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覚え書:「今週の本棚・本と人:『グレーの時代 3・11から1・17へ』 著者・楠見朋彦さん」、『毎日新聞』2014年06月15日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『グレーの時代 3・11から1・17へ』 著者・楠見朋彦さん
毎日新聞 2014年06月15日 東京朝刊

 (短歌研究社・2700円)

 ◇二つの震災後の状況を問う--楠見朋彦(くすみ・ともひこ)さん

 サブタイトルの二つの日付は東日本大震災と阪神大震災のものだが、発生順と逆である。「3・11は毎年巡ってきますが、状況がどう変わるか見通せません。不定の未来からの視点という意味を込めました」

 原発事故後の不安な状況を象徴する色が「グレー」だ。最近の小説でも、多様な設定や登場人物の感情を通じて、宙づりの時代を追求している。ただし、小説家としてデビューした1999年以降、文芸誌などに発表したエッセーや評論を集めたこの本の射程は、もう少し長く据えられている。

 例えば2009年春、自らの住む関西の生活圏で飲食店などの閉店が相次ぐ光景を新聞のエッセーにつづった。「灰色の波が音もなく町を浸して、町がすっかりグレー一色になってゆく」という予見的な一節がある。2年後、「そもそも目に見えない放射能の波はグレーですらない」と書くことになった。

 大学時代から塚本邦雄に師事し、短歌に取り組んだ。卒業したのは阪神大震災が起きた95年で、「目の前に破壊と混乱の様相があふれていた。それが小説の出発点になっています」。

 ジャンル横断的な創作を続けてきたのは、詩歌から小説、評論などあらゆる文芸を手がけた塚本の影響だ。この本の長短さまざまな文章にも、隅々まで繊細な言葉の選択が感じられる。

 1・17から20年の来年は、塚本の没後10年でもある。「塚本の作品は多面性があり、今読んでも胸に刺さってくる力があります」。師を悼んだ文章には、「残された作品を果敢に読みとく作業は容易ではないが、人生に対する怒りがある者には可能なはずだ」と鮮烈に記した。

 正岡子規の短歌を論じた力作評論も印象深い。「『写生』といった教科書的な見方が固定化していますが、読み直すと子規には豊富なアイデアがあったことが伝わってきます」。また、子規と塚本に共通する点として「古典を自由に読み、発想の鍵を得ていた」ことに注目する。

 3・11から3年を経て、「物事の大きな枠組みが、じりじりと動き始めている」と話す。「いい方向か悪い方向かは分かりません。自分にできるのは、表現を通して人々に問いかけることだけです」<文と写真・大井浩一> 
    --「今週の本棚・本と人:『グレーの時代 3・11から1・17へ』 著者・楠見朋彦さん」、『毎日新聞』2014年06月15日(日)付。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20140615ddm015070035000c.html:title]

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