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覚え書:「日記で読む文豪の部屋 [著]柏木博 [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年05月04日(日)付。

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日記で読む文豪の部屋 [著]柏木博
[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)  [掲載]2014年05月04日   [ジャンル]人文 

■「私」と自宅の関係を徹底分析

 名だたる文豪のユニークな自宅が題材となっているが、日本人にとって自宅とは何なのか、人間にとってそもそも家とは何なのか、が本書の真のテーマである。文豪はサンプルであり、わが家をめぐって思い悩むわれわれの分身である。
 本書の成功の鍵は、日記と自宅の相似の発見である。どちらも基本的には私的なメディアだが、他人に見られたい気持ちがないわけはない。日本人はこのねじれた感情をベースにして、世界に例のない独自な「私」文化を築いてきた。「私」を見せたい気持ちがストレートに表出される西洋人の家とは違う、世界に類のないユニークな自宅文化が生まれたことが明かされる。日記の延長に日本独特の私小説が成立した事情にも、どこか似ている。日本人は、あいまいで複雑な「私」を、文化へと転換したのである。
 複雑な「私」の産物である家は想像を超えた多様な形をとる。たとえば、夏目漱石は、家本体よりは庭、しかも植物が主役だった。庭を体験するための縁側、テラスに身を置き、室内にも庭にも属さぬ中間領域からの斜めな視線を送る。漱石ってヴェランダ文学だったのかと思い当たった。
 『断腸亭日乗』の永井荷風はさぞや家にこだわったと思いきや、東京という都市自体を自宅として暮らした。家は、殺風景でペンキ塗りだったから偏奇館と呼んだ。都市散策と小さな家の組み合わせも日本的である。
 関東大震災で半壊した家に愛着を示した北原白秋は、茶室的廃墟(はいきょ)趣味かもしれない。童謡作家と壊れた家の組み合わせも意外である。
 文豪の自宅は、それぞれにひねくれ、私と公、家と都市、生と死といった二項対立の間で、どちらともつかぬねじれた空間が創造されていた。
 日本文学の謎が少し解けた気にもなった。
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 白水社・2376円/かしわぎ・ひろし 47年生まれ。武蔵野美大教授。著書『日用品の文化誌』『探偵小説の室内』など。 
    --「日記で読む文豪の部屋 [著]柏木博 [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年05月04日(日)付。

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