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覚え書:「Listening:<朝日新聞>慰安婦・吉田調書問題 新聞への信頼回復、外国人記者に聞く」、『朝日新聞』2014年10月06日(月)付。  

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Listening:<朝日新聞>慰安婦・吉田調書問題 新聞への信頼回復、外国人記者に聞く
2014年10月06日

 従軍慰安婦や東京電力福島第1原発の報道をめぐって朝日新聞が謝罪した後も、報道機関の在り方を問う議論がやまない。こうした嵐のような状況は、外国人記者の目にはどう映っているのだろうか。日本の新聞が読者の信頼を得ていくにはどうしたらよいのだろうか。日本を拠点に取材しているベテラン記者2人に聞いた。【聞き手・青島顕(写真も)、中西啓介】


 ◇歴史の修正に悪用も--独フランクフルター・アルゲマイネ東アジア特派員、カーステン・ゲアミスさん(55)

 私は任天堂社長のインタビュー記事の件で朝日新聞に警戒感を持った。従軍慰安婦や福島第1原発の問題に比べて大きく報道されなかったが、社長に会っていないのに記事にしたことは本質的問題で、あってはならないことだ。びっくりした。

 朝日が8月に慰安婦問題の記事を取り消し、検証記事を出したときは、なぜ今なのかが疑問だった。私は以前に韓国人の元慰安婦4人に会い、オランダの議会にメールを送るなどして慰安婦問題を調べたことがある。だから、(朝日新聞が証言を取り上げた)吉田清治氏(故人)が目撃者のふりをして、うそをついていたとしても慰安婦がなかったことを意味しないことを知っている。そもそも私は吉田証言自体を検証記事が出るまで知らなかった。私の調査に吉田証言は必要なかったからだ。

 福島第1原発の所長に対して政府の事故調査・検証委員会が聞き取った「吉田調書」についての報道でも朝日は記事を取り消したが、私は朝日の初報を引用した記事を書いていなかった。ドイツの新聞の読者が関心を払うようなものではなかったからだ。

 大切なのは、政府が原発で起きていることを説明することであり、原子力規制委員会が本当に独立して安全性や再稼働の是非を評価できる体制になっているかどうか、ということだ。

 メディアが他のメディアの問題を報じることは構わない。ドイツでも大手のシュピーゲル誌の内紛を他のメディアが記事にした。ただし、メディア同士の批判は慎重であるべきだ。日本のメディアが朝日問題をあまりに大きく取り上げたことには奇妙な感じがした。この問題が歴史修正主義に都合良く利用されるのは問題だ。日本に対する国際的な不信を高める要因になると感じる。

 ニュースのバランス感覚が崩れているような気がする。一昨年、17万人(主催者発表)が参加した反原発の抗議行動は、私の新聞でさえ大きく写真付きで取り上げたのに、日本の新聞の中にはほとんど無視したところもあった。

 私の理解では、ジャーナリズムの役割は政治、経済、議会などと読者の関心との間にある隙間(すきま)を埋めるため、正確に報道する独立した機関であること。そして権力を監視することだ。ジャーナリストは、常に読者のことを考えるべきだ。(談)

       ◇

 フランクフルター・アルゲマイネはドイツを代表する経済紙。ゲアミスさんは1959年生まれ。2010年から現職。経済の記事を中心に執筆し、「アベノミクス」には厳しい見方をしている。スイスの新聞にも寄稿している。

 ◇情報公開求め続けて--米ニューヨーク・タイムズ東京支局長、マーティン・ファクラーさん(47)


 朝日新聞が5月20日に書いた福島第1原発の「吉田調書」の記事を読んで、私はすぐに「朝日新聞によると」という形で記事を引用して報じた。しかし私は「原発所員が(吉田昌郎(まさお)元所長の)命令に違反して撤退した」という朝日が強調した部分よりも、約400ページの調書が開示されずにきたことの方を中心に書いた。

 吉田調書に関して問われるべきなのは、政府がこのような重要な資料の公開に消極的な姿勢であることだ。それなのに朝日はなぜ「パニック」の方に焦点を当ててしまったのだろうか。それがなくてもスクープとして十分なインパクトがあったのにと思う。

 新聞が失った信頼を取り戻すのは大変だ。ニューヨーク・タイムズも2003年に若い記者が取材していないことを記事にしたことがある。イラク戦争をめぐっては、政権が主張する「大量破壊兵器」の存在を信じてしまった。

 その二つの問題で傷ついた信頼を、いまだに回復できずにいる。信頼を取り戻すには、当局に寄りかかることなく読者のための記事を書いていくしかないのだろう。

 一方で政府事故調査・検証委員会は吉田調書の他に771人分の調書を作っている。日本のメディアは771人の調書の公開を求め、原発事故時に何が起こったのかを国民に伝えるべきだ。朝日新聞を批判しているうちに、根本的な問題から国民の目をそらしてしまってはならない。

 従軍慰安婦についても、朝日新聞の記事取り消しによって報道が自粛気味になっているのが残念だ。批判を恐れず、根拠のある事実を取材して正しい知識を冷静に届けてほしい。慰安婦の存在自体がなかったかのような議論もあるが、それはかえって日本の「国益」にならないのではないか。

 メディア同士が、記事の内容をめぐって厳しい批判をするのはよいことだ。しかし「非国民」などの極端な表現を使って感情をあおるような批判をするのはやりすぎだ。そうした風潮には全体主義的な怖さを感じる。ジャーナリストは自由な言論を萎縮させるものに抵抗すべきなのに、どうしたことかと思う。

 日本は、アジアで一番の勢いを誇っていたころの自信を失い、中国や韓国の台頭に余裕をなくしているように感じる。そうした雰囲気が、標的を作って感情のはけ口を求める行動につながっているのかもしれない。(談)

       ◇

 ニューヨーク・タイムズは米ニューヨーク市を拠点とする有力紙。ファクラーさんは1966年生まれ。東京大大学院などに留学。2003年にウォール・ストリート・ジャーナル記者として来日。09年から現職。

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 ■ことば

 ◇ニューヨーク・タイムズの捏造問題

 2003年5月、当時27歳の男性記者が記事を捏造(ねつぞう)したとして同紙は5ページにわたる詳細な調査結果を報じ、謝罪した。前年10月以降に少なくとも36本で、実際に会っていない取材対象者の様子や談話を創作したり、他紙の記事を盗用したりしていた。
    --「Listening:<朝日新聞>慰安婦・吉田調書問題 新聞への信頼回復、外国人記者に聞く」、『朝日新聞』2014年10月06日(月)付。
 
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[http://mainichi.jp/journalism/listening/news/20141006org00m020005000c.html:title]

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