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書評:ベネディクト・アンダーソン(加藤剛訳)『ヤシガラ椀の外へ』NTT出版、2009年。


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ベネディクト・アンダーソン(加藤剛訳)『ヤシガラ椀の外へ』NTT出版、読了。『想像の共同体』の著者が、その地域研究の軌跡を振り返りながら、学問とは何か縦横に論じた一冊。抜群に面白い。学問で重要なのは、大学の制度や母国といった「ヤシガラ椀」の外に出ることだ。

中国雲南省昆明市生まれのアイルランド人とは知っていたが、本書で現在までの軌跡をうかがい知り驚く。戦中はアメリカ西海岸に滞在、父を同地で亡くし、アイルランドを経て、苦労しながらイートン校、ケンブリッジ大へ進み、ひょんなきっかけでアメリカへ(同級生が政府学部の比較政治のティーチング・アシスタントをしていたのだが、その後継を探していたので、まさに「たまたま」)。

米国ではイギリス式アクセントを、イギリスではアイルランド表現を笑われたと回想にある。アイルランド人の父とイギリス人の母、そしてヴェトナム人の保姆に育てられた著者は、常に「周辺(マージナル)」に位置してきたが、この経験が有益に働く。

マジョリティの中でマイノリティとして“揉まれる”ことは「根っこの欠如、強固なアイデンティティの不在」だが、同時にそれは「愛情の対象が多数存在していた」ことを意味する。引き続く移動は複合的(マルティプル)なナショナリズムを育んだ。

ケンブリッジ卒業後、コーネル大へ移り、以後、インドネシア等々地域研究の旅は空間的な「移動」の連続だが、時間軸も時代の転換期。地域研究の立ち上がりは、最後の紳士育成の教養教育時代。古典教育というアマチュア精神がスペシャリストを育む。

インドネシアやシャムには「ヤシガラ椀の下のカエル」という諺がある。半分に割ったヤシガラをお椀として使うが、不安定な椀に間違って飛び込んだカエルは中に閉じこめられ、抜け出すことが出来ず、カエルの知る世界は狭い椀の中だけになってしまう。

対極の主張、そして対処療法と劇薬治療も同根というが、まさに「ナショナリズムやグローバル化は私たちの視野を狭め、問題を単純化させる傾向を持つ。こうした傾向に抗う一方で、両者が持つ解放の可能性を洗練された形で融合させること」がこれまで以上に必要になる。

著者は若い研究者の読者に次の言葉を贈り本書を締めくくる。「カエルは、解放のための闘いにおいてヤシガラ椀のほか失うべき何ものも持たない。萬国のカエル團結せよ!」。いやあ、しびれますねえ。 

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