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覚え書:「書評:北京の胡同 ピーター・ヘスラー 著」、『東京新聞』2014年05月11日(日)付。


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北京の胡同 ピーター・ヘスラー 著 

2014年5月11日


写真
◆変わる社会と庶民を観察
[評者]春名徹=ノンフィクション作家
 前作『疾走中国』(白水社)で、きれい事ではない中国の現実を描く才能を発揮したヘスラーの新作。同じタッチで中国を描いた十四編を収める。広東省でネズミ料理を専門にしているレストランの話、ふってわいた自動車ブームで突然ハンドルを握るようになった人々の恐るべきマナー感覚。
 また、浙江省のある地方都市は、芸術家優待の特区を作り上げた。そこはたちまち名画をコピーした安物油絵を生産する大基地と化す。まったく絵に情熱を感じないでそれを生産する「画家」は、落ちこぼれの画学生あがり。
 歴史的な事件を対象にしたものは三つだけ、三峡ダム建設で静かに水に沈んでいく村、オリンピック開会当日のある北京近郊の農村の様子、江沢民が権力を手放すことを決めた避暑地・北載河(ペイタイホ)の共産党の重大会議。偶然、居合わせたヘスラーは外国人ゆえに公安警察につきまとわれる。しかし表題作「北京の胡同」が代表するように、どの短編にも変化しつつある中国の<いま>の庶民のあり様や社会状況がまぎれもなく刻みこまれている。
 日本の下町の長屋に似た伝統的な町屋を北京では胡同と呼ぶのだが、著者が暮らしていた胡同ではオリンピックに備えて政府が建てた公衆トイレのまえを集会場にしてしまう。いずれ胡同は都市計画の進行で取り壊される運命にあるが、ひとびとは恐るべき順応性を発揮して、その日までの生活を楽しむのである。しかしその順応性が、理不尽な取り壊しにたいする抵抗を生まないことになる、と著者は鋭く指摘してもいる。
 著者はミズーリ大学の医療社会学者だった父親からインタヴュー能力や人を観察する方法を学んだという。一九九六年に平和部隊に加わり、重慶市の小さな大学で英語教師として二年間を過ごした。読み終えて、日本ではこういう中国認識はまず生まれないだろうことの意味を改めて考えてしまった。
(栗原泉訳、白水社・2376円)
 Peter Hessler 1969年生まれ。米国のジャーナリスト。現在、エジプト在住。
◆もう1冊 
 徐勇著『胡同』(平凡社ライブラリー)。開発前の北京の街区のいたる所にあった路地の写真集。北京のもう一つの魅力を伝える。 
    --「書評:北京の胡同 ピーター・ヘスラー 著」、『東京新聞』2014年05月11日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014051102000191.html:title]

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