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覚え書:「今週の本棚・この3冊:川=稲泉連・選」、『毎日新聞』2014年05月11日(日)付。


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今週の本棚・この3冊:川=稲泉連・選
毎日新聞 2014年05月11日 東京朝刊

 <1>大地の川--甦(よみがえ)れ、日本のふるさとの川(関正和著/草思社/品切れ)

 <2>川の名前(川端裕人著/ハヤカワ文庫JA/864円)

 <3>日本<汽水>紀行--「森は海の恋人」の世界を尋ねて (畠山重篤著/文藝春秋/1851円)

 川が好きだ。取材や旅でどこかの街を訪れるとき、時間があると近くの川へ自然と足が向く。生活の中で利用され、作られてきた里山の川。街中のオープンスペースである大都市の川。いずれもその土地の歴史や人々の生活の変遷が、風景そのものに込められているように感じる。川風に吹かれながらぼんやり眺めていると、何とも言えず気持ちが軽やかになる。

 旧建設省の官僚だった故・関正和さんの『大地の川』は、日本人がどのように川とともに生きてきたかを河川技術者ならではの視点で描く。簡にして要を得るとはこういうことを言うのだと思わせる本で、古代から現代にかけての国土の変化が頭に染み込んでくる。関さんは戦後の河川行政の手法を省み、川に自由を与える「多自然型川づくり」を提唱した人物だ。川づくりは国づくり。その思いを綴(つづ)ったこの本は、治水と環境をいかに両立させ、将来に残すかを真摯(しんし)に考えた行政マンの志を感じさせる。

 次に挙げたいのが川端裕人さんの小説『川の名前』。多摩川流域の架空の「桜川」を舞台に、流域に見つけたペンギンを見守る少年たちの成長を描いた作品だ。「リバーネーム」という考え方が出てくる。例えば宇宙から日本を見下ろすとき、私たちは町の名前を使わずに自分の居場所をどう指し示せばいいか。最も簡単なのが川を使うことだ、とある登場人物が語る。主人公の菊野少年であれば、多摩川の支流・野川の支流・桜川流域の菊野です、というように。

誰もがそんなふうに川の名前を持っている。足元に自らの居場所を発見した少年たちは、より広い川へ、海へと世界を見る目を広げていく。環境や文化など川をめぐる様々なテーマが溶け込んだ「カワガキ小説」の傑作だと思う。

 最後に気仙沼の牡蠣(かき)養殖業者・畠山重篤さんの『日本<汽水>紀行』は、題名通り川が海と交わる汽水域を巡り歩いた名エッセー。漁民が森に木を植える「森は海の恋人」運動のエッセンスが詰まった一冊だ。<この国はどこに行っても汽水の匂いが漂う、汽水の匂う洲(くに)だ>と書く畠山さんは、各地の海の豊穣(ほうじょう)な生き物たちの姿を描き、味覚を伝え、根源的な思考を続けていく。山と川、そして海。上流と下流の調和こそが、日本の国土の豊かさの核心であることが浮かび上がってくる。先の2冊と同様に本書が教えてくれたのは、「流域」を一つながりのものとして捉える視点の大切さだった。
    --「今週の本棚・この3冊:川=稲泉連・選」、『毎日新聞』2014年05月11日(日)付。

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