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覚え書:わたしたちは、いい人だと言われただけで安心していられない


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 SNさんがドイツに行く決心をした時、ドイツ人は日本人よりもっとひどいから行くな」と言って家族は猛反対したそうだ。隣にすわっていたドイツ人の夫が笑いながらうなずいている。「韓国では日本人の悪口をいつも聞いていたが、ドイツに来てから出会った日本人はいい人ばかりだ」と言って、SNさんは微笑んだ。
 しかし、わたしたちは、いい人だと言われただけで安心していられない。わたしはこの間観た映画『ハンナ・アーレント』の話をした。ナチス政権下のドイツ人を第二次世界大戦中の日本人に置きかえてみれば、よく分かる。悪魔でも天使でもない平凡な日本人が、兵隊にとられて、自分の頭で物を考えるのをやめてしまった時、彼は無惨な殺人を犯してしまう。他所の国へ出掛けていって、罪のない人たちを理由もなくたくさん殺し、戦争が終わると、「あれは戦争だったから仕方なかった。自分は命令に従っただけだ」と言って平然としている。悪魔のような悪人が恐ろしいのではなく、「いい人」でも国の命令で人を殺せることが恐ろしいのだ。
    --多和田葉子『言葉と歩く日記』岩波新書、2013年、202-203頁。

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