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覚え書:「日ロ現場史 北方領土--終わらない戦後 [著]本田良一 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2014年03月09日(日)付。


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日ロ現場史 北方領土--終わらない戦後 [著]本田良一
[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)  [掲載]2014年03月09日   [ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝 


■国の領土交渉と住民の心境描く

 本書のタイトルには二つの意味があり、「一つは北方領土を抱える根室地域、そしてその周辺の海を指す現場、もう一つは領土交渉の現場」を指すと、著者は書く。「鳥の眼(め)」と「虫の眼」で北方四島史の全体図を確かめたいということだろう。
 「虫の眼」で見る北方四島周辺の海域でくり広げられる日本人漁民とソ連・ロシアの警備隊の駆け引き、加えて日本の警備当局の動きを第1部、第2部で丹念に追いかける。レポ船・特攻船の実態は、国家を超えて生き抜く庶民のしたたかさに通じる。東西冷戦下では密漁そのものが情報活動とリンクしていくが、その様を新聞記者の筆は幾人もの証言と彼らの体験で証明していく。
 冷戦終結直後の1990年には「特攻船壊滅作戦」が始まり、日本側の思惑とからんだ「境界」漁業は終わる。かわってロシアの密漁船がカニやウニを日本に運ぶ一方で、やがてロシアマフィアが登場し、その内部抗争やロシア警備隊との癒着構造が説明されていく。第2部では貝殻島での日本人漁民のコンブ漁をめぐる動きを、高碕(たかさき)達之助らの尽力による民間協定の締結を紹介しつつ国境と人道という視点も浮上させる。
 漁業者は領土問題の進展のないのに苛立(いらだ)つが、「理屈を言っても拿捕(だほ)される」との複雑な心境はまさに「現場史」である。
 第3部のサケ、マスの北洋漁業、第4部の対ソ交渉の経緯、第5部の冷戦後の領土交渉を詳述している稿にふれると、一転して歴史の中に翻弄(ほんろう)される元島民や漁業者たちの正直な姿が語られる。驚くべき事実に唖然(あぜん)とするが、46年7月に根室に初の返還運動団体が発足して、その代表5人が四島返還を訴えるために上京し、まだ存続していた内務省を訪れる。
 「一行はがくぜんとする。事務官が示した地図に4島が記載されていなかった。(略。彼らは)あわててわら半紙と絵の具を買って、手製の地図を描いて提出した」
 終戦直後の千島列島に対して、中央ではまったく認識がないと一行は言葉を失う。戦前から用いた南千島を北方領土という名称に変更するのも、歴史に真正面から向き合わなかった日本外交の弱さがあるのかもしれない。領土問題についての流れでは、北方四島に住むロシア住民の揺れる心境も描く。客観性と冷静を尊ぶ著者の指摘に改めて私たち自身が問われていると気づく。
 四島一括返還、二島返還先行、その選択がゆきづまっている領土交渉は、日ロ双方に応分の責任があるということになろうか。歴史を「国の論理」と「共同体の生活」で見つめることの重要性を教える好著である。
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 北海道新聞社・2205円/ほんだ・りょういち 59年生まれ。古河電工、北海道庁を経て85年、北海道新聞社に入社。根室支局、本社政治部、ハバロフスク駐在などを経て、本社編集委員。著書『密漁の海で』など。本書のもとになった連載が2013年度新聞協会賞。
    --「日ロ現場史 北方領土--終わらない戦後 [著]本田良一 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2014年03月09日(日)付。

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