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書評:ブルース・ローレンス(池内恵訳)『コーラン』ポプラ社、2008年。


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ブルース・ローレンス(池内恵訳)『コーラン』ポプラ社。イスラームの聖典は一人のアラブ商人が受けた啓示から始まり、長い年月を経て人々に広がり、解釈され強大な信仰となった。その成り立ちと変遷を辿る本書は初学者の最初の一冊に相応しい。巻末に塩野七生と訳者の対談を収録、シリーズ名著誕生の一冊。

第七章「西洋中世とコーランの挑戦」でコーランのラテン訳が取り上げられるが非常に興味深い。「ラテン語の世界からアラビア語の世界へ移るということは、ラテン語が前提とする都市生活から、砂漠の生活に移ることを意味する」との認識から出発。

十二世紀のイギリス人・ケットンのロバートは、バルセロナでアラビア語を習得。十字軍が繰り返し派遣される中、コーランを翻訳した。ムハンマドに「偽預言者」と冠される時代、ロバートは「敬意を表する」と献字するが、これは宗教間和合の試みといってよい。

ロバートは表面的には「虚偽の書」として非難を隠さないが、ムスリムの注釈書を参照してムスリム自身が信じるコーランの教えを理解しようとしたその訳業は、「ロバートが内心ではイスラーム教と『徴の書』に共感を抱いていたことが分かる」。

「敵を崇めるというパラドクスは、翻訳という作業を行ったことがない者には容易には理解しがたいだろう。例えばある人物の思想を好まないとする。しかしそれでもその異質な人物とその観念を理解しようと試みるのがそのパラドクス」。ケットンのロバートとはまるで本書の著者のようだ。

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