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覚え書:「今週の本棚:本村凌二・評 『人類5万年 文明の興亡 上・下-なぜ西洋が世界を支配しているのか』=イアン・モリス著」、『毎日新聞』2014年04月20日(日)付。


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今週の本棚:本村凌二・評 『人類5万年 文明の興亡 上・下-なぜ西洋が世界を支配しているのか』=イアン・モリス著
毎日新聞 2014年04月20日 東京朝刊

 (筑摩書房・各3888円)

 ◇古代、先史に目を向け、未来を語る

 読み書きなど当然のご時世だが、人間が文字を開発してから5千年しか経(た)っていない。それとともに歴史と文明が始まると言うが、本書の視野はその10倍の5万年になる。そこにはいかなる意味があるのだろうか。

 欧米のギリシャ文化愛好者のなかには、古代ギリシャが近代西洋風の生活文化の原点である、と信じて疑わない向きがある。考古学と古代史を学びだした若いころの著者もそういう信念に凝り固まっていたという。

 ところが、さまざまな出会いのなかで、多様な地域と時代にあっても類似した特徴があることに気づいてきたらしい。人類史にまで広がるグローバルな視点がなければ、真相は浮び上らない。そこに問題がひそんでいるのだ。

 アフリカにいた現生人類が移動して地球上に広がったのは6万年前。そのころ東洋も西洋も違いはなかった。たしかに、この500年ほどに目をやれば、いかにも西洋が世界を率いるように見える。だが、それ以前の過去までさかのぼれば、いずれにあっても成長や停滞、破綻などがくりかえされている。こうして、歴史と文明の全体像をつかもうとする意欲が生まれる。

 著者によれば、従来のアプローチには2通りある。一つは、太古の昔に東西は異質な世界になり、そのために西洋は産業革命に到達したという「長期固定」理論である。もう一つは、アヘン戦争直前の19世紀になってはじめて西洋は東洋をしのいだのであり、それもほとんど偶然の出来事だったという「短期偶発」理論である。これに対して、著者は「社会発展指数」なる手法を取り入れ、過去を計る作業を提案する。国連の人間開発指数に示唆された「エネルギー獲得量、組織化・都市化、戦争遂行力、情報技術」の四つを点数化したものである。

 今から数千年前に、ユーラシアの西端と東端に文明のコアが生まれたという。気候と生態系の変化のおかげで西洋は恵まれており、社会発展指数はローマ帝国の末期まで西洋が高かった。だが、その後は事情が変わり、千年間以上は東洋が優位に立つほどだった。

 これらの数値は興味深いが、古今東西のエピソードとなると人間味にあふれている。たとえば、贅沢(ぜいたく)をきわめたローマ教皇庁では、イエスが貧しかったと言うことすら禁じたという。14世紀半ばに疫病が広がったとき、急激な衰退があり、終末の訪れが感じられた。疫病は異教徒の処罰のためのものであったが、キリスト教徒には神の慈悲による殉教でもあった。

 古代のアリストテレスは自発作業機器ができないかぎり奴隷は常に必要だと考えていたが、電力を知る時代には賢人の洞察が幻想ではなかったことがわかる。

 かつて中国人は科学ですばらしい成果をあげてきたのに、17世紀に近代科学を生み出したのはなぜ西洋人なのだろうか。西欧では大西洋を越えて知が広がったために、時間、空間、金銭を厳密に測定する必要に迫られた。清朝は知識人を国務にとりこみ、革新思想を野放しにする危険に敏感であったという。

 ともすれば、考古学者や古代史家は近現代社会の歴史や文化の研究者の陰にかすんで忘れ去られがちである。だが、古代や先史時代にまで目を向けなければ、壮大な人類史の流ればかりか、未来をも語れなくなるのだ。この著者の主張には同学の評者は心から共感するものがある。(北川知子訳)
    --「今週の本棚:本村凌二・評 『人類5万年 文明の興亡 上・下-なぜ西洋が世界を支配しているのか』=イアン・モリス著」、『毎日新聞』2014年04月20日(日)付。

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