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覚え書:「今週の本棚:張競・評 『憎しみに未来はない-中日関係新思考』=馬立誠・著」、『毎日新聞』2014年03月23日(日)付。


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今週の本棚:張競・評 『憎しみに未来はない-中日関係新思考』=馬立誠・著
毎日新聞 2014年03月23日 東京朝刊

 (岩波書店・2940円)

 ◇対日世論の推移からみた言論多様化の難しさ

 日中関係に関心のある人なら、著者の名前は一度ならず聞いたことがあるであろう。二〇〇二年末に本人が提唱した「対日関係の新思考」は日本と中国で大きな話題を呼んだ。アジア経済のより一層の緊密化を図るために、歴史問題という障碍(しょうがい)を乗り越えるべきである。日中は真に和解すれば、ともに繁栄の道を歩むことができる。これが「新思考」の主旨である。当時、日中関係は曲がり角に来ており、著者の主張もさることながら、中国共産党機関紙の評論部主任編集者(日本風にいえば『人民日報』論説委員)という肩書も人々の耳目を引いた。

 それから十年の歳月が過ぎた。残念ながら日中間の真の和解が実現できなかったばかりか、状況はますます悪くなっている。アジアの将来を憂慮した著者は新たな一書を著して、世に送り出した。

 「憎しみに未来はない」とは二〇〇四年、シラク・フランス大統領(当時)が連合軍のノルマンディー上陸六十周年を記念する式典で語った言葉である。著者は同じ言葉を引用して、日中和解の大切さを訴えている。

 本書の内容は「対日関係の新思考」をめぐる論争に沿って展開されている。著者の論文が発表された後、中国でどのような反響があったかが分析を交えながら紹介されている。

 意外なことに「対日関係の新思考」の系譜は二十世紀の末頃にさかのぼる。その代表的な人物は中国社会科学院の日本研究所を立ち上げ、初代所長に就任した何方である。彼は早くから日中関係の将来を予測し、過去を乗り越え、日中がともに繁栄する道を探るよう、呼びかけた。著者は何方のことを知らずに「対日関係の新思考」を構想したが、先駆者がいたことに驚きながらも、同じ考えを持つ先輩がいることに自信を深めた。

 同世代にも賛同者が多くいた。中国人民大学の時殷弘教授や中国社会科学院日本研究所の馮昭奎・元副所長が代表的な人物。いずれも外交問題の専門家で、対外政策について当局に進言できる人たちである。

 一方、反対論者も少なくない。とりわけ、インターネットでは強烈な反対論が大半を占めている。

 あぶりだされたのはネット世論という問題である。日本にも「ネトウヨ」があるのと同じように、匿名性を悪用した、無責任な言論が中国のネット空間で氾濫している。言論の自由が制限されることもあって、インターネットは唯一のはけ口となり、問題をより複雑にした。もともとサイバー空間には選別や校閲といったチェック機能がないため、低劣な言論は取り除かれない。利用者のリテラシーの問題もあって、熱狂的な群集心理には不当に煽(あお)られる危険性がつねに潜んでおり、憎しみや敵意がサイバー空間で増幅されやすい。情報化技術の発達は思わぬ形で、日中の感情対立を助長したのかもしれない。

 ただ、根本的な問題はやはり人々の心にあると著者は考えている。そのため、本書はたんに日中関係の改善に対し、時宜にかなった提言をしたのにとどまらず、問題の根源にある社会的病弊にも批判が向けられている。詳細は本書を読んでほしいが、「葛紅兵事件」に代表されるように、ネット世論が暴走する背後には社会の不寛容、人格尊重の意識の欠如といった問題が横たわっている。真の大国になるには寛容な人間性、公共道徳心の育成、国民の素養の向上は不可欠である。対日感情は国際問題であると同時に、心の近代化という国内の大きな課題でもある。記憶の公共性をどう確保するか。今後、言論の一層の多様化を期待したい。(及川淳子訳) 
    --「今週の本棚:張競・評 『憎しみに未来はない-中日関係新思考』=馬立誠・著」、『毎日新聞』2014年03月23日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140323ddm015070036000c.html:title]

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