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覚え書:「今週の本棚:村上陽一郎・評 『自閉症という謎に迫る』=金沢大学子どものこころの発達研究センター・監修、竹内慶至・編」、『毎日新聞』2014年03月09日(日)付。


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今週の本棚:村上陽一郎・評 『自閉症という謎に迫る』=金沢大学子どものこころの発達研究センター・監修、竹内慶至・編
毎日新聞 2014年03月09日 東京朝刊

 (小学館新書・756円)

 ◇把握しがたい“巨象”に挑んだ最前線報告

 形は新書だが、中身は濃い。もともと「自閉症」(今は「自閉症スペクトラム」というのが、一応正当な呼び方らしい)が、「症」と名付けられる意味で、一つの「病気」なのか、という問いさえあり得ると言われる。「病気」は、当の患者にとって、「異」なるものである。つまり、自己が「自己であること」のなかに、病気は入らない。しかし、と編者である竹内氏は書く。「自閉症はそうではない」と。つまり、自閉症は、本人がその人であること(普通「アイデンティティ」という言葉が使われるが)の一部である、という見方が可能なのだ。

 本書は、こうした複雑な性格の「自閉症」を、精神医学、遺伝学、脳科学、心理学、社会学という、それぞれの領域の専門家が、やっかいで、大きな「象」を撫(な)でるように、把握しようとしたユニークな試みである。

 スペクトラムという言葉に意味があるのは、「自閉」(英語では<autism>)という概念の幅がかなり広いからで、特殊な事柄に天才的な能力を発揮することで知られる「アスペルガー症候群」も、そこに加えられてきた(この点には批判もあるようだが)。何によらずだが、病気の世界では、一度「名前」が与えられ、その症状の特性が規定されると、それだけで、患者が多数存在するようになる。「自閉」というカテゴリーは、かなり広いが、執筆者たちの規定によれば、少なくとも二つの大まかな特性を指摘できる、という。その一つは、他人とのコミュニケーションに何らかの不全があることであり、もう一つは、特定の事柄に異様な「こだわり」を示すことである。

 総説に当たる部分の執筆者大井学氏は、それを安易に「文化的」特性と結びつけることには危険があることを留保しながら、発現率に、国内的にも、国際的にも地域差があることや、これまでに提案されてきた自閉のモデルのいくつかを、自説とともに紹介されている。いずれも「科学的」と言い切ることのできない点を抱えていることが明かされる。

 こうした性格上、「自閉」に治癒はあるのか、そもそも、「自閉」の治癒とは何を指すのか、ということも問題になる。不都合が明らかな場合には、その不都合が取り除かれるか、軽減されることが望ましいのは当然だが、それが、たとえば投薬のような方法で可能なのか、という点は長らく問題であった。精神医学者の棟居(むねすえ)俊夫氏は「生まれつきの病気です」と明言されてもいる。しかし、最近オキシトシンという一種のホルモンが、ある種の不都合を改善する可能性を持つのでは、と言われ始めていることが、人々の関心を集めている。棟居氏もその可能性は認めつつも、極めて慎重な姿勢に終始しているのは、「自閉」が、多角的な障害であり、一対一のような「治療」があり得ない、という面を持つからでもあろう。

 ただオキシトシンは、母親になる準備の段階から、脳内で多く合成・分泌されるものであり、母子間コミュニケーションの潤滑化に関わりがあるかもしれないのと同時に、女性にのみ限られた物質でもなく、その意味で、対人関係に影響力があることが取りざたされてもいる。まだまだ、明確な結論を出せる段階ではないことは、はっきりさせておかねばならないとしても、である。いずれにしても、本書は、「自閉」という把握しがたい対象に、学問的(科学的とは書けない)に多くの観点から迫った好著であり、当事者はもちろん、教育に関わる人々にも参考になろう。
    --「今週の本棚:村上陽一郎・評 『自閉症という謎に迫る』=金沢大学子どものこころの発達研究センター・監修、竹内慶至・編」、『毎日新聞』2014年03月09日(日)付。

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