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研究ノート:普通選挙に反対した山川均


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 一九一八年九月、原は政権の座に就く。原は第一次世界大戦をはさむ前後で欧州の没落とアメリカの台頭を予測した。この国際情勢認識の的確さが政友会の地位の向上をもたらす。その結果が原内閣の成立だった。
 政友会の対欧米協調路線を対米協調に引きつけて継承した原は、国内政策の基本路線についても同様の立場だった。原敬の政治指導の古典的な研究は、原によって「方向付けられた政友会の鉄道政策=地方主義的鉄道政策」を分析する。それは要するに「港湾の改良とそれに伴なう海運の発展によって既成線を補完しつつ、地方線の増設をすべてに優先させることによって、対内的な地方的利益の要求に応えようとするものであった」。
 このように原は政友会の基本路線の政党的な継承者だった。他方で原は別の意味でも伊藤の作った政友会を継承した。原は政友会の結成時に伊藤が自分の率いる官僚閥のひとりである。外務官僚出身の原は、一方では鋭敏な国際情勢認識によって政友会の地位を高めつつ、他方では官僚主導の政治を進める。
 それだけではなかった。伊藤の政友会が山県から政権を譲り受けたように、原も政権の座に就くために、当時、最長老の元老としてもっとも大きな影響力を持っていた山県からの支持の獲得に努める。山県への原野接近は非政党勢力への依存を強めることになる。
 原は山県の信任を普選時期尚早論によって得る。第一次世界大戦後の国際的なデモクラシー化は日本の民主化運動に波及する。一九二〇年一月の全国普選期成連合会の結成、二月の野党(憲政会・国民党・普選実行会)による普選法案の議会提出と続く。議会の外では普選大示威運動が展開する。
 原は普選時期尚早論の立場から衆議院の解散・総選挙によって対決姿勢を強める。原を嫌う対象デモクラシーの理論的指導者=吉野作造は、原の意図を見抜いていた。「今日我が国において政局を巧みに操縦するには、反対の傾向に立つ二大勢力の間をたくみに跨ぎおおせる事が必要だ。一つは元老を中心とする保守的勢力であり、一つは民間に鬱勃たる進歩的勢力である」。普選時期尚早論によって、原は「政局を巧みに操縦する」。なぜならば山県を筆頭元老とする「保守的勢力」の支持を得ながらも、「進歩的勢力」に対抗できたからである。
 国際的なデモクラシー化に対応しなくてはならなくても、原にとっては国内の権力基盤の確立の方がさきだった。原は山県の支持を必要としていた。原は普選時期尚早をめぐって解散・総選挙をおこなう理由を説明する。「漸次に選挙権を拡大する事は何等異議なき処〔中略〕階級制度打破と云うが如き現在の社会組織に向て打撃を試んとする趣旨より納税資格を撤廃すと言うが如きは実に危険極るにて〔中略〕寧ろ此際議会を解散して政界の一新を計るの外なきかと思う」。
 野党の普選法案や普選促進大示威運動は、漸進的な民主化を求めていた。この主張の正当性をおとしめるために、原は普選要求運動が漸進的な民主化ではなく、急進的な民主化を求めていると誇張した。
 急進的な民主化を求めていたのは普選要求運動ではなく、社会主義運動の方だった。社会主義運動は、普選による合法的な手段よりも直接的な行動によって革命の実現をめざした。実際にたとえば当時の社会主義運動家のひとり山川均は普選に反対している。
 別の言い方をすれば、山川たち社会主義者は合法政党としての無産政党が多くの議席を獲得できると考えなかった。原はこのような急進的な民主化運動を針小棒大に見せることで普選時期尚早を正当化し、政友会の保守化を進めた。一九二〇年五月の総選挙で政友会は議席の六〇パーセントを得る。普選時期尚早論を掲げて選挙に勝った。そう判断した原によって普選の実現は遅れる。漸進的な民主化を求める運動も沈静する。
    --井上寿一『政友会と民政党 戦前の二大政党制に何を学ぶか』中公新書、2012年、14-16頁。

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