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覚え書:「今週の本棚:伊東光晴・評 『限界にっぽん--悲鳴をあげる雇用と経済』=朝日新聞経済部・著」、『毎日新聞』2014年06月01日(日)付。


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今週の本棚:伊東光晴・評 『限界にっぽん--悲鳴をあげる雇用と経済』=朝日新聞経済部・著
毎日新聞 2014年06月01日 東京朝刊


 (岩波書店・1944円)

 ◇産業空洞化、食い止める策はあるのか

 『朝日新聞』に2012年8月から翌年の11月まで連載され、驚きをもって読まれたものが、加筆され一冊の本になった。この本から、日本の雇用市場がすさんでいることがわかる。それをもたらしているのは、経営の失敗と一段と進んだ産業の空洞化である。本書の中心はこれをあつかった第4章にある。

 本当か、と思うひとつは矢崎総業のことである。私たちには太陽温水器の大手と思われているこの会社が、世界に約440の拠点を持ち、従業員約23万人、その90%強が外国人だというのである。いったい何を作っているかといえば、自動車にとりつける電線が中心らしい。キヤノンも、乗用車も海外が中心である。

 経団連現会長が経営責任者であった住友化学は、14年前に、韓国のサムスン村に偏光フィルム、カラーフィルターの工場を建てた。愛媛工場の約5倍の規模である。ウォン安で、日本の電化製品を追い落とした「サムスン」の世界企業化に寄り添って、需要先を確保しているのである。

 低賃金でつくられる部品を集めて家電製品をつくる台湾の鴻海(ホンハイ)も、サムスンも、10兆円を超える売上げの巨大企業になり、その国際競争力の前に、パナソニックも、シャープもソニーも、追い込まれ、リーマン・ショックも重なり、大きなリストラに走った。それが海外の競争企業に人材を流出させ「電子立国」といわれた日本が崩壊しだしたのである。

 この本は、大阪で、ネットカフェにも泊れず、夜をさまよい、マクドナルドで100円のハンバーガーを口にし、夜明けを待つ「マクド難民」からはじまっている。その中に、かつてこうした大企業でチームリーダーだった人もいるところから、大企業で何がおこっているかに話を進めていく。

 かつて『ソニーは人を生かす』という本が出たが、そのソニーに「追い出し部屋」がある。パナソニックにも、リコーにも、NECにも。会社に貢献した人まで、無理に「ヤメル」と言わせるためのいやがらせの数々を見ると、人を大切にした日本の企業はいつからこんなに変わったのか、と思わざるをえない。

 こうした状態に追い込んだのが、経営の失敗と企業の海外への拠点移動である。企業は安い賃金を求め、中国からタイへ。そしてタイの3分の1のカンボジア、ベトナムへと移っている。タイ進出の日本企業約7000社、その多くが下請けの中小企業である。町工場が集まっていることで知られる東京都大田区も、タイの工業団地の中に「オオタ・テクノ・パーク」をつくり、工場を移させている。日本人は社長ともう一人。あとはタイ人。この本はこれを「根こそぎの空洞化」と書いている。

 当然、日本から工場が消えていく。大手電子部品メーカーTDKの城下町であった秋田の湯沢市からも撤退しだした。地方の市や県が工場建物を提供し、地方税を10年免除にしても来る企業がなくなった。

 まだ日本には自動車産業や素材産業があると言う人もいよう。だが、その自動車産業にしても、工場立地の中心は北九州に移り、韓国の釜山付近でトラックが部品工場を一巡し、集めた資材を乗せて翌日北九州の工場に納めているというようなことになっている。ニッサンのマーチにしても、タイ等で生産されたものが日本に入ってくるのも時間の問題である。新日鉄の明日は、今日のUSスティールである。

 日本はどうしたらよいか。アベノミクスのとなえる成長戦略のまやかしで、この本は終わっているが、策はあるのか、これが今日最大の問題である。 
    --「今週の本棚:伊東光晴・評 『限界にっぽん--悲鳴をあげる雇用と経済』=朝日新聞経済部・著」、『毎日新聞』2014年06月01日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140601ddm015070011000c.html:title]

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