« 書評:宮崎幸江編『日本に住む多文化の子どもと教育 ことばと文化のはざまで生きる』上智大学出版、2013年。 | トップページ | 覚え書:「今週の本棚:池澤夏樹・評 『セラピスト』=最相葉月・著」、『毎日新聞』2014年04月27日(日)付。 »

覚え書:「今週の本棚・本と人:『JR上野駅公園口』 著者・柳美里さん」、『毎日新聞』2014年04月27日(日)付。

5


-----

今週の本棚・本と人:『JR上野駅公園口』 著者・柳美里さん
毎日新聞 2014年04月27日 東京朝刊

 (河出書房新社・1512円)

 ◇千差万別の「痛み」救えるか--柳美里(ゆう・みり)さん

 「私の場合、物語は必ず『痛み』の中から立ち上がるんです」。2006年、東京・上野公園のホームレスの人々を取材した。元は出稼ぎで、東北出身者が多いと知った。その際、一人の男性が両手で三角屋根を作ってみせ、「ある人には、ない人の気持ちは分からないよ」と言った。「家」すなわち帰る場所。「拒絶を感じて返す言葉がなかった。私自身、崩壊した家庭で育ち、家出もしたけれど……」

 彼らの痛みを心に抱えながら時間はたち、11年に東日本大震災。直後から原発周辺に通い、翌年からは福島県南相馬市の臨時災害ラジオ局の番組でパーソナリティーを務め、地元の人の話に耳を傾けてきた。津波や原発事故で避難を余儀なくされた人と、上野公園のホームレス--。両者の痛みをつなぐ小説の着想を得た。それは、死者も生者も混然一体の世界になった。

 主人公の男は1933年、現在の南相馬市生まれ。63年、出稼ぎのため上野駅に降り立つ。<東京オリンピックで使う競技場の建設工事の土方として働いた。オリンピックの競技は何一つ見なかった……>。60年生まれの息子は21歳で先立ってしまう。男はやがて上野公園でホームレスになる。男は現在、既に死んでいるようだが、しきりに公園をさまよい、来し方を思う。男の生年は天皇陛下、息子のそれは皇太子殿下と同じだ。物語に流れる2本の川の断絶はあまりに深い。

 息子に親、妻、仲間たちの死に満ちた物語は、聞こえの良い言葉も、安直な救いも徹底的に拒絶する。むしろ、「3・11」「故郷の喪失」などと、かぎ括弧でくくってしまう言説が暴力だと教えてくれる。痛みに苦しむのは千差万別の個人なのだと。「『一人』を救い出すのが、作家と小説の仕事だと思うのです」。読む者はそっと背中を押されると同時に、傍観者ではいられなくなるだろう。

 物語は、津波のシーンまでしか描かれていない。だが私たちは、直後に原発事故が起こり、次の東京五輪開催が決まったと知っている。また使い捨てられる人を生むのでは? 「私は、たった一人でも仮設住宅で観戦する人がいたとしたら、オリンピックは失敗だと思います」<文と写真・鶴谷真>
    --「今週の本棚・本と人:『JR上野駅公園口』 著者・柳美里さん」、『毎日新聞』2014年04月27日(日)付。

-----


[http://mainichi.jp/shimen/news/20140427ddm015070035000c.html:title]

Resize0929


JR上野駅公園口
JR上野駅公園口
posted with amazlet at 14.04.28
柳 美里
河出書房新社
売り上げランキング: 1,265


|

« 書評:宮崎幸江編『日本に住む多文化の子どもと教育 ことばと文化のはざまで生きる』上智大学出版、2013年。 | トップページ | 覚え書:「今週の本棚:池澤夏樹・評 『セラピスト』=最相葉月・著」、『毎日新聞』2014年04月27日(日)付。 »

覚え書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/451663/55978444

この記事へのトラックバック一覧です: 覚え書:「今週の本棚・本と人:『JR上野駅公園口』 著者・柳美里さん」、『毎日新聞』2014年04月27日(日)付。:

« 書評:宮崎幸江編『日本に住む多文化の子どもと教育 ことばと文化のはざまで生きる』上智大学出版、2013年。 | トップページ | 覚え書:「今週の本棚:池澤夏樹・評 『セラピスト』=最相葉月・著」、『毎日新聞』2014年04月27日(日)付。 »