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日記:市場原理は、辺境ほど、末端ほど、荒々しく働く。


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 かつては、県庁所在地レベルの地方都市なら、変わった並びの書籍や古本屋が何軒もあったはずだ。商店街の店舗の多くは家賃を払わなくていい環境にあるから、日銭さえ入って来れば、どうにか商売は続けられる。街の本屋は雑誌を売って生計を立て、あとは好きな本だけを商っていられた。しかし、今、人びとは、雑誌はコンビニで買うし、欲しい本はネットでも手に入れることができる。そうなってくると、この手の、経済原理に抗おうとするマニアックな本屋が生き延びられるのは、東京や大阪といった大都市圏のみということになる。地方ほど、無駄が許容できなくなっているのだ。
 では、そういった地方都市に、小さな書店は要らないのだろうか。私は、このような小さな書店が、文学少年、文学青年の魂のゆりかごになっていたのではないかと思う。本屋で立ち読みをしていると、普段無口な店主が近づいてきて、「お前もそろそろいい歳なんだから、ツルゲーネフでも読めよ」と勧める。「次はドストエフスキーか」と先回りして、売れるあてのない岩波文庫を仕入れておいてくれる。書店や古本屋さんだけではない。街の写真館が、ジャズ喫茶が、ライブハウスが、画廊が、地域の文化の重層性を支えてきたのではあるまいか。それら地域の文化を下支えしてきた小さな空間が、根こそぎなくなっていく。
 繰り返す。市場原理は、辺境ほど、末端ほど、荒々しく働く。
 これまでもみてきたように、文化芸術は、すぐに金になるものではない(すぐに金になる部分の話もあとでするが)。だとするならば、地方ほど、行政が介入して文化を支えていかなければ、辺り一面、ぺんぺん草も生えない状態になってしまう。
    --平田オリザ『新しい広場をつくる 市民芸術概論綱要』岩波書店、2013年、27-28頁。

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バブルが崩壊してこのかた、社会も個人も、公共の世界も私的営利の世界も、「効率」という規準が全てを裁断し、無駄と思われるものを徹底的に排除してきた。

しかし、そこから浮かび上がる光景とは何だろうか。広がる無縁と格差の前に、そのお慰みとして「愛国」がひとびとに受容され、どんどん同じ顔になってきている。

メンタリーだけの問題ではない。中心部から郊外へ向けて車を少し走らせてみると、日本全国どこでも同じ光景ではないか。

ショッピングモールとチェーン店。両者との「効率」のたまものだ。しかし「効率」と引き替えに私たちは一見すると「無駄」にみえる「文化」というものを失ってしまったのではないか。

新自由主義よろしく市場原理で、すべてをやろうとして私たちはそれに失敗したのだ。

確かに「うれない」ものは淘汰される。しかし市場原理を掲げた新自由主義が実際のところ、仲間内のデキレースで市場原理とはほど遠いものであったことを想起すれば、完全な「市場原理」という発想こそ噴飯ものだろう。

日本の精神風土は、公的領域が「国家」にのみ収斂されやすいから、公的領域を「国家」だけに限定する必要もないがだからといって国家がごり押しして本来負担すべきものを放擲して、必要のないところにリソースをそそぐのが現在の日本だから、公的負担の議論になると一筋縄でいかないところはあるとは思う。しかしながら、そろそろ、効率や市場原理で全てを説明するのろいから脱出すべきではないだろうか。


 

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