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覚え書:「今週の本棚:白石隆・評 『IMF-世界経済最高司令部 20カ月の苦闘 上・下』=ポール・ブルースタイン著」、『毎日新聞』2014年03月23日(日)付。


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今週の本棚:白石隆・評 『IMF-世界経済最高司令部 20カ月の苦闘 上・下』=ポール・ブルースタイン著
毎日新聞 2014年03月23日 東京朝刊


 (楽工社・各1995円)

 ◇通貨危機に挑んだ金融政策中枢のドラマ

 「アジア通貨危機」は1997年7月、タイにはじまり、インドネシア、韓国に伝染して、1998年にはロシア、ブラジルと世界に拡(ひろ)がっていった。また、インドネシアではスハルト体制が崩壊し、ロシアではデフォルト(債務不履行)が起きた。しかし、それでも、米国では「世界は救われた」「危機は封じ込められた」という見方が一般的となった。韓国の危機は2回目のIMF救済策で封じ込められ、ブラジルでも2回目のIMFプログラムがうまくいった。1999年春には「世界的な危機は終わった」と宣言された。

 1997-99年、危機に陥った国の人々は確かに「辛(つら)い思い」をした。しかし、これらの国が危機に陥ったのは、その経済システムに「クロニー・キャピタリズム(縁故資本主義)」、腐敗、銀行の監督体制などの構造問題があったからである。そういう見方が定着した。『タイム』誌は1999年はじめ、「世界救済委員会」というタイトルで、アメリカのロバート・ルービン財務長官、ローレンス・サマーズ同副長官、アラン・グリーンスパン連邦準備制度理事会(FRB)議長の写真を表紙に掲載した。この3人がIMFと協力し、危機を封じ込めた、世界は救われた、ということだった。

 本当にそうだったのか。危機のまえには、これらの国々に巨額の資金が流入していた。金融市場がパニックをおこすと、その巨額の資金が一時に逃げ出して危機となった。そればかりではない。パニックをおこした金融市場はIMFの救済策にも期待されたような反応をしなかった。それが何度もくりかえされた。IMFが巨額の融資パッケージを発表すると、通貨が暴落し、危機がますます深刻化した。タイでは、IMF主導の170億ドルの救済策が発表された直後、それまですでに大幅に下落していたタイ・バーツがさらに値を下げた。インドネシアでは、330億ドルの融資パッケージがとりまとめられ、銀行16行が閉鎖されると、他の銀行でとりつけがおこった。

 1997年12月のIMFの1回目の韓国救済策はまったく効果がなかった。2回目の救済策はうまくいった。韓国政府の改革への政治的意思が確認され、韓国の金融機関に債権をもつ国際銀行が「資金を引き上げない」と合意したからだった。ロシアでは1998年7月にIMF主導の220億ドルの融資パッケージが供与された。しかし、その1ケ月後、ロシア政府はルーブルを切り下げ、国債を事実上、デフォルトした。その結果、ヘッジファンドのロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻寸前となり、アメリカの金融市場も危機に直面した。また、ブラジルでは、1999年、IMFが410億ドルの融資プログラムをまとめたあと、政府が固定相場制を放棄し、ブラジル・レアルは対ドルで40パーセント下落した。国際的な対立も表面化した。米国と日本は危機への対応、さらにはアジア通貨基金の創設で対立した。

 本書は、アジア通貨危機で危機対応にあたった政策決定中枢を「最高司令部」と呼ぶ。ここにはIMFに加え、米国の財務省とFRB、さらには日本、ドイツをはじめとするG7の国々の財務省、中央銀行、世界銀行もふくまれる。本書は、この「最高司令部」の危機対応は「最高」でもなければ、「司令部」というほどの力もなかったということを、タイ、インドネシア、韓国、ロシア、ブラジルにおける危機対応を丁寧に物語ることで明らかにする。

 冷戦終焉(しゅうえん)以降、金融のグローバル化は急速に進んでいる。米国在住の個人と企業が国境を越えて債券、株式、その他の証券を売買した金額だけを見ても、その総額は1980年の2490億ドルから1990年には5兆ドル、1997年には17兆5000億ドルに拡大している。また、新興市場では、海外から流入する民間資金の合計は1984-90年の1880億ドルから1991-97年の1兆430億ドルに増加した。このようにきわめて巨額のお金が国境を超えて瞬時に行き交う時代には、金融市場がパニックに陥ると、すぐどこかで流動性危機となって表面化する。1997-99年の危機はそれがどれほど怖いものだったかを示した。また、IMFの危機対応も実は試行錯誤の連続だった。本書は、危機とそれへの対応を一つの壮大なドラマとして見事に描いている。

 本書は、アジア通貨危機において、「最高司令部」が危機にどう対応したか、これをIMFと米国政府に焦点を合わせて物語る。したがって、日本、ドイツ、さらには危機に陥った国々の対応について突っ込んだ分析はない。しかし、日本の対応については、たとえば榊原英資元財務官の証言があるし、インドネシア政府の危機対応についてはギナンジャール・カルタサスミタ元経済調整大臣の回顧録がある。そうした証言と合わせ読むと、本書のおもしろさは倍加する。(東方雅美訳) 
    --「今週の本棚:白石隆・評 『IMF-世界経済最高司令部 20カ月の苦闘 上・下』=ポール・ブルースタイン著」、『毎日新聞』2014年03月23日(日)付。

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