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覚え書:「今週の本棚:白石隆・評 『伝説のFRB議長 ボルカー』=W・シルバー著」、『毎日新聞』2014年05月25日(日)付。

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今週の本棚:白石隆・評 『伝説のFRB議長 ボルカー』=W・シルバー著
毎日新聞 2014年05月25日 東京朝刊


 (ダイヤモンド社・3780円)

 ◇米国のマクロ経済運営とその政治過程を知る

 1979-87年にアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めたポール・ボルカーの評伝。

 一般に、ボルカーについては、三つの功績が挙げられる。その一つは、ニクソン大統領の財務省通貨担当事務次官として、1971年の金ドル兌換(だかん)停止の決定、これをきっかけとするブレトン・ウッズ体制の崩壊、変動為替制への移行に大きな役割を果たしたことである。もう一つは、FRB議長として「大インフレ」を抑え込み、財政赤字の「マネタイゼーション」を拒否して、「健全な通貨」「責任ある財政」の実現に貢献したことである。そしてもう一つは、2010年成立の金融規制改革法の中心をなす「銀行の市場取引規制ルール」、いわゆる「ボルカー・ルール」策定における貢献である。しかし、本書の焦点は、そのタイトルの示唆する通り、あくまでFRB議長としてのボルカーの役割にある。

 アメリカでは1970年代は大インフレの時代だった。1955-64年の物価上昇率は年平均2%未満、これが1965-74年には5%超にはねあがり、1979年には13%に達した。ボルカーは、1979年にFRB議長に任命されると、インフレ抑えこみのために、FRBの「市場操作手法」を変更した。その要点は、短期金融市場における金利の乱高下拡大のリスクをとっても、マネタリーベース、つまり、「通貨および関連する貨幣集計量」をコントロールしてインフレを抑えこもうとすることにあった。そこでの考え方は、インフレを抑えこむには人々の「インフレ期待」を変えるしかない。しかし、そうした期待は口約束や政府発表で変えることはできない。「制度の変更--それも何十年に一度という決定的な、多くの人に信頼される、議論の余地のない、不可逆の制度の変更」によってはじめて、変えることができる。ボルカーはこれを市場操作手法の変更で行った。

 これはうまくいった。物価上昇率は1981年末までには4%以下に下がった。しかし、それでも、長期金利は下がらなかった。10年物国債の利回りは1981年に12%から14%に上昇した。政府(大統領)と議会が財政赤字の責任を押し付け合って、連邦政府予算の構造的赤字が持続したためである。

 では、どうするか。政府と議会はFRBがマネーサプライを拡大して、財政赤字を埋め合わせることを期待した。しかし、ボルカーは財政赤字の「マネタイゼーション」を拒否した。財政赤字のために金利が高止まりすれば、いずれ社会的に批判が高まって、議会と政府は財政赤字の削減に追い込まれる可能性が大きい。ボルカーにはそれがわかっていた。こうして1984-85年の危機が到来した。10年物国債の利回りは1984年5月には14%近くまではねあがった。景気が拡大し、民間部門の借り入れが増加して、国債の利回りが上がり、政府の借り入れと民間部門の借り入れがぶつかった。そうした中、1985年にはついに「1991年までに財政赤字ゼロ」を求めるグラム・ラドマン・ホリングス法が成立した。

 このように、ボルカーFRB議長の時代に、アメリカのマクロ経済運営には大きな転換があった。本書では、「健全な通貨」、「健全な財政」、人々のもつ「期待」、そして「中銀総裁」ボルカーに対する「厚い信頼」の重要性がくりかえし指摘される。アメリカにおけるマクロ経済運営とその政治プロセスを理解する上で絶好の本である。(倉田幸信訳)
    --「今週の本棚:白石隆・評 『伝説のFRB議長 ボルカー』=W・シルバー著」、『毎日新聞』2014年05月25日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140525ddm015070029000c.html:title]

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