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日記:丸山眞男の吉野作造観


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 もともと政治学の非力性は今日にはじまった事ではなかった。他の法律学なり経済学なりにおいては、嘗て一定の歴史的段階に適応していた概念構成乃至方法論が今日の激動期に対してそのままで通用しなくなったというところに問題があるのであるが、これに反して、政治学の場合には、少なくとも我国に関する限り、そもそも「政治学」と現実の政治とが相交渉しつつ発展したというようなためしがないのである。*1
 みずからの地盤と環境とから問題を汲みとって来るかわりに、ヨーロッパの学界でのときどきの主題や方法を絶えず追いかけているのが、わが学界一般の通有する傾向であり、そこに学問の観念論的有利も胚胎するわけであるが、このわが国の学問のもついわば宿命的な弱さを集中的に表現しているのが政治学である。学問とその現実的対象との分裂はここでは救いがたいまでに深刻である。
*1 我国の過去の政治学者で、その学説を以て元も大きな影響を時代に与えたのは、いまでもなく吉野作造博士である。大正デモクラシー運動は吉野博士の名を離れて考えることは出来ない。しかし吉野博士の民本主義に関する諸論文は理論的というよりむしろ多分に啓蒙的なものであり、博士の学問的業績としては政治史とくに日本政治史の方が重要である。ともあれ、博士は上の点でユニークな存在であることは否定できない。
丸山眞男「科学としての政治学 その回顧と展望」、丸山眞男(松本礼二編注)『政治の世界 他十篇』岩波文庫、2014年、14-15頁。

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丸山眞男『政治の世界 他十篇』岩波文庫、読了。1947年から60年までの丸山眞男の代表的論文を収録する一冊。政治と政治学、権力の政治学、政治学入門、市民のための政治学のテーマで、専門科学としての政治学の特質と方法、基礎概念について詳論。政治をどう考えるのか。丸山の思索は宝の山だ。

編注と解説は松本礼二氏。解説は優れた丸山論。「丸山眞男の政治学において、高度に専門的な理論的探究と市民の政治的実践、それを支える政治教育とが、使い分けでも切り離しでもなく、有機的につながり合い保管し合っていることを見失ってはなるまい」。

概要はさておき、吉野作造への言及があるのでチト紹介しておきます。

冒頭に収録されているのが「科学としての政治学 その回顧と展望」(1947)。この論説で丸山は、敗戦によって再出発を迫られた日本の政治学の過去を厳しく反省し、欧米の学説の祖述・解説を超え、日本の政治的現実そのものと取り組むべしと課題を提示した。いわば、戦後日本の政治学の出発点となる論考といえよう

丸山はこの論文で、吉野作造の業績にひとことコメンタリーを加えておりますが、現実の戦前・戦中の日本の政治学の歩みは「非力性」として特色づけられるけれども、吉野作造の歩みはユニークと評価しています。

いわく、「我国の過去の政治学者で、その学説を以て最も大きな影響を時代に与えたのは、いうまでもなく吉野作造博士である。大正時代のデモクラシー運動は吉野博士の名を離れて考えることは出来ない。しかし吉野博士の民本主義に関する諸論文は理論的というよりむしろ多分に啓蒙的なものであり、博士の学問的業績としては政治史とくに日本政治史の法が重要である」。

脚注では「少なくとも我国に関する限り、そもそも『政治学』と現実の政治とが相交渉しつつ発展したというようなためしがないのである」と付け加えておりますが、「『政治学』と現実の政治とが相交渉しつつ発展したというようなためしがない」意味では、まさに吉野作造の歩みはユニークなそれになる訳ですが、この吉野に対する評価というのは、敗戦を境に戦前(戦中)と戦後の文脈がまったく切り離されて論じられる戦後日本の学術界のスタイルに照らし合わせてみると、……民主主義の議論もそうですが……、戦前日本の中に、その助走を見出す丸山はさすがといいますか。

水脈を否定しない丸山眞男には瞠目してしまいます。

 

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