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覚え書:「論点:対談 安倍政権と『保守』」、『毎日新聞』2014年05月16日(金)付。


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論点:対談 安倍政権と「保守」
毎日新聞 2014年05月16日 東京朝刊


(写真キャプション)対談するNHK経営委員の長谷川三千子氏(右)と明治大学教授の大沼保昭氏=東京都杉並区で2014年5月5日、宮間俊樹撮影

 安倍晋三内閣は本格政権の道を歩んでいる。しかし、「戦後レジームからの脱却」を掲げる政治路線には、国内の保守勢力からも批判が出る。安倍政権と「保守」の関係は。従軍慰安婦問題の解決を目指し設立されたアジア女性基金の呼びかけ人・理事を務めた大沼保昭・明治大特任教授と安倍首相の助言者である長谷川三千子・埼玉大名誉教授に対談してもらった。【聞き手、構成・丸山進】

 ◇公正な戦後システムを--長谷川三千子・埼玉大名誉教授

 ◇失われた「知恵」取り戻せ--大沼保昭・明治大特任教授

 --10年前、大沼先生の従軍慰安婦問題のゼミに、長谷川先生ほか「左右」の論客や政策当事者たちを招きました。立場の違う人が正対して議論することは非常に重要です。お互いの印象と、この対談の意義をどう考えますか。

 長谷川 大沼先生は、欧州に行くと名前表記を「ヤスアキ・オオヌマ」と書かれてしまうことに抗議し、「オオヌマ・ヤスアキ」と書くよう孤軍奮闘で主張していました。とても新鮮かつ理にかなった主張で、ここに日本の侍あり、と思いました。

 大沼 国民の多くは右対左という単純な図式に収まらないのに、メディアや一部の知識人がその図式で説明するのはおかしい。安倍政権に近いとされる長谷川さんと対談するとどうなるか興味があります。

 --最近の日中関係をどう分析しますか。

 大沼 保守主義の知恵がどんどん失われ、危うい状況です。日本と中国が相互に別次元で被害者意識を募らせ、相手が悪いと思い込んでいる。

 長谷川 それはちょっとナイーブ過ぎるのでは。中華人民共和国は、宣伝戦が大きな力になると知っていて、ことあるごとに「日本は戦争犯罪をした国だ」と宣伝しています。感情的な反日ではなく、日本が悪者に位置づけられていれば、多少の国際法違反をしても世界を納得させられる、という冷徹な戦略があります。

 大沼 以前の中国の宣伝は、共産主義によるレベルの低いものでした。しかし19世紀までは巨大な文明大国で、高度なソフトパワーを操る潜在的能力がある。そうした隣国の「富国強兵」路線がしばらく続くことを覚悟しなければなりません。

 長谷川 だからこそ、彼らが何を狙いどう仕掛けてくるのか専門家が分析し、布石を打つことが大切です。

 --戦前の日本も攻撃的な側面がありました。どう違いますか。

 長谷川 明治以来の日本の富国強兵は、新しいものを取り入れていく知識欲、好奇心と一緒になったものでした。このままでは植民地にされるという危機感とともに、自助努力で経済力もつけないといけないという認識が根本にありました。

 大沼 日本が勃興してくると欧米列強は警戒し、排日運動も激化しました。日本では有色人種と軽蔑されることへの憤激が生じる一方、欧米列強は日本を追い詰め、日本国内の国際協調派の立場を弱めてしまった。今日の中国に対する諸国の姿勢にも通じる歴史の教訓です。

 長谷川 20世紀終わりから一国の経済を政府がコントロールすることが難しくなっていますが、一党独裁の国では比較的簡単です。中国が経済力をつけたのは、共産主義と資本主義が結びついた、一党独裁なるが故の成功とも言えます。

 大沼 中国は、揺り戻しはあっても長期的には経済超大国化するでしょう。共産党権力と中国型資本主義とは今はうまくいってますが、長期的には豊かな生活と自由を求める民衆の力に政治体制は抗し得ない。

 --靖国参拝が中韓の反発を受けた。安倍政権の姿勢をどう見ますか。

 長谷川 一番注目しているのは第1次政権の時から掲げていた「戦後レジームからの脱却」です。私自身は、これは世界の「戦後レジーム」を問い直すことから始めるべきだと思っています。第一次大戦後も第二次大戦後も、必ず敗者が戦争責任を問われ、戦勝国は一切罪に問われない。果たしてこれが平和を実現するシステムと言えるのでしょうか。

 大沼 第二次大戦後、原爆投下やソ連の戦争犯罪行為を裁かなかったのは、正義・公平の観点から不当ではある。他方、第一次大戦後のドイツに対する戦争責任の追及があまりにも厳しかったため、ナチスが権力を握るという反動を生みました。連合国は第二次大戦後、その教訓から日独の責任を厳しく追及しなかった。日本が中国や東南アジアでやったことに比べれば、随分寛大な講和でした。

 長谷川 そう感じるのが大多数の良識的な日本人なので、いろんなところで謝っています。そうして謝ること自体が「勝てば官軍」の世界システムを補強してしまいます。

 大沼 戦勝国が責任を追及したのは一部の軍国主義的指導者であって、日本が犯罪国家とされたわけではない。日本国民の立場から見ても、彼らは310万の国民を死なせてしまった指導者です。

 長谷川 「指導者責任観」の考えですね。しかし、戦争は何人かの頭脳だけで起こるものではありません。

 大沼 だからこそ、日本国民が総体として戦ったという自覚を、日本国民は引き受けるべきです。

 長谷川 引き受けると、日本人は美しい心から、謝罪の言葉が抵抗なく出てきます。しかし、負けた国だから謝罪は当然だとされる構造そのものに目を向ける必要があります。

 大沼 戦争は法的には講和でおしまいですが、殺された側には恨みの感情が残ります。なのに日本は、1980年代までその自覚がなかった。憲法第9条は、その代わりに日本のやった戦争は誤りでした、戦後は平和を守りますというメッセージを出してきました。ところで、安倍首相の靖国参拝に米国が「失望した」と表明し、首相周辺の政治家が「失望したと言ったこと自体に失望した」と返したことをどう思いますか。

 長谷川 私だったら逆に謝りますね。靖国神社の本質について、日本は世界に伝える努力をほとんどしてこなかった。神社は清めの領域であり、A級戦犯を崇拝して戦争の誓いを立てる領域ではない。それをきちんと伝えてこなかったから「失望」という言葉が出る。そのことを大反省しています、というおわびです。

 大沼 そもそも主要戦犯を合祀(ごうし)した靖国神社が過ちを認めるべきです。合祀後は分祀できないという解釈を掲げて国民全体に大きな迷惑を掛け続けています。

 --学者の果たすべき役割は。

 大沼 学者は世間の常識を揺さぶるもの。それが基本。ただ、政策に関わる場合は学問を踏まえた「知恵」が大事になってくる。

 長谷川 私もわざと違うことを言おうとしているわけではなく、理屈にかなったプロセスで考えを進め、気付くと世間の常識とは違うところに来ている、ということです。

 大沼 私は一般に「左」とされてきましたが、保守主義の知恵は一貫して高く評価してきました。社会党や進歩的文化人は、実は経済大国=軍事小国路線の自民党とともに戦後体制を支える「保守」だったのです。他方、保守主義の知恵が自民党からも保守的なメディアからも失われつつあります。これは深刻な問題です。中国との過度の対立から対米依存が深まらざるを得ない状況になっています。

 長谷川 そこは今も変わりません。しかし、とにかく自己を見失ってしまった「保守主義者」というものは、悪い冗談でしかありません。

 大沼 私は国際社会で、日本を理解してもらうため発言を続けてきました。捕鯨の問題にしても、日本は欧米中心の文化ではなく多様な文化を尊重するという観点から、発信し続けるべきでした。内弁慶外みその態度では世界に通じない。

 長谷川 本当に同感です。そのためにも、発信する気持ちと語学力が一体になった人間を育成しないといけないと痛感します。また、海外に発信する時には、意見も国籍も違う人たちに心を開き、前向きに明るく議論する心構えも大事です。

 --若い人は戦時中のことを謝れと言われ、ヘイトスピーチが不満のはけ口になっています。若い世代に歴史問題をどう伝えるべきですか。

 長谷川 まず何よりも、歴史的事実を自信を持って探求することが大切です。自信がないからヘイトスピーチが生まれます。安倍首相はヘイトスピーチ的なものの対極に位置し、韓国の人とも繁栄を分け合いたいという「和」の精神で貫かれている。首相自身の発するメッセージに若い人も耳を傾けてもらいたい。

 大沼 自分への反省でもあるのですが、日本の侵略戦争を反省すべきことだと、自明のように言っている部分を丁寧に説明しないと、若い世代には届かない。マスコミへの不信感も強く、マスコミの徹底した自己批判が特に重要だと思います。

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 ◇「戦後レジームからの脱却」

 安倍首相は06年9月に第1次政権を発足させた当時から「戦後レジームからの脱却」を掲げる。戦後に作られた体制(レジーム)のうち、時代に合わなくなったものを改革することを指し、首相は憲法改正が柱と明言。現在、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認を目指している。

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 「論点」は金曜日掲載です。opinion@mainichi.co.jp

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 ■人物略歴

 ◇はせがわ・みちこ

1946年生まれ。東京大大学院人文科学研究科修士課程修了。哲学、日本文化論専攻。NHK経営委員。著書に「からごころ」「民主主義とは何なのか」。

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 ■人物略歴

 ◇おおぬま・やすあき

1946年生まれ。国際法専攻。東京大教授を経て09年から現職。著書に「『慰安婦』問題とは何だったのか」「東京裁判・戦争責任・戦後責任」「戦後責任」。 
    --「論点:対談 安倍政権と『保守』」、『毎日新聞』2014年05月16日(金)付。

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