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覚え書:「(社説余滴)考える場を奪うむなしさ=井田香奈子」、『朝日新聞』2014年04月03日(木)付。

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(社説余滴)考える場を奪うむなしさ 井田香奈子
2014年4月3日 

 お年寄りを中心に450人がつどい、立ち見も出る盛況だった。

 先月、山梨県山梨市が開いた社会学者上野千鶴子さんの講演である。

 テーマは「ひとりでも最期まで在宅で」。担当課が昨年から準備していた。ところが2月に初当選した市長が突然、中止すると言いだした。性の問題に関する上野さんの過去の発言から、ふさわしくないと判断したのだという。

 これに市民から批判が相次いだ。各地の地方議員たちも開催を申し入れた。直前になって市長は中止を撤回した。

 特別な感慨をもってここにいる。上野さんが聴衆にそう話したのももっともだろう。

 ふだん会えない人の話を直接聞ける講演という場。自治体がはたす役割は大きい。

 今回のどたばたが、自治体関係者のなかに、無難な人選がいちばん、という空気を生みはしないかが気になる。

 これまでも男女平等や性を正面から扱おうとすると横やりが入ることがあった。

 2005年に東京都国分寺市が上野さんを招いた人権講座が中止され、08年には配偶者間の暴力にかんする別の人の講演が取りやめになった。

 いずれも、げんに深刻な問題を抱えている人がいて、目をそむけてすますわけにはいかないテーマである。

 今回の講演も実現はしたが、山梨市側は性教育のことは話さぬよう、上野さんに事前に念押ししたそうだ。

 干渉と自粛はときにさりげない。表面化する方が珍しいのだ、という指摘も聞いた。

 結局、自分とは違う考え方とどう向き合うかという問題にたどりつく。

 発言の場を奪うのではなく、相手の意見を聞いて、同意できなければ批判や反論をする。いろんな人が社会でともに暮らすなかで、培ってきた知恵のはずだ。

 講演の日。山梨市長は冒頭、混乱をわびたが、講演が始まる前に退席した。その背中に客席から「市長、聞かなきゃ」という声が飛んだ。

 聞きに来た人たちは、上野さんの考え方のすべてに同意する人ばかりではなかっただろう。会場からはいろいろな質問や意見が出て、難しさや悩みの共有があった。

 だれの話を聞きにいくか、聞いてどう感じるかは、一人ひとりが決めることだ。

 「あの人はこうだから」と分類し、考える場を取り上げようとすることがいかに無用か、痛感させられた。

 (いだかなこ 司法社説担当)
    --「(社説余滴)考える場を奪うむなしさ=井田香奈子」、『朝日新聞』2014年04月03日(木)付。

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[http://www.asahi.com/articles/DA3S11064505.html:title]

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