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覚え書:「今週の本棚:川本三郎・評 『戦争俳句と俳人たち』=樽見博・著」、『毎日新聞』2014年04月06日(日)付。


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今週の本棚:川本三郎・評 『戦争俳句と俳人たち』=樽見博・著
毎日新聞 2014年04月06日 東京朝刊

 (トランスビュー・3456円)

 ◇いま、よみがえる戦時下の「つぶやき」

 戦争と俳句。その組合わせに、一瞬、意表を突かれる。俳句は戦争のような猛々(たけだけ)しい世界とはもっとも遠くにあると思われるから。

 ところが現実には、戦争中、数多くの俳句が詠まれていた。近代の代表的俳人、水原秋桜子(しゅうおうし)は当時、こう書いた。「聖戦はじまつて以来、戦線の将士、帰還の将士及び銃後の国民によつて詠まれた俳句は非常な多数にのぼつた」(『現代俳句論』)

 俳人だけではなく普通の人々が数多く俳句を作った。戦争の時代は俳句の時代でもあった。著者は、この意外な事実を、戦時中に出版された句集や俳句論、俳句雑誌を丹念に読むことで明らかにしてゆく。あまり語られてこなかったことだけに蒙(もう)を啓(ひら)かれる。

 『日本古書通信』の編集長である著者は、会社に近い神保町の古書店で何年もかけてこれらの埋れた本を集めていったという。

 当時の俳句を、現代の視点で戦争俳句と性急に批判するのではない。著者は何よりもまず、戦時にどういう句が詠まれていたかを明らかにしてゆく。自由な言論などなかった時代に表現者はどういう句を詠んだのか。戦争、そして死に言葉でどう立ち向かったのか。

 山口誓子(せいし)、日野草城(そうじょう)、中村草田男(くさたお)、加藤楸邨(しゅうそん)らが論じられる。戦争がいや応なく著名な俳人たちに襲いかかる。避けて通ることは出来ない。楸邨は書く。「俳句が戦争を詠むのではなく、戦争が俳句を生む秋(とき)が来た」

 といっても時局におもねった戦意昂揚(こうよう)、愛国心の熱狂を詠んだ句は少ない。戦争を避けられぬ現実として受けとめた上で、どう表現者としての個を守るか。その苦闘、葛藤のなかで句が作られている。

 誓子の「入営を送り鉄路の野を帰る」「ひとり膝を抱けば秋風また秋風」には苦しい世の孤独がにじむ。空襲で家を焼かれた楸邨の「火の奥に牡丹(ぼたん)崩るるさまを見つ」は壮絶。

 さらにまた実際に兵隊に取られた俳人たちの句はいま読んでも心打たれるものが多い。

 戦争俳句として最も有名な長谷川素逝(そせい)の句集『砲軍』の「わが馬をうづむと兵ら枯野掘る」「寒夜くらしたたかひすみていのちありぬ」。

 富澤赤黄男(かきお)の「秋ふかく飯盒(はんごう)をカラカラと鳴らし喰(く)らふ」。あるいは片山桃史(とうし)の「応召の兵とその妻氷噛(か)む」「兵疲れ夢を灯しつゝ歩む」「砂丘灼(や)け長き兵列天へ入る」。

 題材の重さに寄りかかっている句かもしれないが、死に直面しながら句を詠み続ける精神の強さ、必死さには心うたれる。桃史はニューギニアで戦死している。戦争そのものは批判しえても、戦場の兵士の思いを否定することは出来ない。

 本書には、無名の兵士たちの句も紹介されている。

 「昼顔の蔓(つる)延びて咲く兵の墓」「煙草(たばこ)なくマッチなく月まろみけり」「明日はまた明日なりと兵等花蒔(ま)く」。いずれも戦前の出版社、改造社が出していた雑誌『俳句研究』の「大東亜戦争俳句集」号に載っている句。さらに別の雑誌にある「単騎深く大夕焼に乗り入るる」。

 どれも勇猛な句ではない。軍の厳しい検閲を経て投句されたのに戦意昂揚の猛々しさとはほど遠い。

 確かに抜きん出た秀句ではないかもしれない。しかし著者がいうように「自分の置かれた状況を疑うことを禁じられた兵士たちのつぶやきだけが聞こえるようだ」。

 あの時代にこういう俳句が作られていたとは驚きであり、救いでもある。忘れられた古書のなかから戦時下の「つぶやき」に光を当てた労作に敬意を表したい。
    --「今週の本棚:川本三郎・評 『戦争俳句と俳人たち』=樽見博・著」、『毎日新聞』2014年04月06日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140406ddm015070002000c.html:title]

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