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覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 高齢者、特養入居困難に=本田宏」、『毎日新聞』2014年07月09日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障論
高齢者、特養入居困難に
「地域医療・介護確保法」が成立
本田宏 埼玉県済生会栗橋病院院長補佐

 今年2月末、東京都内で講演を始めようとした直前、従妹が電話をかけてきた。「叔父さんの様子がおかしい。救急車を呼んでいいかしら」
 88歳になる父は、母が亡くなってからも地方で1人暮らしをしていた。講演を終えて従妹に連絡すると、父は救急病院に反そうされて診察中だった。講演会場からタクシーと新幹線を乗り継ぎ、救急病院に到着したときには午後10時を回っていた。
 救急外来で、担当医から「顔面がはれて体力も低下しているため入院が必要」「落ち着いたら退院してもらう」との説明があった。私が働く病院同様、ベッドが足りないのだろう。「救急病院としての務めを果たそうとして、退院をすすめている」と推察し、納得した。
 父の診断は「帯状疱疹」だった。幸い父は徐々に回復したが、左目の視力が極端に低下し、自分で排尿することも困難で、認知症も併発していた。父の入院から1カ月過ぎたころ、病院が退院を求めてきたが、さすがに1人での生活は不可能と判断し、私が埼玉で父の面倒をみることにした。
 4月に私が働く病院に転院した父は、介護なしでは日常生活ができない「要介護度4」の判定を受けた。病院のソーシャルワーカーの協力を得て、近くの特別養護老人ホームに入居を申し込んだが、「尿道にバルーンカテーテルが入っている状態では入所は難しい」と断られた。次に申し込んだ隣町の特養ホームは、入居まで1年近くかかるとの返事だった。すぐに入居できる有料老人ホームはあったものの、500万円の入居費を支払うとその後は利用料が月約30万円、1400万年の入居費ならば月約10万円という想像もしていなかった負担額だった。
 6月に参院本会議で「地域医療・介護確保法」が成立したが、地域での効率的で効果的な医療提供体制を確保するという名目で、救急救命などを担う急性期病院のベッド数が大幅に削減される。介護では、個人の費用負担が増えると共に、特養の入居が自立歩行できない「要介護度3」以上に限られ、高齢患者の入居は一層困難になる。
 さらに、父の世話をしてくれる介護福祉士は、給与など処遇面だけでなく、深刻な人手不足の問題も抱える。2011年の経済協力開発機構(OECD)データによると、65歳以上の人口に対する介護福祉士の比率が日本は5・4%と、情報開示している加盟15カ国の平均(6・3%)を下回っている。
 治療が一段落した高齢患者が行き場に四苦八苦することは医療現場では日常茶飯事になっていたが、今回の法律で、その問題がさらに悪化する。家族の立場で日本の医療と介護の問題を、改めて痛感した。
急性期病院 急に発症したり、進行が早かったりする病気の患者に対し、手術や検査など専門医療を提供する病院。厚生労働省は、現在の看護師1人が患者7人をみる急性期病院の約36万床を、2025年には18万床(高度急性期)に減らすことを目指す。
    --「くらしの明日 私の社会保障論 高齢者、特養入居困難に=本田宏」、『毎日新聞』2014年07月09日(水)付。

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