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覚え書:「発言 対話こそ道徳教育だ=河野哲也」、『毎日新聞』2014年04月10日(木)付。


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発言
対話こそ道徳教育だ
河野哲也 立教大教授

 小中学校の道徳教育を「特別の教科」に格上げしようとする動きがある。文部科学省によれば、道徳教育は、「児童生徒が道徳的価値について自ら考え、実際に行動できるようになる」ことを狙いとする。そのために必要なのは、価値の教え込みではない。道徳教育において重んじられるべきは、対話と思考である。
 学校での「話し合い」はしばしば教師に誘導され、「うそをついてはいけない」「いじめは許されない」などと結論がきまっている。
 これは対話ではない。道徳教育において世界で大勢となっているのは、子ども同士で対話させる方法である。子どもにテーマを決めさせ、結論を定めず対話する。相手の人格を尊重する限り発言は自由だが、他人の発言も最後までしっかり聞く。
 特に重要なのは、相手を理解するために互いに質問し合うことである。発言の論拠を問い、ゆっくりと考えながら対話する。1人が一方的に話したり、無理に発言させたりするような雰囲気は避け、安心して話し合える場所作りを心がける。
 こうした対話型授業は、一部の小中高校が自主的に導入を始めている。協力しているのは、大阪大学、東京大学、上智大学、立教大学などの哲学者である。
 対話型授業には二つの大きな利点がある。一つは、自分の道徳的判断や行動について反省し、その根拠と原則について考えるようになる点である。道徳性は、単純なしつけや思い込みからではなく、反省と熟慮から生み出される、第二に、他者との対話そのものが道徳的な営為であり、対話をすることによって学級の道徳性が高まる。
 たとえば、小学4年生のある学級では「未来は誰がつくるのか」がテーマに選ばれた。多くの子が「未来は自分でつくる」といった発言をしたが、「未来そのものは勝手にやってきて、自分でつくるのは夢だ」と見事に別の観点を述べた子もいた。
 さらに「政治家」「科学者」という意見もあり、大人や権力者につくられる未来に違和感を覚えるとの発言も出され「公と私」の境について自発的に語り始めていた。授業終了後には「いろいろ意見が出て楽しかった」「友だちの意外な素顔が見られた。またやりたい」などの感想が寄せられた。差異があるからこそ対話が生まれ、対話がなされるからこそ差異が理解される。
 これに対し、対話しない集団では考え方や嗜好を同調させることで、何とか集団を保とうとする。メンバーに違いを隠すことを強い、個性を押し殺すことを要求するために、自分がありのままで集団に受け入れられている感じを持つことはできない。各人はすでにできあがった集団の秩序に自分を合わせることばかりに気を使うので、積極的に集団に参加したいという意識を持てない。集団をよりよくしていこうという気持ちも湧かない。
 対話がないと集団の中に新しい意見はもたらされず、各人は成長するきっかけを失い、集団も活力をもてずに、発展は停滞する。これが今の日本の姿ではないだろうか。
こうの・てつや 哲学専攻。著書に「道徳を問いなおす リベラリズムと教育のゆくえ」など。
    --「発言 対話こそ道徳教育だ=河野哲也」、『毎日新聞』2014年04月10日(木)付。

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