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覚え書:「今週の本棚:岩間陽子・評 『むしろ素人の方がよい』=佐瀬昌盛・著」、『毎日新聞』2014年03月02日(日)付。


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今週の本棚:岩間陽子・評 『むしろ素人の方がよい』=佐瀬昌盛・著
毎日新聞 2014年03月02日 東京朝刊

 (新潮選書・1260円)

 ◇長官・坂田道太が築いた“民主的”防衛

 坂田道太。1916年熊本県八代市生まれ。46年の初当選以後、衆議院選挙に連続17回当選、文部大臣、防衛庁長官、法務大臣などを歴任した。本書は、このうちの防衛庁長官としての坂田道太の功績を扱ったものである。「むしろ素人の方がよい」という題名は、東京帝大文学部独文科出身で文教族として知られた坂田が、防衛に関して「素人」であることを公言しつつ、「素人の公平率直で偏見のない、かげりのない目で」見ようとしたことに由来している。

 在任2年の間に坂田は、「防衛を考える会」の設置、シュレジンジャー米国防長官の訪日と日米防衛協力協議の枠組み作り、「基盤的防衛力」概念の導入、初めての防衛白書の作成、「防衛計画の大綱」の策定、と信じられないほど多くを成し遂げた。日本の政策は官僚主導であるという先入観がもたれているが、佐瀬氏は坂田が政策転換を主導して行ったことを明確にしている。

 紙幅の関係上、ここでは「基盤的防衛力」に関する坂田の説明だけを紹介したい。想定される脅威に日本が対抗するにはどれくらいの防衛力が必要か、というそれまでの「所要防衛力」の考えに対して、基盤的防衛力を坂田は次のように説明する。

 「日本に対する直接侵略を敢(あ)えてする場合は、アメリカと一戦交えることを覚悟しなければ侵略はできない。……(ただし)日米安保条約の間隙(かんげき)に乗じて、既成事実を作ってしまうという限定された侵攻、侵略という可能性を捨てるわけには行きません。……その侵略は、限定された局地戦、小規模以下の侵略事態であって、それに対しては、我が自衛隊のみによって、対処する即応力を保有しなければならない。それが、私の基盤的防衛力という意味でございます」

 「基盤的防衛力」概念は、日本の防衛政策を勉強すれば必ず出くわすものだが、これほどすとんとお腹(なか)に落ちる説明は初めて聞いた。

 「素人」長官を考えることは、同時に、民主主義における防衛のあり方を考えることでもある。民主主義国家における最終的な決定権者は、国民である。政策は、国民に理解可能な言葉で語られなければならない。坂田はそれを一手に引き受けた。政治は、国民が理解できるように情報を提供する義務がある。坂田は、防衛白書を日本語と英語で毎年刊行するという慣行を確立した。民主主義国家における防衛力は、国民に開かれたものでなければならない。坂田は、新聞に「町で自衛官をみかけたら、気軽に話しかけてみてください。」で始まる署名入り大型広告を出した。自衛官は“制服を着た市民”であると言った。

 坂田はまた、民主主義におけるデュー・プロセスを重んじた。初の「防衛計画の大綱」策定にあたって、国防会議を計6回開いた。後に、首相就任を要請されたとき、衆議院議長経験者であることを理由に断った。国会は政府の行き過ぎをチェックする立場にある。議長の権威は重い。首相の後に議長になった人はいるが、その逆はあるべきでない、と考えた。

 さらに坂田は、後世に対して、自らの仕事の記録を残すことで責任を果たした。坂田の残した膨大な「私文書」は、現在国会図書館に寄贈され、整理・分類が進められている。44年間にわたる議会人坂田の記録が公開されれば、日本政治研究のかけがえのない1次史料となるだろう。

 当たり前のことを、当たり前に、きっちり筋を通した人。これほど読後感の爽やかな書も、近年稀(まれ)である。新たな転換期を迎えた今、広く読まれることを切望する。
    --「今週の本棚:岩間陽子・評 『むしろ素人の方がよい』=佐瀬昌盛・著」、『毎日新聞』2014年03月02日(日)付。

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