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覚え書:「今週の本棚・本と人:『ゆずこの形見』 著者・伊藤たかみさん」、『毎日新聞』2014年06月01日(日)付。


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今週の本棚・本と人:『ゆずこの形見』 著者・伊藤たかみさん
毎日新聞 2014年06月01日 東京朝刊

 (河出書房新社・1620円)

 ◇死者と誠実に向き合うこと

 中編小説二つを収めた一冊。表題作の主人公は文房具メーカーに勤める男で、保育園に通う男の子と二人で暮らしている。妻の「ゆずこ」は浮気中に北海道のホテルで急死した。「出張」と偽って、実は不倫旅行をしていたのだ。

 「ゆずこ」が作って保存していたおかずや北海道から送ってきた毛ガニが、冷蔵庫に残っている。主人公は息子とともに、おかずを少しずつ食べながら、毛ガニは不倫相手に食べさせたいと考える。

 村上春樹さんの新作短編集の題名を借りれば、この主人公も「女のいない男」だ。でも、成長を続ける息子と生活しているのが村上作品とは違う。このため、日常から不在の女をとらえ直す傾向が濃くなっている。死者が、絶えず日々の生活の場所から意識されている。

 伊藤さんは1971年生まれ。5年前に初めて子供に恵まれた。「それまでは、今日を精いっぱい生きればいいと思っていたのに、もっと長い時間軸で人生を考えるようになりました。息子が20歳の時に自分はいくつだろうと思ってしまう。あるいは、自分は彼に何を残せるのだろうか、とか」

 この物語のような場合に、妻の死から目をそむけて生きるタイプの男もいるだろう。でも、主人公はそうはしない。妻は何を考えていたのか、自分と不倫相手のどちらを愛していたのかと自問し続け、ついには相手の男にも直接に会う。それがある種の誠実さを感じさせるのだ。

 「主人公の性格だと思うのですが、子供の存在が大きいでしょう。たとえば将来、妻の死を息子に説明しないといけない。そんなことから、納得のいく妻との別れ方をしたいのだと思うのです」

 芥川賞受賞から8年たった。期待の大きい書き手だ。「妻が働いていることもあって、この間は子供の世話に打ち込んできました。育児休暇をとっていたような感じです」。執筆にエンジンがかかりそうだが、「これからも、皮膚で感じることを大切に書いていきたい」と話す。<文と写真・重里徹也> 
    --「今週の本棚・本と人:『ゆずこの形見』 著者・伊藤たかみさん」、『毎日新聞』2014年06月01日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140601ddm015070032000c.html:title]

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