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覚え書:「今週の本棚:岩間陽子・評 『「普通」の国 日本』=添谷芳秀、田所昌幸、デイヴィッド・A・ウェルチ編著」、『毎日新聞』2014年06月01日(日)付。


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今週の本棚:岩間陽子・評 『「普通」の国 日本』=添谷芳秀、田所昌幸、デイヴィッド・A・ウェルチ編著
毎日新聞 2014年06月01日 東京朝刊


 (千倉書房・3024円)

 ◇国際協調主義に収まる「見えざる手」

 「PKO法」「蟻(あり)の一穴」「牛歩」と聞いて、思わず微笑(ほほえ)んでしまう人は、ある年齢以上の世代だろう。1992年、カンボジアPKO開始を横目に、自衛隊派遣の法制を議論した当時、国会は天地がひっくり返ったような騒ぎであった。あれから二十年余。集団的自衛権の問題の議論のさなか、時宜を得た出版である。

 小沢一郎氏が『日本改造計画』で、「普通の国になれ」と説いたのは1993年。日本は湾岸戦争後のトラウマのまっただ中だった。多くの人々が、日本をすこしでも「普通」にしようと、口角泡を飛ばし、議論してきた。日本は「普通」になったのだろうか? 日本語版も出ている国際政治の教科書『国際紛争』(有斐閣)の共著者として、ジョセフ・ナイ教授と名前を並べる、カナダ、ウォータールー大学のデイヴィッド・A・ウェルチ教授に、日本の研究者二人を加えた三人が編著者となり、韓国、中国、英国、シンガポールの研究者に呼びかけて、それぞれの立場から日本にとっての「普通」を論じた産物が本書である。2011年に出された英語版の邦訳であるが、内容は全く古くなっていない。

 日本は、どう「普通でない」のか。第一は、やはり憲法第九条の存在であると三人の編著者たちは言う。第二に、国際社会での存在感に比べ、地域およびグローバルな安全保障で果たす役割が極端に小さいことである。田所昌幸氏は、この問題について揺れ動いてきた日本の軌跡をたどる。氏は、戦後日本のコンセンサスとなった吉田路線の本質は、「戦後憲法とアメリカとの同盟の両方(、、)を受け入れたことにある」という。戦勝国間の世界的な協力関係を前提とする憲法と、冷戦の産物である日米同盟は、全く異なった世界観に基づいている。この矛盾が、緊張をはらみつつも、解消されることなく生き続けた理由を田所氏は、冷戦期の日本社会にイデオロギー的、政治的な「ベルリンの壁」が存在し、コンセンサスを得ることが不可能であったためと分析する。「双方にとって何とか我慢できる暫定的な妥協の産物」が、吉田路線であった。

 しかし、冷戦が崩壊した90年代以降、この微妙な均衡を維持することが困難になっていく。ポスト冷戦期は、新たな国連平和活動をはじめとして、地域紛争、民族紛争での軍事力使用の場面が激増した。この中で、日本の「平和主義」は、孤立主義、身勝手な一国主義に見られるようになっていった。その結果日本の安全保障政策は、大変動期に入った。

 本書のどの論者も、90年代以降の変化を「右傾化」とは受け取っていない。PKO参加、日米同盟の再定義、新ガイドライン策定などの過程で、いわゆる「右」の勢力が、議論を後押しする場面がなかったわけではない。しかし、国家主義からの風に吹かれても、日本の政策変化は、結局は国際主義の範囲内に収まってきた。日本の保守政治家たちの多様な「普通の国」論を、知日家のパク・チョルヒー氏が分析している。強烈な個性の保守政治家たちの、共通点の分析が興味深い。

 この間、日本経済も大きな変動を経てきた。石原慎太郎、盛田昭夫両氏が『「NO」と言える日本』を出した当時は、日本経済がアメリカ経済を追い越して世界一になるのではないかとさえ思われていた。しかし、「停滞の90年代」を経て、様々な意味で、日本経済もまた「普通」になった。確かに80年代の経済の膨張は、日本人の自意識を混乱させた。日本の本来あるべき姿は、伝統的大国路線ではなく、「普通のミドルパワー」である、と添谷芳秀氏は持論を展開する。我々は、それでもいいのかもしれない。しかし、アジアの隣人たちは、本当に日本のことを「普通のミドルパワー」と思ってくれるのだろうか。

 ラム・ペン・アー氏は、東南アジアの大多数の国にとって、やはり日本は大国であり、カナダやスカンジナビア諸国と同列ではない、という。実際日本は、70年代後半以降、地域大国としての役割を果たしてきており、東南アジア諸国にも評価されている。彼にとっても、中国のワン・ジエンウェイ氏にとっても、日本がアメリカからどの程度、自律性を回復するのかが、東アジア共同体の将来にとっての鍵となる。その中でも、二つのコリアとの関係は、日本外交のいまだ「普通ではない」側面を示していると、英国のジョン・スウェンソン=ライト氏は分析する。

 編著者たちは、日本の安全保障政策には、「憲法第九条・日米安保体制」という「見えざる手」が働いており、結局は国際協調主義の枠からでることはないという。そして、地域や世界における日本の行動が「普通」になれば、それは自国と周辺国をむしろ落ち着かせるような存在になり、「その段階に達すれば、日本は時代にそぐわない憲法のくびきから自らを解放する手順に取りかかれるのではなかろうか」と予測する。これから展開される国会論争の知的準備に、ぜひ一読をお勧めしたい。
    --「今週の本棚:岩間陽子・評 『「普通」の国 日本』=添谷芳秀、田所昌幸、デイヴィッド・A・ウェルチ編著」、『毎日新聞』2014年06月01日(日)付。

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