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覚え書:「今週の本棚・この3冊:小高賢=米川千嘉子・選」、『毎日新聞』2014年04月06日(日)付。


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今週の本棚・この3冊:小高賢=米川千嘉子・選
毎日新聞 2014年04月06日 東京朝刊

 <1>家長(小高賢著/雁書館/品切れ)

 <2>この一身は努めたり--上田三四二の生と文学(小高賢著/トランスビュー/3024円)

 <3>転形期と批評--現代短歌の挑戦(小高賢著/柊書房/2700円)

 小高賢には八冊の歌集があるが、平成に入る時代の家族像と、作者の人間への志向を象徴する意味合いにおいて、まず『家長』を選ぶ。

 <雨にうたれ戻りし居間の父という場所に座れば父になりゆく>

 <鴎外の口ひげにみる不機嫌な明治の家長はわれらにとおき>

 近代の「家長」、そして現代の「父」。家や家庭という場の役割を生きる一人の男性がかみしめる孤独や憂鬱や愛。小高は、家族や職場の歌、そして時代や死を意識する人生の歌を多く詠んだが、その世界はいつも、一人の生身の人間とそれを取り巻く外側の世界や絶対的なものとの葛藤、往還の上に繰り広げられる。そこに立ち上るまっとうさと人間味の濃さこそ小高賢そのものだった。人間は外の世界や時間や死から切り離されて浮遊したり、一片の言葉にすべてを夢想するようには生きていない。人間の全体性、多面性への志向は、小高の歌人活動そのものの軸でもあったと思う。

 『この一身は努めたり』は、医師であり、歌人、評論家、小説家であった上田三四二(みよじ)の生涯と文学を見渡す。短歌を「日本語の底荷」だといった上田の短歌の世界が、多ジャンルとの関わりの上に丁寧に論じられ、終生病と闘い、まさに「努め抜いた」人間の営みの全体性と必然性の中に辿(たど)られて独特の量感をもつ。それを導いたのは小高の、人間の弱さや諦めへの着目である。

 評論集『転形期と批評』は、八〇年代から世紀をまたぐ著しい変化の時代、短歌の世界に浮上した問題をつぎつぎに取り上げた。「オトナコドモ」という新しい主体、テロや戦争を詠むいわゆる社会詠の危うさ、極限まで研ぎ澄まされてしまった現代短歌の表現など、どれも簡単な解決などありえない問題だが、小高は何度でもこれでよいのか、と疑問符を投げかける。老いの歌を含め、ここに展望された問題は近年いっそう先鋭に現実的になって話題を呼んだ。

 批評や鑑賞において議論において、小高のセンテンスは非常に短い。江戸っ子気質(かたぎ)の歌人は長い文章や晦渋(かいじゅう)の多い文章を嫌った。そこに潜む用心や逃げを嫌ったのである。短いセンテンスをリズムよく繰り出しては、自分の言葉の世界に籠もりがちな歌人たちに切り込み問いかけた。

 「米川さん、それはどうなの?」亡くなられても小高さんは聞いてくれるだろう。
    --「今週の本棚・この3冊:小高賢=米川千嘉子・選」、『毎日新聞』2014年04月06日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140406ddm015070004000c.html:title]

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