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覚え書:「今週の本棚:張競・評 『現代日本人の中国像』=馬場公彦・著」、『毎日新聞』2014年06月08日(日)付。


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今週の本棚:張競・評 『現代日本人の中国像』=馬場公彦・著
毎日新聞 2014年06月08日 東京朝刊

 (新曜社・4536円)

 ◇転換期の中国認識に独自の解析モデル

 日中関係は悪化の一途をたどっている。意地の張り合いは目的よりも行為のみに情熱が注がれ、小学生じみたいがみ合いは無用な敵意を増幅させるばかりである。成熟した両国関係をいかに構築すべきか。そのことについて考えるとき、本書に啓発されることが多い。

 この本の扱う時期は日中国交正常化の翌1973年から天皇訪中の1992年までの20年である。4年前に刊行された『戦後日本人の中国像』は終戦直後から国交正常化までが対象であるから、本書はその続編にあたる。大部の2作によって、戦後における中国認識をおおよそ捉えることができた。

 むろん、一口に中国認識とはいっても、複数の光源からの光束が複雑に屈折して合成された鏡像だ。本書はそのもっとも重要な光源の一つであり、世論の形成に一定の影響力を持つ総合誌に焦点をしぼっている。

 分析の対象に選ばれたのは『世界』『文藝春秋』などの13誌である。論点を整理するために、四つの時期に分けて検討が行われている。日中復交から平和条約締結までの6年、中越戦争から民主化運動までの9年、天安門事件前後の3年と、天皇訪中にいたるまでの2年である。最後の5年を2分したのは、中国社会が大きく変化したのと、それに対応して中国認識にも質的な変化が起きたからである。

 20年という時間が長いのか短いのかは人によって捉え方が違う。日中関係についていえば、もっとも重要な時期であったことは言を俟(ま)たない。今日の状況は20年前に誰も予想しなかったであろう。しかし、変化は一夜のうちに起きたわけではない。その積み重ねが現状をもたらす遠因になっている。

 その間、どのような言論が発表され、主要な論点は何か、その結果、どのような中国認識が形成されたのか。丁寧な資料分析が行われた。

 前著でもその濃密な情報量に圧倒されたが、本書で検討された資料もそれにほぼ匹敵する。天安門事件やソ連の解体もあって、中国崩壊論だけでも汗牛充棟の量に上る。玉石混淆(こんこう)の一次資料のすべてに目を通し、整理・分類するだけでも気が遠くなるような作業であろう。一見、手の付けようもない情報を、見事な腕さばきで仕分けし、資料の吟味を通して全体像を明らかにした。

 全書を通読すると、まるで同時代史の総復習のようで面白い。20年のうち、3分の2の歳月を現地で過ごした評者にとって、万感こもごも到(いた)る思いがあった。

 意外な発見はいくつもある。80年代は日中関係の蜜月時代と言われたが、仔細(しさい)に点検すると、表層的な友好ムードとは裏腹に言論界では中国批判や、悲観的な展望はむしろ大多数を占めていた。現在の嫌中論の主要な観点は当時の論壇にすでにあって、違うのは30年前の少数派の意見が、いまや世論の大勢を占めるようになったという点である。

 また、天安門事件のあと、中国経済の現状を紹介し、正確に将来を予見したのはチャイナ・ウオッチャーではなく、現地で調査を行った経済アナリストであった。

 改めて気付かされたことはもう一つある。総合誌は主に評論家が活躍する場で、学者が登場する場合でも、評論家と同じように表層的な現象に目を奪われることが多い。逆に地道な学問研究の成果は必ずしも誌面に反映されていない。その結果、中国イメージは好転/悪化の反復が繰り返されている。

 中国認識の形成には多様な要素が作用した結果である以上、新聞やテレビなどのメディアについての分析も不可欠であろう。本書の功績は一つの解析モデルを独自に作り出したところにある。同じ方法を新聞などに応用し、全体を総合すれば、より正確な結像に近づくことができる。

 前著と違って、本書には戦後日本人の台湾像とモンゴル像が付け加えられている。いずれも戦前において日本と特殊な関係があっただけではなく、中国について考えるとき、メビウスの帯のように表と裏とは明確に区別できない部分があり、また、中国認識を映し出す鏡でもある。

 巻末の証言編には研究者をはじめ、5人の中国論者へのインタビューが収録されている。論文や著書で知りえないこともが巧みに引き出されて興味を引く。

 巻を掩(おお)って思うに、日中にはやはり和解の道しかない。姑息(こそく)な足の引っ張り合いは何も変えられないし、正面衝突すれば、双方とも敗者になる。50年、100年の時間で見ると、平穏な関係が歴史の主流になるのはまちがいない。本書を読んで、その思いを一層強くした。

 日中関係は米中関係の一変奏とは言い過ぎかもしれないが、アメリカこそゲームの主役であり、優れた人形劇の演出家であろう。じっさい、現在の日中対立は本質的には米中の利害衝突であり、アメリカの大戦略の中の一布石に過ぎない。そのことは30年前の日本バッシングを想起すれば明らかである。望蜀(ぼうしょく)の願いだが、アメリカという要因が中国認識および日中関係にどう作用したか。次作での挑戦を期待したい。 
    ーー「今週の本棚:張競・評 『現代日本人の中国像』=馬場公彦・著」、『毎日新聞』2014年06月08日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140608ddm015070055000c.html:title]

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