベゾス氏は個人の夢として宇宙開発を挙げ、民間宇宙開発企業を既に創業している。毎週水曜日午後をこの会社のために使う習慣で、テキサス州の広大な所有地では、宇宙ロケットの開発が進んでいる。「なぜ」と思う人もいるかもしれないが、これもまた複雑にして孤高の経営者の一つの顔だ。
    ◇
 井口耕二訳、日経BP社・1890円/Brad Stone 米誌のシニアライター。米IT企業などについて執筆。
    --「ジェフ・ベゾス 果てなき野望―アマゾンを創った無敵の奇才経営者 [著]ブラッド・ストーン [評者]川端裕人(作家)」、『朝日新聞』2014年02月09日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014020900004.html:title]

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覚え書:「みんなの広場 出直し選は政治の私物化」、『毎日新聞』2014年02月10日(月)付。


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みんなの広場
出直し選は政治の私物化
主婦・74(兵庫県川西市)

 大阪市の橋下徹市長は、自身が掲げる大阪都構想についての協議が野党の抵抗によって進まないという理由から、辞職して出直し市長選をするという。しかし、大阪市長選では約6億円かかるように、選挙には当然、多くの税金と職員の労力を要する。これまでにも、出直すといって任期途中で辞職して再選挙を行う例があるが、このような考えが政治家の間に広がることに問題がある。
 橋下市長の場合、文楽への補助金削減など文化や人権関係の事業を見直して税金の無駄を省くと言いながら、自分が推し進める施策を思い通りに実現するためだけに、貴重な税金を使うのはいかがなものか。政治、行政を私物化しているとしか思えない。
 大阪都構想だけを争点にして市民に選択させることは問題だ。このような意義の見いだせない選挙は認められない。他党は無視すべきだ。
    --「みんなの広場 出直し選は政治の私物化」、『毎日新聞』2014年02月10日(月)付。

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書評:一坂太郎『司馬遼太郎が描かなかった幕末 松陰・龍馬・晋作の実像』集英社新書、2013年。


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一坂太郎『司馬遼太郎が描かなかった幕末 松陰・龍馬・晋作の実像』集英社新書、読了。「司馬で歴史を学んだ」という人が後を絶たないように、日本人の歴史観に大きな影響を与えたのが司馬遼太郎。しかし司馬小説はあくまでフィクションであり歴史教科書ではない。

松陰はテロリストだし、龍馬一人で薩長連合を成し遂げた訳でもないし、晋作の奇兵隊も実像とは程遠い。本書は作品を読み解きながら歴史的事実との解離に迫る快著。根柢に流れるのは弱者を無視したヒロイズムで歴史を読み解く手法。英雄待望論で難挙打開への頼ろうとする精神文化は司馬遼太郎の副産物か。著者の手厳しい批判が痛快。

著者は司馬史観の問題を、特別な英雄が時代を変えてしまう「英雄史観」で貫かれていること、その人物を本人の好き嫌いで過大過小評価していること、そして重要な歴史的事件が意図的にスルーされていること、と指摘する。

司馬遼太郎を読むなということではないし、エンターテイメントとして受容することにやぶさかではない。評者自身、司馬の著作は殆ど読んでいるが「おもしろい」とは思う。ただしそれは「物語」としてのそれだけにすぎない。

そしてこの問題は司馬遼太郎だけに限られてしまう訳ではないが、どこか「ネットde真実」とつながっているような気もする。

[http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0705-d/:title]

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覚え書:「今週の本棚:川本三郎・評 『さらばスペインの日日』=逢坂剛・著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。


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今週の本棚:川本三郎・評 『さらばスペインの日日』=逢坂剛・著
毎日新聞 2014年02月09日 東京朝刊

 (講談社・2415円)

 ◇「戦争の世紀」描く壮大なシリーズ完結篇

 壮大な交響曲のような物語がついに完結した。著者のライフワークと言うべきイベリア・シリーズ。一九九七年から書き始められて十六年。単行本は『イベリアの雷鳴』『遠ざかる祖国』『燃える蜃気楼(しんきろう)』『暗い国境線』『鎖(とざ)された海峡』『暗殺者の森』、そして本書と全七冊。スケールの大きさにただ圧倒される。

 波乱に富んだ冒険小説であり、入念な歴史小説でもあり、戦争と革命の時代と言われた二十世紀を深く考えさせてくれる。

 第二次世界大戦を諜報(ちょうほう)戦という、見えない戦いからとらえているのが新鮮。ドイツの諜報機関の長、カナリス提督をはじめ実在の人物が多数、登場し、事実とフィクションが豊かに溶け合う。

 外国人が日本語で話していてもまったく違和感がない。小説はそこまで来ている。現代史に肉迫(にくはく)出来るようになっている。

 主人公の北都(ほくと)昭平は陸軍中野学校出身の有能な諜報員。大戦さなか、その身分を隠して、日系ペルー人の宝石商としてスペインに潜入する。当時、フランコ政権のスペインは、ドイツ寄りとはいえ中立。そのため各国の諜報員が暗躍する。

 直木賞受賞作『カディスの赤い星』以来、逢坂剛にとってスペインはもうひとつの故郷。そこが物語の主たる舞台になる。

 シリーズ全体が第二次世界大戦史になっている。スペイン市民戦争、開戦、連合軍のシシリー上陸、ノルマンディー上陸、ヒトラー暗殺計画……、完結篇の本書はナチス・ドイツの崩壊、そして日本の敗戦が背景になる。

 北都は陸軍の情報将校だが、日本が英米と戦うことには終始、反対の立場をとってきた。その北都が、日本の敗戦をどう迎えるのか。

 ドイツと日本の敗北が決定的になった時点で、国際社会はすでに、新しい戦争に直面していた。英米とソ連の対立。冷戦は、大戦終結前に始まっていた。

 北都は、敵国であるイギリスの諜報員ヴァジニアと愛し合っている。そのイギリスにはのちにソ連のスパイだったと分かるキム・フィルビー(実在)がいる。

 親ソ派のフィルビーの策謀でヴァジニアが危機に陥る。それを北都が必死で助ける。ここでも事実とフィクションが巧みに交錯する。フィルビーの存在の背景には、まだソ連や共産主義が信じられていた時代がある。ここでも逢坂剛は現代史を俯瞰(ふかん)している。本シリーズの重要な登場人物はカナリス。祖国を愛するがゆえに反ヒトラーの立場を取り、最後、処刑されたカナリスと北都は強い友情で結ばれている。

 本書では、カナリスは本当に殺されたのか、もしかしたら生き延びてスペインに隠れ住んでいるのではないかという謎が暗示される。北都の、いや、逢坂剛のカナリスへの思いがこめられていて、この生存説には心震える。平和を希求する者どうしの強い友情である。

 十六年も持続した逢坂剛の力業を支えたのは二人の友情ではないか。

 長大な物語は、最後、北都が敗戦に打ちひしがれた日本に戻り、新たな再生の思いにとらわれるところで終る。ヴァジニアとの再会の場には涙を禁じ得ない。

 これだけの物語を書くのにあたって逢坂剛が厖大(ぼうだい)な資料を読み込んでいるだけではなく多数の日本人関係者に取材しているのにも敬服する。

 近代の戦争は個人の力を押しつぶした。しかし、この小説では個人が輝いている。
    --「今週の本棚:川本三郎・評 『さらばスペインの日日』=逢坂剛・著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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覚え書:「書評:復興文化論 福嶋 亮大 著」、『東京新聞』2014年02月09日(日)付。


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復興文化論 福嶋 亮大 著 

2014年2月9日


◆創造性に富む時代の到来
[評者]川村湊=文芸評論家
 気宇壮大な論である。日本文化に創造性が満ちあふれる時期は、戦争や大災厄からの復興期であると著者は説く。白村江の戦い、壬申の乱の後には清新な白鳳文化が生まれた。源平合戦後には、鎌倉新仏教が澎湃(ほうはい)として起こり、『平家物語』という叙事詩が生まれた。日露戦争後の自然主義文学も、第二次大戦後のサブカルチャー(大衆文化・文学)の勃興もそうであると、日本の文化史をたどり、復興期の精神の躍如たることを主張するのである。
 これは半ば説得的で、半ば疑わしい。柿本人麻呂の歌や空海の文業が、復興期の精神の所産であると断言するのは、少々ためらいを感じざるをえない。しかも、著者のいう復興や復興期という概念が必ずしも明確ではない。牽強付会(けんきょうふかい)と思える論点も散見される。
 だが、本書の眼目はそんな文化史の転換などにあるのではない。現在、復興といえば、3・11の震災後のスローガンとしてのそれを思い起こすのは当然だろう。つまり、本書の目標は、私たち現代の日本人が、この復興期にいかなる文化的生産を実現できるかを問題としているのだ。本朝の人麻呂から空海、『平家物語』から中上健次、一転して古代中国に飛べば、孔子、屈原(くつげん)から『水滸伝』へと話頭を転じ、再び本朝に戻っては『太平記』、滝沢馬琴、上田秋成を論じ、夏目漱石、太宰治、川端康成、三島由紀夫とつなぐ。最後は手塚治虫、宮崎駿、村上春樹と、あれよあれよという間に、読者は現代の日本社会へと帰着する。
 読者は本書を読み終えることによって、もう一度、震災後の復興の現場に戻ってくる。その時にガンバレ・ニッポンだの、無常観だのといった言葉がいかに虚(むな)しいか。日本文化はその程度のものか。いかにして、真に創造性に富んだ日本文化を創造することができるか。危機や災厄をチャンスに変え、復興や立ち直りの前髪を掴(つか)むこと。それはいつなの? 「今でしょ!」という声が本書の背後から聞こえてくる。
(青土社・2310円)
 ふくしま・りょうた 1981年生まれ。文芸評論家。著書『神話が考える』。
◆もう1冊 
 花田清輝著『復興期の精神』(講談社文芸文庫)。ダンテ、ダ・ヴィンチ、ポーなどを論じながら、衰退に瀕(ひん)した文化の再生を企図。
    --「書評:復興文化論 福嶋 亮大 著」、『東京新聞』2014年02月09日(日)付。

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覚え書:「フランソワ・トリュフォーの映画  アネット・インスドーフ著 和泉涼一ほか訳」、『東京新聞』2014年02月09日(日)付。


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フランソワ・トリュフォーの映画  アネット・インスドーフ著 和泉涼一ほか訳

2014年2月9日


◆固有の言語を紐解く
[評者]荒尾信子=映画批評家
 子供、親、映画、女性、ときめき、書物、愛、苦しみ、死、そして狂気。トリュフォーの映画には生きることの全てが詰まっている。そのいくらかは彼の生きた時間そのものであり、残りのいくらかは彼が生きた時間と経験の探究と検証の成果である。トリュフォーは監督になる前の批評家時代に、「作家の映画(=作家主義)」というものを提唱し称賛したことで知られるが、自身の映画はどのように「作家の映画」となっているのだろうか? 映画は固有の映画の言語を持つことを力説した彼の映画は、どのような言語を使っているのだろうか?
 著者インスドーフは、そんなトリュフォーのシネフィル=批評家時代、彼が師と仰いだヒッチコックとルノワールその他からの影響、作品中の諸々(もろもろ)のテーマと連関、それらを緻密に丁寧に紐解(ひもと)きながら、トリュフォー映画の秘密を解き明かしてくれる。論じる対象への慈しみに支えられたその詳細な読解と分析に導かれ、わたしたちも彼の映画をその深みのなかで生き直すことができるだろう。
 トリュフォーの新作公開に心ときめかせる楽しみを失って、久しい。歳月とともにその喪失の大きさが増大していくように思われるその死から早三十年。著者および翻訳者たちによって長い年月が費やされた労作である大部のこの本は、映画ファンへの喜ばしい贈り物である。
(水声社・5040円)
 Annette Insdorf 1950年生まれ。米コロンビア大教授、映画研究。
◆もう1冊 
 山田宏一著『フランソワ・トリュフォーの映画誌』(平凡社)。多くの画像からトリュフォー映画の魅力と秘密を示す。
    --「フランソワ・トリュフォーの映画  アネット・インスドーフ著 和泉涼一ほか訳」、『東京新聞』2014年02月09日(日)付。

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フランソワ・トリュフォーの映画
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覚え書:「保阪正康の昭和史のかたち [敗戦直後のベストセラー] 事実を伝える回路の大切さ」、『毎日新聞』2014年02月08日(土)付。


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保阪正康の昭和史のかたち
[戦後直結のゼストセラー]
事実伝える回路の大切さ

 太平洋戦争終結直後、どのような書がベストセラーになったか、その内実を探っていくと、さまざまなことがわかる。昭和前期の戦前、戦時下はいわば言論弾圧の時代と評することができるが、この間に抑圧されていた関心事が、戦後のベストセラーを生んだといっていい。
 戦後最初のベストセラーはある出版人の考えた「日米会話手帳」である。敗戦、占領という状態で、アメリカ軍兵士など多数が日本に進駐してくるだろうが、その会話の手ほどきをする冊子(32ページ)を敗戦の1カ月後(9月15日)に売り出した。3カ月ほどで三百数十万部を販売したという記録を打ち立てた。むろんこの背景には、「戦時下には敵性語(英語)を学んではいけない、読んではいけない、英書を持つ者は『スパイ』」といった軍部の脅しから解放されたという喜びもあったに違いない。
 昭和21(1946)、22(1947)年のベストセラーになった著作に、森正蔵の「旋風二十年」(鱒書房)がある。森は毎日新聞社の社会部長で、昭和20(1945)年12月に刊行された第1版の「序」に「(大日本帝国が掲げた)その目的を達するために、わが国が選んだ手段は厳粛に反省されなければならぬ。しかもその企ては国民の関知をよそにして行はれた。敗戦の強、今さらかうした究明を試みることが徒労であると云ふ勿れ。これはわれ等の再建の第一歩において、真摯に、また克明に行はれなければならぬ重要な課題の一つである(以下略)」と書いた。そして、この書は昭和という時代に伏せられていた史実を「忠実な叙述によって辿り、何が日本を今日の悲境に導いたかを明らかにする」とその意気込みを語っている。
 この書は当時の毎日新聞の記者たちがそれぞれ分担して書いたのだが、まずは「張作霖の爆死」から「二・二六前後」までを上巻として、昭和20年12月15日に発売された。出版社は日刊新聞に小さな広告を載せただけなのに、反響は大きく、初版10万部は1週間以内に売り切れた。神田の書店には購読者の行列ができた。
 下巻は「枢軸外交」や「日米交渉の真相」、そして戦時の内閣などについて記者たちがまとめ、昭和21年2月に刊行された。上下巻合わせて80万部近くを売ったという。ただし印刷事情、それに用紙の入手困難によって発行部数に限界があったためにこれ以上の増刷は無理だったようだ。
 この「旋風二十年」は、その後さらに改訂版も出されるが、しかしこの第1版の果たした役割は大きい。改めて手に取ってみると、目次には張作霖爆殺事件、3月事件、満州事変、2・26事件、日中戦争などまったく伏せられていた史実が並び、次々にその真相、あるいは裏面史が暴かれてるのである。この書の役割は、太平洋戦争への道筋を初めて国民の前に知らしめたという点にあると改訂版の編集に携わった一人が断言したが、それはまさにあたっている。しかもこの上下巻が刊行されたのは、東京裁判が始まる前のことで、読者は、国民が政治・軍事指導者からなにひとつ事実を知らされていないことにがくぜんとした、との読書感を寄せたのも十分にうなづける。
 この期のベストセラーには、尾崎秀実(ゾルゲ事件の被告)の「愛情はふる星のごとく」などもあり、読者は改めて言論抑圧期の怖さを身にしみて知ったはずだ。
 さてこれだけのことを理解したうえで、戦後すぐのベストセラーの持つ意味をもう少し独自の視点で分析してみたらどうだろうか。あえて2点を指摘しておきたい。その第一は、戦後からわずか3カ月ほどで新聞記者が、こうした書(「旋風二十年」)を書けるということは、彼らは権力者が隠している事実、そしてその隠し方がどのような暴力性を持つか知っていたということができる。
 それを書けないもどかしさから解き放たれて一気に真実を明かしたのである。
 そして第二は、読者は常に事実を知りたがっているということだ。権力者が一方的に事実を隠蔽することが続くと自らの知る欲求が無力化されていき、機会があればそれを表出させる(戦後すぐのベストセラーにはそのような意味がある)。あらゆる事実が公開されることによって、国民は自らの意見を持つことができるという当たり前の図式がここから読みとれる。
 事実を知っている記者、事実を知りたがっている読者。権力者はその回路を常に閉じようと試み、自らに都合のいい情報を流そうと画策する。このところのNHK会長の一連の発言を聞いていると、回路を閉じようとする意図があるとの歴史の流れを追った批判必要ではないか。
ほさか・まさやす ノンフィクション作家。次回は3月8日に掲載します。
    --「保阪正康の昭和史のかたち [敗戦直後のベストセラー] 事実を伝える回路の大切さ」、『毎日新聞』2014年02月08日(土)付。

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解禁 昭和裏面史―旋風二十年 (ちくま学芸文庫)
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覚え書:「今週の本棚・新刊:『つながる図書館 コミュニティの核をめざす試み』=猪谷千香・著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『つながる図書館 コミュニティの核をめざす試み』=猪谷千香・著
毎日新聞 2014年02月09日 東京朝刊

 (ちくま新書・819円)

 公共図書館は、書店で有料で売られている本を無料で誰にでも貸してしまう。全国に約3200館もあって、多くの人が当たり前のように利用しているのだが、よく考えてみると、少し変わった公共施設だ。

 その図書館が変わりつつある。単に本を貸すだけでなく、「課題解決」「ビジネス支援」を掲げ、そのための知識や関係機関とのネットワークを持った人材を配置する。地元特産品の普及のために、レシピと調理器具を貸し出したケースもある。

 一方で、財政難のあおりを受けて、どこの図書館も厳しい運営事情を抱えている。神奈川県では、県立図書館の存続の方向性が定まらず、「なぜ県が図書館を持つ必要があるのか」という議論が続いている。

 本書は、元新聞記者がこの10年間に起きた変化を取材したものだ。本の貸し借りは人のつながりを生む。関係者の知恵と愛情があれば、図書館がコミュニティの新たな核となる可能性がある、と著者は説く。

 民間企業が参画した運営形態や市長の発言から、何かと注目される佐賀県の武雄市図書館についても、そこで働く職員らの声が紹介されており、議論の助けになる。(直)
    --「今週の本棚・新刊:『つながる図書館 コミュニティの核をめざす試み』=猪谷千香・著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)
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覚え書:「今週の本棚:白石隆・評 『途上国の旅:開発政策のナラティブ』=浅沼信爾、小浜裕久・著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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今週の本棚:白石隆・評 『途上国の旅:開発政策のナラティブ』=浅沼信爾、小浜裕久・著
毎日新聞 2014年02月09日 東京朝刊

 (勁草書房・3885円)

 ◇開発の物語から積み上げる教訓

 近年、新興国の台頭がよく語られる。経済成長の「収斂(しゅうれん)」がおこっているからである。あるいは少し噛(か)み砕いて言えば、先進国にある技術が途上国に移転されて、一部の途上国経済がキャッチアップに成功し、新興国として台頭、その結果、先進国と新興国・途上国の格差が小さくなり、世界経済における先進国と新興国・途上国のバランスが急速に変化しているからである。

 しかし、経済成長は、経済成長理論が描くようなスムースなプロセスではない。また技術移転のプロセスも、そこに技術のギャップがあるから、水が高い所から低い所に流れるように、技術水準の高い所から低い所に移転し、その結果、経済成長の「収斂」がおこるといった自律的プロセスではない。マクロ的にはスムースに見えても、経済成長のプロセスでは、生産、雇用、所得配分、地域経済、消費構造等、経済のすべての面で大きな構造変化がおこっており、そうした変化に応じて、社会的、政治的構造変化もおこっている。その意味で、経済成長、経済発展はきわめて複雑な現象であり、開発戦略・政策の策定において経済成長理論は直ちにはその指針とならないし、いろいろな国の開発経験の違いをうまく説明するモデル、実証分析もない。

 つまり、別の言い方をすれば、途上国の開発戦略・経済政策は、その国の発展段階に応じたもので、またその国の置かれる世界的・地域的な政治経済環境に適したものでなければならない。ある政策がある国でかつてうまくいったからといって、同じ政策が別の国でこれからうまくいくとは限らない。では、どうすればよいか。いろいろな国のいろいろな開発の経験についてナラティブ(物語)を積み上げ、なにがうまくいき、なにがうまくいかなかったか、学ぶほかない。それが本書のねらいである。

 したがって、本書では、著者が実際に関与したいろいろな国のいろいろな開発の経験が物語られる。1950-60年代、一次産品輸出は成長のエンジンにならないと一般的に理解されていた時代に、パームオイルとゴムの一次産品輸出を「てこ」に経済成長を試みたマレーシアの開発プロジェクト、朴正熙政権下の韓国が採用した輸出主導型工業化・重化学工業化路線、かつて世界第二の高所得国だったアルゼンチンの輸入代替工業化と経済衰退、バングラデシュの経済成長とインフラ建設。こういう物語を積み上げ、著者はいくつかの「教訓」を引き出す。

 その一つは、これまでの経済発展の軌跡を国毎(ごと)に辿(たど)ってみると、経済発展が急速に進展する決定的な時期があり、その時期に開発の重要課題が出てくるということである。そのとき、そうした課題にどう立ち向かうか、課題を克服できるか、それによってそれ以降の発展過程が違ってくる。

 もう一つ、経済発展における政治指導者とテクノクラートの需要性である。経済発展を実現するには、政治指導者は、しばしば、短期的に、自分と自分の支持者の政治的・経済的利益を犠牲にしなければならない。それができるかどうか。また、有能なテクノクラートに支えられるかどうか。これによって経済発展の首尾は大いに違う。

 本書は開発経験の物語であるが、途上国の開発に一生を捧(ささ)げた専門家の物語でもある。特に著者の一人の浅沼信爾氏は世界銀行計画・予算局長、アジア第1局局長も歴任した専門家で、その人柄を彷彿(ほうふつ)とさせるエピソードと深い洞察からは学ぶところが多い。
    --「今週の本棚:白石隆・評 『途上国の旅:開発政策のナラティブ』=浅沼信爾、小浜裕久・著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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覚え書:「今週の本棚・新刊:『世界の記 「東方見聞録」対校訳』=M・ポーロ、R・ダ・ピーサ著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『世界の記 「東方見聞録」対校訳』=M・ポーロ、R・ダ・ピーサ著
毎日新聞 2014年02月09日 東京朝刊

 (名古屋大学出版会・1万8900円)

 通称『東方見聞録』の名で知られているが、ヨーロッパ・キリスト教世界を遥(はる)かに超える、まさしく世界旅行だったから『世界の記』が原題である。しかも、ジェノヴァの牢屋(ろうや)で知り合った騎士物語作家ルスティケッロがヴェネツィア商人の息子マルコの体験談とメモ書きをもとに、筋書きを立て編み上げた物語なのだ。

 オリジナルはひどくイタリア語がかったフランス語で書かれ、その後も標準フランス語、トスカナ方言、ヴェネト方言、ラテン語に訳された。1298年作のオリジナル版の記事も、転写され翻訳されるうちに省略・短縮・改変され、現存する諸版が生まれた。なかでも、F(オリジナル)、Z(羅語セラダ手稿本)、R(ラムージォ版伊語集成本)が基本テキスト。

 副題に“「東方見聞録」対校訳”とあるように、これら三つの版をつき合わせて全訳した世界初の試み。テキスト相互の異同が太字で示され、一般読者にも分かりやすい。

 「マルコ・ポーロ研究」で博士号を得た訳者は最適任者であり、丁寧きわまる解説は心強くもありがたい。まことに、わが読書界は、今後の探究のための信頼できる基盤を手にしたと喜びたい。=高田英樹訳(凌)
    --「今週の本棚・新刊:『世界の記 「東方見聞録」対校訳』=M・ポーロ、R・ダ・ピーサ著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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日記:悪徳商法としての二人の閣下


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大雪でてんやわんやの東京ですから、大雪に限らず、あらゆる防災に対する備えは必要だと思います。

しかし、「震災は天罰」よろしく、「20XX年 東京直下型地震発生」と危機を煽り、不安につけ込み紛いモノを売りつけるような手法とはいかがなモノでしょうか。

悪徳商法のひとつに「不安商法」というものがあります。

例えば、セールスマンが突如現れ、巧みなトークと煙に巻く専門用語を駆使して、「この家は、このままで危険だ」と煽り、高額なリフォームを契約させ、実際には以前よりも住み心地が悪くなってしまう……。

まさにかくの如き悪徳商法の好事例。しかも、街頭演説での応援演説においては、「南京大虐殺はなかった」とか「従軍慰安婦は無理矢理連行されなかった」と声高な主張が相次ぎましたが、それが震災への「備え」になったり、2020年の東京オリンピックをにぎにぎと開催することに直結するのでしょうか?

都知事選は終わりましたけれども、ふたりの閣下はその言論も劣悪なことは言うまでもありませんが、その手法までもが極めて下衆(げす)い。

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覚え書:「今週の本棚:海部宣男・評 『人類はどこから来て、どこへ行くのか』=エドワード・O・ウィルソン著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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今週の本棚:海部宣男・評 『人類はどこから来て、どこへ行くのか』=エドワード・O・ウィルソン著
毎日新聞 2014年02月09日 東京朝刊

 (化学同人・2940円)

 ◇「科学」に根差し「人間」に踏み込む思考

 人間とは何か。それをまともに問うのは、もちろん並大抵の仕事ではない。ゴーギャンがタヒチで描いた畢生(ひっせい)の大作の隅に「我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか」と書き残し、この種のテーマが繰り返される度に引用されて来た(ウンザリするくらい)。ではあるが本書の著者ウィルソンは、冒頭と終章でゴーギャンについて論じ、芸術家として真に独創的な形であの問いを表現したと称賛している。自分はゴーギャンに呼応し、科学者としてその問いに答えるのだという、真っ向からの自負の表明と受け取るべきだろう。この大きな問いに答えられるのは宗教でもなく哲学でもなく、事実を積み上げる科学だと、彼は言明する。科学はその面でかなりの成功を収め、少なくとも理路整然と取り組んで「ある程度」答えることも可能になったと。

 ウィルソンは、1929年アメリカ生まれ。アリの研究の世界的権威で、社会生物学の創出に関わり、人間の文化・社会への進化論の適用を大胆に提起して激しい論戦を巻き起こした。早くから自然科学と人文学の融合を唱え、著書では二度のピュリッツァー賞。今も環境保護で活躍中だ。この本は、彼の多岐にわたる仕事の中で「人間とは」という問いにどこまで答えられるか試みた、その集大成というところ。力瘤(ちからこぶ)が入るのも当然か。

 さて、人間とは何か。著者が提示する第一のキーワードは、「真社会性」である。アリやハチなどの昆虫でおなじみだ。多数の個体が世代を超えて巣を守りながら住み、個体間の分業や専門化で、「超個体」的生物集団の形成に至った。いっぽう人間は、大型動物では極めて珍しい真社会性動物だ。複雑で緊密な社会を形成しつつ、アリとは違って全個体が等しく生殖の可能性を持つ。著者の意見では、昆虫のように千万年単位の時間をかけ本能レベルで獲得した真社会性とは違い、高い知性を持つ人間の真社会性は、自然選択と文化社会性が相互作用しつつ急速に獲得された。それが良くも悪くも「人間らしさ」を形成した、というのである。

 では、人間はいかにして真社会性を獲得したか。そして真社会性は、人間に何をもたらしたか。この太く通った軸を中心に展開される議論はさすがの迫力だ。真社会性の獲得には「前適応」と「マルチレベルの自然選択」が重要な要素だったという。

 ここで、ちょっと説明。進化は、目的に向けてまっしぐらに進みはしない。偶然の重なりの中で環境に適応したものが選択的に生き残る自然淘汰(とうた)、つまりダーウィン進化である(著者がこれを迷路に例えたのはうまい比較だ)。そして、ある選択で形成された適応性が状況の変化で必要になった全く別の選択に利用されるのが、「前適応」。用意された性質が偶然別の思いがけない適応に役立つことで、その種が発展する。偶然役立った性質を重ねて、ジグザグの道の末に現れたのが真社会性動物たる人間、というわけだ。

 人間の進化における前適応の例として著者が挙げるのが、野営地の形成だ。つまり、定常的なコロニーである。ここを舞台に協力や分業が進み、文化的知能の発達をもたらし、その中での個体選択とグループ選択、著者が言う「マルチレベルの自然選択」でおきる衝突から、利他行動や倫理観も含む「人間らしさ」が生まれてきた。こういう著者の主張、なかなか魅力的である。

 ところで前にも触れたが、進化が遅く、生態系となじみ合って進化してきたアリなどと違い、大型で脳を発達させた人間では、社会性による支配が知能に助けられて早く進み、そのため周囲の生態系と共進化する時間がなかった。人間の発展は生態系を急速に圧迫し大きな危機を招いて、自らの将来を危うくしている。著者は早くから、この視点で生態系保全運動に取り組んでいる。

 本書では、人間社会がもたらした戦争や宗教問題にも鋭く切り込む。人間は同族意識が極めて強い動物で、戦いは旧石器時代から盛んだったとは、洞窟壁画を援用して著者が送る強いメッセージである。また、神話や組織宗教における強烈な同族意識、民族意識を指摘する。これらには、社会性の進化の中で人間が育ててきたグループ本能が大きく作用しているのだと。こうした著者の主張は人間性の否定などの批判も浴びたが、読んでみればわかるように、説得力に富むものである。

 大部の考察を一冊に詰め込んだから、ややわかりにくい部分も残る。しかし印象深い議論が随所に見出(みいだ)せるし、なにより科学に根差しつつ「人間」にぐいと踏み込む著者の浩瀚(こうかん)な思考には、刮目(かつもく)すべきものがある。

 なお著者は現在広く受け入れられている「血縁選択説」は破綻したとして「グループ選択説」による社会性の進化を説いているが、これには異論も多い(本書「解説」)。だが学説論争は常のこと。いずれ決着してゆくだろうし、我々読者にそう気になるところではあるまい。

 もちろん、十分な答えには遠い。しかし確かに「理路整然と取り組んである程度答える」という手応えを伝える本である。(斉藤隆央訳)
    --「今週の本棚:海部宣男・評 『人類はどこから来て、どこへ行くのか』=エドワード・O・ウィルソン著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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人類はどこから来て,どこへ行くのか
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覚え書:「今週の本棚・新刊:『人文地理学事典』=人文地理学会・編」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『人文地理学事典』=人文地理学会・編
毎日新聞 2014年02月09日 東京朝刊

 (丸善出版・2万1000円)

 人文地理学は人間と自然環境の関係や、人間活動の空間構造を研究する。ただ人間活動は政治、経済、文化の領域にわたる。加えて近年の南北問題、格差形成、環境問題、グローバル化など新しい状況の出現によって、研究対象へのアプローチは多様化している。

 例えば難民問題を人文地理学から読み解くと、従来のテーマは(1)難民発生の原因(2)難民が避難先に与える影響(3)先進国への再定住における居住空間問題--だった。しかし最近、難民の急増で隔離施設に収容される例も増加。施設の地政学的意味、地元住民の難民への心情、施設をめぐる議論も研究対象となっている。

 日本文化の人文地理学からのアプローチに畑作文化論や海洋文化論があるが、日本文化の系譜解明に有力なツールを与えたのが照葉樹林文化論。アジアから渡来した照葉樹林文化は日本に農耕文化を根付かせ、日本文化の基層を作ったという。

 学史や理論の系譜を押さえつつ、人文地理学から都市、開発、ツーリズム、社会福祉、人口問題、災害などを読み解く。268項目。人間生活と地理の深く緊密な関係性に改めて気づかされる。(恵)
    --「今週の本棚・新刊:『人文地理学事典』=人文地理学会・編」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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人文地理学事典
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丸善出版
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覚え書:「今週の本棚・新刊:『社会契約論--ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ』=重田園江・著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『社会契約論--ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ』=重田園江・著
毎日新聞 2014年02月09日 東京朝刊

 (ちくま新書・945円)

 「社会契約」という言葉に初めて接したのは、社会科の教科書の中だったろうか。十代の女の子には、およそリアリティを持たない言葉だった。その語が、くり返し脳裏をよぎるようになったのは、つい最近のことだ。きっとそれは、社会契約そのものが、強風にさらされたロウソクの火のようになっているからだと思う。

 どんな地方都市に行っても、多少の大きさの街であれば、コンビニや居酒屋で、ぎこちない日本語の外国人アルバイトに出会うようになった。私たちの暮らしには、「外部」が、ものすごい勢いで入ってきている。「グローバル化」って、そんなに生易しいもんじゃない。「私たち」って誰?という質問を、日々突きつけられている気がする。「ここにいる人々」が自明だった時代と違い、これからは、「私たち」であることのルールを意識的に可視化していかなければならない気がする。

 社会契約について、ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズが考えたことを、その人となりを含めて、重田園江さんが、少しだけやさしく語ってくれた。ホッブズが「大声健康法」の実践家だったと知るのは、ちょっと嬉(うれ)しい。(市)
    --「今週の本棚・新刊:『社会契約論--ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ』=重田園江・著」、『毎日新聞』2014年02月09日(日)付。

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日記:雪の進軍氷を踏んで


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雪の進軍

作詞・作曲:永井 建子


雪の進軍氷を踏んで
どれが河やら道さえ知れず
馬は斃れる捨ててもおけず
ここは何処ぞ皆敵の国
ままよ大胆一服やれば
頼み少なや煙草が二本
 
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2月8日(土)、

「雪の進軍」を口ずさみそうになるほど、東京では20年ぶりの大雪。その記録は戦後3番目だそうな。

少しその情景を残しておきます。


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覚え書:「失われた名前―サルとともに生きた少女の真実の物語 [著]マリーナ・チャップマン [評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。

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失われた名前―サルとともに生きた少女の真実の物語 [著]マリーナ・チャップマン
[評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)  [掲載]2014年02月02日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 

■互いが慈しみあう生活を求めて

 英国に住む今は平凡な主婦となった女性の回想録だが、内容は驚愕(きょうがく)の一言に尽きる。
 マリーナ・チャップマンは自分が出生時に何と名付けられたのか知らない。名前だけでなく生まれた場所もわからない。5歳ぐらいの時に何者かに誘拐され、それ以前の記憶が残っていないからだ。
 誘拐された後、彼女はジャングルに置き去りにされた。花柄のワンピースを着たひとりぼっちの少女が何年も密林で生き延びることができたのは、ひとえにサルの群れと出会うことができたからだった。最初は同じ物を食べ、鳴き声を真似(まね)るなどしただけだったが、そのうち家族同然で過ごすようになり、サルの感情や言葉を理解できるようになる。ある時などサルは明確な意思をもって病気の彼女を助けたことさえあった。
 失礼かもしれないが、本書はまるでサルが書いた本のようだ。もちろん悪い意味ではなく視座がサルのそれと同じなのだ。彼女の描くサルは人間のように会話をし、愛情たっぷりで個性豊かだ。それは言葉を覚えたサルによるサルの生の報告であり、どんなに優れた研究者の本にもこんなサルは出てこない。一方、サルから見た人間の姿は残酷で獰猛(どうもう)で傲慢(ごうまん)で不条理だ。人間が現れた時、サルたちは恐怖に怯(おび)えて警戒するが、それを読むと動物にとって人間がどういう存在なのかよくわかる。
 それにしてもこれは本当の話なのだろうか。人間社会に戻った後も彼女の人生は売春宿に売られ、路上生活をし、犯罪者家族から命を狙われ……と転変を極める。居場所が変わるたびに別の名前を与えられる、そんな奴隷のような生活から何度も逃走を試みるが、それはただサルと暮らしていた時のような互いが慈しみあう、愛情のある生活が欲しかったからだった。
 14歳で初めて彼女はそれを人間から与えられるのだが、その件(くだり)を読んだ時は胸に熱いものがこみあげてきた。
    ◇
 宝木多万紀訳、駒草出版・1890円/Marina Chapman 50年ごろ南米で生まれる。現在はイングランド在住。
    --「失われた名前―サルとともに生きた少女の真実の物語 [著]マリーナ・チャップマン [評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。

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失われた名前 サルとともに生きた少女の真実の物語
マリーナ・チャップマン
駒草出版
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覚え書:「バリの息吹―王族と庶民生活の融合 [撮影・文]小野隆彦 [評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。


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バリの息吹―王族と庶民生活の融合 [撮影・文]小野隆彦
[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)  [掲載]2014年02月02日   [ジャンル]アート・ファッション・芸能 国際 

■信仰と芸能を愛し、楽しむ日常

 単なるバリの観光写真集ではない。副題にあるように、バリの王族が、保護しているその伝統芸能や儀式を軸に、庶民とともに毎日を生きている貴重な記録である。
 具体的に言えば、芸術村ウブドの隣にあるプリアタンの情景だ。王族が結成したガムラン楽団ティルタサリとグヌンサリ歌舞団の日常に密着した。地域の子供たちも勤め人も主婦も踊る。皆がバリの信仰と芸能に親しみ、愛し、楽しんでいる。その日常が暖かく面白い。
 その王族マンデラ家には日本人女性が嫁している。そのマンデラケイコさんによる日々のお供えや祈りの生活もとらえられている。村の結婚式や祭りも見られるが、圧巻は葬式だ。約二十五メートルに及ぶ九重塔の葬式塔を組み、きらびやかに装飾して棺をおさめ、二百五十人で担いでゆく。多くの人がご詠歌を歌いながら随行し、最後は作りものの巨大な聖牛の中に遺体を収めて火葬にする。さながら祭りの賑(にぎ)わいもまた、バリ文化だ。
    ◇
 東京農工大学出版会・2625円
    --「バリの息吹―王族と庶民生活の融合 [撮影・文]小野隆彦 [評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。

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バリの息吹―王族と庶民生活の融合
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覚え書:「本当はひどかった昔の日本 [著]大塚ひかり」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。


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本当はひどかった昔の日本 [著]大塚ひかり
[掲載]2014年02月02日   [ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝 

 古典エッセイストの著者は中学生のときに『宇治拾遺物語』を原文で読み、「平安人になりたい」と思いつめた。現代女性の感覚で『源氏物語』を全訳し、『ブス論』などユニークな著作がある。40年近く古典を読んできて、今は「現代に生まれて良かったな〜」としみじみ思う。現代社会に特有と考えられている病理や事件の多くが、実は古典の書かれた時代にもあったから。
 たとえば育児放棄。9世紀の『日本霊異記』に、女盛りの母が多くの男と関係をもち、赤子に乳をやらずに飢えさせたため、早死にして、来世では乳房が腫れて痛む罰を受けたという因果応報譚(たん)がある。本の帯にいわく、「古典ってワイドショーだったんですね!」。
    ◇
 新潮社・1365円
    --「本当はひどかった昔の日本 [著]大塚ひかり」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。

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本当はひどかった昔の日本: 古典文学で知るしたたかな日本人
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日記:歴史はまた、起源をおごそかに祭りあげるのを笑うことを教えてくれる


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 歴史はまた、起源をおごそかに祭りあげるのを笑うことを教えてくれる。起源をもちあげること、それは「万物の始めには最も貴重な、最も本質的なものが存在するという考え方のうちに再生する形而上学のひこばえ」なのである。ものはそもそもの始めにはその完全な状態にあったとひとは信じたがる。ものは創造主の手からきらめきを放ちながら出てきた、あるいは最初の朝の陰のない光の中にきらめき出たと信じたがる。起源はつねに、失墜の前、肉体の前、世界と時間の前のものである。起源は神々のがわにあり、これを語るのに、ひとはつねに神々の発生の系譜を歌いあげるのだ。しかし歴史の始まりは低いものである。というのは鳩の歩みのようにつつましやかで控え目だという意味ではなく、嘲弄的で、皮肉で、あらゆる自惚れをうちこわすようなものだということである。「人びとは自分が神の血統であると示すことによって、人間の至高性の感情を呼び起こそうとした。これは現在では禁じられた道になった。なぜならその戸口には猿が立っているからだ。」人間はこれから自分がそうなっていくもののしかめ面からまず始めたのだ。ツァラトゥストラでさえも彼の猿をもち、その猿が彼のうしろでとびはね彼の衣の裾をひっぱることになる。
    --ミシェル・フーコー(伊藤晃訳)「ニーチェ、系譜学、歴史」、小林康夫、石田英敬、松浦寿輝編『フーコー・コレクション3 言説・表象』ちくま学芸文庫、2006年、354-355頁。

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現代は堕落している。だからこそ輝かしき過去に学べ--だいたいこうした論調を声高に唱える連中にはろくなやつがいやしない。

例えば、出生率の低下が問題となって久しいが、その原因を「女性の社会進出」に認め「『性別役割分担』は哺乳動物の一員である人間にとって、きわめて自然」などとザレゴトを述べる女性学者がいたりする。

「女性の社会進出」が共同体形成を毀損すると認めるのであれば、なぜその指摘する女性学者は「家庭」に引きこもるという選択肢を取らなかったのだろうか……などとも邪推してしまう。

人間において「性別役割分担」が定着するのは極めて後期近代になってからのことで、アメリカの家庭生活が憧憬される戦後日本の高度経済成長期に定着する「仕組み」で、生物学的のみならず歴史学的にもそれは自然な伝統ではない。

しかも同じ人物が、言論機関へのテロ行為を礼賛しながら、公共放送の経営委員に収まる動転の世界。加えて「わが国を代表する哲学者、評論家として活躍し、わが国の文化にも精通している」から選任したそうだが、学問的にもいかがわしい主張をして何ら恥じることのない人間が「わが国を代表する哲学者、評論家」であってよいのであろうか。

現代は堕落している。だからこそ輝かしき過去に学べ--その言葉を時宜通りには否定しない。冒頭でも言及したけれども、しかし、だいたいそういう連中が、自分たちの歪曲した主張を補強する為に、持ち出す歴史の起源やら伝統というものはたいていがその歪曲した主張と同じく、ねじ曲がったものが殆どだ。

「これが自然です」

「伝統がこうなのだからそうしなさいよ」

ばかにつける薬はない。

「歴史はまた、起源をおごそかに祭りあげるのを笑うことを教えてくれる」から、こういう手合いは相手にしない方が賢明だ。

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フーコー・コレクション〈3〉言説・表象 (ちくま学芸文庫)
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覚え書:「地図と領土 [著]ミシェル・ウエルベック [評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。


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地図と領土 [著]ミシェル・ウエルベック
[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)  [掲載]2014年02月02日   [ジャンル]文芸 

■純然たる絶望、奇妙な清々しさ

 フランス現代文学の鬼才、いや、鬼っ子の新作『地図と領土』は、世界と人間への強烈な侮蔑と、それを自らに許す作家自身のあまりにも魅力的な傲慢(ごうまん)という持ち味を遺憾なく発揮しつつ、新たな境地へと鮮やかに突き抜けてみせた、紛(まご)うかたなき傑作である。
 主人公はジェド・マルタン、アーティスト。若き日の芸術的理想を捨ててリゾート開拓の分野で成功を収めたが、既に引退している寡黙な老父が買ってくれたパリのアパルトマンにひとり住みながら、孤独に作品制作をしている。だがジェドの孤独は彼自身が望んだことでもある。彼は一個人としては、他人にも社会にも興味を抱いていない。だが、にもかかわらず彼はフランスという国と、より大きな視野での現代文明と人間生活にかんする、独創的と言ってよい芸術作品を創り出し、本人の意志とは無関係に、あっという間に美術界のスターになってしまう。写真、絵画、ビデオと媒体を変えながら、ジェドは共感とは無縁のまま、世界を冷徹かつ克明に描き出すことで、それらと否(いや)応無しにかかわってゆく。まず何よりも、この小説は、一風変わった「芸術(家)小説」である。
 だが、ここにもうひとりの人物が登場する。それはなんと「ミシェル・ウエルベック」である。世間のイメージそのままのスキャンダラスで嫌われ者のウエルベックに、ジェドは自分の展覧会カタログへの寄稿を依頼し、作家の肖像画を描くことになる。孤独な芸術家と孤立した小説家は不思議な交流を結ぶ。だが、そこに或(あ)る事件が起こる……予想もつかない展開に、読者の多くは驚愕(きょうがく)することだろう。それはまるで、小説のジャンルが一変してしまったかのようでさえある。だがその後には、深く苦い納得が待ち受けている。完璧な、決然としたペシミズム。純然たる絶望。だが、それはなぜか奇妙に清々(すがすが)しいのだ。
    ◇
 野崎歓訳、筑摩書房・2835円/Michel Houellebecq 58年、仏生まれ。小説家。『素粒子』『ある島の可能性』など。
    --「地図と領土 [著]ミシェル・ウエルベック [評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。

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覚え書:「教育委員会-何が問題か [著]新藤宗幸 [評者]川端裕人(作家)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。


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教育委員会-何が問題か [著]新藤宗幸
[評者]川端裕人(作家)  [掲載]2014年02月02日   [ジャンル]教育 社会 

■タテ行政に組み込まれた現実

 教育委員会とその事務局を区別して言葉を使っている人がどれだけいるだろう。メディアでも、本来サポートする側の事務局をそのまま教育委員会と呼ぶ場合が多い。教育行政の核でありながら、我々はその仕組みと実情に無関心ではないかと考えていたところ、本書に出会った。
 戦後「教育行政の一般行政からの分離・独立」のために制度化され、レイマンコントロール(民衆統制)を旨とするが、実際には「タテ行政系列」に組み込まれている現実。議会の承認を要する教育委員は、根回しにより事実上、行政側の思惑通りに決まる。公開が原則の委員会の前に「研究会」などと称し、事務局側の意向を説明する機会が設けられる。事務局はエリート教員の「インナーサークル」であり、トップに立つ教育長は「全国都道府県教育長協議会」などを通じて文科官僚と定期的な会合を持つ。まさに“「民衆統制」を「隠れ蓑(みの)」とした中央から地方教育委員会にいたる事務局支配”。第2次安倍内閣の教育再生実行会議が提言した“首長による教育長任命”も、現状を「あらためて制度化しようとするもの」と皮肉を述べる。
 打開策として、著者は、現行のタテの行政系列の廃止、直接参加民主主義による学校運営を主張する。中央機関は最低限守るべきナショナルミニマムと、実現が望ましいナショナルスタンダードを策定することに専念。一方で、子どもたち、保護者、教員、校長、学区住民などからなる「学校委員会」が、個々の学校、自治体での教育についての決定権を持つ。現行の学校運営協議会を連想する方もいるかもしれないが、こちらは「タテ行政」の中に組み込まれた諮問機関であり、異質だ。
 様々な異論はあろう。しかし、教育委員会制度について、無関心や単なる思いつきレベルではない、制度と実情の理解を伴った議論の呼び水となることを期待する。
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 岩波新書・798円/しんどう・むねゆき 46年生まれ。千葉大学名誉教授(行政学)。『司法官僚』など。
    --「教育委員会-何が問題か [著]新藤宗幸 [評者]川端裕人(作家)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。

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覚え書:「花森安治伝-日本の暮しをかえた男 [著]津野海太郎 [評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。


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花森安治伝-日本の暮しをかえた男 [著]津野海太郎
[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)  [掲載]2014年02月02日   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 

■「まちがった後」を生ききる

 花森安治といえば、センス抜群のイラストとグラフィックデザイン。そして広告を潔く排し、地道すぎるほど地道に行われた商品テストを載せた雑誌「暮(くら)しの手帖」。
 1980-90年代、広告収入に依存した雑誌全盛の時代、すでに花森亡き後であるが、この雑誌の、消費社会に徹底抗戦するかのごときたたずまいは、書店で孤高のオーラを放っていたのだった。それが世紀が変わり、景気の悪さも板に付いた頃か、若い世代からのいわゆるロハス的な視点の再評価が始まった。嬉(うれ)しい一方、何か引っかかる。
 本書を読んで腑(ふ)に落ちた。花森安治には、第2次大戦時に大政翼賛会の宣伝部に在籍し「お国のために」懸命に働いていた時期があった。
 後年、「暮しの手帖」が百万部越えの国民雑誌となり、女装の反戦論者として有名になると、戦時中はあんなことをしていたくせにという揶揄(やゆ)があがったという。
 黙してなにも語らなかった花森の真意はどこにあったのか。裕福でなかった家庭、帝大在学中の就職と結婚、化粧品会社広告部に就職するも、1年で出征。そして病で除隊となり大政翼賛会へ就職。著者は丹念に戦前からの花森の軌跡を追い、才能に恵まれながらも妻子を抱え、先の見えない世情に翻弄(ほんろう)される若者の姿を浮かび上がらせる。
 戦後、花森は「女性の暮し」を良くすることで日本を変えようと「暮しの手帖」を作る。個人の責任で判断し発信するため、一点の妥協も許さずすべての組織と無縁に、君臨する。まるで「紙の砦(とりで)」。そんな偉業をなし遂げた万能編集長、どこにもいない。長らく編集長を経験した著者ならではの花森への共感と距離感が心地よく響く。
 人はだれでもまちがう。その後、どう生きるかだと著者は説く。今度こそまちがわないという、狂気じみた覚悟で花森は「まちがった後」つまり戦後を生ききったのだ。
    ◇
 新潮社・1995円/つの・かいたろう 38年生まれ。評論家。「季刊・本とコンピュータ」総合編集長などを歴任。
    --「花森安治伝-日本の暮しをかえた男 [著]津野海太郎 [評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)」、『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。

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覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 家族なき高齢者の増加 『責任もって見守る』システム急務」、『毎日新聞』2014年02月05日(水)付。


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くらしの明日
私の社会保障論
家族なき高齢者の増加
「責任もって見守る」システム急務
山田昌弘 中央大教授

 先日、病院勤務の医師と話していた時のことである。私が家族を研究していると言うと「いま、家族がいない入院患者が増えて困っている」という。引き取り手のいない孤立死のことかと聞くと、それだけではなく、回復して退院する時に問題が出てくるそうだ。
 今までは、入院患者には必ず、同居か別居かにかかわらず、何らかの家族、つまり、配偶者や子ども、時にはきょうだいやおい、めいがいて、病院側は彼らに退院後の生活の注意点を説明していた。説明する患者を責任を持ってみてくれる「家族」が存在するのが当然だった。だが最近は、配偶者も子どももいない「孤立高齢者」の退院後の生活指導を誰に託したら良いかが問題になっているという。
 地域には民政医院はいるが、「責任をもって見守り、生活行動を指示する」ことまでは手が回らない。彼の病院では、ケースワーカーが患者の退院後のケアを気遣っているというが、来院が前提。そもそも「病院に行け」と言ってくれる家族がいないから問題が起こるのだ。
 家族がいない1人暮らしの高齢者も、元気な時は友人や近所の人と生活を楽しむことができるだろう。だが、入院したり事故に遭ったり、お金の問題が起きた時など、いざという時に責任を持ってその人の世界津について決断し処理するのは、今のところ家族に頼らざるを得ない。
 高齢者に限らず、家族がいない孤立した人の生活責任を誰が負うかに関しては、誰も答えを見つけることはできていない。親しい友人がいたとしても、どこまで介入していいかわからないし、成年後見制度の適応者は著しく狭い。日常的に元気な人に、予防的に成年後見をつけるわけにはいかないのだ。
 今後、家族のいない高齢者が増えることは確実である。今の70歳前後の高齢者の未婚率は約3%。平均きょうだい数は4・5人で、おいやめいも多い。1人暮らしでも、いざとなった時に責任をもって対処してくれる家族がいる確率は高いはずだが、それでも孤立死がかなり出てきている。
 50代前半になると、未婚率は約15%。離別者も多い。きょうだいの数も2人強。親戚関係も疎遠になっている。親が亡くなれば、身近な家族が一人もいなくなる高齢者は、今後加速度的に増えていく。
 「いざとなった時に責任を持ってくれる誰か」を、個人的に見つけておく努力も必要だろうが、それだけでは不十分だ。「家族難民」とも呼ぶべき人々を出さないためにも、孤立した人々を「個人として責任をもってみる」システムを早急に作ることが求められている。
ことば 孤立する高齢者の増加 2010年版高齢者白書によると、60歳以上の男女に対し困った時に頼れる人がいるかを聞いたところ、全体の96・7%が「いる」と回答。「いない」は3・3%だった。男性や1人暮らし世帯、健康状態の良くない人や暮らし向きが苦しい人が、孤立傾向が高かった。
    ーー「くらしの明日 私の社会保障論 家族なき高齢者の増加 『責任もって見守る』システム急務」、『毎日新聞』2014年02月05日(水)付。

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覚え書:「書評:漱石のパリ日記 山本 順二 著」、『東京新聞』2014年02月02日(日)付。

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漱石のパリ日記 山本 順二 著

2014年2月2日


◆光と影感じた一週間
[評者]小倉孝誠=慶応義塾大教授
 夏目漱石が一九〇〇年十月末から、国費留学生として二年間ロンドンで暮らしたことはよく知られている。ところで漱石は、イギリスに渡る前パリに一週間滞在している。彼はそこで何を見て、何を感じたのだろうか。本書は漱石の日記や手紙、そして同時期ヨーロッパに渡った他の日本人たちの記録にもとづいて、その一週間を再現してみせる。
 パリに立ち寄ったきっかけは、万国博覧会を見物するためだった。時はベル・エポック(美しき時代)、パリがまさに美と繁栄を誇っていた頃である。博覧会場に足を運んでその規模に驚き、エッフェル塔にのぼり、生まれてはじめて地下鉄に乗り、繁華街のようすを目にして「其(その)状態は夏夜の銀座の景色を五十倍位立派にした」ようなもの、と漱石は感嘆した。ひとりの観光客として、華(はな)の都の壮麗さに圧倒されたのである。
 他方、博覧会に展示された日本の陶磁器や西陣織がみごとな工芸品であり、他の国の展示品と比べて遜色ないことも、きちんと見ていた。さらに、夜の歓楽街に娼婦(しょうふ)たちが数多く群がって、いかがわしい雰囲気がただよっていることに眉をひそめた。「巴里の繁華と堕落は驚くべきものなり」。漱石先生、パリの光と影をしっかりとらえていた。
 漱石ファンにも、パリの歴史に関心ある読者にも、楽しい一冊である。
(彩流社・2100円)
 やまもと・じゅんじ 新聞記者を退職後、ライターに。著書『漱石の転職』。
◆もう1冊
 鹿島茂著『パリの日本人』(新潮選書)。成島柳北・原敬・獅子文六など、幕末以降の日本人によるパリ訪問を探る。
    --「書評:漱石のパリ日記 山本 順二 著」、『東京新聞』2014年02月02日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014020202000164.html:title]

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漱石のパリ日記: ベル・エポックの一週間
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覚え書:「書評:古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山 力也 著」、『東京新聞』2014年02月02日(日)付。

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古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山 力也 著

2014年2月2日


◆150軒の色描き分ける
[評者]折付桂子=古本屋ウオッチャー
 古本の世界に愛書家や古本狂は多いが、著者ほどの<古本屋狂>は珍しい。著者は二〇〇八年春から各地の古本屋を訪ね、ブログにつづり始めた。緻密な店内描写に店主の人柄や地域風景をも書き込んだ内容は人気を博し、現在も続く。本書は、その中から一五〇軒を選んだ古本屋応援歌である(巻末にツアーリスト一五五〇軒を収録)。神保町の老舗から被災地の仮設店舗、店名不詳の無人店まで踏査し、従来のガイドブックが<古書一般>と括(くく)っていた店の色を詳細に描く。
 長期休業中の店で埃(ほこり)を払いつつ「店内は縦長で左右と奥壁は高い本棚で覆われ、入口(いりぐち)窓際下にも本棚…右壁は美術、山岳…」と観察する姿から見えるのは、古本屋への飽くなき探求心と執着心。古本世界を知らない読者も驚嘆するだろう。
 全古書連によれば、二十年前に二七二〇軒あった加盟店は現在二二〇二軒。しかも、三分の一弱は目録やネット販売などで店舗営業は激減、一軒一軒古本屋を巡る楽しみも半減した。欲しい本はネットで簡単に検索でき、見比べて安く買える時代、古本を探して人が歩かなくなったのだ。本との出会いを求め歩く人が増えれば、それが古本業界の活力になる。少なくはなったが、地域に根差し頑張る店がまだ残る。独特な感性で店作りをする若い店主の参入もある。本書はそんな店も応援する。ぜひ続編も望みたい。
(原書房・2520円)
 こやま・りきや 古本屋ツーリスト。全国津々浦々の古書店を調査する。
◆もう1冊
 『古本屋名簿 古通手帖2011』(日本古書通信社)。二千軒を超える全国の古書店の連絡先・特色・地図を掲載。
    --「書評:古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山 力也 著」、『東京新聞』2014年02月02日(日)付。

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覚え書:「デモクラシーの生と死(上・下) [著]ジョン・キーン [評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)」『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。

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デモクラシーの生と死(上・下) [著]ジョン・キーン
[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)  [掲載]2014年02月02日   [ジャンル]政治 社会 ノンフィクション・評伝 


■証拠を突きつけ、過去の常識覆す

 本書を読むと、古代・中世・近代を区分することになんの意味があるのか、そうすることで歴史の水面下で脈々と過去を未来につなげようとする人々のダイナミックな動きを抹消してしまうのではと強く思う。「過去のものごとの記憶を、デモクラシーの現在・未来に不可欠なものとして扱い」、従来の「西欧デモクラシーのドグマ」、なかでもデモクラシーを「非時間的」なものとして扱う『歴史の終わり』(F・フクヤマ)やデモクラシーを19世紀の発明とする『第三の波』(S・ハンチントン)を退けている。
 これまで多くの人が当たり前だと思っていたことを、著者は次々と証拠を挙げて否定する。集会デモクラシーの起源は、紀元前6世紀末のギリシャ・アテナイではない。なんと前2千年の古代ミケーネ文明に「デーモス」(民衆)の直接の語根があり、東方にその起源があったことを、考古学的な新証拠によって指摘する。
 驚きはこれだけにとどまらない。代表デモクラシーも英仏の市民革命で突然変異的に誕生したのではない。スペイン北部で12世紀になって「後に代表デモクラシーと呼ばれるようになるものの中核的構成要素の一つが誕生した」。それはコルテス(議会)であり、その起源にも東方、すなわちイスラムがかかわっている。20世紀後半に始まり、今なお生起しつつあるさまざまな非政府組織による権力監視システムを取り入れた「脱代表デモクラシー」(モニタリング・デモクラシー)の始まりはインドで、デモクラシーの生成には中産階級の存在や、共通の文化で結束しているデーモスの存在が必要不可欠だというこれまでの常識をくつがえした。
 しかし、デモクラシーを支えたものが時代に適合できなくなったとき、デモクラシーもまた死す。古代ギリシャの集会デモクラシーは「帝国から利益を得た」ことで、結局、マケドニア軍によって断ち切られた。
 本書によれば、代表デモクラシーは、貨幣経済の拡大と軌を一にしている。中世後半のイタリア北部の資産家階級は自らを「市民債権者」と考え、「統治機関に自分のお金を貸すという原理を実験した」。彼らが税金を支払う条件とは「そうした金が利息付きで払い戻され」ることだった。
 その創設原理に鑑みると、ゼロ金利時代が到来し、近代の代表デモクラシーはすでに破綻(はたん)していることになる。代表デモクラシーが「多数派の規制なき意思による統治として語られる時代は過ぎ去った」のに、今の資本主義は、むしろ「多数派の規制なき意思」への依存を強めている。この裂け目の帰結はどうなるのだろうか。
    ◇
 森本醇訳、みすず書房・各6825円/John Keane 49年オーストラリア生まれの政治学者。豪アデレード大、加トロント大、英ケンブリッジ大などで学ぶ。現在、豪シドニー大と独ベルリン科学センター(WZB)の政治学教授。
    --「デモクラシーの生と死(上・下) [著]ジョン・キーン [評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)」『朝日新聞』2014年02月02日(日)付。

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日記:雪降れば 冬ごもりせる 草も木も 春に知られぬ 花ぞ咲きける


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雪降れば 冬ごもりせる 草も木も 春に知られぬ 花ぞ咲きける 紀貫之
巻6「冬歌」0323『古今和歌集』

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2月4日火曜日、立春。東京では今季初の降雪。
翌日にはほとんど残りませんでしたその光景を残しておきます。


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覚え書:「今週の本棚:大竹文雄・評 『意外と会社は合理的』=R・フィスマン、T・サリバン著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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今週の本棚:大竹文雄・評 『意外と会社は合理的』=R・フィスマン、T・サリバン著
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

 (日本経済新聞出版社・1890円)

 ◇「組織の経済学」で会社の問題を理解する

 「帝政ロシア軍のある将軍が、軍隊でノミが大量繁殖して困っていたので、ノミを一匹捕まえるたびに報奨金を出すことにした。……フタを開けてみると、ノミの被害はさらに広がった。毛深く皮膚の厚い兵士が大量のノミを飼育して同僚に販売し、全員がノミの報奨金で大儲けできるようにしたからだ。」本書で紹介されている小話である。著者はコロンビア大学のフィスマン教授と編集者のサリバン氏。本書は、組織の経済学と呼ばれる経済学の成果を豊富な具体例で一般向けに解説したものだ。

 笑っていられない実例も多い。あるソフトウェア会社がプログラマーの報酬にバグ(プログラムミス)修正の件数を反映させると、バグは増えたという。警察官に逮捕件数に応じた報酬制度を適用すれば、警察官は殺人事件よりも軽犯罪を取り締まるだろう。銀行員に融資額に連動した報酬制度を適用すれば、銀行員は貸し倒れリスクを無視して融資額を増やすだろう。

 インセンティブ設計は難しい。私たちが働いている組織は、組織の目的に沿って私たちが働くように、様々な制度をもっている。しかし、多くの仕事は単純な業績指標ではその成果をはかれないことが多いし、複数の仕事をしている上、チームワークや評価が難しい仕事も多い。だとすれば、インセンティブや監視がなくても、組織のために正しいことをしてくれる人材を捜した方が早いかもしれない。

 会社は様々な工夫をしている。グーグルは、高いプログラミング能力をもった従業員の採用に力を入れ、充実した福利厚生制度を提供し、社員をつなぎ止める努力をしている。窓口係として顧客対応能力が優れているのは休息時に笑顔を浮かべていた人物であることを知ったコマースバンクは、面接にきた求職者が待機している間に受付係が表情を観察し、スマイルテストに合格した人を原則採用するという。

 難しいのは、組織の目標と自分の目標が近い優れた従業員にはインセンティブ制度が不要だけれども、そうでない人には必要だということだ。評価制度には歪(ゆが)みがあるため、それを利用して所得を最大にする従業員をみると、組織の本来の目標に忠実な従業員には大きな不満となってしまう。しかし、こうした問題は、組織を運営するためには必要なコストであることが、組織の経済学から論理的に明らかにされるのである。

 教会の牧師のインセンティブ制度、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社の企業組織の変遷、アメリカ陸軍やマクドナルドが直面する規律への服従と創造性の両立という問題など、様々な具体例から、最適な組織が複数の目的のバランスでできていることを読者は理解することできる。

 組織の中で最も重要な役割をしているのがCEOである。戦略的目標を設定することはCEOでなければできない。では、CEOは具体的に何をしているのか。ある調査によればCEOは労働時間の80%を会議に使っている。CEOは情報を集め、自分のビジョンを従業員に伝えることを主な仕事にしているのだ。特に、言葉にするのが難しい指示や指針という組織文化を醸成することこそリーダーシップの役割だという著者らの指摘は大切だ。明文化されたルールがない場合に人々がとる行動の方向付けができるか否かが、組織の効率性を大きく左右するのだ。

 組織を運営する立場の人も、組織の中で非効率性に疑問を感じている人も、本書を読めば納得できることが多いはずだ。そして、会社という複雑な組織も、経済学の目でみると違って見えてくる。(土方奈美訳)
    --「今週の本棚:大竹文雄・評 『意外と会社は合理的』=R・フィスマン、T・サリバン著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140202ddm015070012000c.html:title]

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意外と会社は合理的 組織にはびこる理不尽のメカニズム
レイ・フィスマン ティム・サリバン
日本経済新聞出版社
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覚え書:「今週の本棚・新刊:『<群島>の歴史社会学』=石原俊・著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『<群島>の歴史社会学』=石原俊・著
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

 (弘文堂・1470円)

 小笠原諸島と硫黄諸島(通常は前者に含むが本書は分けている)の歴史を通して、近代の国民国家や資本主義を相対化する試み。

 小笠原に人が住み始めた19世紀初頭の太平洋は、島々と欧米の船が「大陸」と違う独自の秩序を持ち得た最後の時代だった。乗組員たちは、さまざまな理由で船を下り、島々に定住することも多かった。逆に現地民が乗組員になり、結果として他の島に移住したりした。つまり、島と海は、国民国家の領域支配が及ばないネットワーク空間だったのだ。

 小笠原も欧米人らの移住から住民史が始まる。その後数十年で日本の統治下に置かれ、硫黄諸島にも移民が始まり、海洋国家日本の最前線に。戦時中、欧米系住民はスパイ視された。硫黄島の男性は戦闘にかり出された。さらに戦後、自衛隊が基地化し、島外に疎開した元島民は今も帰島を許されない。他国の軍隊による沖縄の基地とは違う「日本人」同士の基地問題は、本書の指摘どおり、一般にあまりにも意識されない。

 専門用語が多く取っつきにくい面はあるが、昨今高まる偏狭なナショナリズムを相対化する視点を改めて提供する本としてもよい。(生)
    --「今週の本棚・新刊:『<群島>の歴史社会学』=石原俊・著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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覚え書:「最古の日付 日本語新聞 『文久二年正月元旦』漂流記翻訳者が発行」、『毎日新聞』2014年02月04日(火)付。


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最古の日付 日本語新聞
「文久二年正月元旦」漂流記翻訳者が発行
京都の漢学塾跡

 京都市下京区の本草漢学塾「山本読書室」跡から見つかった新史料の中に、日本語の新聞としては最古の日付とみられる「文久二(1862)年正月元旦」と印刷したものがあることが3日、分かった。松田清京都外大教授(日本洋学史)が記者会見し明らかにした。大学の紀要にも発表した。
 従来、江戸幕府の洋楽機関・蕃書調所がオランダ語新聞を翻訳し、「文久二年正月」に発行した「官板バタヒヤ新聞」が日本語初の新聞とされていたが、日付が不明だった。今回は日付があることから、日本人が記事を執筆、編集した新聞としては最古とみられ、当時の新聞の形態や記事の内容など新聞の変遷をうかがう上での貴重な史料となりそうだ。
 タイトルはオランダ語で「新聞紙の写し」。発行日付と場所は「1862年1月1日、ミヤコ(京都)で」と記されていた。松田教授は、ロビンソン漂流記の翻訳者として知られる膳所藩(大津市)の蘭学者、黒田麹廬(きくろ 1827~92)がペンネームを使い京都で発行したと結論づけた。
 編集発行者名は末尾に「蟻衣翼中活字于酒母楼」とペンネームが記されていた。松田教授は「ペンネームの前半部分の意味は調査中だが酒母はコウジロウと読める」と人物像を絞り込んだ。記事の自筆原稿も見つかった。
 木製の活字で印刷され、縦24センチ、横33・3センチの和紙1枚。記事は漢字仮名交じりで書かれ、縦1段組みで38行あった。記事の2行明で「本邦新聞紙ノ起源トセン乎(日本の新聞の起源であろうか」)と自負をにじませている。

 毎日新聞は現存するわが国の日刊紙では最も伝統がある。前進の東京日日新聞は1872年(明治5)年2月21日創刊された。
    --「最古の日付 日本語新聞 『文久二年正月元旦』漂流記翻訳者が発行」、『毎日新聞』2014年02月04日(火)付。

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覚え書:「特定秘密保護法に言いたい:歴史の検証、阻害の恐れ 日本近現代史学者・加藤聖文さん」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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特定秘密保護法に言いたい:歴史の検証、阻害の恐れ 日本近現代史学者・加藤聖文さん
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

 ◇加藤聖文さん(47)

 個人情報の過剰保護が問題になっているが、特定秘密もその二の舞いにならないか懸念する。

 国と自治体が個人情報保護法や条例を制定した主な目的は、電子情報の制御だったはずだ。だが施行後、現場(役所)では「個人情報」の名の下に必要以上に情報が閉ざされている。一方で電子情報の流出には歯止めがかかっていない。

 敗戦後の日本人引き揚げを研究しており、当時作成された個人名入りの書類や名簿は基礎資料だ。だが開示を求めても拒まれたり、人名を黒塗りにされたりすることが多い。たとえば以前出版された本に掲載されている旧満州の開拓団員名や空襲犠牲者名なども、「個人情報」の一点張りだ。

 個人情報保護法では、死者は原則として対象外だ。「研究目的」も適用除外が認められる余地があるが、なかなか見せてもらえない。適用除外規定のない条例を定めている自治体では、まったく見ることができない。

 個人情報保護法は、法案審議段階から拡大解釈の恐れが指摘された。特定秘密保護法はどうか。昨年の国会論議で政府は「秘密は限定される」と説明した。確かに、立法者に秘密を広げる意図はないかもしれない。だが現場では、特定秘密に該当する可能性が数%でもあれば、情報を閉ざすだろう。責任を問われたくないからだ。

 文書が必要以上に秘密にされ、いつまでも非公開にされたら、近現代史研究者として当時の政策判断の正否を検証し、国民に伝えることが不可能になってしまう。【聞き手・青島顕】=随時掲載

==============

 ■人物略歴

 ◇かとう・きよふみ

 1966年生まれ。国文学研究資料館助教。日本アーカイブズ学会委員。著書に「『大日本帝国』崩壊」「満鉄全史」など。
    --「特定秘密保護法に言いたい:歴史の検証、阻害の恐れ 日本近現代史学者・加藤聖文さん」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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特定秘密保護法:若い力で「ノー」を 大学生らデモ
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

(写真キャプション)特定秘密保護法の廃止を求めてデモ行進する学生ら=東京都新宿区で1日午後3時4分

 特定秘密保護法の廃止を求める大学生らが1日、東京・新宿の繁華街をデモ行進した。フェイスブックやツイッターでの呼び掛けに応じた全国の大学生ら約600人(主催者発表)が集まり、「危険な法律に若い力でノーを突きつけよう」と買い物客らに訴えた。

 中央大や国際基督教大の学生有志らが「僕らの将来を左右する危険な法律で決して人ごとではない」と企画。インターネット上の呼び掛けが拡散され、東京のほか大阪、福岡などから大学生や留学生らが集合した。

 呼び掛け人の一人の明治学院大3年、大野至さん(21)は「普通の学生がどれほど危機感を持っているかを示したい」と強調。関西学院大2年、寺田ともかさん(20)は「いても立ってもいられず参加した。法律に苦しめられるのは若者なので黙ってはいられない」と声を上げた。【斎川瞳】
    --「特定秘密保護法:若い力で『ノー』を 大学生らデモ」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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覚え書:「今週の本棚・この3冊:詩集=池辺晋一郎・選」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:詩集=池辺晋一郎・選
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

 <1>槐多の歌へる--村山槐多詩文集(村山槐多著/講談社文芸文庫/品切れ)

 <2>立原道造詩集(立原道造著/ハルキ文庫/714円)

 <3>世界はうつくしいと(長田弘著/みすず書房/1890円)

 村山槐多(かいた)(1896~1919年)は、むしろ画家として知られる。僕が槐多の絵を好きなのは、誕生日が同じ(9月15日)ということからではない。すさまじい気迫がほとばしるような、大胆で厳しい油彩や水彩に惹(ひ)かれる。並行して、その詩にも衝撃を受ける。絵も詩も血の色。絵も詩も心のまま。槐多が「充血せる君 鬼薊(おにあざみ)」と綴(つづ)る時、その眼差(まなざ)しのなかに鋭く光る針が見える。明治から大正にかけての22年間を生きた天才の魂が、時空を超えて、今も飛翔(ひしょう)している。

 子どものころ、北原白秋や島崎藤村の詩、リルケやシェリーの訳詩まで、片端から作曲して遊んだ。それが次第に「詩を読むこと」に傾き始めたのは大学生のころだったろう。のみならず、詩(のようなもの)を書くことにも熱中した。東京・青山にある詩集専門の古書店へ通い、全国の同人誌や自費出版詩集を漁(あさ)ったりもした。

 大手拓次、山村暮鳥、三好達治、萩原朔太郎や中原中也、さらにボードレール、マラルメ、エリュアールなどフランスの詩に夢中になる。なかんずく「はまった」のは立原道造(1914~39年)。書棚には、英訳書も含め何種もが並んでいるが、いつも携帯しているのは文庫版。旅へも持参する。とはいえ、実はそのほとんどを諳(そら)んじているが……。道造の言葉たちはナイーヴで、優しい。林や雲、そして風、また追憶や思い出といった言葉の頻出は青臭く、センチメンタルだという人もいるが、読む者の心へ深く沁(し)み込む強さを備えている。

 昨年「交響曲第9番」を書いたが、その構想の段階で、傍らの書棚--詩集だらけだ--にふと目が行った。長田弘さん(39年~)の詩集が並んでいる。『世界はうつくしいと』『詩の樹の下で』『人はかつて樹だった』……。極めて自然だが、まっすぐで広大な世界だ。何度も読んでいたが、初めて思ったのである。長田さんの詩で「第9番」を書こう、と。3冊の詩集から9篇を選び、9楽章の曲を書きあげた。オーケストラにソプラノとバリトンの独唱が加わる45分。

 長田さんは言う。音楽も詩も沈黙のなかにのこる記憶だ、と。まさに、至言である。すばらしい詩は、それを散文で説明せよと言われてもできない。百万言を費やしても、できない。詩人たちの言葉に身を浸し、心が無限に広がるのを実感する--至福の時だ。その「時」が欲しくて、僕はきょうも書棚に手を延ばす。
    --「今週の本棚・この3冊:詩集=池辺晋一郎・選」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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覚え書:「今週の本棚:加藤陽子・評 『濱口雄幸伝 上・下』=今井清一・著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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今週の本棚:加藤陽子・評 『濱口雄幸伝 上・下』=今井清一・著
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

 (朔北社・上巻=2310円、下巻=2100円)

 ◇「広義の国防」に殉じた宰相“幻の伝記”

 この本を手にした時、本が背負う運命というべきものは、やはりあるのだと思った。五十余年も前に完成原稿ができていたにもかかわらず、さまざまな理由で刊行されずにきた濱口雄幸(はまぐちおさち)の伝記が、今という時代を選んで堂々、世に出てきたのである。

 濱口といっても、ライオン宰相の異名をとったその風貌をすぐに思い浮かべられる方は今やそう多くはないだろう。戦前期の日本で最も力のあった政党内閣といえば、政友会を与党として1918年に成立した原敬内閣と、民政党を与党として1929年に成立した濱口内閣の二つだった。その一方の雄であった濱口は、首相時代、戦前期の日本を大きく右旋回させる転機となったロンドン海軍軍縮条約締結をめぐる政治対立の中で、東京駅で撃たれた傷により1931年に死去する。その10年前、同じ東京駅頭では原首相が暗殺されていた。五・一五事件(32年)に倒れた政友会の犬養毅首相も入れれば、現職の首相の地位にあって暗殺された者すべてが政党政治家であったという事実は重い。

 本書は、大正昭和期の新聞人として知られた丸山幹治(丸山眞男の父といった方が伝わりやすいか)が濱口家から伝記執筆を依頼されたことに端を発する。老齢の丸山幹治を助け、丸山の取材メモ、濱口家から提供された史料、大蔵省文書、枢密院議事要録、海軍関係史料等を用い、原稿用紙千枚を超える原稿としたのが著者の今井清一氏に他ならない。今井氏は丸山眞男のもとで日本政治史研究を学んだ学者であるから、濱口伝の執筆は、濱口、丸山両家から氏に託された大切な仕事だったといえるだろう。

 惜しいことには、完成後、清書1部が濱口家に提出されたほか、最終稿のコピー1部が高知市自由民権記念館に寄贈されたのみで、世には出なかった。今回、この幻の一書が刊行されたのは、現在の日本の政治状況を考える時、まことに意義深いことだと思う。確実な史料を典拠とし、多角的な観点で書かれていたためだろう、現在の研究水準に照らして本書の記述が全く古びていないのにも驚かされた。

 では、この本をひもとくことで、今、何が見えてくるのだろうか。一つには、東アジアで今確かに起こっている軍拡競争を考える際のヒントが得られよう。1930年に内閣が締結したロンドン海軍軍縮条約の兵力量では、日本の国防が危ういとして条約の批准に抵抗した枢密院に対し濱口首相は、次のように反駁(はんばく)する。いわく、国防には広義と狭義の二つがある、狭義の国防は兵力量の大小にもよろうが、広義の国防は、軍備だけでなく、国交の親善、民力の充実を包含したもので、広義の国防こそが大事なのだ、と。外交と財政あっての軍備という濱口の明察は、今の時代にこそ思い出されるべき知見だろう。

 二つには、軍縮条約の締結が日本の国益になると決めたが最後、断乎(だんこ)とした態度で反対派に立ち向かった濱口の格闘をたどる醍醐味(だいごみ)が味わえる。海軍軍令部の反対を押し切って内閣が条約調印をおこなったのは統帥権干犯だと批判した枢密院顧問官に対して濱口は、統帥権も兵力量決定権も条約締結権も、すべて天皇の大権である、ならば、一つの大権が他の大権をいかにして侵犯できようか、として正面から反論を加えた。枢密院が最後まで抵抗した場合、その正副議長を罷免する覚悟までを固めて対峙(たいじ)した濱口は、最終的に条約の批准を枢密院から勝ち取ることができた。

 本を閉じた時、厳寒の夜明けに曙光(しょこう)を見たような感慨にとらわれた。
    --「今週の本棚:加藤陽子・評 『濱口雄幸伝 上・下』=今井清一・著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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覚え書:「今週の本棚:堀江敏幸・評 『座談の思想』=鶴見太郎・著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。


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今週の本棚:堀江敏幸・評 『座談の思想』=鶴見太郎・著
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

 (新潮選書・1470円)

 ◇豊かな思考のうねりを導き出した言葉の往還

 ひとりで考えを組み立てる論文のような書き言葉とちがって、話し言葉による他者とのやりとりは、その場で互いの長所短所を確認し合い、新しい知見を獲得するための、大きな力になる可能性を秘めている。

 両者の思考が噛(か)み合わず、最後まで平行線をたどる場合もなくはないのだが、そこに調整役として三人目を加え、座の形にしてみると、二人ではなしえなかった思考の混じり合いが参席者を思わぬ展開に誘い、当初予想もしなかった実りをもたらすことがある。その場合、座が自由の気に満ちて有機的に変容し、各自の思考を深化させるような「良い環境」であった証拠となるだろう。ならば座談とは、またそのダイナミスムとはどのようなものなのか。

 本書は、新聞雑誌で頻繁に見かけるこの座談という、他国にあまり例のない形式の意義と可能性を、近代日本の思想史のなかに位置づける試みである。大きな礎石のひとつは、中江兆民の『三酔人経綸(さんすいじんけいりん)問答』(明治二〇)。非武装平和論を説く洋学紳士、隣国への進出を謳(うた)う現実路線の豪傑君、立憲制度のもとで段階的に理想を追うべきだとする南海先生の三者によるこの架空の問答の特徴は、互いが互いの言葉に耳を傾け、無闇(むやみ)に反発せず、相手の話の核心を捉えながら次の展開を促して、結論を焦らないことである。

 しかしそこには、三つ以上の声を集める配役と司会を担う存在が必要になる。座談会を看板企画に仕立て上げた『文藝春秋』の創刊者菊池寛は、その草分けのひとりだ。参加者を巧みに組み合わせ、殺伐とした空気にならないよう、また専門知識のない読者でも理解できる言葉を念頭に置きながら、菊池は一九二七年三月号の、芥川龍之介、山本有三をまじえた「徳富蘇峰氏座談会」を皮切りに、長谷川如是閑(にょぜかん)、幸田露伴、里見弴らを登用した印象深い出会いの場を提供し続けた。一方通行や質疑応答に終わらない往還のある言葉が、単発の論文からは生まれることのない豊かな思考のうねりを導く。馴(な)れ合いとは別種の、緊張感に満ちた相互信頼がそこにはあった。

 ただし、事前のシナリオなしで進んで行くこの自由な空気は、戦中の抑圧と相容(あいい)れなかった。長谷川如是閑の、時流におもねらず「本来の意味での中立を保つ」姿勢と、それをわずかな言葉で支持しつつ話を進める菊池の司会。戦中戦後は、話し手の見極めと確保が難しくなって企画そのものが減っていくのだが、その推移から逆に、座談会になにが必要であったかを炙(あぶ)り出す著者の筆もまた、「本来の意味での中立」をうまく保っている。

 他に召還されるのは、「批判者に対してふくらみのある関係性」を失わなかった桑原武夫。民俗学と民族学の、それぞれの立場で「対峙(たいじ)」しつつ、その前提として双方の信頼に基づく言葉の応酬を重ねていた柳田国男と石田英一郎。後の時代から見て不利になるような発言もけっして否定せず、その意味を考え続けた中野重治。自分の発言を歪(ゆが)めて外に伝えたりしない人物を選んだうえで心を開いた丸山眞男。対立する立場にある者でも、筋が通っていれば評価し、自説の修正も厭(いと)わなかった竹内好。いずれも厳しい時代に節を曲げず、相手をおとしめることを目的としない座談によって世界を広げてきた人々である。

 彼らの思考の柱は、戦争体験にある。では戦争を知らない世代にこの誠実さや相互信頼は受け継がれているのかとの著者の自問は切実だが、不誠実さと相互不信ばかりが目立つこの時代にこそ、過去の優れた座談の教えを学ぶべきでないだろうか。
    --「今週の本棚:堀江敏幸・評 『座談の思想』=鶴見太郎・著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140202ddm015070013000c.html:title]

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書評:トーマス・D・シーリー(片岡夏実訳)『ミツバチの会議 なぜ常に最良の意思決定ができるのか』築地書館、2013年。


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トーマス・シーリー『ミツバチの会議 なぜ常に最良の意思決定ができるのか』築地書館、読了。各々が仕事を分担し複雑な共同生活を営むミツバチ。どうして高度な社会を営むことが可能か。本書は探索バチの巣分かれ行動の分析を通じてその疑問に答える。

ミツバチは数日で巣分かれを実行する。巣場所候補を探し数ある選択肢から最良を見いだすのが探索バチ。各々が尻降りダンスで場所をアピールしその提案が吟味。特定の蜂が先験的に判断するのではなく、コロニー内の水平な討議(会議)が候補を決定する。

ミツバチの行動分析を通じて浮かび上がる合意形成の5つのポイントを著者は次のように指摘する。

1)意思決定集団は、利害が一致し、互いに敬意を抱く個人で構成する
2)リーダーが集団の考えに及ぼす影響をできるだけ小さくする
3)多様な解答を探る
4)集団の知識を議論を通じてまとめる
5)定足数反応を使って一貫性、正確性、スピードを確保する

著者は5つの教訓に従い教授会を運営、その成果が評価されているという。(本能だろうが)ミツバチの合意形成プロセスは「集団が選択肢を探す能力は、一個人の力に勝る」ことを雄弁に語っている。無言の会議ではなく、多様な選択肢をどれだけ出し、それを公平に判断できるのかどうか。本書には民主主義再生のヒントが詰まっている。

[http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1462-0.html:title]

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ミツバチの会議: なぜ常に最良の意思決定ができるのか
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覚え書:「日本語に生まれて 世界の本屋さんで考えたこと [著]中村和恵」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。


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日本語に生まれて 世界の本屋さんで考えたこと [著]中村和恵
[掲載]2014年01月26日   [ジャンル]社会 国際 

 ドミニカ島の雑貨店兼本販売所、南太平洋諸島、インド、オーストラリア、エストニア……世界の周縁を「本屋さんはどこですか」と聞きながら歩き回った。それは日本語を問い直す旅でもあった。
 大量の外国語書籍が母語に翻訳され、家でも大学でも、本も学問も母語だけで何とかなる日本は、世界を見渡すと、実は当たり前ではない。著者は「第三世界」出身の人々に、「どうして日本人はそんなにうまく(近代化を)やれたんだ。おれたちはできなかった」と聞かれるという。電子書籍、本屋の未来--世界を歩きながらも、日本の言語文化に「妙な未練のような感情を抱えてしまった」著者が、やわらかな言葉でつづる旅。
    ◇
 岩波書店・1995円
    --「日本語に生まれて 世界の本屋さんで考えたこと [著]中村和恵」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014012600006.html:title]

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覚え書:「今週の本棚・新刊:『辞書の仕事』=増井元・著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『辞書の仕事』=増井元・著
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

 (岩波新書・798円)

 約30年にわたって『広辞苑』などの辞典編集に携わってきた著者が、辞書の使い方や仕組みについてエピソードを交えながらつづる。

 辞書といえば、意味や使い方が分からない言葉に出くわした時の手引き。読者は「正確さ」を求めてページを開くため、その作り手たちが「言葉に厳密」だと思い込みやすい。しかし意外にも、著者は「法則性を持った誤りはことばの変化」と言い切り、言葉に対して寛容な姿勢を示す。一方で「ことばが絶えず変わっていることを、辞典編集者は仕事柄忘れることができない」とも。辞書に収録する言葉の選び方、用例の書き方を解説する文章からは、作り手としてのプロ意識や言葉に対する鋭敏な感覚が伝わってくる。

 読者からの意見や質問など、使い手側の反応も多く登場する。テストで辞典通りに解答して不正解になった子を持つ親の電話や、「○○くんだりまで来た」という用例に胸を痛めたある県の中学校教師からの手紙……。それら一つ一つに、辞典編集者は一喜一憂している。

 本書からは、辞書に対して持ちがちな無機質な印象にほど遠い、人間らしさがにじみ出ている。(唯)
    --「今週の本棚・新刊:『辞書の仕事』=増井元・著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140202ddm015070023000c.html:title]

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辞書の仕事 (岩波新書)
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覚え書:「今週の本棚:松原隆一郎・評 『グローバリゼーション・パラドクス』=ダニ・ロドリック著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。


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今週の本棚:松原隆一郎・評 『グローバリゼーション・パラドクス』=ダニ・ロドリック著
毎日新聞 2014年02月02日 東京朝刊

 (白水社・2310円)

 ◇新たな国際市場“統治”のために

 リーマン・ショックから5年しか経(た)っていないというのに、日本で経済政策と言えば「規制緩和」が切り札のように喧伝(けんでん)されている。たとえば企業の農地取得への規制は「岩盤規制」であり、TPPを利用し廃止して、企業が自由に農業に進出するようにすべきだ、云々(うんぬん)。

 この場合、「規制」は非効率的な経営を温存させるためだけにあるかに聞こえる。しかしもともと争点となったのは、企業が収益を上げられなかった際には一気に撤退してしまい、残された土地が荒れ地のままになるのではないか、という懸念だ。農地で耕作を維持することには、収益を上げるという私的利益だけでなく、農村文化や景観を持続させるという社会的意義がある。

 著者ならばこれを、私的費用と社会的機会費用の乖離(かいり)と呼ぶだろう。収益が上がらないからといって、立つ鳥が跡を濁すように農村から撤退しない条件が、企業の農地取得には必要となる。著者自身は、遺伝子組み換え食品や原子力発電などについて国民が抱く不安も、この社会的機会費用に数える。

 経済学がそれを看過してきたわけではない。情報の非対称性やモラル・ハザード、エージェンシー・コストなどの理論が開発され、社会的機会費用の削減を追究してきた。それにもかかわらず自由貿易でそれが機能しなかったのは、政策にせよ制度にせよこれまで国家によってしか有効に発動されなかったからである。国際社会においては社会的機会費用を抑えるような「世界政府」、つまり世界規模の公正取引委員会や最後の貸し手、セーフティネットなどが、いまだ十分には存在しえていない。

 そこから「規制」に対する見方の根本的な相違が出てくる。「岩盤規制」と言いたがる経済学者にとって規制は市場を拘束するものでしかない。対照的に著者は、まっとうな規制は市場を補完するものであり、それなしではむしろ市場が機能しないのだと見る。アジアやアルゼンチンの金融危機にしても、政府が腐敗していたからではなく、最後の貸し手や保険、短期債務の保障などが国際金融で手薄だからこそ出来したのだ。

 国家間には市場統治のルールが適用されない空隙(くうげき)があるということだが、それならばルールを共通に設定すればよい、という反論がありうるだろう。TPPもそうした努力なのだ、と。これに対して著者は、「国際経済のトリレンマ」を挙げる。グローバル市場・民主主義・国民国家という三つの制度のうち、同時には二つしか実現しない、という意味だ。

 グローバル市場と国民国家の合体したのが重商主義だった。東インド会社のような巨大企業はみずから取引リスクを削減するよう国家から徴税権や司法権、軍事まで勅許されていた。グローバル市場と民主主義を組み合わせたのがEUのような連邦制だが、いざ金融危機が起き債務国を救うためにドイツが消費税増税を受け入れるかというと、脱退しかねない。国家の主権に制約が課されるのだ。とすればグローバル市場のガバナンスには、その自由を多少は規制しても民主的な国民国家の多様な政策に任せるしかなくなる。

 これは各国に政策運営の余地を与えるという意味で、ブレトンウッズ体制の継承といえる。とはいえそれ自体が通貨問題で崩壊した体制ではある。著者は「資本主義3.0」のための「七つの原理」を挙げているが、要は国ごとに現場の知恵を絞れ、というに尽きるのであろう。市場自由化一辺倒の明快さはないものの、常識の重みを訴える書である。(柴山桂太・大川良文訳)
    --「今週の本棚:松原隆一郎・評 『グローバリゼーション・パラドクス』=ダニ・ロドリック著」、『毎日新聞』2014年02月02日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140202ddm015070006000c.html:title]

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グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道
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覚え書:「みんなの広場 若者をつぶそうとする政治」、『毎日新聞』2014年01月31日(金)付。


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みんなの広場
若者をつぶそうとする政治
主婦・53(東京都練馬区)


 本来なら桜満開と心浮かれる4月。しかし今年は、消費税8%が家計に暗い影を落とすことだろう。消費増税に関しては、当初景気が上向きと判断されたらと聞いていた。世間のどこが景気上向きなのだろうか。 一般的に購買力が上がっているとは言うものの、わが家において言えば、昨年の夫の年収は今までで最低。安い時に買いだめした日用品も切れたら買う……これが現実だ。また息子は就職がなかなか決まらず、現在アルバイト中。それも昨年暮れから勤務時間を減らされた。

 理由は「バイト君を厚生年金に加入させないなら就業時間を減らせ」との日本年金機構のお達しとのこと。12月の手取りは交通費を除くと10万円を切る。これでは独立も結婚も望めない。

 今の政治は若者にちっとも優しくない。若者の力を伸ばすのではなく、つぶそうとしている。今の若者は政治に関心がないわけではない。あきらめているのだ。政府はなぜ気付かない。
    --「みんなの広場 若者をつぶそうとする政治」、『毎日新聞』2014年01月31日(金)付。

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覚え書:「みんなの広場 籾井NHK会長は不適格だ」、『毎日新聞』2014年01月30日(木)付。


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みんなの広場
籾井NHK会長は不適格だ
アルバイト・65(相模原市緑区)

 NHKの籾井勝人新会長が1月25日の就任会見で発言した内容にはあぜんとした。従軍慰安婦や領土問題に関して、まるで政府の代表者のように述べたが、NHK会長としての立場を心得ていないようで、著しく適格性を欠くと感じられた。
 もとよりNHKは公共放送であって、国営放送ではない。公正中立や不偏不党の立場を貫くのが当然で、そのトップがたとえ個人的見解だとしても政府寄りの発言をすれば、NHK自体が中立性を欠いたものと見なされても仕方がないのではないか。
 政府が常に正しい政策を実行するとは限らないし、民意に反した政策を強硬に推進することもある。NHKは影響力の大きい報道機関としての自覚を持ち、時には国が誤った方向へと行くことに対して、厳しくチェックする必要もある。
 それにしてもこのような人物を会長に選任するNHKの経営委員会の見識も疑う。速やかに適任者を選任し直すべきだと考える。
    --「みんなの広場 籾井NHK会長は不適格だ」、『毎日新聞』2014年01月30日(木)付。

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覚え書:「銀座にはなぜ超高層ビルがないのか [著]竹沢えり子 [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。


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銀座にはなぜ超高層ビルがないのか [著]竹沢えり子
[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)  [掲載]2014年01月26日   [ジャンル]社会 

■場所の文化、どうやって守るか

 銀座のど真ん中で、つい最近、こんなバトルがあった。大手ディべロッパー対銀座の旦那衆のバトルである。
 実は、その裏に、今日の世界を二分する大きな対立、分裂がひそんでいる。銀座は、一種の代理戦争でもあった。
 一方は、グローバルで、匿名性の高い金融資本主義。彼らが求めるのは、資金回収の容易なシンボリックな超高層。対するは、場所と密着した、顔の見える家業的ネットワークで、中層の街並みの継続を望んだ。
 金融資本主義という巨大な力から、いかに地域の生活や家族を守るかは、われわれ全員の課題でもある。同時に家業が時間をかけて築き上げた場所の文化を利用しない限り、金融資本主義も競争に勝てない、という現代的逆説も見える。
 長いバトルの結果、中層の街並みは守られることになった。チームワークが印象的で、われわれの街でも使える教訓がたくさんある。
    ◇
 平凡社新書・840円
    --「銀座にはなぜ超高層ビルがないのか [著]竹沢えり子 [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。

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覚え書:「本を愛しすぎた男 本泥棒と古書店探偵と愛書狂 [著]アリソン・フーヴァー・バートレット [評者]出久根達郎(作家)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。


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本を愛しすぎた男 本泥棒と古書店探偵と愛書狂 [著]アリソン・フーヴァー・バートレット
[評者]出久根達郎(作家)  [掲載]2014年01月26日   [ジャンル]文芸 


■紙の本の利点美点がいっぱい

 一九八八年春、骨董(こっとう)品の大箱を十五ドルで買った郷土史家が、『タマレーン、その他の詩集』と題された小冊子を発見した。作者は「ボストン人」と記されていた。郷土史家はサザビーズのオークションに出品した。それは十九万八千ドルで競売にかけられた。
 一八二七年に出版されたエドガー・アラン・ポーの最初の詩集だったのである。現在までに十四冊しか発見されていない。
 このような掘り出し奇譚(きたん)の好きなかたなら、本書を面白く読むだろう。高価な稀覯(きこう)本を盗みまわる四十代半ばの男の物語だからである。彼が一向に捕まらないのは、転売しないからだ。彼は本を読まない。本に性的魅力を感じて盗み、盗品を並べて眺めて楽しむ。著者はなぜこんな男に執着し、本を書いたのだろう。
 あと味の悪い本なのである。それなのに評者があえて取りあげた理由は、電子書籍の時代なら絶対にありえない内容だからである。紙の本ならではの利点美点が満載なのだ。
    ◇
 築地誠子訳、原書房・2520円
    --「本を愛しすぎた男 本泥棒と古書店探偵と愛書狂 [著]アリソン・フーヴァー・バートレット [評者]出久根達郎(作家)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。

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本を愛しすぎた男: 本泥棒と古書店探偵と愛書狂
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覚え書:「ひと:丸山健二さん=古典的名作を超訳」、『毎日新聞』2014年01月30日(木)付。

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ひと:丸山健二さん=古典的名作を超訳
毎日新聞 2014年01月30日 東京朝刊

(写真キャプション)
長野県生まれ。23歳1カ月の芥川賞受賞は現在も男性最年少。昨夏、丸山健二文学賞を創設し自ら選考に当たる。

 ◇丸山健二(まるやま・けんじ)さん(70)

 自身の「人生の一冊」、メルビルの「白鯨」を“超訳”し、「白鯨物語」(真人堂)として発表した。19世紀の古典的名作を、大胆にも書き換えている。「いわば名曲のカバー、リメークです。アレンジを加えて俺の歌唱力で歌う。元の物語、つまりメロディーはしっかりしています。原作の方がいいと言われたら、俺の負けですね」

 「白鯨」は、青年イシュメールが捕鯨船に乗り、エイハブ船長らと共に白いクジラを追うストーリー。自然と人間、神と個人の関係性など、幾重にも読み解きが可能な海洋文学の大作だ。

 中学2年の夏、初めて読んだ時の衝撃は今も忘れられないという。既に多く日本文学に接していたが「これが文学だ」と開眼した。ダイナミックな海の世界に憧れ、船の通信士になるため電波高専にも進学した。その後小説家になって、幾度か読み返すうち「違和感を覚えていったんですよ。そこに超訳の話があって、やりますって」。

 評価を高めたとされる捕鯨に関するうんちくはすべて削った。滑らかに物語に織り込まれていないためだ。逆に書き足したところも数知れない。改行を繰り返し、小気味いいリズムで言葉を連ねていく語り口は「丸山節」そのものになっている。

 「ほれた女だから見ないふりをしてきたけど、いろいろ欠点が分かった。もう『白鯨』は卒業です」。郷里の長野で執筆活動に打ち込む孤高の作家は表情をふっと緩めた。<文と写真・棚部秀行>

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 ■人物略歴

 長野県生まれ。23歳1カ月の芥川賞受賞は現在も男性最年少。昨夏、丸山健二文学賞を創設し自ら選考に当たる。
    --「ひと:丸山健二さん=古典的名作を超訳」、『毎日新聞』2014年01月30日(木)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140130ddm008070164000c.html:title]

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書評::トルストイ(平民社、国書刊行会編集部訳)『現代文 トルストイの日露戦争論』国書刊行会、2011年。

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NHK、領土問題「国際放送で」 就任会見で籾井会長


 記者会見するNHKの籾井勝人会長=25日午後、東京・渋谷のNHK放送センター

 NHKの籾井勝人会長は25日、東京・渋谷の放送センターで開かれた会長就任の記者会見で「尖閣や竹島という領土問題は、明確に日本の立場を主張するのは当然のことだ」と述べ、外国人向け国際放送で領土問題を取り上げることを最重要課題とする考えを示した。

 籾井会長は特定秘密保護法や従軍慰安婦問題についても持論を展開、公共放送の在り方について今後議論を呼びそうだ。

 籾井会長は「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない。国際放送にはそういうニュアンスがある」と説明した。
[http://www.47news.jp/CN/201401/CN2014012501001698.html:title]

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ちょうどこんなばかげた老人の醜態を表す記事がながれてきたとき、『現代文 トルストイの日露戦争論』国書刊行会を読み終えたのだけど、戦争回避への道程としてトルストイは「人が自ら招いた災難、とりわけ最も恐るべき戦争から免れる一番の有効策は、決して国家に対する外交的手段ではなく、ただ単に各個人の良心に訴えることである」という。ホント、ここだなあ、と。

本書は、トルストイがロンドンタイムズに寄稿した「日露戦争論」(1904年6月27日、日本では8月7日に『平民新聞』hが緊急掲載)した日露戦争論を現代語訳して収録。付録して次の3記事を収録。

1)「トルストイ時局談」 フランス・フィガロ紙
2)「トルストイの日露戦争論」 ロンドンタイムズ評
3)石川啄木批評「トルストイの日露戦争論」

トルストイがこの論文を発表したひその日は、旅順港襲撃の功労に対してテンノーヘイカが東郷平八郎連合艦隊司令長官に勅語を贈った翌日。

いまこそ、読み直されてしかるべき著作、待望の現代語訳。


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覚え書:「ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む [著]マシュー・グッドマン [評者]荒俣宏(作家)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。


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ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む [著]マシュー・グッドマン
[評者]荒俣宏(作家)  [掲載]2014年01月26日   [ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝 


■対照的な女性記者2人が競う

 1889年の11月、ヴェルヌ『八十日間世界一周』に書かれた架空の「早回り記録」を破るべく、アメリカから2人の女性記者が同時に旅立った。
 そもそもアメリカの出版メディア2社が画策した「賭け」と「懸賞」の販促イベントに駆り出されたのが、ともに新時代を切り開く若き女傑同士だったから、本家ヴェルヌそこのけの冒険となった。
 まず、この冒険の発案者で良くも悪くも突撃潜入ルポを得意とするネリー・ブライ。当時監獄以上に恐れられた精神病院に潜り込み虐待の実態を暴露した女性だ。もう一方は、南部出身のインテリ文芸記者エリザベス・ビズランド。ニューオーリンズで同僚だったラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の憧れの女性だった! 彼女から日本のすばらしさを直接聞いたハーンは、即座に日本に向かった。
 交通手段と時刻表の活用具合も気にはなるが、やはり本題は「いけいけ」と「インテリ」、2人の対照的な眼(め)で見る世界の実情だろう。女性ははっきり物を言う。ブライ嬢は、世界を制覇した大英帝国の港の不潔さ暗さを平然とこき下ろす。しぶしぶ会見に応じたヴェルヌ夫妻までも、この奔放なアメリカ娘に毒気を抜かれる。他方、古典や東洋文化に知識のあるビズランド嬢は、最初に訪れた日本で富士の神秘さに感激し、馬車がないために静けさを保つ都会地には「失われた楽園」を見いだすのだ。
 この2女性、じつは旅の巡り方が違っていた。地球を西回りと東回りに分かれて旅した意義が、本文と巻末解説できちんと説明される。つまり、暗澹(あんたん)たる産業大国イギリスか、それとも機械文明以前の楽園・日本か、どちらを先に訪れるかの問題だ。
 いま民間段階に達した宇宙旅行の先陣リポートも、こんな勇敢な女性が体当たりで報じてくれたら、きっと盛り上がるに違いない。
    ◇
 金原瑞人・井上里訳、柏書房・2940円/Matthew Goodman ニューヨーク在住のノンフィクション作家。
    --「ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む [著]マシュー・グッドマン
[評者]荒俣宏(作家)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014012600008.html:title]

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ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む―4万5千キロを競ったふたりの女性記者
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覚え書:「鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 [著]ポール・グリーンバーグ [評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。


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鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 [著]ポール・グリーンバーグ
[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)  [掲載]2014年01月26日   [ジャンル]科学・生物 


■生存可能な環境と方策を検証

 もうすぐ鮪(まぐろ)が食べられなくなるようだ。その前に一度だけ大トロを食べてみたいと、始発電車に乗って築地卸売市場内にある寿司屋(すしや)に行った。
 あれから10年近く経つ。鮪は相変わらず何事もなく出てくる。それどころか寿司は日本だけでなくアジアや欧米でも大人気だ。
 そんなに沢山(たくさん)食べていて本当に大丈夫なんだろうか。
 本書の俎上(そじょう)に載ったのは、鮪の他に、鮭(さけ)、鱸(すずき)、鱈(たら)、合計4種の大きい食用魚。釣り好きのアメリカ人エッセイストである著者は、乱獲によって絶滅の危機に近づきつつあるこれらの魚たちの漁や養殖の現場に出向き、それぞれの魚が生存するのに必要な環境がどれくらい保全されているのか、どんな方策がとられているかを検証していく。
 一番衝撃だったのは鮭だ。卵が大きいこともあり、どの魚よりも早く養殖技術が開発された。陸の家畜飼養で培った技術を元に、ノルウェーでたった14年で成長速度を2倍になるよう品種改良されていた。3キロ弱の餌で1キロの鮭が育つ。ちなみに豚も3キロの餌で1キロ肥(ふと)る。それが鮭の自力では水温が高くて越えられない赤道を越え、チリで大量に生産されているのだ。牛を船に乗せて南米大陸に持ち込んだスペイン人の姿と重なる。
 しかも狭い場所で大量に飼養すると、疫病が発生するし、海を汚染もする。大規模畜産と養殖がこんなに似ているとは思わなかった。
 長らく畜肉を主に食べてきた欧米人著者と魚食民である我々では、鯨についてなど見解の異なる点は多々ある。
 けれども世界有数の魚食いであるからには、海洋資源の現状に目を向け、環境に影響を及ぼさない養殖の方法など、野生種の生存を保全しながら、魚を食べ続けるための真摯(しんし)な提案に耳を傾けたい。海洋は陸上ほどは開発されておらず、野生種の生息地の多くがまだ再現可能だそうだから。
    ◇
 夏野徹也訳、地人書館・2520円/Paul Greenberg 67年生まれ。エッセイスト。漁業や環境問題などを執筆。
    --「鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 [著]ポール・グリーンバーグ [評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014012600012.html:title]

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鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来: 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言
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覚え書:「医学的根拠とは何か [著]津田敏秀 [評者]水無田気流(詩人・社会学者)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。


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医学的根拠とは何か [著]津田敏秀
[評者]水無田気流(詩人・社会学者)  [掲載]2014年01月26日   [ジャンル]科学・生物 

■身近で難解な問題を問い直す

 福島第一原発事故以降、私たちはこれまで耳に馴染(なじ)まなかった「シーベルト」「ベクレル」等の単位を聞く機会が増えた。一般市民の関心は何より健康への影響だが、専門家の回答は釈然としないものばかり。実は何か重大な危機を隠蔽(いんぺい)しているのではないか? そんな猜疑心(さいぎしん)も煽(あお)られたが、事態はもっと構造的な問題から派生しているようだ。
 疫学を専門とする筆者は、昨今の100ミリシーベルトを目安として「がんの増加が見られない」とする報告の問題点を指摘する。単に「リスクの上昇が証明されていない」との言及が、いつの間にか発がんの閾値(しきいち)(刺激となる最小限の値)のように考えられてしまっている、と。一方、WHO(世界保健機関)の健康リスクアセスメントは、100ミリシーベルト以下であってもがん発症の可能性を指摘。この食い違いは、ICRP(国際放射線防護委員会)勧告の「統計的有意差がない」ことと「影響がない」ことの混同から来たようだ。またPM2・5などの大気汚染も、すでにヨーロッパでは人体への影響の程度を測定し発表しているが、日本では大気汚染の程度を発表するに留(とど)まっている。これらは医学的根拠の問い直しを要する問題だ。
 医学的根拠は、直感派、メカニズム派、数量化派の三つに分類できる。直感派は医師としての個人的な経験を重んじ、メカニズム派は動物実験など生物学的研究の結果を重視。そして数量化派は、統計学の方法論を用い人間のデータを定量的に分析した結果を重視する。筆者は日本の医学研究において、これらがばらばらに存立していると批判。とりわけ人間を対象に医療行為を行う上で科学的根拠となるのは数量化だが、他二者との連携も遅れているという。医学の高い専門性が思考の硬直化を招き、弊害に気づく契機に乏しいのも問題だ。私たちも、この身近で難解な問題をともに見直していきたい。
    ◇
 岩波新書・756円/つだ・としひで 58年生まれ。岡山大学大学院環境生命科学研究科教授(疫学・環境医学)。
    --「医学的根拠とは何か [著]津田敏秀 [評者]水無田気流(詩人・社会学者)」、『朝日新聞』2014年01月26日(日)付。

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[http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014012600013.html:title]

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医学的根拠とは何か (岩波新書)
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覚え書:「えらぼーと:都知事選 ヘイトスピーチ『やめるよう説得を』42% 参加者の回答集計」、『毎日新聞』2014年01月30日(木)付。


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えらぼーと:都知事選 ヘイトスピーチ「やめるよう説得を」42%--参加者の回答集計
毎日新聞 2014年01月30日 東京朝刊


 ◇軽減税率「導入」77%、主要4候補も賛成
 東京都知事選に合わせてインターネットで実施しているボートマッチ「えらぼーと都知事選」(http://vote.mainichi.jp/)への参加者が29日、6万5000人を超えた。在日韓国人に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)について28日までの回答を集計したところ、42%が「やめるよう説得すべきだ」と答え、「問題ではない」は27%、「取り締まるべきだ」は24%だった。

 一連のスピーチをどう捉えるかは、年代や支持政党など属性によって異なった。「問題ではない」と答えた人は若い世代に多く(20歳未満30%、60代18%など)、「取り締まるべきだ」は年配の世代に多かった(20代21%、60代33%など)。自民を支持する人では「問題ではない」が50%だったが、民主支持では8%だった。

 属性による違いがほとんどなかったのが消費税への軽減税率導入の設問。「消費税を10%にするとしたら、生活必需品などに軽減税率を導入すべきだと思うか」との問いに77%が「思う」、19%が「思わない」と回答。全ての年代で「思う」が7割を超えた。支持政党による違いも少なく、自民支持で「思う」は72%、民主支持でも71%だった。

 えらぼーとは都知事選候補者へのアンケートと同じ設問に答えることで候補者と自分の考えを比較できるサービス。軽減税率の設問に答えた9候補のうち宇都宮健児、田母神俊雄、舛添要一、細川護熙の4氏ら7人が「導入すべきだと思う」を選択した。【三岡昭博】
     --「えらぼーと:都知事選 ヘイトスピーチ『やめるよう説得を』42% 参加者の回答集計」、『毎日新聞』2014年01月30日(木)付。

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[http://senkyo.mainichi.jp/news/20140130ddm041010071000c.html:title]

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