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覚え書:「今週の本棚:加藤陽子・評 『国際メディア情報戦』=高木徹・著」、『毎日新聞』2014年03月23日(日)付。

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今週の本棚:加藤陽子・評 『国際メディア情報戦』=高木徹・著
毎日新聞 2014年03月23日 東京朝刊

 (講談社現代新書・840円)

 ◇倫理をめぐる戦場の実態に迫る

 昨今、会長による就任記者会見や国会答弁など世間の注目をひくことの多かったNHKだが、本書の著者はそのNHKで長らくディレクターを務めてきた人物である。

 日本近代史を研究する身としては、「NHKスペシャル」等の特集番組を作成するディレクター氏の奮闘から、実に多くのものを学ばせて貰(もら)ってきたとの思いがある。いわく、二・二六事件時の決起将校の通信傍受記録を発見した中田整一、「昭和天皇独白録」作成にGHQ側で関与したフェラーズ文書を発掘した東野真等々。

 だが、著者の高木徹は、これらのディレクター氏とはいささか異なる肌合いを持つ。出世作となったNHKスペシャル「民族浄化--ユーゴ・情報戦の内幕」と、それを書籍化した『ドキュメント 戦争広告代理店』(講談社文庫)のタイトルからもわかるように、これまで高木は、新史料を用い歴史に新たな光を当てるというよりは、世界で日々繰り広げられる情報戦の実態と映像の重要性について、世の注意を喚起しようと努めてきた。

 もう二十余年も昔のこととなったが、湾岸戦争を機にCNNやBBCなどは、国際的影響力を寡占しうるテレビメディアとして急成長を遂げた。紛争の当事者にとって、これら国際メガメディアが支配する情報空間において自らの正当性を効果的にアピールしうるかどうかは、死活的に重要なこととなる。

 ユーゴスラビア解体に端を発した一九九二年からのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争。自らも手が汚れていなかったはずのないボスニア政府は、アメリカのPR会社ルーダー・フィン社の凄腕(すごうで)ジム・ハーフを雇い、セルビア共和国のミロシェビッチ大統領を稀代(きたい)の大悪人に仕立て上げることに成功する。独創的なアングルからボスニアで起きていた真実に迫った著者は、ハーフの戦争広告代理戦術についてサウンドバイト、バズワード、サダマイズの三つのキーワードから解説した。

 サウンドバイトとは、要人などの記者会見の発言から要点を、数秒から十数秒の長さに編集した断片を指すテレビ用語だ。時間内に収まる印象的な単語をいかに盛り込むかが鍵となる。バズワードとは、情報の受け手の心を一瞬で掴(つか)む単語を指す。最も有名な例は「民族浄化(エスニック・クレンジング)」だろう。本来は肯定的に用いられ、清浄を意味するクレンジングという単語が除去の意味で用いられた。この落差の感覚が前提としてあり、さらにナチスの記憶がそこに加わったとき、「ホロコーストと言わずに、ホロコーストを連想させる」、すさまじい喚起力をもった用語の誕生とあいなる。サダマイズとは、イラクの指導者であったサダム・フセインに比することで、敵対者を悪の権化として描き出す手法を意味する。

 このほか著者は、情報戦として見た場合のアメリカ大統領選挙やビンラディン殺害についても興味ぶかい分析を加えた。一九九二年の民主党のクリントン候補とのテレビ討論で共和党のブッシュ(父)大統領が犯した決定的な仕草の過ちとは何か、またビンラディンが殉教者として崇(あが)められないように採られた措置は何だったかなど、ページをめくる楽しみがあった。

 現在の日本に対し、例えば中国は「カイロ宣言やポツダム宣言に基づく国際秩序を遵守(じゅんしゅ)しない国」との批判を加える。このような批判にどう答えてゆけばよいのか。本書の終章「倫理をめぐる戦場で生き残るために」は、日本と世界が共有する価値観の多さと安定性を地道に説いてゆくしかないとし、示唆に富む。
    --「今週の本棚:加藤陽子・評 『国際メディア情報戦』=高木徹・著」、『毎日新聞』2014年03月23日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140323ddm015070031000c.html:title]

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