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覚え書:「書評:ある文人学者の肖像 評伝・富士川英郎 富士川 義之 著」、『東京新聞』2014年05月04日(日)付。


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ある文人学者の肖像 評伝・富士川英郎 富士川 義之 著

2014年5月4日


◆漢詩文が生む研究の厚み
[評者]平川佑弘=東京大名誉教授
 富士川英郎は東大に着任し、「西洋文化を、どういう風に取り入れ、どのようにこれと対決したらいいかという、明治以後の日本人ぜんたいにとっての大きな課題」が鴎外全集には示唆されていると述べた。そんな問題意識により駒場に新設された比較文学文化の大学院で、初代主任の島田謹二は文学の外に踏み出し、『ロシヤにおける広瀬武夫』という軍人の外国体験を調べることで課題に答えた。
 島田を継いだ富士川は痩せて飄々(ひょうひょう)としている。ややたよりない。学生は不安だった。主任は二コマ東西両文学を教える。富士川は一コマは専門のリルケ、もう一コマは鴎外や蘭学者をとりあげた。だが学識はおのずとものをいう。数年後、富士川の講義が江戸漢詩に及ぶや、教室は生気を帯び、世評も高まった。みずみずしい評釈に対し次々と賞が授けられる。自信もつき機嫌もよくなる。美しい装幀(そうてい)の本が出る。詩にまつわる随筆、書物の思い出、文化史的な厚みのある論文等々。
 本書は長男の手になるそんな父の評伝である。医学史家・游(ゆう)の息子英郎は朔太郎を愛読して独文科へ進んだ。詩文を愛した書斎人の生涯が著述を追って巧みに語られる。そして話柄はおのずと英郎の息子で英文学者の義之本人へ及ぶ。この富士川家の評伝には鴎外の史伝が遠くこだましている。
 戦後、中国文学関係者は日本人の漢詩文を研究から排除し、国文学者も和文のみを尊重した。そんな時に富士川英郎は漢日文化の交わる領域に踏み入り、菅茶山などの漢詩を西洋詩歌に対すると同様、のびのびとした感受性で吟味したから『江戸後期の詩人たち』は評判を呼んだのだ。少年期から漢詩文に親しむ学者の家で育ったからこそなし得た仕事であり、それだけに三代の家系を描くことには意味がある。
 英郎が美しく豊かで多産な老年を過ごすことができたのは、欧日についても漢日についても二本足の学者であったからに違いない。
(新書館・3888円)
 ふじかわ・よしゆき 1938年生まれ。英文学者。著書『英国の世紀末』など。
◆もう1冊 
 富士川英郎著『江戸後期の詩人たち』(平凡社東洋文庫)。菅茶山、市河寛斎、広瀬淡窓ら江戸後期の漢詩人の魅力を現代に伝える名著。 
    --「書評:ある文人学者の肖像 評伝・富士川英郎 富士川 義之 著」、『東京新聞』2014年05月04日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014050402000166.html:title]

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