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覚え書:「暮らしの明日 私の社会保障論 ドイツモデルの頑固さ=宮武剛」、『毎日新聞』2014年09月17日(水)付。


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暮らしの明日
私の社会保障論
ドイツモデルの頑固さ
介護保険・本体に公費入れず

宮武剛 目白大大学院客員教授

 この夏、ドイツの介護保険の現状を見聞きする機会を得た。
 日本の介護保険制度(2000年度施行)は、その先行例(1995年施行)を参考に出発しただけに共通の課題が目立つ。
 ドイツ型の特徴をおさらいすると、日本の健康保険組合に似た「疾病金庫」が医療と共に介護保険も運営する(日本は市町村)。被保険者に年齢制限はなく、高所得者らは民間の介護保険にも加入できる(日本は40歳以上で強制加入)。
 財源は保険料で賄い、利用者負担はない(日本は保険料と公費の折半。利用者は1割負担)。保険料は収入の2・05パーセントで被用者は労使折半、自営業者は全額負担、年金生活者は年金制度で半額負担(日本では勤め人で平均1・5%前後を労使折半、65歳以上は月額5000円)。
 興味深いのは子のない23歳以上は2・3%とやや高いこと。将来の担い手がいない場合は割高にするドイツ流の公平さだ。
 給付面では日本の要介護3程度でようやく対象になり、上限額もサービスで月約6・3万円相当、現金で同3・3万円(1ユーロ140円で換算)。個々人がどちらかを選び、現金なら大幅減額される。日本ではサービス給付のみで、要介護3は在宅約26・9万円相当だから、ドイツの給付水準は極めて低い。
 近年、ドイツ型は改良を余儀なくされている。最大の問題は認知症対策に欠けたこと。要介護認定は身体介護に必要な時間から認知症を含む介護の必要度へ切り替えられつつある。
 給付面でも再軽度の「要介護ゼロ」を設け、主に認知症に対しサービス約3・2万円、現金なら約1・7万円が給付される。要介護3以上も認知症には一定の上乗せ給付を認めた。
 きめ細かなサービス提供を量るケアマネジメントの導入、介護相談所の新設など、むしろ日本から学んだといわれる改善策も試行錯誤の最中だった。
 ケルン市などで新たな「住居共同体」を見学した。要介護者10人未満が個室に入り、食堂や居間を共有。月2・8万円が上乗せ給付され、居住者たちはホームヘルパーや看護師らを共同で頼み、費用の分担もできる。日本で整備中の「サービス付き高齢者住宅」に近い。ただし介護保険の給付水準は低く、家賃や生活費で最低月8万円前後、数十万円かかる例もあった。そのため居住者の多くは社会扶助(生活保護)で不十分を補う。
 ドイツ型は、家族らの介護を支える「部分保険」と言われる。1人暮らしや老夫婦の増加は設計変更を迫り、給付の低さに批判も絶えないが、保険料引き上げの範囲で慎重に給付を広げ、保険財政は黒字を保つ。
 制度本体への公費を投入しない「社会保険の母国」の頑固さは、やはり見識ではある。
要介護度と支給限度額 日本は要支援1(サービス給付月約5万円)から要介護5(同36万円)まで7段階。ドイツでは要介護ゼロから最重度(現金月約9・8万円、サービス同21・7万円)まで4段階。全体の約半数は現金を選ぶ(別に一部現金・一部サービスも可)。
    --「暮らしの明日 私の社会保障論 ドイツモデルの頑固さ=宮武剛」、『毎日新聞』2014年09月17日(水)付。     

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