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覚え書:「書評:ハンナ・アーレント 矢野 久美子 著」、『東京新聞』2014年05月18日(日)付。


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ハンナ・アーレント 矢野 久美子 著

2014年5月18日


◆世界の理解に注いだ情熱
[評者]細見和之=大阪府立大教授
 ナチズムとスターリニズムという、二つの全体主義を経験した二十世紀。そのなかを、ユダヤ系の政治哲学者として生き抜いたアーレント。彼女のラディカルな思考は、一九九〇年前後の社会主義圏の崩壊以来、未来を指し示すかけがえのない道標として、繰り返し参照されることになった。
 ハイデガー、ヤスパースという当時を代表する哲学者のもとで学びながら、ナチスの台頭とともに、彼女は反ナチの活動に身を投じ、フランスへ亡命し、さらには合衆国へと渡って、そこを終(つい)の棲家(すみか)とした。彼女の思想は生涯の履歴と不可分である。
 本書はそんなアーレントのきわめて上質な評伝だ。コンパクトとはいえ、大切な情報がきっちりと書き込まれている。ケーニヒスベルクでの生育状況から、最近アーレント研究で焦点化されつつあるシオニズムとの関係まで、一九四〇年代のアーレントのあまり知られてこなかった文章も参照しつつ、丁寧に掘り起こされている。それによって、「世界疎外」や「地球疎外」について語る、壮大な思考のバックグラウンドに読者はふれることができる。
 アーレントは公共性を作りあげる「活動」を重視する一方、孤独な思索の意味も強調していた。ユダヤ人である立場を堅持しつつ、ホロコーストの責任者のひとり、アドルフ・アイヒマンの裁判リポートでは、ほとんど全ユダヤ人を敵にまわしたとさえ言われる。
 アーレントの思想をバランスよく伝えるのは、決してたやすくはない。ときにスキャンダラスに描かれがちなハイデガーとの関係も、ハイデガーへの反発と敬愛の両方が、本書ではきちんと書かれている。総じて、世界を変革するよりも理解すること、その一点に注がれたアーレントの情熱を、本書は同志的な共感をもって描いてゆく。
 最近、その生涯が映画化され、日本でも話題になったアーレントだが、とうてい一本の映画では描かれえない側面が本書には存分に盛られている。
(中公新書・886円)
 やの・くみこ 1964年生まれ。フェリス女学院大教授、思想史。
◆もう1冊 
 ハンナ・アーレント著『全体主義の起原』(1)(2)(3)(大久保和郎ほか訳・みすず書房)。個人を圧殺する全体主義の歴史的経緯を詳述。
    --「書評:ハンナ・アーレント 矢野 久美子 著」、『東京新聞』2014年05月18日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014051802000177.html:title]

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