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覚え書:「書評:博物誌 世界を写すイメージの歴史 S・ピーター・ダンス 著」、『東京新聞』2014年5月25日(日)付。

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【書評】

博物誌 世界を写すイメージの歴史 S・ピーター・ダンス 著

2014年5月25日


◆人は命をどう見てきたか
[評者]高山宏=大妻女子大教授
 十九世紀に生物学という言葉ができ、やっと二十世紀になってダーウィンのような研究者がサイエンティストと呼ばれるようになる以前、動物や植物を扱う分野はナチュラル・ヒストリーと呼ばれ、担う人たちはナチュラル・ヒストリアンと呼ばれていた。
 一九八○年代前半、『図鑑の博物誌』ほかで傑物荒俣宏が組織的紹介を試みて以来、日本語で「博物学」と訳されるのが普通のナチュラル・ヒストリーは一種ブームとなり、澁澤龍彦から中沢新一にいたる画期的な批評の文体そのものが「博物学的文体」と言われて一定のファンを獲得してきたはずなのだが、肝心の生物学が分子生物学の大流行以来、極度に専門化してしまい、「生命の学」としての成立の歴史など、ゆっくり勉強できる場がないのが現実である。地球温暖化や「3・11以後」など、一生物としての人間とその環境世界との関係をゼロから考え直すべき今、ナチュラル・ヒストリー全体を基本から整理し、最大級の射程の史的展望を与えてくれる古典の邦訳は貴重。
 一九九○年代初め、博物学展望の究極の一冊を訳そうとした評者、悩みに悩んで逸話に妙のあるリン・バーバーの『博物学の黄金時代』を選びながら、ダンスの本書にずっと未練を残してきた。名作二作の邦訳は感激だ。
 古代からルネサンス、そして当然ながら啓蒙(けいもう)時代、ヴィクトリア朝へ、濃密の度を増しながらの博物図鑑史の展望は過不足なく、ほとんど達芸。原書はこの邦訳の四倍の大きさの高価本だったはずだが、縮刷判型、縮刷図版でも彩色無彩とり混ぜて約四百点という図版が圧倒的魅力である。
 コストのかさむ博物図譜は予約出版だったそうである。予約してくれる良い客には大きな彩色図版を提供し、普及版の方の図版には色がつかないというような出版戦略のコツの話など実に面白い。小さくはするが安く提供というこの邦訳本自体、そうした博物図譜の大衆化の歴史そのもので、笑える。
(奥本大三郎訳、東洋書林・4860円)
 S.Peter Dance 作家・博物史家。共著『世界海産貝類大図鑑』など。
◆もう1冊
 ロバート・ハクスリー著『西洋博物学者列伝』(植松靖夫訳・悠書館)。古代ギリシャから十九世紀までの博物学者の人と仕事を紹介。
    --「書評:博物誌 世界を写すイメージの歴史 S・ピーター・ダンス 著」、『東京新聞』2014年5月25日(日)付。

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[http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014052502000174.html:title]

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