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覚え書:「特集ワイド:続報真相 田母神氏61万得票の意味」、『毎日新聞』2014年03月07日(金)付(東京夕刊)。


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特集ワイド:続報真相 田母神氏61万得票の意味
毎日新聞 2014年03月07日 東京夕刊


(写真キャプション)東京都知事選の最中、若い人たちと握手をする田母神俊雄氏。「私は実はいい人なんです」と何度も繰り返し、アピールした=東京都渋谷区のJR渋谷駅前で2014年1月23日、手塚耕一郎撮影

 東京都知事選挙で元航空幕僚長の田母神俊雄氏(65)が得た61万票が、なお話題になっている。「ネットの影響」「若者の右翼化」とかまびすしいが、何だかふに落ちない。本当はどうなのか、これからの政治に影響しうるのか。田母神氏に投票した人の声を追いながら「田母神票が意味するもの」を考えた。

 「未来が見えるかどうかがすごく気になりました。脱成長って言われても『あなたたちは確かにいい時代を見てきたから、それでいいかもしれませんけどね』としらけましたね」

 学習塾を経営する慶応大2年の今井美槻(みつき)さん(21)はそう話す。都知事選前、若者8人で誰に投票するか討論したら、4人が「田母神」だった。「僕らは自衛隊にも共産党にもアレルギーはない。何かおもしろいことをしてくれそうな期待感、現状維持ではダメだという思いが一番大きかった。政党や組織、既存の制度を守るために動く政治家が多いが、彼は違うと思った。田母神さんの思想的な部分はあまり気になりません」と説明する。

 別の男性会社員(31)は奨学金で専門学校を卒業、派遣社員を経験した。アルバイトが外国人労働者に取られている現状や、就職が決まらない友人の姿をみてきた。「政策の善しあしとは別に、リーダーが強力で支持率が高い時は景気が上向き、国が前を向くと思う。田母神さんはそうした強いリーダーシップが取れるはず」。都政と国政は別だと思いつつ、原発維持の政策にも共感した。「経済的に考えて一番無難だと思う」

 ほかに支持する政治家を2人に聞くと、「橋下徹」や「小泉純一郎」が挙がった。小泉さんの構造改革路線と、「公共事業でインフラ整備」を訴える「タモガミクス」は正反対だ。「思想ではなく、現状を打破してくれそうな改革のイメージを重要視した」(今井さん)というので、IT会社役員、家入一真氏(35)はどうかと問うと「全然。だって彼は成功者じゃないですか」と一蹴された。「支持のツボ」がどこにあるのか、まるで分からない。

 ◇「中韓への譲歩、理解できない」

 61万票は極めて大きい。2013年の参院選東京選挙区は、投票率53・51%で、5人目に当選した自民党の武見敬三さんは61万2388票だった。強固な組織票を持つとされる共産党で70万票、山口那津男・公明党代表でも80万票弱だ。とても「泡沫(ほうまつ)候補」とは呼べない。

 「日本型排外主義-在特会・外国人参政権・東アジア地政学-」の著者、樋口直人・徳島大准教授(44)は「03年の都知事選で石原慎太郎さんは300万票以上を得ました。そこから石原氏の行政経験を評価する票と、作家としての知名度による票を引いた右派的な支持者の票が田母神票と重なると考えられます。そうすると、ここ十数年の延長として右派が60万票としても驚きはない」と話す。

 樋口さんは毎日新聞の出口調査を分析し「若年層(20-30代)は田母神さんに投票した比率が高いが、投票率が低いので票数としては多くない。田母神さんは幅広い世代から票を得ているとみるべきです」と語る。支持者を若年層とそれ以外に分けると、後者は「保守の中で相対的に右の人が、田母神さんに入れたという解釈が可能」で、若年層は「既成政党によらない新鮮味を与える候補者で、リーダーシップを感じたところにひかれたのでは」とみる。

 一方、普段は選挙に行かない層を田母神さんが動かした形跡がある。「老人福祉とか子育てとか、これまで政策に全く興味がなくて選挙にはほとんど行ってません。田母神さんが出て、初めて入れてもいい人が出てきた感じだった」と一流会社に勤める男性会社員(39)は話す。別に政策にピンときたわけではない。「中国や韓国に外交上つけ込まれ何となく損をしている」という思いに、田母神さんがはっきりと応えてくれると感じた。「日本はこれまで中国や韓国に謝罪し、お金も出してきた、それでも文句を言われ続けている状況が納得できません。靖国参拝も何が問題なのか。外国にとやかく言われることではない。大手メディアは『謝罪し続けなくてはいけない』との論調ですが、ネットで情報を集めるとそれはおかしいとよく分かります」と話す。

 憲法9条改正でも田母神さんの主張に同意する。「9条というお題目を唱えれば国が守れるワケではない。冷戦下の世界情勢の中で戦争をしなくて済んできただけ。田母神さんの言うように戦争の抑止力として軍備を拡張しなければ、弱い国は侵略される。9条のせいで自分たちの生命が脅かされるのが本当に許せない」と淡々と語る。

 ◇背景に若者層の不安、危機感?

 年間1億円以上を稼ぐ男性個人コンサルタント(39)は「田母神さんの言葉で一番納得したのは『日本は自国をおとしめる発言は自由でも、自国を高める発言に自由はない』です」と話す。韓国人や中国人の友人がいるが「個人としてはいい人でも、国としてはこちらが譲歩すれば強く出てくると分かっている。なのにどうして譲歩するのか全く理解できない」と言い切る。国防軍にも賛成だ。「小学生の頃から、自衛隊って単なる軍隊でしょ、って思ってました。世界から見ればちゃんとした軍です。摩擦をおそれて、問題を避け続けてどんどん国が弱くなっていくのが一番嫌いなんです」

 樋口さんは「若い世代は、近隣諸国との関係が悪くなって政治的な問題も出てきたこの10年ぐらいの時勢に影響を受けている。天皇制が大事だとか靖国神社を参拝すべきだといった国家主義的な意識より、排外意識の方が強い傾向がある」と解説する。

 「ももクロ論」でアイドルに夢中になる現代社会の閉塞(へいそく)感を指摘した早稲田大の清家竜介助教(43)はこうみる。「個人としてではなく首相や閣僚が靖国参拝する歴史的、外交的意味に考えが及んでいない人が多い。ただ冷戦以後の世界情勢の劇的な変化の中で、9条護持を唱えるだけの平和主義では危機感を持った彼らを説得できない。平和憲法は、日米安保条約と日米地位協定という繭の中で維持されてきた。その中から平和を訴えても『きれい事だ。このろくでもない世界を作り出したのは誰だ』と思われがちだ。田母神さんの訴えは、非常にシンプルでそういう人たちに届きやすいのでは」とみる。

 さらに、若年層を中心とした「アンダークラス」化が田母神支持の増加の一因ではないかとみる。アンダークラスは、労働者階級よりさらに下の階級。結婚して子どもを持つことも難しい。非正規雇用の拡大で増えた「アンダークラス」は未来に展望が持てず、不安感からはっきりものを言ってくれる人や強い国家イメージにひかれる傾向を持つ。清家さんは、このクラスの増大に伴い、権威に追従することを欲し、排外的で攻撃的な「権威主義的パーソナリティー」を持つ人が増えているのではと指摘する。「権威主義的パーソナリティー」はナチスのファシズムを支持した大衆心理を分析して出てきた概念だ。「文脈を深く掘り下げず、敵を設定し、わかりやすく攻撃する」という権威主義的パーソナリティーの特徴は小泉氏、橋下氏、田母神氏にも共通している。

 ◇強い国になり「損を取り戻す」

 田母神氏本人を直撃した。「当選するとは期待していなかったが、日本を真剣に取り戻そうと考えている人がどれぐらいいるかは分かると思っていた。30万票取れればと思っていたが、低投票率で61万票。目的は達成できた」とにこやかに話す。「自民党の右側に柱を立てて、自民党に『ちゃんとやれ』と迫る野党が必要。その党首になりたい。とりあえずは次の国政選挙を意識しながらの政治活動になります」

 「核武装して世界で発言力を持つ国」を目指す田母神氏に「そんな国をつくって何をするのか」と聞いてみた。諭すようにこう言われた。「世界で発言力を持てば自分たちが得をする。米国がやっているように、他国にお金を出させて自分たちの金は自分のために使った方がいいでしょう。今は核保有国の言われるがままにお金を出している。それでいいと思いますか」

 そういえば、話を聞いた人たちは「損をさせられている」という感覚が共通していた。相手は中国・韓国だったり、米国だったり、上の世代だったり……ひょっとして「日本を取り戻す」のではなく「損を取り戻す」が支持のツボなのか。だとしたら、強い国になって何を「得する」つもりなのか。

 もし「取り戻す」まで「田母神的なもの」の支持が続くなら、次の選挙でも一定の支持が集まりそうだ。【田村彰子】

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