書評:南原繁研究会編『南原繁と国際政治 永久平和を求めて』エディテックス、2014年。
南原繁研究会編『南原繁と国際政治 永久平和を求めて』エディテックス、読了。昨年11月同研究会第10回シンポジウムの記録。講演を三谷太一郎先生「南原繁と国際政治 学問的立場と現実的立場」、パネル・ディスカッション「南原繁と国際問題をめぐって」。同テーマを多角的に検証する。
三谷太一郎先生講演「南原繁と国際政治」においては、第一次大戦後に要求された国際政治学の確立における南原繁の特色を「国際政治学への非実証的アプローチ」と捉え、その哲学的立場と政治的立場との相関関係こそ「現実的理想主義者」としての南原の原点と見る。
パネル・ディスカッションでは、南原繁とカント、フィヒテ、丸山眞男、国際政治秩序の将来をキーワードに、南原の理想・限界を提示することで、「時代の問題」と「次の時代の問題」に私たちが格闘すべき示唆を示す。国際と国内の統合がその鍵か。
本書第二部では研究会会員の論考を収録。国際的保健医療協力の平和論的意義(石川信克)では、南原の精神を活かそうと尽力する履歴が紹介されるが、南原繁の精神を活かそうとする多様な取り組みこそ、南原繁研究会のアクチュアリティであろう。
非常に示唆を受けたのはパネル発表の「南原繁とカント 植民地支配をめぐって」(愛甲雄一・シンポジウムのパネルディスカッション)。植民地支配を自明視していたカントは、1790年代初頭より批判的言辞へと転回するが、カントを敬愛した南原の場合はどうか。対比的に検証する。
同論考では、カントの植民地支配に対する批判を確認した上で、日本の植民地支配に対する南原のまなざしにメスを入れる。南原の理想と限界を理解することこそ、ポストコロニアル時代の私たちの創造性を具体的に刺激するであろう。
南原は民族的エスノセントリズムとは一切無縁だし、国際社会の公正性を誰よりも深く理解するが、「満州事変以前に獲得した植民地の保有は歴史的に考えて容認され得るもの」との理解であり、そこに「南原政治学に含まれている弱点」が見えてくる。
「帝国主義や植民地主義に対しては原理的に反対していたはずの民族主義者・南原においては、日本がかつて植民地を有する帝国だったという事実も、『二級』帝国臣民として日常的に人権侵害を受けていた朝鮮半島や台湾などの出身者たちの存在」が見えていなかった。
同論考の批判は手厳しい。しかし眼目は南原の「不明」を糾弾することにはない。「過去の様々な過失を知る『現在』という特権的な立場から、過去の人びとの至らなさを批判することには居心地の悪さ」が残るし、批判の終始こそ非生産的という。
人物の来し方やその思想を学ぶとは、御輿を担ぐことでも、紅衛兵の如き批判に終始することでもあるまい。その理想と限界を知ることで、今、生きている私たちが未来をどう展望するのか。「南原繁とカント 植民地支配をめぐって」はよき見本である。
「まず、差し当たりは、かつて南原には見えていなかった植民地支配を受けていた側の存在をしっかりと認識すること。これこそ、今の私たちには必要とされているのだと私には思われます。いかがでしょうか」との締めくくり。大賛成である。
序は研究会代表加藤節先生のシンポジウム挨拶文。「現在の日本で大変に目につきますのは、日本国憲法と旧教育基本法とに体現された戦後の理念や体制を葬ろうとする動きです」。南原を学ぶとは「戦後を理念をどう生し直すかを考える上で大きな指針」に違いない。
憲法九条改正、自衛隊を国防軍への改組、集団的自衛権の行使容認など、その「葬ろうとする動き」のひとつが1年をたたずに実現した。「現実」を「理念」に近づけることで、そうした軽挙妄動に抗いたい。
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