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覚え書:「書評:本当はひどかった昔の日本 大塚 ひかり 著」、『東京新聞』2014年03月09日(日)付。


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本当はひどかった昔の日本 大塚 ひかり 著

2014年3月9日


◆古典が伝える深い心の闇
[評者]水原紫苑=歌人
 美しかった<昔の日本>など、存在しない。これは痛快な一冊である。
 育児放棄や体罰などの児童虐待、老人を捨てる棄老(きろう)、はたまた美醜による差別、と、今の世の問題は、ほとんどすべて<昔>からもっと大がかりにあったものだと、著者は語る。
 美貌ゆえに望まれて次々に男と関係し、育児を放棄してしまった母の話は、まるで現代の週刊誌を写したようだが、よく考えてみれば逆に、児童虐待の歴史的な心性が今なお多くの人々の意識の底に沈んでいて、折々顔を出すのかも知れない。
 とはいえ、尊属を絶対的優位とする儒教的道徳のために、自分たちを捨てた母のことさえ「恨んでいる」とは言えない子どもたちの哀れさは想像を絶している。
 また、介護地獄も<昔>から存在した。今は超高齢化社会を迎えて、介護する側もされる側も追いつめられ、老いた親や病気の妻あるいは夫を殺してしまうような事件があとを絶たない。
 親は絶対である<昔>は、むしろ、親の介護のために子を犠牲にした例を著者は挙げている。その一方で、もはや働けなくなった老人を山などに捨てる、棄老伝説もさまざまな形で残っている。
 美醜の差別についても、<昔>は恐ろしいほどである。
 『源氏物語』の末摘花(すえつむはな)の醜さの描写は、あまりの残酷さに驚くほどだが、著者は、この醜女末摘花を、絶世の美男光源氏と結婚させた紫式部の独創を評価している。平安朝の貴族たちには考えられなかった結びつきであろう。
 今でも、とりわけ女が、美醜によって差別されているのは変わらない。
 <昔の日本>も今の日本も、人間の心は闇である。ただ、今はそれを隠そうとして、より深い闇の中で人々が倒れて行く。
 古典を読むことは、私たちに、闇の中で決して倒れない歩き方を教えてくれるにちがいない。
 (新潮社・1365円)
 おおつか・ひかり 1961年生まれ。古典エッセイスト。著書『ブス論』など。
◆もう1冊
 野口武彦著『「今昔物語」いまむかし』(文芸春秋)。平安末期に成立した「今昔物語」の世界から現代に通じるものを読み取る。
    --「書評:本当はひどかった昔の日本 大塚 ひかり 著」、『東京新聞』2014年03月09日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014030902000177.html:title]

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