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覚え書:「今週の本棚:内田麻理香・評 『マリー・アントワネットの植物誌』=エリザベット・ド・フェドー著」、『毎日新聞』2014年05月11日(日)付。


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今週の本棚:内田麻理香・評 『マリー・アントワネットの植物誌』=エリザベット・ド・フェドー著
毎日新聞 2014年05月11日 東京朝刊

 (原書房・4104円)

 ◇悲劇の王妃、博物学・自然科学に貢献?

 書籍であり、図鑑でもある本書は、フルカラー、そしてパステルカラーの装丁に思わず目を奪われる。ソフィア・コッポラ監督の映画「マリー・アントワネット」で登場するお菓子の監修をしたのは、マカロンで有名なフランスの老舗菓子店「ラデュレ」であるが、その映画や菓子店の色彩を思い出してしまう一冊だ。

 本書には、悲劇の王妃マリー・アントワネットが丹誠込めて造り上げた離宮プチ・トリアノン(小トリアノン)に各国から収集した植物が、植物画の巨匠、ルドゥーテらの手で描かれている。それぞれの植物への解説としてのギリシア神話、ローマ神話などと関連する話も興味深いが、そのルドゥーテの麗しい写実的かつ芸術的な絵画を眺めているだけでもうっとりしてしまう。おそらく、花や植物に対して興味がない者にも訴えかける力がある。それらの断面図も描いているが優雅さを失わない。

 しかし、調香が専門の著者によって書かれた蘊蓄(うんちく)は興味を惹(ひ)く。私たちがなぜ、かぐわしい香りに惹かれるのか。香水を愛するのか。その源も理解できる。人間は、他の動物と同じく、嗅覚に囚(とら)われた生き物だ。ただ、本書で触れられているが、各所で書かれている植物の薬効に関しては、根拠が乏しく、注意が必要である。昨今流行のアロマテラピーの効果にも関係する。

 王妃は女傑と名高いマリア・テレジアの娘であり、ハプスブルク家の自由な家風で育った。フランスの王室での窮屈な暮らしを疎んで、夫のルイ十六世により与えられた離宮プチ・トリアノンでの自由な生活に夢中になったことも理解できなくはない。王妃の故郷、ハプスブルク家の生活を再現したかったのだろう。王妃自らプチ・トリアノンの設計に夢中になった。

 しかし、各国からプチ・トリアノンに集められた植物には巨費が投じられていた。さらに「王妃の『村落』」は名ばかりであり、宮廷の窮屈さから逃れるための、王妃のお気に入りの人物だけが出入りできる自分勝手な場であった。これにも王族や貴族らから批判が集まる。王妃のプチ・トリアノンでの服装は、農婦にならった綿布で作られたもので、髪を解き放ち、麦わら帽子を被(かぶ)る。一見質素に見えるが、人工的な農婦を気取ったものでしかない。王妃は当時のファッション・リーダーであり、その服装は注目を集める。その不自然な「自然」は、プチ・トリアノンの造られた「自然」に繋(つな)がる。そして、この王妃が熱心に造り上げた庭園は、気まぐれな浪費であり、のちに民衆の反感を買うことになる。

 しかし、こう思わないでもない。以下は筆者の私見である。昨年、王妃マリー・アントワネットの故郷であるウィーンに赴いた。そこで、王妃の父であり、女傑マリア・テレジアの陰で用なしとされ不遇をかこったフランツ一世は、鉱石などの収集に勤(いそ)しんだ。そしてフランス王妃の姉であるが、病弱であり婚姻戦略(ハプスブルク家は婚姻を通じ国家を強化した)に適さないと母のマリア・テレジアから冷遇されていたマリア・アンナは父と心を通わせ、その父のコレクションを引き継いだ。彼女には科学的なセンスがあった。二人の合作によって生まれたのが、ウィーンの自然史博物館である。その自然史博物館を見学し、その物量に圧倒された。不幸で、ただし裕福な人たちが、今の博物学、そして自然科学に貢献しているのではないかと想(おも)いを馳(は)せる。マリー・アントワネットもそのひとりではないだろうか。(川口健夫訳)
    --「今週の本棚:内田麻理香・評 『マリー・アントワネットの植物誌』=エリザベット・ド・フェドー著」、『毎日新聞』2014年05月11日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140511ddm015070019000c.html:title]

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