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覚え書:「今週の本棚:松原隆一郎・評 『日本の企業統治と雇用制度のゆくえ』=宮本光晴・著」、『毎日新聞』2014年05月04日(日)付。


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今週の本棚:松原隆一郎・評 『日本の企業統治と雇用制度のゆくえ』=宮本光晴・著
毎日新聞 2014年05月04日 東京朝刊

 (ナカニシヤ出版・3024円)

 ◇長期雇用を社会貢献とする「新日本型」

 「実は凄(すご)い、日本の技術」といったテレビ番組や雑誌記事をしばしば目にする。なるほど「あまりに細くて射(さ)しても痛みを感じない注射針」等、製造元の職人的技術には驚かされるものが少なくない。だが技術力が今更ながらに見直されるのは、日本人が自信喪失していることの裏返しでもある。

 一因に、家電メーカーがアジア諸国に市場を奪われたことがある。韓国企業の進出は、脅威以外の何ものでもない。そして韓国企業が急速に進歩した理由に、日本から技術者が流出したことがある。それは我が国の「会社」制度の様変わりを背景としている。日本企業の強みは従業員の熟練技術にあったのに、それを育み慰留する長期雇用や年功賃金が瓦解(がかい)しているのだ。

 長期雇用を保証される正社員は目に見えて減り、早期退職やリストラも異例ではなくなった。国立大学にさえ、民間企業を模した短期契約の「特任教授」が溢(あふ)れている。日本の企業組織はどこに向かうのだろうか。著者はながらく企業経済の理論分析に取り組んできたが、今回は日本労働政策研究・研修機構が2004年から09年にかけて実施した企業と従業員に対する膨大なアンケート結果をデータ処理し、このうねりの向かう先を予測している。

 この予測を面倒にするのに、2007年ごろまで喧伝(けんでん)され日本企業に改革を迫った「グローバル・スタンダード」なる企業形態に、疑いの目が向けられたことがある。経営者の所得を株価に連動させ(ストックオプション)、他企業を頻繁に買収、ホワイトカラー管理職にかんする限りは成果を上げるかクビかという苛酷な市場競争に従業員を駆り立てる企業形態である。しかしリーマン・ショックで株価が急落して以来、それも無条件に善とみなされなくなった。

 著者はそうした市場志向型の企業形態をアメリカ型と呼ぶ。グローバル・スタンダードという言葉には唯一・絶対という意味が込められたが、それもアングロサクソンの社会文化に育った一個の「型」にすぎない。長期雇用とメインバンク制を特徴とする日本企業に移植されたが、日本企業の「型」は速やかにはアメリカ化しなかったという。

 著者はここに、日本の企業組織の新たな胎動を見る。成果主義は導入されたものの、長期雇用は維持されるという「新日本型」である。それがいまや流動的雇用と成果主義にもとづく「アメリカ型」と勢力を2分している。これは従業員の処遇をめぐる「雇用」の形態だが、企業には利益をいかに効率的に得て関係者に配分するかの「統治」の面もある。後者については取締役会改革により、執行役員制が導入された。

 ここにひとつ、「謎」がある。従業員には、なぜか株主価値重視の経営を支持する傾向が見られるのだ。従業員は長期雇用を望むであろうに、経営者が株価を引き上げようとするならば賃金引き下げやリストラも辞さないはずだ。この矛盾をいかに解釈するかが、本書の読みどころである。

 1990年代終盤から株式の相互持ち合いや安定株主が流動化し、敵対的企業買収の脅威が広がると、株価引き上げへの圧力が強まった。しかしそれを配当増に押しとどめ、雇用を犠牲にせずに長期雇用を社会的貢献とみなす企業が現れる。これが「新日本型」。だからこそ従業員は配当という株主価値の重視をむしろ経営者に課する監督とみなし、共鳴したというのだ。

 地味ながら、不安漂う日本経済の背景を読み解く書といえよう。
    --「今週の本棚:松原隆一郎・評 『日本の企業統治と雇用制度のゆくえ』=宮本光晴・著」、『毎日新聞』2014年05月04日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140504ddm015070025000c.html:title]

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日本の企業統治と雇用制度のゆくえ―ハイブリッド組織の可能性
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