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覚え書:「書評:富士山と三味線 川田 順造 著」、『東京新聞』2014年03月02日(日)付。

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富士山と三味線 川田 順造 著

2014年3月2日


◆地域文化の広がりを探究
[評者]赤坂憲雄=学習院大教授
 文化とは何か、という問いがさまざまに問われている。一見すると、奇矯(ききょう)にも感じられるタイトルが、その問いの深さと広がりを暗示している。文化が財や遺産として、グローバルな枠組みにおいて語られる時代のなかで、それを生きられたローカルな現場において問い直そうというモチーフが鮮やかだ。グローバル化のなかの地域文化の活性化、つまり「グローカル」の探究というテーマが通底している。
 たとえば、著者の大切な研究のフィールドであるアフリカのモシ族の、まさにローカルな文化がくりかえし参照される。人類の先祖は「原モグラ」であり、その記憶が嗅覚のなかに残っている、といった意表を突いた物言いもまた、モシ族の「闇」の考察から導き出されている。モシの社会では、昼間むかし話をすると母親が死ぬといったタブーがあるらしい。日本でも「昼むかし」は嫌われる。三味線について論じながら、それがいつしかモシ王国の太鼓による神話語りへとつながってゆくあたりに、まぎれもなく著者らしい眼差(まなざ)しが感じられる。
 「わが家の博物誌」の章は、里山を舞台とした人と樹木や草花、鳥や獣たちとの交渉の日々がたいへん繊細に記録されており、秀逸である。文化はあくまで、五感を研ぎ澄まし、思いがけぬ広がりにおいて問われている。
 それにしても、本書は靖国をめぐる一章によって、あるエポックをなすはずだ。著者は文化人類学者として、靖国神社にたいする固有の関心を持続してきた。柳田国男とその『先祖の話』が、敗戦直後の靖国神社のかたわらに姿を見せる。GHQの政策で存亡の岐路に立たされていた靖国神社を、「みたま祭」の民俗行事というレトリックによって生き延びさせるために、柳田が関与した形跡があるらしい。戦争遂行のための巨大な精神的仕掛けが、フォークロアを偽装した瞬間であったか。噂(うわさ)のレヴェルに留まってきたが、本格的な論究が待たれるところだ。
(青土社・2310円)
 かわだ・じゅんぞう 1934年生まれ。文化人類学者。著書『口頭伝承論』など。
◆もう1冊 
 山口昌男著『文化と両義性』(岩波現代文庫)。文化の中心と周縁、秩序と反秩序の構造を示し、その創造力の源を探った名著。
    --「書評:富士山と三味線 川田 順造 著」、『東京新聞』2014年03月02日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014030202000181.html:title]

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