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覚え書:「今週の本棚:持田叙子・評 『異端の皇女と女房歌人』=田渕句美子・著」、『毎日新聞』2014年04月06日(日)付。


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今週の本棚:持田叙子・評 『異端の皇女と女房歌人』=田渕句美子・著
毎日新聞 2014年04月06日 東京朝刊

 ◇持田叙子(のぶこ)評

 (角川選書・1944円)

 ◇荒ぶる情念を放つ女流の素顔

 花の季節は、和歌の季節。桜の下でケータイをかざすのもいいけれど、花のはかなさを愛(め)でてきた古歌の一首も口ずさみたくなる。

 そんな季節にぴったりの本です。何しろ舞台は、後鳥羽院の築いた和歌の黄金期、新古今時代。自らも歌に命かける後鳥羽院は、定家や良経、慈円らを重用し、すばらしい清新な歌壇をつくった。前例ないほど多くの女流歌人をも、その歌の王宮に招き入れた。

 本書のヒロインは彼女たち。第一の主人公は、院が敬愛した叔母の式子(しょくし)内親王。そして宮内卿(くないきょう)や俊成卿女(しゅんぜいきょうじょ)などの歌才あふれる宮廷女房。古い習慣にこだわらぬ院は、女流に期待し、すぐれた女房歌人を探し求めた。ゆえに新古今時代は、未曽有の女流の時代でもある。

 けれど彼女たちはたおやかに心のまま詠んだのではない。和歌文化による王国の樹立をめざす後鳥羽院の愛と要求は重く、苛烈である。冒頭に著者は特記する。

後鳥羽院はすべての歌人を自ら選び、歌人たちが詠む和歌にはすべて目を通していたと思われる。(中略)後鳥羽院の宮廷と歌壇は、厳しく、そして恐ろしいものであった。

 あな恐ろし。華やかに歌詠む姫君や女房のイメージはぶっ飛ぶ。宮廷に歌人として生きることは、王の文化圧力と過緊張に耐えることであった。天才の定家すら、おびえている。まして世なれぬ女流はいかに。

 十五歳の少女歌人として出仕した宮内卿などは、「あまりに歌を深く案じて病になりて」血を吐き、二十歳ほどで死んだと伝えられる。彼女は、みずみずしい若草を詠む名歌で知られる。

薄く濃き野辺の緑の若草に跡まで見ゆる雪のむら消え

 一見すなおで優しい歌だけれど、古歌を研究し、従来の発想を転換する革命的な表現が仕かけられていると、著者は分析する。ああ、若草の宮内卿。大好きなこの緑の歌の背景が吐血にまみれるとは知らなかった!

 このように著者の筆は、女性ひしめく宮廷に分け入りながら情緒に負けず、鮮やかにドライに当時の歌壇の現実をあぶり出す。その上で歌を解する。そこが秀逸。たとえば式子内親王のこの恋歌の解釈には目がさめる。

玉の緒よ絶えなば絶えね長らへば忍ぶることの弱りもぞする

 内親王は、定家との恋もささやかれる人。この歌は、そうした悲恋の反映とされてきた。しかしこれは、「忍恋(しのぶるこひ)」という題で詠まれた虚構の歌。しかも「忍恋」とは、男性の恋歌の題。つまり内親王は自身を男になぞらえ、「男歌」として烈(はげ)しい恋の悲痛を叫んだのだ。

 和歌の世界ではこのように、歌人はおのが性別を越え、男とも女とも化して詠む。ゆえに歌を詠む営みは、演技でもある。そして式子内親王とはさまざまな男に化し、「内攻する荒ぶる情念」を放射するのを好む方だった。彼女以前に、「男歌」を詠む皇女はいない。

 悲恋に耐える嘆きの皇女という既成のイメージは崩され、式子内親王の内側より、荒ぶる烈しい<異端の皇女>の顔貌があらわれ出る。

 面白い。へたな歴史小説を読むより、うんと面白い。文章も明晰(めいせき)で華があり、緻密な調べが新鮮な驚きを生む。後鳥羽院の歌才を先駆的に絶讃(ぜっさん)した歌人の折口信夫が、それにつけても式子内親王とは、従来思われるようなしとやかな方ではない、ひどく変った御性格であると首をかしげていた。その謎にも、一つの鮮明な答を示された思い。胸がすく。
    --「今週の本棚:持田叙子・評 『異端の皇女と女房歌人』=田渕句美子・著」、『毎日新聞』2014年04月06日(日)付。

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