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覚え書:「Interview:村上春樹 『孤独』の時代に」、『毎日新聞』2014年11月04日(火)~05日(水)付夕刊。

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Interview:村上春樹 「孤独」の時代に/上 僕の小説は「ロールゲーム」
毎日新聞 2014年11月04日 東京夕刊


 作家の村上春樹さんに10月下旬、5年ぶりで話を聞く機会を得た。主な内容は3日朝刊で報じたが、今年出した短編集『女のいない男たち』(文芸春秋)などをめぐり、多くの興味深い発言があった。“封印”していた初期長編2作の翻訳が来年以降、刊行されることも明かした。2回に分けて紹介する。

 短編集に収めた6編は何らかの形で「女性に去られた男」の話だ。現代に生きる者の孤独は初期作品からの特徴だが、ここで描いたのは「僕が30代の頃に書いた孤独感とは異なる」と話した。

 「木野」と題する一編について。「(主人公の木野は)妻が浮気をして離婚し、独りぼっちになるけど、彼にとって妻がいなくなったことは本質的な問題ではない。一番の問題は、一人になって自分自身と向き合った時の『孤絶』感です。そして向き合った自分の中の暗闇から、蛇とか、お化けみたいなものとか、いろんなものが這(は)い出してくるわけです。それらはもともと自分の中にあるものなのです」

 印象深いのは表題作「女のいない男たち」だ。昔付き合った女性の自殺を知らされた「僕」が語る設定だが、シュールレアリスム(超現実主義)ともいうべき手法で書かれている。一編の散文詩のような作品だ。

 「時々そういうのが急に書きたくなるんです。ふっと思いついて、机に向かって一気に書き上げる。リズムをつかんで、自由に言葉を並べていく。書いたものを机の引き出しに放り込んでおいて、何年かたって取り出し、それをもとに物語ができていくこともあります。意味やテーマを理解する前に、最初はとにかくイメージと文体だけで一息で書き上げる。そういうものが僕の小説の一つのコアになっています」

 「孤絶」とは「だんだん(世界の)状況が悪くなっていくという感覚」を強める若い世代にとって、むしろ親しいものかもしれない。そうした人々に文学表現を通じ、「ある種の理想主義」を「新しい形に変換して引き渡し」たいとも語った。

 「僕が物語を通してやりたいのは、読者にロール(役割)モデルを提供することです。いろんな『孤絶』の様相をくぐり抜け、新しい生き方を見つけていく人物たちの姿を、一つ一つ提示していきたい。ある意味で僕の書いている小説はロールゲームなんです。そこでは、僕はゲームのプレーヤーであると同時にプログラマーでもあります。その二重性がストーリーを新鮮で重層的なものにする。テーマ主義ではなく、そういう書き方をしていけば、自分の集中力と体力がある限り小説を書き続けられます」

 初期作品は新しい文体で読者に衝撃を与えた。当時について「文体を盾にして強引に突き進んでいったようなものです。あの頃は技術的に自分が書きたいことの2、3割しか書けなかったから、正面から戦いを挑んだら勝てっこない。若い作家は多くの場合、新しい仕掛けやアイデアで、読者の目先を思い切りくらませていくしかないんです。できればそれを楽しみながら」と振り返った。

 「そうしながら自分が書けることを次第に増やし、文体を固めていく。書きたいことはだいたい書けるようになったと思ったのが2000年ごろですね。(デビューした)1979年から始めて20年以上かかりました」

 また、『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』の最初の長編2作は80年代に英訳版が出た後、長く翻訳を認めてこなかった。それが来年以降、英語の新訳をはじめ、各国語で刊行されるという。「未熟な作品だと思っていたからですが、他のものもだいたい出そろったし、要望も多いので、そろそろ出してもいいかなと思った。発表の時系列に関し混乱が起きると困るので、僕が序文を書き、執筆時の状況や事情を簡単に説明することにしています」【大井浩一】
    --「Interview:村上春樹 『孤独』の時代に/上 僕の小説は「ロールゲーム」、『毎日新聞』2014年11月04日(火)付夕刊。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20141104dde018040018000c.html:title]


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Interview:村上春樹 「孤独」の時代に/下 一人の人間の像、綿密に描く
毎日新聞 2014年11月05日 東京夕刊

 作家の村上春樹さんは7日、ドイツ紙ヴェルトの「ヴェルト文学賞」を受賞する。同紙は授賞決定に際し、村上さんの短編集『女のいない男たち』に収められた一編「独立器官」を全文掲載した。50代の独身医師が人妻への「恋煩い」のため死に至るという作品。「孤絶」の意味を追究した本の中でも、現代の奇譚(きたん)ともいうべき味わいを持つ。

 村上さんは「(同紙の)編集者が気に入って選んでくれたのですが、『なぜ、これを?』と不思議な感じがしました」。米誌『ニューヨーカー』は、この本の収録作のうち「イエスタデイ」「シェエラザード」「木野」を載せたといい、「国によってそれぞれ選ぶものが違うのは面白い」と話した。

 一方で、9月には台湾の私立大が国際的な研究拠点として「村上春樹研究センター」を開設した。デビューから35年。洋の東西を問わず作品が読まれ、高い評価を受けるようになった。海外に出かけることも多いが、日本よりも「なぜか外国のほうが作家の友達もできやすい。いちばん仲がいいのは(英国の作家)カズオ・イシグロかな」と語る。

 「顔を合わせても多くの場合、お互いの生活や、好きな音楽や、最近読んだ面白い本や、そんな話をしています。気に入ったCDを交換したり。お互いの本は読んでいても、あまりそういう話はしないな。ごく普通の友人同士が話すような話をします」

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 今春、米作家サリンジャーの古典的名作『フラニーとズーイ』(新潮文庫)を翻訳・刊行した。デビュー直後から持続的に重ねてきた翻訳は「僕にとって本当に大切な仕事だ」と強調する。

 「小説を書いていない時期に、翻訳のような手仕事ができるのは本当にありがたい。自分のものばかり書き続けていると、つい書きすぎてしまうし、どうしても畑が痩せてきます。だから他人の作品を場所として借りて、そこで文章をたたき上げていけるというのは、僕にとっては実に理想的な作業なんです」

 村上訳『フラニーとズーイ』は従来の訳に比べ文章が読みやすく、複雑な小説の構図が読者に明快に伝わってくるのが特徴だ。とりわけ精神的な苦境に陥った妹フラニーと、心配する兄ズーイとの間で交わされる宗教に関する対話が、かなり分かりやすくなった。

 「これは仕掛け小説なんです。サリンジャーは『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が大変な反響を呼んだ後、それと全く違う文体で書いてやろうと考え、意欲的に精密な仕掛けを凝らしています。文体が重層的にせめぎ合っていますから、作者の気持ちを察して全体像を俯瞰(ふかん)し、ボイスのメリハリをつけて訳さないといけない。最初の訳文から何度も変更を重ね、手間をかけました。作家として学ぶことが多かった」

 この作品にはキリスト教や東洋哲学の用語が頻出する。新訳刊行と同時に発表したエッセーで村上さんは、これが書かれた1950年代の米国で東洋哲学などが「反物質主義」という前向きな意味を持ったことを指摘している。例えば、ズーイが「東洋思想においては、人体にはチャクラと呼ばれる七つの精妙な中心(センター)がある」などと話す場面も出てくる。

 「後にオウム真理教が説いた教義と似ています。今読むと、そっちをつい連想してしまって首をひねるところもあるんですが、当時の人々にとっては、西欧近代文明に対抗する有効で新鮮な世界観だったのでしょう。仕掛けというのは、時代に流されてしまうところがあるから、見切りがむずかしいですね」

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 冷戦後の混沌(こんとん)(カオス)の時代、軸を喪失した世界に「仮説の軸」を提供するのが小説の役割だと述べた。「そういう仮説は例えば、ある一人の人間の像を、こつこつと綿密に描くことによって生まれてくると思う。そのためには読者に、登場人物に対する自然なシンパシーを抱いてもらう必要があります」

 昨年の長編『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』で目指したのもそれだ。「あの小説で僕が書きたかったのは、(主人公の)多崎つくるという人そのものです。どういう育ち方をして、どういう体験をして、どういう哀(かな)しみを味わい、どういう迷いを抱えて、彼という人間が出来上がってきたかを描きたかった」

 このことは村上さんが若い世代に引き渡したいと願う「新しい理想主義」にも結びつく。「そのような具体的な仮説を一つ一つ提出していくことは、新しい形のモラルを立体的に示すことにもつながると思います。そのためには表にある意識だけではなくて、無意識とか身体意識、夢とか想像力、矛盾や非合理、あらゆる仕掛けを総動員しないとできない。それが単なるステートメント(声明)を超えるフィクションの力ですから」【大井浩一】
    --「Interview:村上春樹 『孤独』の時代に/下 一人の人間の像、綿密に描く」、『毎日新聞』2014年11月05日(水)付夕刊。

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[http://mainichi.jp/shimen/news/20141105dde014040006000c.html:title]


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